抄録
【目的】脳血管障害者(以下CVD)者の非麻痺側機能は筋力・敏捷性についての先行研究はあるが、知覚的側面の検討は充分にされていない。CVD者は非麻痺側上下肢が過緊張を呈した非効率な動作を示すことが多く、ダイナミックタッチに代表されるような探索的な知覚活動が損なわれている印象をうける。そこで、本研究ではダイナミックタッチを知覚的要素の指標とし、CVD者の非麻痺側上肢機能における知覚探索能力を明らかにする事を目的とした。本研究におけるダイナミックタッチとは手に持った物を振ることによって対象の物理的特長が視覚に頼らずとも知覚できる機構とした。
【方法】対象は、端座位保持が30分以上可能なCVD者10人(左片麻痺5人・右片麻痺5人、平均年齢68.9±7.0歳)、対照群として設定した健常成人10人(平均年齢28.5±4.1歳)である。ダイナミックタッチ課題では1:45cm、2:60cm、3:75cm、4:90cm、5:105cmの長さの棒を用い、棒を視認できない状態で各棒の長さを推定するものとした。測定値(推定した長さ)は対象者の2m前方に設定した目標(板50cm×40cm)を検者が操作し、対象者が棒の長さと一致したと判断した時点の距離とした。課題の順序はランダムとし3試行の各測定値の平均を推定値とした。検査側はCVD群では非麻痺側とし、対照群ではランダムに左右を割り付けた。解析は、各課題の推定値と誤差の平均値を求め、CVD群と対照群の比較を対応のないt検定で行い危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】CVD群の推定値の平均値は、課題1-5に対し順に、53.0±6.0cm、69.3±9.0cm、84.1±7.2cm、103.9±8.7cm、120.0±7.7cmで、対照群では40.4±5.0cm、53.9±4.9cm、69.2±6.7cm、86.1±7.0cm、100.3±9.7cmであった。CVD者の3試行での誤差(棒の長さ-測定値)の絶対値の平均値は順に11.0cm、13.7cm、11.8cm、15.8cm、18.1cmで、対照群では9.4cm、13.1cm、13.6cm、16.7cm、21.6cmであったが、統計上有意差はなかった。
【考察】ダイナミックタッチ課題においては、CVD群は棒を長く見積もり、対象群では短く見積もるという異なる傾向がみられたが、CVD群と対照群では有意な違いは認められなかった。今回は課題における耐久性を配慮し、端座位保持が30分以上可能な対象に限定したため、非麻痺側上下肢を姿勢制御の代償として用いている重症例や利き手の考慮など、さらに検討していきたい。