抄録
【はじめに】運動誘発性筋損傷は不慣れな運動や激しい運動後に誘発される。筋損傷発症の原因として、筋に対する機械的ストレス、酸化ストレスなどの関与が指摘されている。筋損傷は遅発性筋痛を誘発する要因と考えられ、遅発性筋痛の予防、軽減に関する検討が現在も盛んに行われている。運動誘発性筋損傷はまず機械的ストレスにより発生し、さらに虚血や酸化ストレスなどで増悪すると考えられている。筋損傷の軽減を目的とし、クーリングダウンやアイシングなどの寒冷療法がしばしば用いられる。しかし、運動後の寒冷療法による筋損傷抑制効果については賛否が分かれている。そこで本研究は、運動後のクーリングダウンが運動誘発性筋損傷を抑制するかどうかを実験的に検討した。
【方法】12週齢のWistar系雄性ラットを用いた。ラットをコントロール群(安静群、CONT)、運動負荷群に分け、さらに運動負荷群を運動負荷のみの群(EX)と運動後にクーリングダウンを行った群(EC+C)に分けた。筋損傷は遠心性収縮にて誘発されやすいことから、ラットにトレッドミルで下り坂走行を負荷し、筋損傷を誘発した。トレッドミルでの走行は走行面の角度を-16°とし、速度16m/minで90分間行った。トレッドミルでの走行終了後、EX+C群は20°Cの淡水に30分間浸し、クーリングダウンを行った。各々の群のラットを走行負荷終了の24、48、72時間後に屠殺し、ヒラメ筋を摘出した。摘出したヒラメ筋の赤道部を切り出し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で凍結し、凍結切片作成用の試料とした。作成した凍結切片をHE染色し、骨格筋の損傷線維を観察した。凍結切片作製に用いなかった残りのヒラメ筋は、筋損傷の指標であるグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)活性の測定サンプルとして用いた。
【結果】運動後24時間後のHE染色像の比較でEX群に比べ、EX+C群は浮腫の発症が少ない傾向が認められた。運動後48時間のHE染色像の比較でEX群に比べ、EX+C運群は浮腫の発症が少なく、貪食細胞の遊走が少なく、壊死線維芽少ない傾向が認められた。運動後72時間後のHE染色増の比較で、EX群に比べ、EX+C群で貪食細胞の遊走が少ない傾向が認められた。
G6PD活性はCONT群に比べ運動負荷群で24時間後に顕著な増加を示した。EX群とEX+C群の比較では、24、48、72時間後のいずれもクーリングダウン群でG6PD活性が低値を示した。
【考察】今回の結果で、運動後にクーリングダウンを行った群では組織像で浮腫の抑制、遊走細胞の減少、壊死線維の減少が認められた。またクーリングダウンを行った群ではG6PD活性が低値であり、筋損傷抑制されていることが示された。
本研究から、運動後のクーリングダウンは筋損傷抑制に効果があることが示唆され、運動後のクーリングダウンの重要性を示すものであると考える。