理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1256
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理学療法基礎系
胸郭運動制限下での車椅子片手片足駆動時のエネルギー代謝に関する検討
*山元 佐和子古川 順光竹井 仁金子 誠喜
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抄録

【目的】
円背による胸郭変形は拘束性換気障害をもたらし高齢者のADL低下の重要因子と推定されている.理学療法の対象のなかには車椅子生活をしている者もいるが,円背や拘束性換気障害による呼吸循環応答の変化について車椅子駆動時の検討を行った研究は少ない.今回,胸郭の運動を制限し車椅子駆動時の呼吸循環応答を知ることを目的に実験を行った.なお本研究は首都大学東京健康福祉学部研究倫理委員会にて承認を受けた.
【対象】
対象は研究について説明し同意を得た整形疾患および心肺機能の既往がない健常成人11名(男性6名,女性5名)で,平均の年齢21.6歳,身長168.8cm,体重61.9kgであった.
【方法】
胸郭運動制限は弾性腰椎コルセットにて腋窩-剣状突起間の運動を抑制することで得た.利き手側片手片足にて快適速度で直線200mの車椅子駆動を行った.胸郭運動制限の有無により非拘束,拘束の2条件で剣状突起レベルの胸郭拡張差を測定,スパイロメトリ(HI-201,ミナト医科学)で安静時肺活量(SVC),%肺活量(%VC),努力肺活量(FVC),一秒量(FEV1.0),一秒率(FEV1.0%)を測定した.携帯型呼気ガス分析装置(K4b2,COSMED)で安静・駆動時の心拍数(HR),酸素摂取量(V(dot)O2),分時換気量(V(dot)E),一回換気量(TV),呼吸数(Rf)を測定,速度[m/min],代謝当量(METs),酸素負債を算出した.統計解析はSPSS(ver.10)で制限の有無を因子とした対応のあるt検定を実施,有意水準5%未満とした.
【結果】
肺機能検査の平均値は胸郭拡張差7.5cmに対し拘束3.6cm,SVC4.3lに対し拘束2.7l,%VC111.6%に対し拘束70.9%,FEV1.0%88.4%に対し拘束87.2%であった.胸郭拡張差,SVC,%VC,FVC,FEV1.0は,非拘束に比べ拘束で有意に低かった.安静時呼気ガス分析はTV0.6lに対し拘束0.5l,Rf15.8回/minに対し拘束19.8回/minであった.また駆動時TV1.1lに対し拘束0.8l,Rf18.2回/minに対し拘束27.9回/minで,安静・駆動時ともRfは非拘束に比べ拘束で有意に増加していた.HR,V(dot)O2,METs,速度に有意差はなかった.酸素負債は364.7ml/minに対し拘束488.4ml/minで有意差を認めた.
【考察】
拘束では,安静時のTV減少とRf増大が認められたことから,Rfが増大することでTV低下を代償したと考えられる.酸素は拘束・非拘束によらず同程度摂取されているが,酸素負債は拘束で増大した.酸素負債は運動中の酸素不足を反映しているとされ,今回METs,速度に差がないにもかかわらず安静・駆動時のRfが増大していることから,駆動中の酸素不足は呼吸筋の酸素消費量増大によるものと考えられる.以上より,胸郭運動制限下での車椅子駆動は,低コンプライアンスによる換気量低下に対する代償のため呼吸筋の酸素消費量が増大することから,呼吸筋や胸郭のコンディショニングを含めた運動処方を行うべきである.

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© 2007 日本理学療法士協会
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