理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 河端 将司, 島 典広, 西薗 秀嗣
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】腹腔内圧の上昇は脊柱を固定させ、体幹に伸展モーメントをもたらす。特に持ち上げ動作では、腹腔内圧による脊柱安定化作用が腰部障害の予防に重要な役割を担っている。先行研究より、腹腔内圧は意図的な最大呼気位に比べ最大吸気位で上昇しやすく、吸気量の影響を受けると示唆されている。しかし、異なる強度の持ち上げ動作において、中枢神経系の制御によって吸気活動がどのように変化し、腹腔内圧の上昇に影響を及ぼすかについては明らかにされていない。本研究では、異なる強度の持ち上げ動作における動作前の吸気量が腹腔内圧の上昇に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】健常男子大学生11名(22±2歳、173±7cm、64±7kg)を対象に、研究主旨を説明し書面にて同意を得た。本研究は本大学院の倫理委員会の承認を得て行った。腹腔内圧は圧センサー(MPC-500)を肛門より挿入し直腸圧を得た。吸気量はフローメーター(FM-200)から積分値を得た。持ち上げ課題は体幹前傾位、膝関節伸展位にて張力計を介した鉄棒を膝蓋骨上縁で把持させ、3秒間の等尺性伸展動作とした。最大努力(100%MVC)後、30%、45%、60%、75%、90%MVCの持ち上げ課題をランダム化し、各々練習後に3回測定した。試行間に十分な休息を与え疲労の影響を除いた。データ解析は持ち上げ直前の吸気量(2相)から呼気量(1相)を減じた値を吸気量として算出し、腹腔内圧は動作中の上昇量を求めた。意識的な呼吸活動を避けるため呼吸に関する説明は一切控えた。強度変化に伴う吸気量および腹腔内圧の変化は反復測定一元配置分散分析と多重比較Dunnet法を用い、吸気量と腹腔内圧の関係にはピアソンの相関係数を用いた。
    【結果】吸気量と腹腔内圧はいずれも強度に関する有意な主効果を認めた。安静吸気量を100%とすると、吸気量は30%~90%MVC課題の順に112±55%、144±51%、161±51%、192±65%、207±51%(mean±SD)と漸増し、多重比較の結果、安静吸気量を対照として45%MVC以上で有意差を認めた。腹腔内圧も順に19±11mmHg、36±19mmHg、49±21mmHg、72±29mmHg、96±41mmHgと漸増し、安静時を対照として30%MVC以上で有意差を認めた。吸気量と腹腔内圧との間には有意な高い相関を認めた(r=0.99)。
    【考察】本研究では各課題前の練習で強度を認知させたため、持ち上げ動作前の吸気活動は中枢神経系で制御された活動といえる。動作前の吸気量は30%MVCでは安静吸気量と有意差を認めず、中等度の強度では安静吸気量の約1.5倍、高強度では約2倍と有意に増大した。さらに動作中の腹腔内圧の上昇と高い相関関係にあった。これらは、腹腔内圧の上昇は低強度課題では安静吸気量レベルで可能であるが、中等度以上では吸気量を有意に増大させる必要性を示唆している。即ちこれは中等度以上で要求される腹腔内圧の上昇を有利にさせる吸気戦略と考えられ、動作前の吸気活動の重要性を示唆している。
  • 木下 利喜生, 古澤 一成, 山中 緑, 大川 裕行, 伊藤 倫之, 幸田 剣, 芝 寿美子, 江西 一成, 神埜 奈美, 上西 啓裕, 小 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    これまでの研究により、運動は免疫機能に影響を与える事が分かっている。高強度負荷運動における白血球数は運動直後に上昇し、運動終了後から徐々に運動前値へと回復していく。またNatural killer cell activity(以下NKCA)は運動直後に上昇し、運動終了後に運動前値より低下(open window)、その後、徐々に運動前値へと回復していく。
    我々は前回の研究で、健常者男性12名を対象に中等度負荷とされる最大酸素摂取量60%での上肢運動を行い、NKCAの変化がopen windowの形をとり、白血球数の変化においても高強度負荷運動時と同様な傾向となる結果を得ている。そこで今回、頚髄損傷者を対象に同様の負荷運動を行い、白血球数とNKCAの影響を検討したので報告する。
    【対象と方法】
    被検者は頚髄損傷者男性9名とし、実験開始24時間前から積極的な運動は禁止した。運動負荷はハンドエルゴメーター(MONARK社 model881)を使用して行った。 まず運動負荷量の設定のため、呼気量・呼気ガス分析計(CosMed社 K4)で、ランプ負荷法により最大酸素摂取量の測定を行い、その60%を本研究の運動強度とした。運動時間は臨床に則してリハ施行1単位に相当する20分間とした。
    プロトコールは30分間安静坐位の後、同肢位で最大酸素摂取量の25%負荷・4分間のウォーミングアップに続き、最大酸素摂取量の60%負荷・20分間の運動を行った。採血は運動直前、運動終了直後、運動終了1時間後、運動終了2時間後に実施し、白血球数、NKCAの測定を行った。
    測定データは運動前値との比較を行い、統計学的評価は、時間毎に分散分析を行い、有意差があったものに関してRyan,s methodにより多重比較を行った。危険率は0.05未満で有意とした。
    【結果】
    白血球数は運動直後から上昇し、運動終了2時間後では有意に高い値となった。
    また、NKCAは運動直後に上昇し、運動終了1時間後と2時間後でも上昇が続いたが、運動前値と比較して有意差はなかった。
    【考察】
    今回の結果から、頚髄損傷者の運動負荷による免疫機能への影響は健常者と異なることが明らかになった。open windowが生じなかった理由は、本研究結果からだけでは分からないが、交感神経活動の障害、運動麻痺による活動筋量の低下などによってカテコラミンやインターロイキン6の分泌に何らかの影響が生じた可能性が考えられる。しかし、詳しい機序については不明であり、今後更なる検討が必要である。

  • 高橋 真, 河江 敏広, 松川 寛二, 中本 智子, 土持 裕胤, 関川 清一, 稲水 惇
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】心拍数は心臓交感神経と迷走神経によって調節されており,運動時には迷走神経活動が抑制され,交感神経活動が増大することで心拍数増加が達成される.このような自律神経活動を非侵襲的に評価する方法として心拍変動周波数解析が挙げられる.心拍変動には周波数の異なる2種類のリズムが存在し,1つは呼吸に同期した変動,すなわち呼吸性洞性不整脈を反映する高周波数(HF:0.15-0.4Hz) 成分であり,心臓迷走神経活動の指標として広く受け入れられている.一方,血圧のMayer波と関連する低周波成分(LF:0.04-0.15Hz)は心臓交感神経活動の指標として用いられることがあるが,否定的な報告も多いのが現状である.そこで,迷走神経は残存するが心臓交感神経は障害されている頸髄損傷者と健常者において,運動中の心拍変動を比較することで,心拍変動のLF成分が心臓交感神経活動を反映するか否かを検討した.また,現在広く用いられている周波数解析法では定常状態にあることを前提としており,運動中のように心拍数が大きく変動する場合には適用できない.そこで,本研究では時間分解能に優れるWavelet法を用いて運動中の自律神経活動を評価した.
    【方法】対象は頸髄損傷者(Tetra)6名と健常者(Normal)9名とした.運動負荷様式は肘関節90°屈曲位保持の静的運動とし, 35%MVCの運動強度で疲労困憊まで行った.その間,連続指血圧測定装置(TNO-TPD Biomedical Instrumentation社,Portapres Model2)を用いて血圧,動脈圧波形を記録し,平均血圧(MAP),心拍数(HR)を算出した.さらに,フラクレットシステム(大日本製薬株式会社)を用いて,Wavelet解析を行った.LF成分,HF成分ともに心拍変動の全成分との比をとることで標準化した.
    【結果】心拍数は運動初期にNormalに比べTetraでの増加が減弱していたが,運動終了時には両者同程度に心拍数は増加していた.迷走神経活動を反映するHF成分は両者で運動開始から緩やかに低下し,両者でその差はなかった.一方,LF成分はNormalでは運動中増加傾向を示したが,Tetraでは減少傾向を示し,運動中の変化量としては両者に差が認められた.
    【考察】TetraとNormalでLF成分の変化に差異があったことは,LF成分が心臓交感神経活動を反映することが示唆される.しかしながら,Tetraにおいて,LF成分とHF成分が同様に低下したことを考慮すると,LF成分には迷走神経活動も関与することが示唆される.
    【まとめ】LF成分は純粋な心臓交感神経活動を反映する指標としては妥当ではない.
  • 脊柱可動性とアライメントに着目して
    山口 耕平, 吉田 有紀, 相谷 芳孝, 池田 澄美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    臨床において整形外科疾患患者の呼吸運動にアプローチすることで症状が改善することを経験する。呼吸筋と姿勢制御の関係や呼吸機能における体位の影響などを報告する文献は散見されるが、呼吸運動と姿勢や脊柱可動性との関連性について報告した文献は少ない。本研究では脊柱アライメントおよび脊柱可動性に着目し、呼吸時胸郭・腹部周径変化との関係について報告する。

