抄録
【目的】筋疲労の評価として筋電図を用いた方法が多く報告されている。その大半は最大収縮時の筋疲労を検討しているものであり、DYJOCトレーニング中の筋疲労特性に着目した研究は少ない。今回、DYJOCトレーニング中の前脛骨筋の筋疲労の経時的変化を中間周波数(Median Power Frequency:以下 MdPF)と筋電図積分値(以下iEMG)を使用し検討したので報告する。
【方法】対象は、整形外科的に障害の無い男子大学生14名(平均年齢22歳、平均身長172.2cm、平均体重63.4kg)とした。ヘルシンキ宣言に基づき、被験者に実験の目的・方法及び危険性等を説明し書面で承諾を得た。被験者には300×30 mmの丸ボード(酒井医療社製DYJOCボード)上に裸足で、体幹垂直位、膝関節50°屈曲位の片脚立位(利き脚側)を保持するよう指示し、非利き脚が地面に着くまで継続させた。開始から終了までの時間を最大耐久時間と定義し計測した。筋活動電位は日本電気計測社製テレメトリー筋電計WEB-5000を用い、表面電極にて前脛骨筋よりサンプリング周波数1kHzで導出した。最大耐久時間を10ブロックに分割し、各ブロック後半の2000 msecずつをサンプリングし、iEMGおよびMdPFを算出した。iEMGは最大随意収縮時のiEMGで補正し、相対的iEMG(以下%iEMG)とした。DYJOCトレーニング中の変化を観察するため、%iEMGとMdPFにおいてブロック1(開始時)の値に対する各ブロックにおける変化の割合を求めた。統計処理にはSPSS15.0Jを用い、分散分析と多重比較検定(LSD法)を実施し、有意水準は5%未満とした。
【結果】被験者の最大耐久時間の平均値は180.0±115.7秒であった。MdPFはブロック1と比較しブロック9 では88.9%と有意な減少を示した(p<0.05)。%iEMGはブロック1と比較しブロック4は69.2%、ブロック5は74.4%、ブロック7は74.7%、ブロック8は74.0%、ブロック9は61.7%と有意な減少を示した(p<0.05)。
【考察】筋疲労の進行に伴いMdPFが一貫して低下すること、%iEMGが増加することは多数報告されている。DYJOCトレーニングでも同様にMdPFの減少が認められ筋疲労を観察することができたが、%iEMGは減少する傾向を示した。%iEMGが減少した原因として、DYJOCトレーニングにより固有受容器が刺激され、中枢神経を経て効果器である筋に至る回路の機能が改善され、神経-運動器のより良い協調により関節の安定化と不意な状況変化に即座に対応したためと考えられる。DYJOCトレーニング中のMdPFの変化はこれまでの報告と同様に減少する傾向が示唆されたが、%iEMGはこれまでの報告とは異なり減少することが示唆された。