抄録
【はじめに】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を主とする疾患だが、その合併症の一つに肺実質の気腫化進行に伴う気胸がある。気胸の治療方針としては胸腔内ドレナージが第一選択ではあるが、病状の増悪に伴う気腫性変化等により胸部外科手術の適応となるケースも存在し、術後呼吸機能の低下やADL能力低下の大きな一因となることもある。今回COPDに気胸合併後胸部外科手術を実施し、その後の経過で肺機能や血液ガスの悪化を認めたが呼吸リハビリテーション(PR)によりADL能力の改善がみられた一例を報告する。【症例及び治療経過】69歳、男性。既往歴は64歳COPD及び塵肺の診断、66歳在宅酸素療法(HOT)導入。安定期と考えられた2005年12月の血液ガス・肺機能・6分間歩行距離(6MD)、Body mass index(BMI)値は、PaO2:49.6torr、PaCO2:44.6 torr、VC:1.9L(60.1%)、FEV:0.83L(53.53%)、6MD:290m、BMI:20.3%。現病歴としては、2006年5月12日、自宅にて呼吸困難感増悪を急激に認め当院救急外来に受診、左気胸を認め入院後左胸腔ドレナージ開始。その後リークも減少し5月18日一度ドレーンを抜去するも胸部レントゲン上にて再び左肺縮小を認め、外科的治療必要との判断から5月19日同県内のA病院に救急搬送、5月24日肺部分切除(S1+2、S3、S6)及び肺縫縮術施行、その後長期間胸腔ドレナージ管理が続いた。8月1日にリハ及び在宅への調整目的に当院へ転院した。転院時症例のADLは全介助レベル、バーサルインデックス(BI)は0点でベッド上起き上がりも介助必要、るいそうを認めた(BMI:15.9)。PRは転院翌日から開始し、初期は主にベッド上でのADL訓練が中心となったが3病日目から平行棒内歩行開始、14病日歩行器歩行開始(BI:55点)、33病日には独歩開始(BI:65点)したが、このころから脈拍の上昇と呼吸困難感による運動症候限界が目立つようになる。検査値等から酸素化・換気能の若干悪化と肺容量の減少傾向を認めたため、新潟大学とのTV会議システムにて症例検討を実施、プレドニゾロン10mg/dayを内服開始、労作時酸素量増量、栄養摂取カロリーの増加、あわせて下肢筋力強化等も慚増した。その後40病日には棟内ADLほぼ自立し(BI:80点)、在宅環境を整えて10月13日(72病日、PaO2:49torr、PaCO2:48.4 torr、VC:1.63L(51.4%)、FEV:0.79L(50.64%)、6MD:180m、BMI:17.2%)に自宅退院となった。
【考察】経過を追うごとに血液ガスの悪化や肺容量減少傾向がみられ、また肺容量減少の影響か運動時の脈拍コントロール等に難渋したが、従来の抗コリン薬やβ2刺激薬に加えグルココルチコイドの適切な投薬が運動時の症候限界を緩和し、また栄養状態の改善によるpulmonary cachexiaの改善もさらなる運動負荷を可能としたと考える。運動療法のみならず薬剤や栄養管理を含めた包括的な取り組みがより重要と考える。