    【方法】
    対象は、本研究の内容を十分説明し同意を得た地域在住女性高齢者24名(年齢:68.3±7.9歳)である。脊柱アライメント測定はIndex社製スパイナルマウスを用いた。測定は坐位で行い、安静位・脊柱最大伸展位・脊柱最大屈曲位の3肢位で測定し、各肢位における胸椎・腰椎・骨盤アライメント(屈曲・前傾が正の値)を得た。また、脊柱最大伸展位における脊柱角度を胸椎・腰椎伸展可動性、骨盤については前傾可動性とした。最大屈曲位からも同様に胸椎・腰椎屈曲可動性と骨盤後傾可動性を得た。呼吸時胸郭・腹部周径測定は、測定位置を腋窩・剣状突起・第10肋骨・臍部レベルとし、測定肢位を背臥位とした。安静呼気位・最大呼気位・最大吸気位における周径を各レベルでメジャーを用い計測した。最大吸気位周径から最大呼気位周径を減じ、各レベルの胸郭拡張差を得た。また、安静呼気位と最大吸気位および最大呼気位との周径差を吸気可動性・呼気可動性とし、各々算出した。統計解析は、姿勢と呼吸パラメーターとの関連性についてSpearman順位相関係数を用い検討した。統計処理にはSPSSを用いた。

    【結果】
    腰椎屈曲可動性と剣状突起レベル胸郭拡張差(以下CESxp、r=0.65,p<0.01)および剣状突起レベル呼気可動性(以下rROMpx、r=0.56,p<0.01)との間で有意な相関がみられた。また、骨盤後傾可動性についてもCESxp(r=-0.56,p<0.01)およびrROMxp(r=-0.41,p<0.05)と有意な相関がみられた。加えて、安静位腰椎アライメントと CESxp (r=0.42,p<0.05)にも有意な相関がみられた。

    【考察】
    本研究より、坐位腰椎屈曲・骨盤後傾可動性と剣状突起レベルの胸郭拡張運動、特に呼気運動との関連性が高いことがわかった。また、安静坐位腰椎アライメントと剣状突起レベルの胸郭拡張差との間にも相関がみられたことから、姿勢と呼吸運動の関係についての示唆が得られた。一方で、本研究が呼吸機能と整形外科疾患との関連性について言及するには至らなかった。この点に関しては新たな呼吸パラメーターを用いた検討が必要と考える。
  • 工藤 義弘, 尾山 純一, 西山 保弘, 矢守 とも子, 中園 貴志
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    本研究は,温泉療法の改善効果を解明することを目的としている。前回は温泉浴が慢性心不全患者のナチュラルキラー活性(NK活性)機能に与える影響を検討した。今回は温泉浴が慢性心不全の血清中tumor necrosis factor-α(TNF-α)へ及ぼす影響を調べる。TNF-αはナチュラルキラー(NK)細胞などから産生され、炎症反応および細胞の生死(アポトーシス)に関わる因子として生体の免疫系に密接に関わっている。
    【方法】
    対象:NYHAIII以下の慢性心不全患者(虚血性心臓病5名,心筋症1名)の6名(男性4名,女性2名)。平均年齢:79.6± 6.4歳(平均±SD)。研究の目的と内容に関しては十分にインフォームドコンセントを行った。温泉療法の環境:単純泉を選択した。室内温度を28°Cとし、温泉温度は40度 、入浴時間は10分間 、入浴頻度は毎日で週5回以上とした。入浴期間は2週間、入浴方法としては、半身浴または胸骨の深さまですることとした。温泉療法における安全性の確保と身体機能の把握のため初回時と最終回の前後60分間医師によるバイタルサインのチェツク、及び毎回の前後にバイタルサインのチェツクを行った。さらに適宜、医師による診察、チェツクを行い温泉療法の安全性に関しては慎重に臨んだ。採血は温泉療法前および2週後に血清中のTNF-αを測定した。血清中TNF-αの測定にはenzyme-linked immunoassay (EIA)キット(Biosource社)を用いた。データ処理:Decision of Statistical Analysis。有意差検定:Paired-Student’s-t-test を採用。
    【結果】
    血清中TNF-αの量は温泉療法開始前と比較して2週間後では低下傾向を示した(開始前: 17.883±9.24pg/ml、2週間後: 12.316±5.045pg/ml)。しかし統計学的な有意差は認めなかった(P =0.335)。
    【考察・まとめ】
    温泉浴が慢性心不全患者のナチュラルキラー活性(NK活性)やTNF-αへ及ぼす影響を調べることで,温泉療法の改善効果を解明しようと考えている。TNF-αに着眼した理由はTNF-αは炎症反応および細胞の生死(アポトーシス)に関わる因子として免疫応答を調節し、最近は局所炎症の増悪や全身性の痛覚過敏を起こす反応系にも密接に関わっていることが判明したことにある。メカニズムは視床下部や延髄に情報を伝達すると共に、中枢神経系の情報伝達にも関わっているものと推測される。TNF-αはプロスタグランジンprostaglandin(PG)と交感神経系の両系統を活性化すると考えられている。本研究における温泉療法開始前に比べ2週間後のTNF-αの量およびその動態は有意な差が認められなかったが、低下傾向を示した。このことは、温泉療法と痛覚過敏との間には共通の作用メカニズムが存在する可能性が示唆される。
  • 宮田 卓也, 田中 正二, 立野 勝彦, 高橋 郁文, 吉本 佳司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋の肥大,再生には筋衛星細胞が関与していると考えられている.筋衛星細胞は通常休止した状態で存在し,筋分化制御遺伝子であるMyoD familyの発現は見られないが,運動負荷により筋衛星細胞が活性化することが報告されており,MyoD familyの発現は間接的に骨格筋の肥大,再生を示していると考えられる.そこで今回,運動負荷強度の違いによる骨格筋の肥大,再生の影響に関して分子生物学的方法から検討を加えることとした.

    【方法】4週齢Sprague-Dawley系雄性ラット26匹を対象とした.運動負荷は小動物用トレッドミルを用い,16度下り坂で30分間連続走行を行った.対象は運動を実施しない対照群(CON群)(n=5),走行速度16,20,24m/min(各n=5),28m/min(n=6)の運動群4つの計5群に分類した.運動負荷終了72時間後にヒラメ筋(SOL),長趾伸筋(EDL)を採取し,Total RNAを抽出した.Random 6mer primerを用いて逆転写反応を行い1st strand cDNAを合成した後,遺伝子特異的custom primer pairを用いてインターカレーター法で定量した.目的遺伝子はMyoD,Myogenin,PCNA(増殖細胞核抗原),内部標準遺伝子はGAPDHとして相対定量値を求めた.統計学的検討にはSteel-Dwass,Scheffeの検定を用いた.なお本研究は金沢大学動物実験委員会承認のもとに実施した.

    【結果】MyoDの発現量はSOL,EDLともに有意差を認めなかった.Myogeninの発現量はSOLにおいて16m/minと28m/min運動群間で有意差を認めた(p<0.05).PCNAの発現量はSOLにおいて運動群全群でCON群よりも有意に低値を示し(p<0.01),EDLにおいては16m/minと24m/min運動群間で有意差を認めた(p<0.05).また20,24,28m/min運動群はCON群,16m/min群と比較して低値を示す傾向があった.

