抄録
【はじめに】
今回、第一腰椎圧迫骨折により椎体形成術を施行後、腰部痛発生により長時間の座位保持が困難となった症例に対し、応用行動分析学的介入を行った結果、良好な成績が得られたので報告する。
【症例紹介】
症例は、72歳男性でシングルケースデザインを用い実施した。既往歴として平成16年2月、転倒より第1腰椎圧迫骨折のためギプス固定を施行。同年7月下肢麻痺症状が出現したためA病院にて第1椎体形成術を施行するも、術後後遺症により長時間の座位保持が腰痛のため困難となる。平成17年6月、介護が必要となったため当施設入所となった。入所時、食事はベッドに腰をかけてとられるが、疼痛のため座位、臥床を数分おきに繰り返すといったようにADLが大きく障害されていた。痛みの程度はVASで10とのことで、連続座位保持時間も10~15分が限界であり、日中臥床生活を余儀なくされていた。
【方法】
腰痛の原因は、固定術後、腰椎のアライメント不良により軟部組織、骨組織に過剰なストレスが生じるためであると仮定した。そこで、クッション等を使用し圧分散を図るなどの環境設定を行い座位保持訓練を実施したが、5分程度の座位時間の延長であった。そこで、座位時間のさらなる延長のため行動分析学的介入を行った。介入目標は、食事時間の目安である『連続50分の座位保持』とした。内容は、座位時間をセルフ・モニタリング法で自己記入すると同時に座位時間について即時フィードバックを行い、時間の延長や前向きな発言が見られた場合には注目・賞賛し、強化刺激となるよう配慮した。その後、条件交替デザインを用い行動分析学的介入の有用性を確認した。
【結果】
介入開始時、目標時間を40分に設定したところ、10日経過後には連続40分の座位保持が可能となった。次月より、目標時間を50分に延長したところ、介入後3ヶ月経過時には、随時50分の座位保持が可能となった。腰痛もVAS8となり、疼痛の軽減も認められた。条件交替後において、行動分析学的介入時が非介入時よりも有意(p<0.05)に長時間の座位保持が可能であった。
【まとめ】
今回、疼痛により座位保持が困難な症例に応用行動分析学的介入を実施したところ、長時間の座位保持が可能となった一症例を経験した。このことは、具体的な数値目標を提示する(先行刺激)ことや、座位時間の延長が確認できた際に後続刺激として注目・賞賛、記録表の数値、痛みの軽減などの強化刺激が出現したことで、座位保持行動が強化されたと考えられる。今後も患者の行動を観察し、身体機能と共に環境や動機づけにも配慮した理学療法を進めていきたいと考える。