抄録
【目的】平成18年度からの介護保険法改定に伴い、住民基本健診に機能評価が取り入れられることとなった。なかでも、歩行速度の測定は、要介護高齢者の予防の観点から重要であるとされている。歩行速度の測定は、一定の歩行路を準備し、トレーニングを受けた測定者が測定する必要があるが、この要件を満たす、場所の確保や特別な教育を受けた理学療法士などの確保は難しい。一方、近年、産業機器分野で加速度計の利用が進み、安価で市場に供給されたことから、健康増進分野における加速度計の応用は著しく、腰部に取り付けられた加速度計のみで自由歩行を行うことにより簡易に歩行速度を推定する試みもなされている。そこで、この研究では加速度計を用いた歩行速度の推定値と10m歩行速度を実測したときの値の一致度を検討することを目的とした。
【方法】
地域在住高齢者で試験参加への同意を得られた121名(男性53名、女性69名、年齢男性76.7±5.39歳、女性74.3±5.13歳)を対象とした。うち、ミスがなく加速度データが採取できた100名(201データ)を解析の対象とした。腰部に加速度計を装着し、予備路3m、測定路10m、減速路3mの計16mを自由速度で歩行させ、中間10mにかかる歩行時間を計測した。加速度計から得られた推計値と実測値を級内相関の手法により一致度を検討した。級内相関は、完全一致定義モデルを用い、級内相関が60%を基準として5%の有意水準で検定を行った。統計解析にはSPSS14.0Jを用いた。
【結果】
加速度計による推計値の平均は1.32m/secに対し、実測値は1.31m/secであった。また、平均の誤差は6.78%であった。完全一致定義のモデルで、級内相関r=.864で、r=.60を基準に有意性の検定を行うと、有意確率はP<0.001で有意であった。
【考察】
推計値と実測値の平均の誤差が6.78%であり、また完全一致定義のモデルで86%の一致度を示したことは、非常に高い一致をしていると判断できる。つまり、これらの結果は、地域在住高齢者を対象に歩行速度を測る場合には、加速度計による歩行速度推定によっても、実測と同じ程度に高い信頼性があることを示すと考えられる。
歩行速度の測定は、理学療法士にとってみれば、大きな努力を必要としない測定であるが、そのほかの医療関連職種、あるいは運動指導員などにとって、精度よく測定するのは難しい。加速度計による簡易計測が、比較的信頼できる測定であることを示したこの報告は、簡易に歩行速度を測る手法を提案するものであり、身体機能に関する評価が、地域で幅広く利用されることに役立つ。
【まとめ】
地域在住高齢者を対象に、加速度計と実測による歩行速度の一致度を検討した。その結果、加速度計を用いた歩行速度推定は信頼のできる手法であると結論づけることができた。