    【考察】今回の運動負荷ではEDLよりSOLの方が遺伝子発現量に影響があることが示唆された.これは今回と類似した運動負荷によりSOLの方が筋衛星細胞の活性化が引き起こされたというDarrらの報告と一致している.また運動負荷によりPCNAの遺伝子発現量が減少することが示唆された.Robertson,Groundsらの報告によると筋を採取した運動負荷72時間後は筋管細胞を形成する時期と考えられ,この時期では細胞増殖が低下し筋特異的タンパク合成が活発である.これは増殖マーカーであるPCNAが減少し,筋管細胞への分化を調節するMyogeninが有意差はないが増加傾向にあったという今回の結果と相関していると考えられる.今後は運動負荷強度一定における遺伝子発現量の経時的変化や他の増殖マーカーとの相互時間的関連などさらに検討を加えたい.
  • 相馬 寛人, 吉田 昌平, 守田 武志, 原 邦夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    自転車エルゴメーターを用いた最大無酸素パワー(以下MAnP)の測定は広く行われているが、MAnPは高負荷でのパワー発揮能力を評価しているにすぎない。そのため、我々は実際のスポーツ動作の評価においてはより高速での評価が必要であると考え、低負荷でのパワー発揮能力の評価の重要性を報告した。
    【目的】
    一般的に用いられているPower Max VIIの無酸素パワーテスト(C法)と体重に対する相対負荷を用いた我々の測定方法(Y法)を比較し、MAnPの評価方法としてのY法の妥当性と低負荷のパワー発揮能力の評価における有用性について検討した。
    【対象】
    膝前十字靭帯再建術後6ヵ月の男子競技選手12名(年齢19.2歳、身長176.1cm、体重77.8kg)とした。
    【方法】
    MAnPの測定はC法、Y法共にPower Max VIIを使用し、3段階の測定負荷で10秒間の全力ペダリングを2分間の休憩を挟んで実施した。C法の低負荷は被験者の体重、中・高負荷は前測定負荷での回転数に応じて設定された。Y法は体重に対する相対負荷を使用し、低・中・高負荷の順に体重の5、7.5、12.5%とした。測定で得られたピークパワーとピーク回転数(P-rpm)より、MAnPと至適負荷(OL)を算出し、体重あたりのMAnP (MAnP/BW)、OL(OL/BW)を求めた。また各測定における体重あたりの負荷(%BW)とP-rpm について、C法とY法で比較した。
    【結果】
    MAnP/BWは C法14.6w/kg、Y法14.7 、OL/BWはC法12.9%BW 、Y法12.6 で、共にC法とY法の間で有意差はなかった。また各測定における%BWとP-rpmは、低負荷のC法5.6%BW、179.7rpm、Y法5.0、187.3、中負荷のC法8.9、152.2、Y法7.5、164.5、高負荷のC法12.4、118.6、Y法12.5、117.9で低・中負荷の%BW 、P-rpmにおいて、C法とY法の間で有意な差を認めた(p>0.01)。
    【考察】
    過去の報告を散見すると、男子競技選手のMAnP/BW は 11.0~17.0w/kg程度、OL/BW は12.0%以上であると報告されている。今回、Y法の測定において同程度の値をとり、C法との間に有意な差を認めなかったため、Y法がMAnPの評価方法として妥当であると考えた。次に低負荷のパワー発揮能力については、脚伸展筋力でえられるMAnPのみならず、低負荷におけるP-rpm自体の評価の必要性が報告されているが、明確な負荷設定はされていない。これに対して、我々は脚屈曲筋力と相関を認めた5%BWを低負荷のパワー発揮能力の評価指標とし、スプリントにおける疾走期と関係することを指摘している。このため、低負荷の設定を詳細に行ったY法はMAnPのみならず、低負荷のパワー発揮能力の評価を可能とする有用な測定方法であると考えた。
  • 小峰 秀彦, 菅原 順, 吉澤 睦子, 林 貢一郎, 横井 孝志
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    動脈血圧反射は血圧を一定範囲に保つための反射で,動脈血圧反射感受性は加齢に伴って低下し,これが心疾患につながることが指摘されている.一方,運動習慣は加齢に伴う動脈血圧反射感受性の低下を防止するが,そのメカニズムは不明であった.本研究の目的は,運動習慣が頸動脈血管の伸展性を上げ,その結果,頸動脈壁に存在するstretch-sensitiveな血圧反射受容器からの応答が変化することで動脈血圧反射感受性が高くなるという仮説を検証することであった.

    【方法】
    中高齢者(64±3才)の男女を対象に運動トレーニングを行い,運動トレーニング前,トレーニング開始2週間後,12週間後に動脈血圧反射感受性と頸動脈伸展性を計測した.運動トレーニングは歩行運動を中心とした持久性運動で,最大心拍数の65-75%の運動強度で30-45分/日,3-5日/週行なった.動脈血圧反射感受性はバルサルバ第IV相での昇圧,除脈応答を橈骨トノメトリー連続血圧計および心電図で記録し,beat-to-beat解析することによって評価した.頚動脈伸展性は心収縮期,心拡張期における血管断面積の変化を超音波画像から記録し,同時に頸動脈血圧をトノメトリセンサーで記録することによって評価した.

    【結果】
    動脈血圧反射感受性は,運動トレーニング開始2週間後に増加したが,頸動脈伸展性は変化しなかった.頸動脈伸展性は動脈血圧反射感受性の変化よりも遅れて,運動トレーニング開始後12週間後に増加した.

