抄録
【はじめに】
筋収縮に伴う関節運動では,構築学的に正常なアライメント上を筋・腱が滑走する.疾患に限らず関節可動域(以下ROM)障害を有するとその滑走にも障害が生じる.しばし臨床ではROMが改善しても,筋・腱の滑走不全による痛み等の障害が残存しADLが低下することがある.今回,左足関節内側部開放創及び後脛骨筋腱部分断裂に対して縫合処置された症例を担当し,関節運動軸に注目したテーピングを用いた事で疼痛や姿勢・動作の改善が得られたので経過及び考察を含め報告する.
【症例紹介】
症例は平成18年3月初旬に農作業中に工具に挟まれ,左足関節内側部開放創,後脛骨筋腱部分断裂を受傷し,近医にて後脛骨筋腱縫合及び開放創処置,シーネ固定をうける.翌日,当院整形外科で止血剤・バード浴療法にて外来フォローとなる.受傷20日目にシーネ固定のまま1/3荷重許可となり歩行指導目的で理学療法開始.受傷29日目にシーネ固定除去,ROM訓練開始.受傷41日目に全荷重許可となり独歩となるが痛みによる跛行が著名であり短距離移動のみ可能であった.受傷99日目,足関節ROMの改善はみられるが長距離歩行と階段降段時の左踵離地時に内果後方部のだるさと痛みが生じており,関節運動軸の変位があると考えテーピング療法を開始した.
テーピング開始時の現症として日常生活は自立できたが上記の訴えがあった.炎症所見に腫脹があり,前足部周径1.5cm,内外果頂点部周径2.0cmの左右差がみられ,内果後方部に圧痛を認めた.その他の炎症症状はなく皮膚状態も良好であった.左足関節ROMは背屈膝伸展位10°,屈曲位15°,底屈40°,足部は外がえし10°,内がえし15°であった.MMTは後脛骨筋筋力4レベルでその他は5レベルであった.足部の生体力学的計測の結果,非荷重位では果部捻転15°,距骨下関節ROMは回内0°,回外30°,荷重位では負荷の増大とともに後足部外反が増強した.そこで荷重状態のアライメント変位により筋・腱滑走に異常が生じ,痛みを及ぼしていると考えて,下肢の正常アライメント固定に注目したテーピング(ニトリートCB50)を施行した.
【治療経過】
受傷99日目から2週間施行した結果,1時間以上の歩行が可能となり,階段降段時の痛みも改善されたために,理学療法終了となった.
【考察とまとめ】
腱縫合後の関節運動では縫合部での滑走不全が生じやすい.本症例では腱縫合術後であり,また受傷時に靭帯も損傷をうけていた.そのため後脛骨筋腱の損傷による滑走・収縮不全だけでなく荷重時でのアライメント変位が筋・腱の滑走不全を生じ,痛み・だるさ等の症状が残存すると考えられた.今回,筋収縮の補助・距骨下関節中間位での制動を目的としたテーピングを施行する事で,適切な関節運動軸が得られ,筋・腱の状態変化や動作改善につながる運動学習が容易になったと考える.