理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 152
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神経系理学療法
脊髄損傷者の退院後調査
*安田 孝司岡野 生也篠山 潤一代田 琴子安尾 仁志窪津 秀政相見 真吾陳 隆明
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キーワード: 脊髄損傷者, 退院後調査, ADL
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抄録

【はじめに】
近年、介護保険に代表されるように法制度の改正や福祉機器の発展に伴い、高齢者や障害者の在宅生活は変化しつつある。今回、当院を退院された脊髄損傷者に対して、入院中に獲得したADLが在宅生活においてどのように反映されているか調査したので報告する。
【対象と方法】
平成8年1月~平成12年12月の期間で、当院を退院された脊髄損傷者264名を対象にカルテからの追跡調査と郵送でのアンケート調査を行った。対象者の内訳は男性220名、女性44名で頸髄損傷者133名、胸髄損傷者82名、腰髄損傷者37名、不明12名であった。
調査はカルテより入院期間、FIM、転帰先の情報およびアンケートより得た現在の生活に必要な介助、住宅改修の場所から検討した。
【結果】
アンケート回収率は52.3%であった。内訳は頸髄損傷者70名、胸髄損傷者46名、腰髄損傷者14名であった。入院期間は頸髄損傷者で189.0日、胸髄損傷者で147.1日、腰髄損傷で118.9日であった。完全損傷と不全損傷を比較すると胸腰髄損傷者では差はなかったが、頸髄損傷者において完全損傷の方が76日間長かった。転帰先は自宅が55名、当センター内にある身体障害者更生施設が59名、転院が12名、施設入所が1名であった。身体障害者更生施設の転帰先は自宅が56名、その他が3名であった。FIMは入院時と退院時で比較し、有意に改善が認められた。(p<0.01)
退院時のFIMと比較し、現在の生活の移乗、排尿、排便のADLで何らかの介助が必要になった対象者を調査した。介助が必要になった脊髄損傷者の割合ではベッド・車いすでの移乗は10.8%、排尿は3.2%、排便は16.9%であった。ADLの低下は不全損傷の割合が高く、年齢でも有意差を認めた。(p<0.01)
住宅改修を行った脊髄損傷者は76.1%であった。改修場所別では頸髄損傷者で浴室、居室、トイレ、玄関の順で多く、胸腰髄損傷者で浴室、トイレ、洗面、居室の順で多かった。浴室で85.4%、トイレで75.0%の割合で改修を行っていた。
【考察】
平成18年4月の診療報酬改定は除外規定疾患となった重度の頸髄損傷者を除く脊髄損傷者にとって深刻な事態となった。しかし、今回の調査で入院中に獲得したADLは在宅でも低下することが比較的少ないことを再認した。ADLの低下に関与する要素として、高齢、不全損傷の関与が示唆された。ほとんどの脊髄損傷者が住宅改修をしているため、入院中と類似した環境に設定することで動作が変化することなく、ADLを維持している要因も考えられる。住宅改修で多かった浴室、トイレについては車いすのスペースが影響しているが、ADLを獲得するためにも脊髄損傷者にとって必要な改修であることを確認した。

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© 2007 日本理学療法士協会
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