    【考察】
    持久性運動トレーニングは,中高齢者の動脈血圧反射感受性および頸動脈伸展性をともに増加する.しかしながら,動脈血圧反射感受性が頸動脈伸展性よりも早く変化した結果は,運動トレーニングによる動脈血圧反射感受性の変化が頸動脈伸展性の変化が原因で起こるのではなく,別の異なる原因で起こることを示唆する.
  • 鈴木 昭広, 横田 進, 礒部 美与, 柳澤 千香子, 押見 雅義, 斎藤 康人, 高橋 光美, 洲川 明久, 宮永 哲
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【背景】
    圧受容器反射は血圧の主要な調節機構であり、心疾患患者などの生命予後にも関わると報告されている。しかし、生理的状況の変化など、動的な修飾時の圧受容器反射に関しての報告は少なく、不明な点が多い。
    【目的】
    健常人において、運動時の圧受容器反射機能(baroreflex sensitivity:BRS)と嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:AT)の関係を明らかにすること。
    【対象と方法】
    本研究に同意の得られた健常男性7名(平均年齢:31.9±5.1歳)を対象とし、心肺運動負荷試験(CPX)と、BRS測定を同時に行った。CPXは5分間の安静坐位後、自転車エルゴメーターで3分のウォーミングアップを経て、15watts/1分のramp負荷にて症候限界性に行った。また、呼気ガス分析にてATを決め、この時の心拍数(HRAT)を測定した。BRSの測定はトノメトリー法による血圧と心電図信号をsequential法にて解析し、BRSが安静時より低下し変化が認められなくなった時の心拍数(HRBRS)を測定した。そしてHRATとHRBRSを比較検討した。統計処理はWilcoxon検定にて行い、危険率5%未満を統計学的に有意と判定した。
    【結果】
    安静時BRSは7.5±2.9msec/mmHgであり、BRSが安静時より低下し変化が認められなくなった時のBRSは1.2±0.7msec/mmHgであった。HRBRSは113±9.6bpm、HRATは110.4±15.3bpmであり、両HR間に有意差は認められなかった。
    【考察】
    BRSは運動時に低下するといわれている。BRSの基本神経回路は延髄以下に存在し、循環調節が働いている。運動時にBRSが修飾をうける機構は、視床下部など上位中枢から延髄への修飾や、骨格筋の伸展受容器、化学受容器、心臓の迷走神経求心性神経も運動時の交感神経活動調節に参画すると考えられている。しかし、運動時にどの程度BRSの低下が認められ、循環調節などに関与しているかは十分に解明されていない。今回の結果でも、運動によりBRSは低下した。そしてBRSが低下し変化のなくなったHRBRSとHRATを比較することで、BRSとATに何らかの関係があると考えられた。この結果からAT後の化学受容体を介しての修飾が、BRSに関与していると推測された。
    【結語】
    運動時の、BRSとAT間の関係が示唆されたが、運動時の循環調節機能にどの程度BRSが関与しているかについては今後の課題である。
  • 一瀬 裕介, 村上 幸士, 荒田 修治, 新井 康男
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々は臨床において慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して呼吸理学療法を実施する上で、姿勢の変化による呼吸困難感の変化を体験する。COPD患者に対する呼吸練習として、口すぼめ呼吸と横隔膜呼吸の併用が推奨されているが、口すぼめ呼吸は性質上姿勢による影響は考えにくく、姿勢変化に伴う呼吸困難感は横隔膜呼吸の機序になんらかの影響があるものと推測される。黒澤らは、努力呼気をすることによって腹圧が高まり、横隔膜を挙上させることによって横隔膜が伸張され、吸気相での横隔膜の収縮を補助するとしている。腹圧を高める筋として腹横筋、内腹斜筋が挙げられ、これらは機能解剖学的に外腹斜筋と共同して下位肋骨の下制作用を持つ。今回、各姿勢での横隔膜呼吸を行った際の肋骨下角を測定することにより、姿勢と呼吸の関連性について検討したので報告する。
    【方法】
    対象は健常男性7名(平均年齢25.0±0.58歳)であった。測定は臥位、端座位、立位、背もたれありでの体幹後屈角度30°、60°、90°での座位の計6肢位で行った。端座位、立位は骨盤前傾位とし、体幹後屈肢位は頭部側がリクライニングできるボバーステーブルにてゴニオメーターで角度を設定し、被検者にはできる限り深く腰掛けるよう指示した。肋骨下角は胸骨下端と両側の乳頭からの垂直線と下位肋骨の交点がなす角度と定義した。被検者には横隔膜呼吸を1分間行わせ、その後各肢位での最大努力での横隔膜呼吸をデジタルカメラで撮影し、最大吸気角度、最大呼気角度を測定した。測定間は十分な休息をとった。統計処理はWilcoxonの符号付順位和検定を用いて、各肢位間で検討を行った。有意水準は危険率5%未満とした。
    【結果】
    最大呼気角度は臥位と比較して座位、立位において有意に増大し、60°座位、90°座位で有意に減少した。90°座位は端座位と比較して有意に減少した。最大吸気角度は各肢位間にて有意差はみられなかった。
    【考察】
    端座位、立位において最大呼気角度の増大がみられたのは、骨盤を前傾位に保持したことで下位肋骨下制筋である腹横筋、内腹斜筋などの側腹筋群が脊椎、骨盤の安定化機構として作用した為であると思われる。これは端坐位・90°座位間に有意に差がみられたこととしても説明できる。最大呼気角度は骨盤前傾位での端坐位、立位で大きくなり、横隔膜呼吸を行うにあたり困難な肢位であると考える。臨床においての呼吸練習は臥位で行うよりも、側腹筋群が脊椎、骨盤の安定化機構として作用する必要がなく、下位肋骨下制筋として導入しやすい背もたれありでの60°~90°座位で行うことが望ましいと思われる。
  • 西田 裕介, 重森 健太, 水池 千尋, 根地嶋 誠
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者の1日を反映する身体活動への介入は、介護予防、健康増進の視点からも重要である。また、高齢者は、日常生活活動(ADL)において低強度レベルでの動作形態を選択することが多いことや運動負荷強度の増加に伴う身体反応性が低下している者も多い。そのため、高齢者の低強度レベルにおける心拍応答性を把握する事は、身体活動へ介入していくためには重要である。そこで本研究では、高齢者を対象に運動負荷試験を行い、低強度レベルにおける心拍応答性を評価し、その他の全身持久力および筋力、身体活動量の評価と比較検討した。

    【対象と方法】対象は、介護付き有料老人ホームに入所中の高齢者25名(平均年齢75.7±7.45歳)とした。対象者には、本研究に関する同意を文書及び口頭にて得た。また、本研究は、聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した。方法は、低強度負荷レベルの心拍応答性の評価として、自転車エルゴメータを用いた運動負荷試験を実施した。運動負荷試験は、カルボーネンの処方心拍数より得られた30%レベルを目標心拍数とし、そのときの仕事量を測定した(30%負荷強度)。運動負荷試験のプロトコルは、30秒につき10wattずつ増加していくランプ負荷を採用した。また、持久力の評価には6分間最大歩行距離(6MD)を測定した。筋力の評価には、ハンドヘルドダイナモメータを用いて、右膝伸展筋力を測定した。身体活動量の評価には、エネルギー消費量を1日の行動記録より算出することが可能である肢位強度法身体活動量推定法(PIPA)を用いて評価した。データは、それぞれの評価項目の関連性をピアソンの積率相関分析により検討した。また、有意水準は5%未満とした。

    【結果】各測定項目の結果を示す。30%負荷強度は、29.4±15.1wattであった。6MDは、399.2±137.1mであり、右膝伸展筋力は、190.7±98.7Nmであった。PIPAは、1948.1±631.4kcalであった。相関分析の結果、30%負荷強度と相関が認められた項目は、右膝伸展筋力(r=0.38、p=0.03)のみであり、その他の指標とは関係性を見出せなかった。また、6MDと右膝伸展筋力(r=0.57、p=0.03)、身体活動量(r=0.57、p=0.01)との間にはそれぞれ有意な相関が認められたが、筋力と身体活動量の間には相関関係は認められなかった。

