理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 154
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神経系理学療法
小脳性運動失調患者に対する固有受容器刺激の相違による静的重心動揺の変化
*森 友洋林 尊弘永谷 元基阿部 友和牧本 卓也堀 紀代美堀内 万起子中里 千穂佐藤 幸治杉浦 一俊林 満彦
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抄録
【はじめに】
小脳性運動失調に対する運動療法として、弾性包帯緊縛法(以下 BAND)、重錘負荷法(以下 WEIGHT)、PNFなどが行われている。BANDは、四肢・体幹の動揺を抑え、偏位した重心の位置を修正し、立ち直り反応を誘発することを目的としている。WEIGHTは、四肢・体幹の各部位の相互関係、運動の方向性や速度、必要な筋出力などに関する固有感覚を刺激し、運動コントロールを促通することを目的としている。一般的にBANDとWEIGHTとの併用が効果的であるといわれているが、臨床ではBANDのみで大きな効果が得られたと感じる症例も少なくない。そこで二つの異なる刺激を同時に入れた時、またそれぞれ一つずつ行った時との相違について比較検討したのでここに報告する。
【対象】
対象は、本研究に関して同意を得られた小脳性運動失調を伴う患者7例(男3名、女4名)である。疾患は小脳変性症4名、多発性硬化症1名、小脳梗塞1名、小脳出血1名である。平均年齢51.14±13.98歳である。
【方法】
使用機器はアニマ社製重心動揺システム(G-6100)を用いた。被験者には重心動揺計の上に開眼で裸足にて閉足直立位をとらせ、5m前方につけた目印を注視させた。刺激として、BANDのみ、WEIGHTのみ、BANDとWEIGHTの両方(以下 BOTH)の3群設定した。BANDは、膝蓋骨上縁へ弾性包帯を被験者に不快でない強さで巻いた。WEIGHTは500g重錘バンドを両足関節部に巻いた。何も介入のない状態での測定とBANDのみ、WEIGHTのみ、BOTHの各組み合わせをランダムに日を変えて実施した。測定間には休憩1分間を入れ、3回繰り返し実施した。重心動揺計によるパラメーターは総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、X方向動揺速度の平均、Y方向動揺速度の平均とし、3群比較を行った。重心動揺の項目には変化値を算出し、分散分析を行った。統計学的有意水準を5%未満とした。
【結果】
3施行ともに全てのパラメーターは減少を示した。総軌跡長、単位軌跡長、Y方向動揺速度の平均では、BANDが他2群に対して有意に減少していた。外周面積、X方向動揺速度の平均では、BANDがBOTHに対して有意に減少していた。
【考察】
単独で行うよりも効果的だとされているBANDとWEIGHTとの併用は本実験において証明されなかった。覚醒レベルとパフォーマンスの関係について、中村らはある点までの覚醒レベル(覚醒:深い睡眠から極度の興奮状態までの連続した変化)の上昇はパフォーマンスの向上をもたらすが、それ以上になると逆に低下すると報告している。小脳障害は中枢覚醒機構に障害があるとされるので、BOTHのような二つの刺激を調節できず、覚醒レベルが上がりすぎてしまったことが考えられた。今後はさらに症例を増やし、障害部位による相違も含めて検討していきたい。
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© 2007 日本理学療法士協会
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