抄録
【目的】
高齢者の慢性腰痛の有無は、脊柱アライメントの異常と関連づけられ、その多くの原因が脊柱の後弯にあると考えられている。臨床的にも慢性腰痛を伴う高齢者は腰椎前弯角度が減少し後弯傾向にあることを経験する。本研究の目的は、腰椎前弯角度に注目し慢性腰痛の有無および年代別で違いがあるかを明らかにすることである。
【方法】
対象は女性32名で健常若年群12名(28.5±3.1歳)慢性腰痛若年群6名(28.1±3.1歳)および健常高齢群7名(73.7±5.1歳)慢性腰痛高齢群7名(70.1±9.8歳)である。安静立位時においてSpinal mouse(Index社製)を使用し腰椎前弯角度および仙骨傾斜角を測定した。データ解析は、腰椎前弯角度および仙骨傾斜角について、慢性腰痛の有無および年代別で対応のないt検定をおこなった。なお有意水準は5%とした。
【結果】
慢性腰痛の有無による腰椎前弯角度の比較は、健常若年群は24.3±10.2°慢性腰痛若年群は24.4±2.6°であり有意差はなかった。健常高齢群は14.7±18.1°慢性腰痛高齢群は12.0±7.6°と有意差はなかったが慢性腰痛高齢群は健康高齢群と比較すると腰椎前弯角度が減少する傾向があった。仙骨傾斜角の比較は、健常若年群は14.1±7.1°慢性腰痛若年群は13.6±3.9°であり有意差はなかった。健常高齢群は7.5±8.1°慢性腰痛高齢群は4.3±5.4°と有意差はなかったが慢性腰痛高齢群は健康高齢群と比較すると仙骨傾斜角が減少する傾向があった。
年代別による腰椎前弯角度の比較は、若年群は24.4±8.3°高齢群は13.3±13.4°であり高齢者は若年者と比較して有意に腰椎前弯角度が減少した。仙骨傾斜角の比較は、若年群は13.9±6.1°高齢群は5.9±6.8°であり高齢者は若年者と比較して有意に仙骨傾斜角が減少した。
【考察】
高齢者の慢性腰痛の多くの原因が脊柱の後弯にあると示されている。本研究において、若年者は、慢性腰痛の有無による腰椎前弯角度に違いがなかったことから、慢性腰痛の原因は腰椎前弯角度だけでなく種々の影響が関与していると考えられる。しかし高齢者では、腰椎前弯角度に有意差はなかったものの慢性腰痛群は健常群より小さい角度を示したことから、慢性腰痛に腰椎前弯角度の減少が関係しているのではないかと考えられる。
年代別による腰椎前弯角度では高齢者が若年者に比較して有意に腰椎前弯角度が減少していた。これから高齢者は若年者に比較して慢性腰痛を引き起こすリスクが高いのではないかと考えられる。
【まとめ】
若年群では慢性腰痛の有無で腰椎前弯角度の違いはなかった。しかしながら高齢群では慢性腰痛を伴うと腰椎前弯角度が小さい傾向があった。よって、加齢とともに腰椎前弯角度は減少し慢性腰痛のリスクが高まるものと思われる。