    【まとめ】低強度レベルでの運動機能は、日常生活活動で用いられる多くの動作を反映する。本研究の結果より、心拍応答性からみた低強度レベルでの運動機能は、全身持久力よりも筋力に依存した運動であると考えられる。しかし、1日のADLの行動特性から求めた身体活動量は全身持久力と関係していることから、低強度レベルでの運動能力の向上には、筋力だけではなく、全身持久力を含めた包括的な運動処方が重要であると考えられる。
  • 松木 直人, 高橋 精一郎, 甲斐 悟, 河元 岩男, 明日 徹, 田中 裕二, 木村 孝, 熊丸 真理, 山下 慶三, 花田 穂積, 崎田 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    防衛体力の維持は免疫機能に負うところが大きく、免疫機能は運動により変化するということが知られている。上気道感染症の感染防御には、口腔内の唾液と口腔粘膜からなる局所免疫が重要であり、特に唾液中の液性因子では、唾液中分泌型免疫グロブリンA(secretory immunoglobulin A:唾液中分泌型IgA:以下sIgA)が重要な役割を果たしている。本研究では、虚弱高齢者に対する低負荷トレーニングが口腔内局所免疫能に影響を及ぼすか。影響を及ぼすとすれば、いかなる影響であるかを検証することを目的として、継続的な低負荷トレーニングを実施し、sIgAの一過性変動および経時的な変動を検証する。
    【方法】
    通所リハビリテーション施設の利用者で、募集に応じた12名(男性:6名、女性:6名、平均年齢74.8 ± 9.5歳、要介護度:要支援~要介護3)を対象とした。なお、本研究の趣旨と内容について説明を受け同意のもとに参加した。運動は、マシントレーニング機器(酒井医療株式会社製)を用いた低負荷トレーニングを週2回12週間継続にて実施した。負荷量の目安は修正Borgスケール2とし、運動時心拍数の目安は110拍/分を基準とした。唾液はトレーニング開始時および4週、8週、12週の各トレーニング前およびトレーニング直後に採取した。
    【結果】
    1回のトレーニング前後におけるsIgAの変動において、トレーニング直後に濃度ならびに分泌量が有意に上昇した(p<0.01)。トレーニング前におけるsIgA濃度ならびに分泌量の経時的変動において、有意な差は認められなかった。
    【考察】
    秋本らは、sIgAの運動による変動は、体力レベルによって異なる可能性が示唆されたと述べており、本研究における対象者は、体力レベルは低い群に属すると考えられるため、低負荷の運動によっても1回のトレーニング前後におけるsIgAが上昇したと推測される。また、リンパ液の還流の増加がsIgAの上昇をもたらしたと推測される。経時的なsIgAの変動は認められなかったことについて、高齢者の運動による行動体力の向上は、主として神経や筋の応答であるが、本研究で指標としたsIgAは、その発生が粘膜関連リンパ組織に由来しており、生体への反応機序が異なるため、行動体力の向上に伴う防衛体力の改善の可能性は低いと考えられる。今回の研究結果からは、防衛体力である口腔内局所免疫能の向上においては、より長期の期間が必要と推測された。しかし、一過性であっても低負荷のトレーニングにより口腔内局所免疫能が向上したことから、加齢によって低下する高齢者の免疫機能が運動によって向上する可能性が示されたと考える。
  • 新渡戸 紗都, 石田 文香, 高木 雄大, 石川 玲
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 13
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】Warm-up(以下,W-up)は身体を安静状態から運動状態へ速やかに移行させ,運動に伴うリスクを減少させる.作業計を用いる運動負荷試験や運動療法では,W-upの負荷様式として単一負荷法を選択する場合が多いと思われるが,低負荷での負荷様式の違いと循環応答の関係については十分に明らかにされていない.本研究の目的は,単一負荷とramp負荷によるW-up中のHRと自律神経活動の違いを明らかにすることである.
    【方法】対象は研究内容を説明し同意を得た健常大学生25名(男17名,女8名,平均年齢23.4±4.1歳).ポラール社製心拍計S810iを装着した対象者に安静を保持させた後,ペダル回転数50回転毎分で3分間のW-up,5分間の単一負荷運動(予め測定したATの80%強度),1分間のクールダウン(0W)を行わせた.W-upの負荷様式は単一負荷(20W)とramp負荷(20W/3分)の2通りとし,対象者にはそれぞれの負荷様式で上述の運動を2回行わせた.心拍計で記録した安静からW-up終了までのR-R間隔の周波数解析を行い,高周波成分(HF)を副交感神経活動,低周波成分(LF)とHFの比(LF/HF)を交感神経活動の指標とした.統計処理には安静時とW-up中30秒毎(30,60,90,120,150,180秒)の値を用い,単一負荷とramp負荷のそれぞれで多重比較を行った.負荷様式間の値の比較には対応のあるt検定とWilcoxon検定を用い,有意水準は全て5%とした.
    【結果】安静時のHR,LF/HF,HFは単一負荷とramp負荷の間で有意差がなかった.両負荷様式でHR(安静;約70bpm)はW-up開始から60秒まで急激に増加した.増加の程度は単一負荷の方が大きく,60秒での両負荷様式の値に有意差がみられた(単一負荷89.4bpm,ramp負荷84.6bpm,p<0.01).その後HRは単一負荷で定常となり,ramp負荷では150秒まで緩やかに増加した.LF/HFは30秒の値が共にbaselineよりも有意に大きく(p<0.05),その後はどちらも低値で推移した.HFは運動開始から30秒までに共に急激に減少し,その後90秒まで一旦増加して再び減少した.HFの増減の程度は単一負荷の方が大きく,30・60秒では負荷様式間で有意差がみられた(p< 0.01).
    【考察とまとめ】HRの増加の仕方は負荷様式によって異なっていた.LF/HFとHFは負荷様式間で増減のパターンは一致していたが,その程度には違いがみられた.LF/HFの変化より,どちらの負荷様式でも運動開始と共に交感神経活動が優位となることが確認された.一方,30・60秒のHFには負荷様式間で差がみられ,単一負荷はramp負荷よりも運動開始直後の副交感神経活動の退縮が著しく,このことがHRの増加の仕方の違いに関係したと考えられた.以上より,20Wという低負荷のW-upでは,ramp負荷の方が単一負荷よりもHRと自律神経活動の変化が緩やかであることがわかった.
  • 松居 和寛, 井上 達郎, 戸口田 武史, 村上 まゆ, 土田 和可子, 波之平 晃一郎, 河原 裕美, 藤村 昌彦, 弓削 類
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 14
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,笑いが身体に与える影響についての報告がみられる.その多くは,免疫などにおける身体的影響,感情プロフィール検査(Profile of Mood States,以下POMS)などの気分尺度を用いて精神的影響について検討されている.しかし,笑いを定量化した論文は極めて少ない.そこで,筋電図(以下EMG),リアルタイム笑顔測定ソフト(OMRON,以下ソフトウェア)を用いて笑いを定量化し,分泌型免疫グロブリン量(SIgA),POMSによる気分尺度を比較した.さらに,EMGとソフトウェア間の相関についても検討を行った.
    【方法】
    本研究に同意の得られた男女20名(男性10名,女性10名,平均年齢22.4±0.5)を対象とした.EMGによる定量群10名(男性5名,女性5名),ソフトウェアによる定量群(男性5名,女性5名)の二群に分けた.1施行につきEMG群2名,ソフトウェア群2名の計4名で実験を行った.コントロール群として,風景スライド視聴による安静の後、ドキュメンタリービデオを視聴させた.ドキュメンタリービデオの前後で,唾液採取,POMSの記入を行ってもらった.ビデオ視聴後は,ビデオに対する反応をVASを用いて評価した.介入群として,ドキュメンタリービデオを笑いのビデオに替えて視聴させた.以上の施行に関しては,コントロール,介入の順番をランダムとした.ビデオは,すべて8分19秒で統一した.筋電図の電極の貼付位置は,頬骨突起と口角を結ぶ線の中央とした.唾液の採取は,サリベットを用いてサンプリングし,-70°C~-80°Cで冷凍保存した後,ELISA法にて計測した.筋電図による定量は、ビデオ視聴後の積分筋電図をビデオ視聴前のもので除し求めた。さらに、介入群で求めた値を,コントロール群の値で除すことで笑いの増加量とした.ソフトウェアによる定量化は,安静時の値からの増加量を笑いの量とした.
    【結果】
    EMG増加量の平均値は1.7±0.8であった.ソフトウェアの増加量の平均値は38(%)であった.笑いのビデオの面白さに関するVASの平均値は6.3±2.1であった.POMSにおいて,「活気」の値は,笑いのビデオ視聴後に増加傾向を,それ以外の項目に関しては減少傾向を示した.
    【考察】
    これまでに筋電図を用いて笑いを測定する報告はみられる.本研究では,ソフトウェアと筋電図におけるデータを比較検討することで,笑いの定量化が出来る可能性が示唆された.
  • 森田 伸, 日下 隆, 山田 英司, 田仲 勝一, 内田 茂博, 伊藤 康弘, 藤岡 修司, 板東 正記, 有馬 信男, 山本 哲司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 15
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋力発揮の程度は大脳からの興奮水準など中枢神経系の要因が関係しており,手指の等尺性運動にて筋出力と局所脳血流量の増加に相関があると報告されているが,下肢に関する報告は少ない.今回,等尺性膝伸展運動の強度の違いにおける脳組織酸素化状態の変化を検討するため機能的近赤外分光法(fNIRS)にて測定し,大腿四頭筋の活動と脳組織酸素化状態の変化についても比較,検討したので報告する.
    【方法】対象は骨関節疾患を有しない健常成人12名(男性8名,女性4名,平均年齢24.2±3.4歳)とした.全対象者において事前に本実験の説明を口頭にて行い,同意を得た.等尺性膝伸展運動は,全対象者とも右側に対しCYBEX NORMTMを用いて坐位(膝関節屈曲60°)で行い,事前に最大随意筋力を測定した.運動条件は膝関節屈曲60°での安静(安静),最大随意筋力の30%(30%MVC),最大随意筋力(MVC)を設定した.脳組織酸素化状態の測定は近赤外光イメージング装置(OMM-3000,島津製作所)を用いて,プローベを国際10-20法に基づき配置し計測した.各運動条件にて安静15秒‐運動5秒‐安静15秒の課題を5セット連続で行い,酸素化ヘモグロビン(oxyHb)の変化を記録,5セットのデータを加算した.両側運動野下肢領域に最も近いと想定される左右5個のチャンネルで,運動5秒間におけるoxyHb(最大値)の平均値から運動条件の違いによるoxyHbの変化を対応のあるt検定を用いて検定した (有意水準5%以下).大腿四頭筋の筋活動は,MyoSystem1200s(Noraxon社製)を用いて課題5セットの右外側広筋の表面筋電図を測定し,安静,30%MVC,MVCの運動5秒間における積分値(μV)の平均値を算出した.各運動条件における筋活動にについて t検定を用いて検定した(有意水準5%以下).
    【結果および考察】等尺性膝伸展運動におけるoxyHbの変化は,安静と比べMVCで両側運動野下肢領域付近に有意な局所の増加を認め, 30%MVCでは安静と比べ左運動野下肢領域付近で局所の増加を認めた.また,30%MVCと比べMVCは両側運動野下肢領域付近に有意なoxyHb増加を認めた.右外側広筋の積分値は運動強度が大きくなるほど有意な増加を認めており,今回,30%MVCよりMVCでoxyHb増加領域が認められたことにより,等尺性膝伸展運動において運動強度が大きいほど大脳運動野の活動が大きいことが示唆された.



