理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 529
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理学療法基礎系
最大筋力と歩行グレーディングとの関係
若年者と高齢者の相違
*平井 達也渡邊 紀子星野 雅代河合 裕美上野 愛彦井上 大輔田中 正大牧 公子千鳥 司浩下野 俊哉
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抄録

【目的】日常動作において,目的達成のためには身体の諸機能が合理的に調節されなければならない.適切に出力の量を調整する能力はグレーディング(主観的な努力度と客観的な出力を一致させる)能力といわれる.高齢者の運動機能を評価する際,最大出力で表現されることが多いが,グレーディング能力の評価はあまり行われていない.我々は健常者を対象とした先行研究において,最大筋力と筋力グレーディングは若年では高い相関であったが,高齢では低い相関であることを認めた.今回,膝伸展における最大筋力と歩行速度のグレーディングの関係を調査し,その関係が年齢により異なるかどうかについて検討したので報告する.
【方法】対象は,若年群15名(平均24.9歳),高齢群15名(平均71.3歳)ですべて健常女性とした.対象者には本研究の概要を説明し,同意を得た.プレテストにてグレーディングの概念に著しい問題が無いことを確認した.筋力は,OG技研社製アイソフォースGT-300を使用し,端座位膝90°屈曲位で等尺性膝伸展最大筋力を測定した.歩行は前後3mを取った10m歩行路を用い,100%(最大速度)測定後,A(40%→80%→20%→60%)もしくは,B(60%→20%→80%→40%)の2パターンを被験者毎にランダムに適応した.各目標値に対する主観的速度での歩行を3回ずつ行い,速度を算出した.最大速度に対する各速度の割合をグレーディング値(%)とし,目標値とグレーディング値の差の絶対値を絶対誤差とした.データ分析は,1)最大筋力と絶対誤差の相関(スピアマン順位相関係数検定)を行った.2)各群の最大筋力を中央値でカットオフし,高筋力と低筋力に分け各目標値ごとに比較(ウィルコクソン順位検定)を行った.すべて有意水準を5%未満とした.
【結果】1)若年群は20%:0.10,40%:0.42,60%:0.30,80%:-0.41であり(全てn.s),40%と80%に中等度の相関が認められた.高齢群では20%:0.09,40%:-0.02,60%:0.29,80%:0.25であり,低い相関であった(全てn.s).2)若年群では,80%のみ,高筋力の方が誤差が低い傾向(P=0.09)であった.高齢群は,全て有意差は見られなかった.
【考察】本研究の結果から,我々の先行研究と同様,若年者と比べ高齢者において,最大筋力と歩行の調整力の関係は低いことが示された.しかし,筋力の高低による差は明確には現れなかった.このことから,高い筋力を持つ者が優れた歩行グレーディング能力を持つわけではなく,その関係は年齢により著明に変化しないことが示唆された.グレーディングは,大築(2005)の言うように「つもりと実際」の対応関係であり,運動イメージ,身体に向ける注意,各段階間の差異の識別能力などが影響を与えると考えられた.

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© 2007 日本理学療法士協会
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