理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 80
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理学療法基礎系
合谷穴への経穴刺激理学療法が頸部筋群の筋電図積分値に与える影響
*鈴木 俊明谷 万喜子高崎 恭輔
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抄録
【目的】第9回アジア理学療法学会にて鍼灸医学の循経取穴理論を理学療法に応用し開発した経穴刺激理学療法を紹介し、第46回近畿理学療法学術大会では経穴刺激理学療法前後での罹患筋の動作筋電図変化について報告した。循経取穴は、症状のある部位・罹患筋上を走行する経絡を同定して、その経絡上に存在する経穴を鍼治療部位とする理論である。経穴刺激理学療法は、動作分析から筋緊張異常が問題であると判断した場合に用いる。筋緊張抑制には垂直方向、筋緊張促通には斜方向から治療者の指で経穴を圧迫する。今回は上肢に存在する経穴のひとつである「手の陽明大腸経」に存在する合谷穴への経穴刺激理学療法前後の頸部筋群の筋電図積分値を検討し、合谷穴に対応する罹患筋である胸鎖乳突筋に選択的に反応するかを検討した。
【方法】研究の主旨を説明し了解を得た健常者2名(男性44歳、女性42歳)に安静座位での頸部筋群(胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、頭板状筋)の筋電図を測定した。被験者Aは右胸鎖乳突筋の筋活動増加を認めたが、被験者Bは特に大きな筋電図変化を認めなかった。本研究は、2つの目的でおこなった。第1に「被験者Aに対して右胸鎖乳突筋の筋緊張抑制を目的に右合谷穴刺激をおこなった場合、右胸鎖乳突筋の選択的な反応を認めるか」、第2は「被験者Bに対して右胸鎖乳突筋の筋緊張促通を目的に右合谷穴刺激をおこなった場合、右胸鎖乳突筋の選択的な反応をみとめるか」である。刺激前に安静座位を5分間保持させて、保持中の頸部筋群の筋電図を3回測定し、各筋電図波形に大きな変化がないことを確認した後に、検者の指で合谷穴に圧迫刺激をおこなった。刺激は痛みを伴わず耐えられる最大の強度で、筋緊張抑制目的の被験者Aは垂直方向、筋緊張促通目的の被験者Bは斜方向で1分間おこなった。筋電図は、1回の計測を20秒間とし、刺激中3回、刺激後15回(5分間)測定した。筋電図積分値は、各測定の5秒後~20秒後までの15秒間を計測対象とした。測定前3回の筋電図積分値の平均を1とした時の各筋電図積分値相対値を求めた。
【結果】被験者Aは右合谷穴刺激中より右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は0.2まで減少し、刺激後5分後まで持続した。左胸鎖乳突筋、両側の僧帽筋上部線維と頭板状筋の筋電図積分値相対値は、刺激前後で変化を認めなかった。被験者Bは刺激中の右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は刺激後1分後より右胸鎖乳突筋の筋電図積分値相対値は2.3に増加し、その傾向は5分後まで持続した。この傾向は右胸鎖乳突筋に選択的に認められた。
【考察とまとめ】本研究より合谷穴刺激で刺激側と同側の胸鎖乳突筋の筋緊張を選択的に変化させることが客観的に判断できた。これは、経穴刺激が中枢神経系を経由して筋への下行性線維の興奮性を調整したと考えることができるが、選択的な反応であることのメカニズムは今後の検討課題としたい。
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© 2007 日本理学療法士協会
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