  • LBNP(lower body negative pressure)負荷装置を用いて
    星合 敬介, 幸田 剣, 中村 健, 木下 利喜生, 山本 義男, 橋崎 孝賢, 児嶋 大介, 川西 誠, 遠藤 城太郎, 宮本 敬二, 松 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】臨床では運動負荷の手段として動的運動を用いる事が多く、動的運動時の循環動態に関する報告は多い。しかし、動的運動時の総頚動脈血流量の動向は不明な点が多く、姿勢による影響についても分かっていない。そこで、我々は下肢動的運動時における姿勢の違いが総頚動脈血流量に与える影響を検討する目的で、起立時と同様に静脈還流量低下をもたらす、下半身陰圧(lower body negative pressure:以下LBNP)負荷装置を用いてLBNP負荷時と臥位姿勢で総頚動脈血流量の変化を検討した。
    【方法】対象は健常若年男性8名。LBNP負荷0mmHgを臥位群、LBNP負荷-40mmHgを陰圧負荷群とした。運動負荷はエルゴメーターを使用し、60%HRmax負荷で下肢動的運動を行った。プロトコールは安静3分、運動10分とした。測定は頚動脈エコーにて総頚動脈血流量、心拍出量計にて心拍出量、心拍数、1回心拍出量を測定。また手動血圧計にて血圧を測定し、平均血圧を算出した。測定データは、1分毎に安静時と比較、また両群間での比較を行った。
    【結果】総頚動脈血流量は安静時と比較して、臥位群で運動5,8-10分目に有意な上昇、陰圧負荷群では運動6-10分目に有意な上昇を認めた。両群間の比較では有意差はなかった。心拍出量は安静時と比較して、両群とも運動時に有意な上昇を認めた。両群間の比較では、安静時,運動1分目に臥位群の方が有意に高値を示した。心拍数は安静時と比較して、両群とも運動時に有意な上昇を認めた。両群間の比較では、安静時,運動6分目に陰圧負荷群の方が有意に高値を示した。1回心拍出量は安静時と比較して、臥位群で運動時に有意な低下、陰圧負荷群で有意な上昇を認めた。両群間の比較では、安静時,運動1分目に臥位群の方が有意に高値を示した。平均血圧は安静時と比較して、臥位群で運動3分目に有意な上昇を認めた。両群間の比較では、運動3分目に臥位群で有意に高値を示した。
    【考察】本研究の結果、両群において下肢動的運動における総頚動脈血流量は姿勢の変化を認めなかった。しかし、両群とも運動時において心拍出量の有意な上昇とともに、総頚動脈血流量は上昇することが判明した。また、両群間の比較において心拍出量は安静時に有意差を認めたが、総頚動脈血流量は有意差を認めなかった。つまり、総頚動脈血流量は姿勢が変化しても一定に保たれる可能性があるが、運動負荷に伴う心拍出量の上昇に影響を受けることが示唆された。以上より、総頚動脈血流量は姿勢負荷で一定に維持され、運動負荷で上昇する機序には、心臓から血液が駆出された後に調節を受けている可能性が考えられた。本研究の対象者は循環血液量をはじめとした循環調節系が保たれている健常人であり、実際には高齢者や起立不耐性を有する症例を対象とするため、姿勢・運動負荷によって総頚動脈血流量が変化する可能性を念頭において理学療法を実施する必要がある。
  • 指標の有無による違い
    池添 冬芽, 浅川 康吉, 島 浩人, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 17
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は、若年者と高齢者を対象に不安定板上で立位姿勢を保持したときの不安定板傾斜角度の変動や傾斜位置について評価し、これらの立位保持時の指標の有無による違いを明らかにすることである。
    【方法】対象は本研究に同意が得られた施設入所高齢者25名(平均年齢83.8歳)および若年者20名(平均年齢23.6歳)とした。不安定板に加速度計が取り付けられたディジョックボードプラス(酒井医療社製)を用い、前後方向にのみ不安定板を傾斜できる設定で測定した(最大傾斜角度±6度)。不安定板上で開脚立位姿勢をとり、できるだけ不安定板を水平に保って20秒間立位保持するよう指示したときの不安定板の水平からの傾斜角度をサンプリング周波数40Hzでコンピュータに取り込んだ。この値から二乗平均平方根した指数(角度変動指数)を求めた。さらに、このときの前後方向の平均傾斜位置(前後位置)を求め、この前後位置を基準とした平均傾斜角度変動値(平均変動)を算出した。コンピュータの画面上に不安定板の水平位置を示す目標点と、それに対する被験者の傾斜位置点がリアルタイムに表示されるように設定し、被験者にそれらの指標を視認させながら立位保持させた場合(指標あり)と、指標を視認させずに立位保持させた場合(指標なし)との角度変動指数、前後位置、平均変動を比較した。
    【結果と考察】角度変動指数は高齢者で指標あり1.82±1.85、指標なし3.49±2.57、若年者で指標あり1.18±0.48、指標なし1.62±0.73と、高齢者・若年者ともに指標なしで有意に増加した。高齢者と若年者の角度変動指数を比較すると、指標ありでは有意差はみられなかったが、指標なしのときには若年者より高齢者の方が有意に大きかった。さらに、指標なし/指標あり比は若年者より高齢者の方が有意に大きい値を示した。これらの結果から、高齢者の立位姿勢制御において、指標がある場合は不安定板の水平位置からの傾斜変動の程度は若年者と比較して必ずしも大きくないが、足底や足関節の固有受容器からのフィードバックがうまく使えず視覚による代償が大きい高齢者では、指標がなくなると不安定板の傾斜変動が著明に大きくなることが示された。
    前後位置は高齢者で指標あり-1.01±1.99度、指標なし-2.00±3.43度、若年者で指標あり-0.004±0.58度、指標なし-0.69±1.41度と、高齢者・若年者ともに指標なしの方が有意に後方に傾斜していた。しかし、この前後位置を基準とした平均変動については高齢者・若年者ともに指標なしと指標ありとの間に有意差はみられなかった。また、高齢者と若年者の前後位置を比較すると、指標あり・なしともに高齢者の方が有意に後方に傾斜していた。このことから、高齢者の方がより後方に不安定板を傾斜させた位置で、立位姿勢制御をすることが示唆された。
  • 望月 久, 金子 誠喜
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 18
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位条件の難易度を変えて立位姿勢保持能力をみる直立検査は、静的バランス能力の検査法として広く用いられている。本研究では足位および視覚条件を変えて、重心(足圧中心)動揺面積、安定域面積、姿勢安定度評価指標、主観的安定感を測定し、立位条件による各指標の変化および主観的安定感と他の指標との関連性について検討することを目的とした。
    【方法】
    首都大学東京の倫理委員会にて研究の承認を受け、被験者の同意を得て測定を実施した。被験者は健常者16名(平均年齢34歳)であった。足位は支持基底面の広さの順に、1)20cm開脚位、2)10cm開脚位、3)閉脚位、4)閉眼閉脚位、5)左片脚位とした。被験者は裸足または薄手の滑らない靴下を履いた条件で重心動揺計に乗り、前方には目標物を設けないで両腕を体側に垂らし立位姿勢を保持した。重心動揺は、中央、および前方・後方・右方・左方の順で重心移動した位置において、初期の大きな動揺がおさまった時点から15秒間測定した。重心動揺面積は中央における矩形動揺面積とした。安定域面積は前後、左右の重心移動位置における平均重心位置の距離を乗じた矩形面積とした。中央および前方・後方・右方・左方に重心移動した位置における矩形重心動揺面積の平均値を平均重心動揺面積とし、姿勢安定度評価指標(IPS)をlog〔(安定域面積+平均重心動揺面積)/平均重心動揺面積〕として算出した。主観的安定感の測定には、0(姿勢保持不能)から10(強く押されても絶対に姿勢を保てる)の主観的安定度評価尺度を作成し、被験者に各立位条件における立位保持の安定性を尋ねた。
    【結果】
    各立位条件における評価指標の平均値±標準偏差は、重心動揺面積、安定域面積、IPS、主観的安定感の順で、20cm開脚位:0.6±0.4cm2、266±48cm2、2.32±0.10、9.7±0.6、10cm開脚位:1.3±0.8cm2、190±46cm2、2.04±0.10、8.4±1.2、閉脚位:2.5±1.2cm2、97±32cm2、1.53±0.14、7.5±1.5、閉眼閉脚位:7.1±4.4cm2、67±30cm2、0.91±0.18、5.1±1.4、左片脚位:5.2±2.7cm2、14±4cm2、0.54±0.09、4.5±1.4であった。IPSの変動係数は4~20%で最も小さかった。主観的安定感との相関は重心動揺面積:r=-0.84±0.17、安定域面積:r=0.86±0.09、IPS:r=0.92±0.06であった。
    【考察】
    支持基底面が狭くなるにつれて、重心動揺面積は増加、安定域面積は減少、IPSは低下した。重心動揺面積は閉眼条件で大きく増加し左片脚位より大きな値を示したが、他の評価指標を総合すると、直立検査は立位条件の1)~5)の順の難易度になっていることが確認できた。IPSは変動係数が小さく、また主観的安定感との相関も高かったので、バランス能力の測定に最も適していると思われた。

