抄録
【はじめに】
近年、腰痛症や泌尿器系障害、婦人科系の障害に対して、骨盤底筋運動(筋力強化)が種々の文献で報告されている。特に、高齢者の泌尿器系の障害は、転倒の原因の一つとされており、我々が転倒予防を推進する上で重要と感じる。今回、Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(以下、PNF)パターンのなかでも、骨盤を中心とした体幹筋を促通するパターンを施行し、骨盤底筋群の表面筋電図(以下、EMG)の解析を行い、アプローチの有用性を考察した。
【対象及び方法】
対象は、健康な成人男性8名(平均年齢24.22±3.27歳)。使用機器はNORAXON社製、MIOTRACE EM-301を用い、サンプリング周波数は1000Hzで計測、解析ソフトはメディエリアサポート社製、EMGマスターKm-808を使用した。皮膚表面処理後、骨盤底筋群の収縮の指標とするため外肛門括約筋へ表面電極を貼付し、運動は1)骨盤後傾運動に伴う随意的な収縮運動(以下、骨盤後傾群)、2)PNFパターン(骨盤前方挙上+肩甲帯後方下制の複合パターン、以下、PNF群)を行った。計測した結果から、ピーク値を含む1秒間の積分筋電値(IEMG)を算出した。正規化は、努力性最大収縮時のIEMGを100%とし、各動作時の割合(%IEMG)を求めた。分析には対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。
【結果及び考察】
各動作における%IEMGは、骨盤後傾群で25.31±14.06%、PNF群は57.86±25.26%であり、PNF群が有意に高値を示し、(p<0.01)一般的な骨盤後傾し肛門を閉じる様意識する運動に比べて、PNFパターンを用いるほうが有意に高い筋活動が得られたことが示唆された。骨盤底筋は腹圧を高め下部体幹の安定化を図るため、いわゆるインナーユニットとして横隔膜、腹横筋や多裂筋と共同し収縮するとされている。PNFパターンは、骨盤帯と肩甲帯へのアプローチにより、腹斜筋や腹直筋、腰方形筋などの体幹筋への収縮を促通するとされ、その際の用手接触や抵抗は一側から入力するが、運動は骨盤や肩甲帯が脊柱を中心に左右交差的に運動するため、両側体幹周囲筋群の収縮が得られる。つまり、インナーユニットとして体幹の安定化を図るための共同収縮によることと、一側への抵抗入力に対して骨盤が一体となって運動する際、骨盤の結合を高めるために骨盤底筋群の収縮が図られたと考える。また、骨盤後傾を伴う収縮運動は被検者に骨盤底筋を収縮するイメージを持たせて運動を行うが、PNFパターンではその意識を行わない。高齢者などは収縮のイメージを持たせた上で、実際収縮を促すのは困難である報告が多く、我々も臨床でそのような場面に直面する。そのため、今回の結果からイメージが困難な症例に対しても有効なアプローチが展開できる可能性があると思われる。