理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 685
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理学療法基礎系
足根管症候群の運動療法に対する基礎的研究
局所解剖学的所見に注目して
*工藤 慎太郎浅本 憲中野 隆
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抄録

【目的】
足根管症候群は脛骨神経(以下TN)の絞扼性神経障害である.その治療法については足根管内への局所注射や観血療法が奏効するとされ,また,基礎研究としてTNの分岐形態に関する報告は散見される.しかし,運動療法との関係からTNと周辺組織の位置関係について考察した解剖学的研究は,我々が渉猟した得た範囲では存在しない.そこで今回,足根管症候群に対する運動療法に役立てる目的で足根管部の局所解剖を実施し,若干の知見が得られたので報告する.
【方法】
対象は平成18年度愛知医科大学春期解剖セミナーに供された解剖実習用遺体4体8肢である.下腿遠位部および足部の内側を剥皮し,皮下組織を除去後,屈筋支帯を同定した.屈筋支帯を縦切開し,足根管内のTN,後脛骨動脈(以下PTA)後脛骨静脈(以下PTV)を同定した.その後,母指外転筋を起始部から切離反転し,TNから分岐した内側足底神経(以下MPN)および外側足底神経(以下LPN)を遠位側へ剖出した.さらに,PTAから内・外側足底動脈への分岐部位(以下,動脈分岐部)を剖出した.観察項目は,1)屈筋支帯の形状,2)足根管内でのTN・PTA・PTV・屈筋腱の位置関係,3)MPN・LPNと動脈分岐部の位置関係とした.
【結果】
1)屈筋支帯は全例において下腿筋膜の遠位端から移行する結合組織によって形成されていた.2)足根管内でTN・PTA・PTVは同一区画内を走行し,屈筋腱は別の区画を走行していた.3)TNからMPN・LPNへの分岐部は,動脈分岐部より近位に位置していた.動脈分岐部の深層でLPNのみと交叉する例が5例,MPNのみと交叉する例が2例,両神経と交叉する例が1例であった.動脈分岐部とLPNの交叉部位の深層には,載距突起が位置していた.
【考察】
屈筋支帯は成書に記されるように,下腿筋膜の遠位端から移行する結合組織であった.したがって,下腿筋膜の柔軟性の低下は屈筋支帯の緊張を亢進するため,足根管内圧を上昇させる一要因と考えられた.また,足根管症候群は足関節部外傷後の出血や瘢痕により生じやすいと報告されている.成書に記されるように,足根管内でTNとPTA・PTVが同一区画内を走行しているため,同一区画内での出血はその内圧を上昇させる一要因になると考えられる.6例において,LPNと動脈分岐部は交叉し,交叉部の深層には載距突起が位置していた.動脈硬化などで動脈の弾性が低下し,かつ踵骨が回内した症例では,LPNに対する機械的刺激を惹起しやすく,絞扼部位となり得る局所解剖学的構造と考えられた.
【まとめ】
・屈筋支帯は下腿筋膜の延長であるため,筋膜の柔軟性の向上が足根管症候群の運動療法に有効になると考えられた.
・動脈分岐部とLPN,載距突起の位置関係はLPNの絞扼因子となり得る局所解剖学的構造と考えられた.

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© 2007 日本理学療法士協会
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