理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 618
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理学療法基礎系
椅子からの立ち上がり動作と股関節可動域制限の関係について
*垂石 千佳三和 真人
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抄録

【目的】
変形性股関節症などの股関節に疾患のある場合、椅子を使用した洋式生活が推奨される。しかしこのような疾患がある場合、関節に可動域制限が存在することが多い。そこで本研究は、股関節に可動域制限の有無による立ち上がり動作を比較検討し、股関節に可動域制限がある方への立ち上がり指導の指標となることを目的とした。
【方法】
対象は研究の目的に同意が得られた健常女性10名とした。擬似体験システムを用いて股関節屈曲90°、伸展-20°に制限する場合としない場合で、足部の位置は、膝関節屈曲70°(前方)、90°(垂直)、110°(後方)とし、それぞれ3回ずつ測定した。動作解析にはVICON、床反力計を用い、股関節、膝関節、足関節の角度変化、最大床反力を測定した。筋活動の測定には表面筋電図を使用した。測定筋は左右腹直筋、脊柱起立筋、大腿直筋、外側ハムストリングス、前脛骨筋、腓腹筋外側頭とし、動作時の筋電図積分から%IEMGを算出した。動作の開始は、頭頂部のマーカーが前方、または上方へ移動し始めたところとし、最高位になったところを動作終了と規定した。
【結果】
関節角度変化:制限なしに比べ、制限ありでは屈曲相から伸展相に移行する時点の角度変化が滑らかになる傾向があった。
床反力:下腿前方において、鉛直成分が制限なし体重比126.6%、制限あり131.1%と有意差がみられた(p<0.05)。また下腿後方では、制限なし121.8%、制限あり115.4%と有意差がみられたp<0.01)。筋電図積分値:下腿前方において、制限なし53.8%、制限あり66.3%と前脛骨筋%IEMGで有意差がみられた(p<0.01)。垂直では制限なし42.7%、制限あり20.9%、後方では制限なし21.7%、制限あり11.5%とそれぞれ有意差がみられた(p<0.05)。
【考察】
制限なしに比べ、制限ありは屈曲相から伸展相への移行時の角度変化が滑らかになる傾向があった。可動域に制限があるために急激な角度変化が制限され、ゆっくりとした角度変化になったと考えられる。
下腿前方の場合、制限ありは股関節を十分屈曲できず、前方への重心移動が制限される。そのため、重心と床反力作用点の距離が遠くなり、床反力が大きくなったと考える。下腿後方では、制限ありに比べ制限なしで腹直筋が有意に強く活動した。これは体幹が屈曲し、前方へ重心の移動が大きくなるため、床反力が大きくなったと考えられる。更に下腿前方の時、後方への転倒を防止するために下腿前面の筋である前脛骨筋が活動したと考えられる。
下腿が垂直、後方の時、制限なしが制限ありに比べ腹直筋の活動が有意に大きかった。これは屈曲が制限されたために屈曲角度が小さくなり、腹直筋の活動が減少したと考えられる。

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© 2007 日本理学療法士協会
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