理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 994
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骨・関節系理学療法
母趾可動域制限が歩行に及ぼす影響
*赤井 友美田中 則子岡田 亜美中江 徳彦
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抄録

【目的】高齢者では、中足指節関節(以下、MP関節)に屈曲制限のある者をよく観察する。MP関節屈曲制限がみられ、踵接地から足底接地までのスピードが速く、歩行中につまずきやすく歩幅が小さい症例を経験した。本研究では母趾MP関節屈曲制限とこれらの現象に着目し、母趾可動域制限が歩行に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】健常な若年者12名(年齢23.0±3.7歳、身長166.3±8.3cm、体重58.2±9.1kg)を対象とし、事前に研究の主旨を説明し、同意を得た。1)テーピングによる母趾可動域制限の設定:キネシオテーピング(50mm)に左母趾が入るように穴をあけ、指節間関節背面部から近位にむかい内側楔状骨背面に至るまで最大限に伸張し、左母趾の可動域を制限した。なお、制動の前後でMP関節の屈曲角度(自動運動)ならびに第一中足骨・内側楔状骨間の可動性を確認した。2)歩行解析:運動課題は、前方で両上肢を組み、歩調を120/分に規定した10m歩行とした。これを、テーピングで母趾の可動域を制限した条件(以下、母指制限条件)と、可動域を制限せずにテーピングの皮膚への貼付のみとした条件(以下、対照条件)の2条件で実施した。リアルタイム3次元動作解析システムMAC 3D system(Motion Analysis社)と床反力計(AMTI社)を使用し、歩行時の仙骨部・第2中足骨部の座標変位、骨盤・下肢の関節角度、下肢関節モーメント、床反力を記録、解析した。3)統計処理:2条件間の比較には、符号検定を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】立脚相のうち床反力の鉛直成分の第1ピークから谷までの区間では、母指制限条件での仙骨の前方移動量は、対照条件に比して有意に小さかった(p=0.039)。また立脚後期では、母指制限条件の床反力内側成分は増大し、回内モーメントが大きい傾向であった。さらに、蹴りだし時の第2中足骨頭部の床からの高さは、母指制限条件で低い傾向が認められた。
【考察】母趾可動域制限条件で、立脚相半ばの仙骨前方移動量が小さかったのは、立脚相前半のさらに早い段階ですでに前足部への重心移動が生じていたためと考えられた。さらに、母趾の制動による進行方向に対して外側へ蹴りだしやすく、遊脚初期のつま先の高さ(床面との距離)も低い歩行パターンは、つまずきによる転倒や母趾の外反変形へ結びつく可能性も示唆され、母趾可動域の維持が高齢者の転倒予防につながることが推察された。
【まとめ】母趾可動域制限は、立脚期半ばの仙骨の前方移動量を減少させることが明らかとなった。さらに立脚後期の蹴りだしや、遊脚初期のつま先の高さにも影響をおよぼすことが確認できた。

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© 2007 日本理学療法士協会
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