抄録
【目的】
呼吸において腹筋群は呼気筋として分類されるが,呼気のみでなく横隔膜と協調して機能することで吸気にも関与するといわれている.また,呼吸筋トレーニングにおいては,呼気・吸気筋群のトレーニングが多くみられ,単独の筋に対するものは少ない.そこで,腹筋群に対して筋力増強トレーニングを行うことで呼気および吸気筋力の向上に与える影響について検討した.
【方法】
対象は健常成人男性10名(平均年齢24.2±6.4歳)とした.
方法は,腹筋群トレーニングを3週間行った前後の呼吸筋力とその際の筋活動を測定し比較した.
呼吸筋力は多機能電子スパイロメーター(チェスト社製HI-801)を使用し,最大呼気および吸気時の最大口腔内圧(PEmax,PImax)として測定した.
また,呼吸筋力測定時の筋活動は多用途テレメータを用い測定した.被験筋は腹直筋および外腹斜筋の上・下部とし,最大呼気・吸気時の単位時間あたりの筋積分値を算出し,MMTで得られた筋積分値で正規化し%IEMGとした.
トレーニングは,背臥位で股・膝関節90°屈曲位にし,足底を壁につけて両上肢を胸の前で組ませた状態から,一側の肩甲骨下角が浮くように,対側の膝関節に向かって体幹を屈曲,回旋させる運動を行わせた.これを一側5秒間保持させ,両側に5回ずつを1セットとし,1日2セットを3週間実施させた.
統計学的処理は,各測定項目についてトレーニング前後で対応のあるt検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした.
【結果】
3週間の腹筋群トレーニングにより,PEmaxは,153.8±35.6から 195.6±51.1cmH2Oに, PImaxは125.8±22.1から,144.9±25.3cmH2Oに増加した(p<0.01).
呼気筋力測定時の筋活動では,腹直筋上部が16.5±9.9から20.7±12.6%に,腹直筋下部が11.3±6.9から15.4±5.0%に,外腹斜筋上部が90.1±73.9から145.5±125.5%に,外腹斜筋下部が85.1±66.3から111.0±82.8%となり,腹直筋下部,外腹斜筋上下部がトレーニング後で有意に増加した(p<0.05).
吸気筋力測定時では,腹直筋上部が8.5±8.0から11.4±11.8%に,腹直筋下部が5.5±5.5から7.8±8.4%に,外腹斜筋上部が28.5±21.2から44.5±31.5%に,外腹斜筋下部が24.5±15.9から35.3±24.5%となり,外腹斜筋上下部がトレーニング後で有意に増加した(p<0.05).
【考察】
呼気筋である腹筋群のトレーニングによって,呼気筋力のみならず吸気筋力も有意に増加した.また,この際の筋活動においても有意な増加を示したことから,呼吸筋全体としてのトレーニングのみならず単独の筋のトレーニングによっても呼吸筋力改善に有効であることが示唆された.さらに,腹筋群のトレーニングは呼気,吸気ともに作用することから,呼吸筋力の低下に対して効果的なエクササイズであると考えられる.