抄録
【目的】胸部術後の呼吸器合併症の予防・改善には、早期からの呼吸理学療法が有効とされている。用手的呼吸介助法は特に有効な手技であるが、Nuss手術は肋骨直下にバーを挿入しているため、胸郭を他動的に動かす呼吸介助法はバーの偏位の危険性があることから禁忌となる。そこで、当院では持続気道陽圧器具などの呼吸訓練器具を用いた呼吸理学療法を実施してきた。今回、呼吸理学療法のプログラムの違いによる呼吸器合併症の発症について比較したので報告する。
【方法】対象は1999年7月から2004年2月までに初期の呼吸理学療法プログラムを行なった10症例(A群)、2004年12月から2005年8月までに導入した新しい呼吸理学療法プログラムを行なった13症例(B群)である。A群の呼吸理学療法プログラムは、呼吸訓練器具のイージーパップを5分間、コーチ2を10回、咳嗽による喀痰排出である。術当日の夜間は3時間ごとにイージーパップと左右側臥位の体位変換を行い、術後1日目からは日中3時間ごとに行った。B群の呼吸理学療法プログラムは排痰体位(右側臥位)に呼吸訓練器具のイージーパップで深呼吸10回を3セット、カフアシスト1分間を3セット、コーチ2を10回、ピークフローメーターで計りながらの咳嗽を10回である。術当日の夜間は3時間ごとに排痰体位とイージーパップ、カフアシストを行い、術後1日目からは3時間ごとに前述の呼吸理学療法を行った。2日目以降は、胸部レントゲンに問題があれば夜間0時まで同プログラムを続行し、状態により内容を省略していく。呼吸理学療法は座位(車椅子)から立位・歩行へと安静度が解除された段階で、胸部レントゲンに問題がないことを確認した上で終了としている。
【結果】術後1日目の呼吸器合併症は、A群で10例中4例に無気肺がみられた。B群では13例中2例で明確に診断がつきにくい程度の左下葉無気肺がみられた。無気肺の発症率はA群で40%、B群は不明瞭な無気肺が15%であった。胸部レントゲンで無気肺の改善が認められるまでの期間は、A群で3.3±1.7日、B群で2.0日であった。
【まとめ】従来の胸骨挙上術では無気肺の発症率は67%におよんでいたが、Nuss手術導入後は51%にまで下がり、呼吸理学療法導入後はさらに40%になった。陽圧換気器具と排痰体位を見直した新しい呼吸理学療法プログラムでは著しく発症率は低下した。漏斗胸の手術はNuss法により低侵襲にはなったが、術後の鎮痛は呼吸機能も抑制するため、呼吸器合併症の発症率は高く、早期退院のためにはその予防は重要である。しかし用手的呼吸介助法は禁忌である上、漏斗胸手術の対象となる幼児期、学童低学年の児に呼吸理学療法の必要性を理解させて自発的に実施することは難しい。そこで呼吸訓練器具を用いることで呼吸理学療法は導入しやすくなる。プログラムの設定を熟慮した上で行う呼吸理学療法は呼吸器合併症の予防に有効であると思われる。