理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 431
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教育・管理系理学療法
臨床実習経験がジレンマストーリー判断過程に及ぼす影響
同一対象2年生・4年生時の比較
*井上 佳和宅間 豊宮本 祥子竹林 秀晃岡部 孝生滝本 幸治宮本 謙三
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抄録
【目的】理学療法士の道徳判断能力の向上は職業的態度を良好にする上で欠かすことはできない。コールバーグは問題の対処にあたり「何と答えたか」ではなく「どう考えたか」に着目し,道徳性発達を段階化している。我々は独自に理学療法ジレンマストーリーを作成し,その判断にあたり考慮するであろう要因の重要度を答えさせることで「どう考えたか」の把握を試みている(第39回本学会)。今回は同一学生に対し臨床実習受講前後にあたる2年生時と4年生時の調査を比較検討した。
【方法】調査の同意を得た本校理学療法学科29名を対象とした。調査は2年生時(2004年)と4年生時(2006年)の2回実施し,対象はその間に26週間の臨床実習を受講している。手順としてまず「中庭の散歩」と題したジレンマストーリーを読ませた。これはPTSが担当となった頚損患者の訓練意欲を高めるために中庭の散歩を始めたが,同室患者からクレームがつき明日からの散歩を続けるか迷う内容であり,患者との約束を守るという信頼関係と他患者との公平性の間に葛藤場面を設定したものである。その後「散歩に行くべき」「行くべきではない」からとるべき態度を判断させ,その上で判断に影響すると思われる6要因について重要度を答えさせた。6要因は道徳性発達理論を参考に,罰と権威への服従,報酬や感謝,信頼関係,秩序維持,公平性,個の最良を設定し,それぞれについて「非常に重要;5点」から「全く重要でない;1点」の5件法より1つを選択させた。そして判断理由について自由記載も実施した。検討はノンパラメトリック検定としてウィルコクソン検定(有意水準5%)をおこなった。また結果の解釈にあたっては自由記載内容も参考とした。
【結果】「行くべき」と答えた学生は2年生時に22名,4年生時は16名であった。中央値は両時期とも信頼関係と個の最良の2要因が5点(非常に重要)と高く,次いで公平性と秩序維持が4点(かなり重要)であった。2年生時は罰と権威への服従が3点(いくらか重要),報酬や感謝が2点(あまり重要ではない)であったが,4年生時は2要因とも3点となった。ウィルコクソン検定の結果,秩序維持と報酬や感謝の2要因について有意差を認め,4年生時に重要度が増す傾向が認められた。
【考察】秩序維持は発達段階の第4段階:法と社会秩序の維持志向に位置づけられる要因であった。前段階の二者関係のみで成立する公正から,より広くかつ「他患者の気持ちは?」といった役割取得も含むものだと考えられる。秩序維持要因の重要度が増した点について肯定的に捉えれば,これらの能力が高まった結果とみることができる。しかし自由記載内容から一部の学生では指導者の意見に盲目的に従うというといった旨の記載もあり,主体性の低さが影響した可能性も伺えたことから,貴重な経験となる臨床実習を通してより高い道徳的水準の意見に触れ,意見交換をおこなう重要性が示唆された。
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© 2007 日本理学療法士協会
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