理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1313
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神経系理学療法
妊娠第2期に発症した小脳出血の一症例
*岡崎 誉鷲尾 真弓高木 清仁山下 裕桑山 直人河合 達巳野田 寛
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キーワード: 妊娠, 小脳出血, 呼吸不全
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抄録

【はじめに】妊娠に合併する脳血管障害は,稀ではあるが諸家からの報告を散見する.今回妊娠第2期に意識障害を伴った小脳出血を発症し,一時期人工呼吸器管理となった症例の理学療法を経験したので,主に苦慮した点について報告する.
【症例紹介】32歳,女性.発症時,妊娠21週目.現病歴:夕方18時頃,自宅にて突然の意識障害にて発症し当院に救急搬送.頭部CTにて小脳出血,脳室穿破確認.来院時JCS 200.同日,緊急手術(両側脳室ドレナージ術).術後ICU入室し経口挿管管理.
【経過】第2病日,呼吸微弱となり人工呼吸器管理(CPAP).第4病日,自発呼吸消失し換気モードSIMVに変更.第6病日,再びCPAPに.第13病日,理学療法開始.第14病日,右脳室ドレナージ抜去.第15病日,人工呼吸器離脱.第23病日,朝,左脳室ドレナージ抜去.夕方頭部CT撮影し後頭蓋窩浮腫軽減.第24病日,G‐up 60度,咳嗽見せるも気管チューブ内喀痰(-).第25病日,端座位,喀痰(+),唾液流涎(++).第30病日,抜管.端座位にて咳嗽(++),吸引にて痰多量.第37病日,端座位時の咳嗽・喀痰(-).
【結果・考察】本症例は発症時妊娠21週と帝王切開の適応とならないため,基本方針は母体救命であり全身状態を安定化させ,かつ感染症を予防することがポイントとなった.理学療法開始時に特に苦慮したことは,座位ならびに体位変換の時期と方法であった.1つは推測であるが,動静脈奇形(以下,AVM)起因の脳出血である事.通常AVMの出血に対しては,血管塊摘出術等の再出血防止の治療が行われるが,本症例は手術適応とならないためG‐up,端座位実施開始の判断に迷った.当院では脳室ドレナージ中でも全身状態が安定していれば座位を実施するが,再出血のリスクを考慮し今回は結局両側ドレナージ抜去後の座位開始となった.2つめは,妊娠時の体位変換である.これについては産婦人科医に確認したところ,右半側臥位は下大静脈を胎児が圧迫し血圧低下する可能性があるため避けるべきで,その他の体位は大丈夫との意見を踏まえ体位変換を実施した.当初,理学療法の最重要課題であった下側肺障害による痰貯留の問題が,前述のように実施した結果改善され最初の感染症合併の危機は脱した.その後第76病日に出産に向け産婦人科に転科し妊娠37週目の第117病日,帝王切開による出産の待機中である.なお第103病日現在,JCS 3,GCS E4V1M6で右手離握手の指示にわずかだが反応するようになった.
【まとめ】
・妊娠中の小脳出血で,意識障害さらに呼吸不全を伴う症例を経験した.
・発症および訓練開始時の基本方針は,全身状態の安定化かつ感染症予防であった.
・再出血の恐れならびに妊娠中等の要因により体位変換,座位の実施に苦慮した.







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© 2007 日本理学療法士協会
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