抄録
【目的】パフォーマンス能力(階段昇降時間など)と下肢の仕事率(パワー)の間には高い関連性があることが証明されている(Bean, 2002).パフォーマンス能力を向上させる為には,下肢パワーに対してアプローチをしていく必要がある.パワーは力と速さの2つの要素によって構成されている.しかし現状ではトレーニングや身体機能の評価の際に指標として用いられているのは筋力などの力の要素だけが用いられており,角速度のような速さの要素に関しては客観的な指標がない.角速度を測定するには高価で大がかりな設備が必要であり,臨床での実用性が低い.そこで持ち運びが容易で,安価である小型角速度計を用いての膝関節伸展角速度の測定に注目した.小型角速度計を用いて角速度を測定することが可能ならば,臨床におけるトレーニングや評価での応用が期待できる.本研究は,臨床におけるトレーニングなどにおいて多く用いられている立ち上がり動作を用い,小型角速度計による膝関節伸展角速度測定の妥当性・信頼性を検討することを目的とする.【方法】対象は書面と口頭にて説明し同意を得た健常成人10名(男性5名,女性5名,平均年齢22 ± 1歳)とした.測定肢位は両足底面を接地し膝関節を100-110(度)屈曲した端座位とし,小型角速度計(MP-G3-01A,MicroStone)を大腿と下腿の中央部前面の2ヶ所に固定した.端座位から出来るだけ速く立ち上がる動作における膝関節伸展角速度(deg/sec)を3回測定しそのうちの最大値を代表値とした.小型角速度計を用いた膝関節伸展角速度の測定の妥当性の検討として,3次元動作解析装置(OPTOTRAK ; Northern Digital)により同時測定し小型角速度計の測定データとの相関分析を行った.信頼性の検討として,検者1名が日を変えて測定を行い比較する検者内信頼性と,2名の検者(A,B)による測定を比較する検者間信頼性を,級内相関係数を用いて評価した.サンプリング周波数は小型角速度計,3次元動作解析装置ともに200Hzとした.【結果】小型角速度計による膝関節伸展角速度の平均は検者Aで365.2 ± 142.3 deg/sec,検者Bで317.4 ± 71.3 deg/secであった.3次元動作解析装置との相関係数は,検者Aはr = 0.881 (p < 0.01)であり,検者Bの相関係数は,r = 0.915(p < 0.01)であった.検者Aの検者内信頼性(ICC 1,1)は0.576(p < 0.05),検者A,B間の検者間信頼性(ICC 2,1)は0.529(p < 0.05)であった.【考察】立ち上がり動作における膝関節伸展角速度測定では,検者A,B共に高い妥当性が得られた.しかし検者内・検者間信頼性はどちらも中程度の相関関係であり,測定方法に問題があったと考えられる.本研究での測定動作は膝関節だけでなく股関節や足関節を含む複合運動であり,バランス能力も必要となっていたので,最大膝関節伸展角速度を発揮することが困難であったため信頼性が中程度の相関関係になったと考えられる.