  • 中村 浩之, 大平 雄一, 西田 宗幹, 望月 愛, 北林 正好, 吉田 実加
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 19
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    力学的な支持のないlight touchにより姿勢安定化が図れることが報告されている。しかし、その効果機序は明確になっていない。情報処理には資源依存とデータ依存があり、資源依存では実効的注意システムが必要となる。静止立位保持で視覚情報を遮断すると体性感覚へより注意を向ける必要があり、前頭葉の実効的注意システムが動因される。指尖からの感覚情報処理が資源依存によるものであれば、並列課題下ではその効果は認められないことが考えられる。本研究では、並列課題を用いた閉眼立位保持におけるlight touchの影響を検討することを目的とした。

    【方法】
    対象は若年健常者54名(男性12名、女性42名、平均年齢23±2.6歳、平均身長163.2±7.8cm)とした。 閉眼でのタンデム立位を基準条件とした。測定時間は30秒とし、測定開始10秒後から20秒間の測定値を採用した。認知課題として一桁の計算課題を用い、基準条件、light touchでの基準条件(条件1)、計算課題(条件2)、light touchでの計算課題(条件3)とした。Light touchは右外側、股関節の高さに設置されたhand held dynamometer(ANIMA社製μtasF-1)への右中指のみの接触とし、接触圧が1Nを超えないようにモニタリングした。測定には重心動揺計(ANIMA社製GRAVICORDER GS-2000)を用い、解析項目は総軌跡長(LNG;cm)、実効値(RMS;cm2)とした。統計処理にはWilcoxon signed rank test with bonferroni correctionを用いた。

    【結果】
    LNGは基準条件で112.20±37.78、条件1で45.47±30.81、条件2で113.86±45.11、条件3で50.17±22.04であった。基準条件、条件2に比べ条件1、条件3では有意に減少した(p<0.0001)。条件3に比べ条件1では有意に減少しており(p<0.0001)、基準条件と条件2には有意差は認めなかった。RMSは基準条件で7.22±6.55、条件1で1.48±3.91、条件2で5.76±4.61、条件3で1.02±0.68であった。基準条件、条件2に比べ条件1、条件3では有意に減少した(p<0.0001)。基準条件と条件2、条件1と条件3には有意差は認めなかった。

