抄録
【はじめに】
平成17年12月に長野県理学療法士会による高校野球メディカルチェック事業(以下、メディカルチェック)を行った。今回は投手の投球側特異性に着目し、検診事業における検査項目を分析することで、若干の知見を得たので報告する。
【対象】
メディカルチェックに参加した投手31名(1年生10名・2年生21名、右投げ26名・左投げ5名、オーバースロー30名・アンダースロー1名)を分析対象とした。
【方法】
検診事業において調査した項目は、学年・打席側・投手歴・野球歴・障害歴・非合理的投球フォームの有無・ROM・MMT・柔軟性・アライメント・理学所見であった。ROM・MMT・柔軟性・アライメントにおいて、投球側と非投球側にどのような差を認めるか検討した。
【結果】
肩外旋(第2・3肢位)可動域は投球側で有意に増大していた(p<0.01)。carring angle・脊柱-肩甲骨上角間距離も増大していた(p<0.05)。肩内旋(第2・3肢位)および肘屈曲可動域は投球側で有意に減少していた(p<0.01)。前腕回内・股関節内転可動域も減少していた(p<0.05)。その他に有意差をみとめた項目はなかった。
【考察】
投手の上肢可動域については先行研究とほぼ同様であった。今回、股関節内転可動域も投球側で減少し、脊柱-肩甲骨上角間距離は増大していることが分った。脊柱-肩甲骨上角間距離増大は、投球側において肩甲骨は下方回旋している可能性を示唆するものである。投球側股関節内転制限が連鎖的に投球側肩甲骨固定制低下や下方回旋を招来していると考えられる。これらはさらに加速期から減速期にかけての肩関節挙上角度の低下をおこす可能性がある。結果として、肘外反ストレスが投球側carring angleの増大として出現し、投球側肩内旋動作の強要による肩外旋筋ストレスが肩内旋可動域低下に結びついたと思われる。このような投球動作の繰り返しにより肩関節周囲の軟部組織硬度を2次的に変化させ可動域低下を固定化しているのではないであろうか。今回の検討だけではこのようなメカニズムの証明は困難であったが引き続き検診事業を行いメカニズムの解明と系統的治療・予防に結び付けることができれば幸いである。