理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 143
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神経系理学療法
ポリオ罹患者に対する温熱療法の効果
*押木 利英子向山 優子佐久間 優小林 量作黒川 幸雄
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抄録
【はじめに】 近年、小児期にポリオに罹患し、十分に機能回復して通常の社会生活を過ごしていた成人に、数十年後現れる疲労、関節痛、筋肉痛、新たな筋力低下、寒さに対する耐性低下、新たな筋萎縮などの機能障害(ポリオ後症候群)を訴えるポリオ罹患者が増加している。しかし、ポリオはすでに「終わった疾患」として扱われ、リハビリテーション医療の対象として医療関係者への認知が低い現状がある。ポリオ罹患者の高齢化に伴いポリオ後症状の訴えは増加すると思われる。これらの症状の改善や緩和は今後の理学療法の課題のひとつであると考える。
【目的】ポリオ罹患者の冷え(寒さに対する耐性低下)に伴う運動機能低下に着目し、温熱療法(半身浴)を試みその効果を検討した。
【対象】対象はポリオ罹患者の女性7名、男性1名の計8名(平均年齢57±2.76歳)であった。自立歩行可能者が7名(杖使用4名、杖なし3名)、自立歩行不可者が1名(車椅子利用)であった。麻痺の状態は単下肢麻痺4名、両下肢麻痺2名、単上肢・単下肢麻痺1名、単上肢・両下肢麻痺1名であった。
【方法】研究デザインは介入前後比較研究である。対象者には事前に研究の説明を行い、評価結果の研究使用についての同意を書面にて得た。介入は誰でも自宅で簡単にできる半身浴を温熱療法として選択し、週に3回以上の半身浴を4週間継続した。半身浴は、水温38~40度、入浴時間20分、水位が胸より下での入浴と設定した。週1回は実施の確認と継続奨励を目的に全員で施設に集合し実施した。
【結果】身体機能(基礎代謝量、体脂肪率、体温など)、運動機能(Timed Up & Go:以下TUG、10m全力歩行、重心動揺など)、自覚症状(痛み、冷え、睡眠状態など)について評価した。その結果、基礎代謝量は介入前886±63.3kcal,介入後913±57.5kcalで有意差(p<0.05)が認められた。TUGは4週間前は12.76±4.9秒,介入前は11.11±3.8秒,介入後は11.11±3.3秒,4週間後は10.21±2.6秒で、4週間前と介入前,4週間前と介入後(p<0.05),4週間前と4週間後(p<0.01)に有意差が認められた。10m全力歩行は4週間前は10.05±2.7秒,介入前は9.19±1.8秒,介入後は9.26±2.1秒,4週間後は8.76±2.0秒で分散分析では有意差は認められなかったが,明らかな減少傾向を示した。重心動揺、および自覚症状について有意な変化は見られなかった。
【考察】基礎代謝、体脂肪率などの身体機能は明らかな効果が見られた。運動機能については複合的協調動作であるTUGで有意差がみられたが、麻痺側の関節をロックして立位姿勢を保つ重心動揺検査では全く変化が見られなかった。冷えや痛みなどの自覚症状は動きが楽になり快適に暮らせるようになった等の自由記述や感想が多かったが評価上は著明な変化が見られなかった。評価方法や介入の時期(1~3月)の考慮が必要であったと思われる。
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© 2007 日本理学療法士協会
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