    【考察】
    本研究結果より、light touchにおける指尖からの感覚情報の処理について、資源依存とデータ依存のどちらの影響も受けることが示唆された。しかし、その大部分はデータ依存であり、並列課題処理下においてもlight touchによる姿勢安定効果は高いことがわかった。しかし、高齢者などでは情報処理の違いがある可能性もあるため検討していく必要がある。
  • 和田 祐一, 上田 泰久, 岡崎 倫江, 望月 久
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 20
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    バランス能力の定量的な評価には,重心動揺計を用いた足圧中心の測定が行われる。臨床では,バランス能力の評価指標として,測定方法の簡便さからFunctional Reach Test(以下,FRT)が多用されている.FRTは前方への重心の移動能力(前方安定性限界)を反映する指標と考えられているが,その測定方法から足関節底屈筋,上半身の柔軟性,筋力が関与しており,更にFRT実行時のアライメントにも影響される.従って,本研究では影響因子が少なく,簡便に前方安定性限界を測定する方法を新しく考案し,重心動揺計による測定値およびFRTの測定値と比較することで,考案した測定法の有用性を検討することを目的とする.
    【方法】
    対象者は健常成人25名(男性18名,女性7名),平均年齢20.6±2.9歳,平均身長167.4±7.6cm,平均体重58.4±8.7kgであった.全ての対象者に内容を説明し,同意を得た上で測定を行った.FRTは右上肢を90°前方挙上し,そこから前方へ伸ばした最大到達距離を測定した.前方への足圧中心移動距離の測定は超音波式3次元動作解析システムZebris Win FDM(Zebris社製)を用い,前方に最大限重心移動した状態で10秒間保持した際の平均足圧中心の位置と踵からの距離を測定した.考案した前方安定性限界の測定法は2cm高の板の上に立ち,板の縁から踵を後方に移動させ,姿勢を安定に10秒保持可能な限界時の踵から板の縁までの距離を測定した.各測定は裸足で行い,下肢を肩幅に開き,FRTとZebrisに関しては,足底面が離れないよう指示し,ランダムに行った.すべての測定は3回行い,その平均値を代表値とした.統計解析はPeasonの相関係数を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.
    【結果】
    各測定の平均値は,FRT41.4±6.9cm,Zebris17.6±2.1cm,2cm台を用いた方法17.3±2.1cmであった.FRTとZebrisの相関はr=0.50(p<0.05),2cm台を用いた方法とZebrisの相関はr=0.71(p<0.01)であり,両者に有意な相関がみられたが,2cm台を用いた方法の方がより高い相関がみられた.
    【考察】
    FRTはその測定方法から,体幹の柔軟性,身長,上肢機能などの影響が指摘されており,FRTの値は重心移動と相関が低いとの報告が散見される.今回考案した方法は踵を単純に後方に移動させているため,上肢機能や体幹の柔軟性など他の因子の影響は少ないと考えられる.またFRTよりもZebrisとの高い相関がみられたことから,今回考案した方法は前方安定性限界を簡易的に測定できると考えられる.
    【まとめ】
    今後は後方および側方の安定性限界も測定し,全方向におけるバランス能力を検討していく必要性がある.更に,今回は若年成人での結果であるが,今後は高齢者での有用性や測定方法に影響を与える因子についても検討していきたい.
  • 田中 真一, 児玉 隆之, 村田 伸
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 21
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々の先行研究では、下肢の周径や筋力、筋力の最大値までの到達時間には左右差はなく、下肢機能に一側優位性が認められないことを報告した。ただし、様々な立位での活動のなかには左右どちらかに偏る、例えば足踏み運動を一定時間行うと最初の位置から一方向に回転していることなどを経験する。このような偏りは、下肢機能の偏りによるものではなく上肢機能が影響している可能性もある。そこで今回、立位動作に上肢の運動が影響するのか否かを検討したので報告する。
    【対象と方法】健常な成人女性17名(平均年齢19.6±1.2歳)を対象としたが、事前に研究の目的と方法を十分に説明し、同意を得た上で研究を開始した。なお、対象とした被検者はすべて右利きであった。測定項目は、片足立ち保持時間、最速歩行時間と距離、足踏みテストの3項目とした。片足立ち保持時間の測定は、閉眼にて両上肢を体側に軽くつけた状態で左右を測定した。最速歩行時間と距離の測定は、一周20mのトラックを右回りと左回りに最速歩行を行わせ、一周の所要時間と一分間の歩行距離を測定した。足踏みテストは閉眼で行ったが、上肢の振りを自由に行わせた足踏み(手ふり有り)と、上肢をベルトで体幹へ固定した状態での足踏み(手ふり無し)をメトロノームに合わせて30秒間行わせた。評価は開始肢位の体幹矢状線を基線にして、足踏み施行後の左右踵部中央を結ぶ線の中点を通る垂線とのなす角度を移動回転角度として測定した。統計処理は、対応のあるt検定を用いて危険率5%で検定した。
    【結果】右回り・左回りにおける最速歩行の一周所要時間(右回り:10.8±0.7sec、左回り10.3±0.7sec)、一分間の歩行距離(右回り:107.6±10.1m、左回り:110.9±8.0m)ともに有意差(p<0.01)が認められ、左回りの方が有意に一周所要時間が短く、一分間の歩行距離が長かった。また足踏みテストは、手振り有り(23.5±16.0°)と手振り無し(32.0±16.0°)の間に有意差(p<0.01)が認められ、手振り有りの方が有意に移動回転角度が小さかった。一方、片足立ち保持時間には有意差は認められなかった。
    【考察】今回、立位動作における上肢の影響について検討した。右回りと左回りにおける歩行時間と距離に有意差が認められたことは、上肢の動きを制限した片足立ち保持時間に左右差が認められなかったことを考えると、下肢機能よりも上肢機能の影響を受けているのかもしれない。また足踏みテストにおいて、上肢の動きを制限することにより足部位置の逸脱が大きくなったことから、上肢の機能が下肢の運動調節に関与していることが示唆された。
  • 田頭 勝之, 玉乃井 謙仁, 青木 英次, 小駒 喜郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 22
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】大腿骨頸部骨折の発生状況を見ると、暗所における転倒により受傷する症例が散見される。転倒に関係するバランスについて、開眼及び閉眼時の重心動揺に関する報告は数多くなされているが、照明を暗くしていく過程における重心動揺に関する報告は少ない。今回、室内の照度がバランスに及ぼす影響について調査分析したので報告する。
    【対象及び方法】対象は、調査の主旨を説明し、書面にて同意を得た男性の健常成人10名(平均年齢24歳)とした。デジタル照度計(アズワン社製)で室内の照度を1000、100、10、0ルクスに設定し、各照度における静止時立位及び立ち上がり時の重心動揺を重心動揺計(サカイ社製アクティブバランサー)にて計測した。測定は、明るい順に行い、照度を下げた時、暗順応を考慮して7分間の待機時間を設けた。静止時立位の測定は、両足を60度開脚し、重心動揺計上で5秒間静止した後に30秒間の静止時立位を測定した。立位保持中は1.5m前方の壁(高さ1.5m)の目印を注視するよう指示した。立ち上がり時の測定は電動昇降台に腰掛け、大腿骨軸は床に平行で膝屈曲100度を開始肢位とした。立ち上がりは、上肢の影響を少なくするため座面より下垂し、立ち上がり開始より15秒間を測定した。測定は各照度において2回実施し、その平均値を採用した。測定項目は、総軌跡長、外周面積、X及びY軸上での重心平均中心変位(X変位、Y変位)とした。統計処理は、「対応のある場合の母平均値の差の検定」を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
    【結果】「静止時立位」の平均総軌跡長は、10ルクスに比べ0ルクスにおいて有意な延長を認めた。平均外周面積では、100ルクスに対して10及び0ルクスにおいて有意に高値を示した。「立ち上がり時」の平均総軌跡長は、1000、100ルクスに比べ0ルクスにおいて有意な延長を認めたが、平均外周面積、X及びY変位においては差を認めなかった。また、「静止時立位」及び「立ち上がり時」における1000ルクスの平均総軌跡長及び平均外周面積は、有意差はないものの100ルクスより高値を示した。
    【考察】本調査の結果、10ルクス以下においては重心動揺が増大傾向となることが明らかになった。今回の調査では、暗順応した状態で測定したが、日常生活では照明のスイッチをonからoffにするなど急に暗い環境となるため、さらなる重心動揺の増大が考えられる。以上のことから、夜間、安全に屋内移動するには、100ルクス程度の明るさが必要であると思われる。また、1000ルクスの値が100ルクスに比べ高値を示したことは、立位保持した正面の壁が白色であり、反射グレアが生じたためではないかと考えられる。今後は、高齢者を対象とした調査を行い、若年者と比較分析し、転倒防止について考察したい。
  • 仲保 徹, 岩﨑 裕子, 柿崎 藤泰, 福井 勉
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 23
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    呼吸筋は呼吸機能を維持するだけではなく、姿勢制御に作用するとされている。臨床では姿勢制御機構が破綻している呼吸器疾患々者が多く観察され、そのような症例に姿勢制御機構を高める訓練を行うことで、呼吸困難感が緩和することを経験する。これらを背景とし、足圧中心点(COP)の前後方向の揺らぎを指標とした姿勢安定度と胸郭運動との関連性を検討したので報告する。。
    【対象および方法】
    対象は本研究に同意の得られた健常男性12名(年齢19.9±1.2歳、身長170.7±6.5cm、体重62.4±6.5kg)とした。胸郭運動は3次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion Systems社)を用い、体表に貼付したマーカーから腋窩部周径上及び剣状突起部周径上における前後径と左右径を算出し、最大呼気-最大吸気の拡張差を指標とした。COPは床反力計(AMTI社)を用い、被験者の踵を基準点とした深呼吸時のCOPの前後方向の揺らぎを算出した。得られた値は、被験者の足長で正規化した。COPの前後方向の揺らぎは各々のデータから散布度を求め、その指標として分散を用いた。分散の小さいものほど安定度が高いと定義し、4名ずつを高安定群、中安定群、低安定群の3つに分類し比較検討を行った。統計処理は一元配置分散分析を用いた。
    【結果】
    COPの揺らぎの分散よる安定度の分類は、高安定群4.30~6.44、中安定群6.90~7.59、低安定群10.70~15.56となった。各群の胸郭運動の大きさを部位別に、高安定群、中安定群、低安定群の順で以下に示す。腋窩部前後径25.0±10.4mm、20.2±3.2mm、17.1±4.4mm、腋窩部左右径15.6±3.5mm、15.5±3.0mm、13.8±3.1mm、剣状突起部前後径26.9±13.6mm、18.3±7.2mm、19.1±2.8mm、剣状突起部左右径19.8±6.5mm、19.5±6.4mm、18.9±3.3mmであり、統計学的有意差は認めなかったが、高安定群、中安定群、低安定群の順で胸郭運動の減少する傾向が見られた
    【考察】
    今回の検討で、深呼吸時の身体動揺がより小さい群で胸郭運動は増加し、逆に動揺が大きい群で胸郭運動は減少した。これは姿勢を制御する能力が優れている者ほど胸郭の動きを大きくできるということであり、呼吸と姿勢制御の二重作用を担う呼吸筋の特性を裏付けるものである。臨床上、呼吸器疾患に対し姿勢制御訓練を主とした理学療法を行うことにより、胸壁のstiffnessが減少し呼吸困難感が緩和する例でみられるように、呼吸筋の姿勢筋活動から解放された機能の高まりを示唆する一つの結果であり、今後さらに追跡調査していきたい。
  • 竹井 和人, 村田 伸, 甲斐 義浩
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 24
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】足趾機能の定量的評価として、握力計を改良した足把持力測定器が多くの研究で用いられているが、ヒトが立位動作を行なう場合に起こる足趾の動きは、地面を引く動きというよりむしろ地面を押す動きに近い。我々は、足趾で地面を押す力が測定可能な足趾圧力測定器を開発し、その測定値の再現性と併存的妥当性に優れていることを2006年に報告した。しかし、足趾圧力を測定する意義やその目的を明らかにはしていない。そこで今回、開発した足趾圧力測定器の内容的妥当性を明らかにするために、静的・動的なバランス能力との関連性について検討した。また、内容的妥当性の比較をするために足把持力についても同様に検討した。
    【対象】下肢に病的機能障害が認められないR医療系専門学校に在学中の女子学生19名(平均年齢20.3±0.5歳、身長159.6±5.4cm、体重52.4±7.4kg)である。
    【方法】足趾圧力および足把持力はそれぞれ端坐位にて最大努力で2回測定し、その最大値を体重で除して検討に用いた。静的な立位バランス検査として重心動揺検査を行なった。閉眼での両脚立位と開眼での片脚立位における30秒間の重心動揺を測定し、総軌跡長を評価指標とした。動的な立位バランス検査としてFunctional Reach Test(以下FRT)を片側上肢挙上位と両側上肢挙上位の2つの方法で行なった。統計処理は足趾圧力および足把持力について、重心動揺とFRTとの関連性をそれぞれピアソンの相関係数を求めて検討した。
    【結果】足趾圧力の最大値は、平均16.9±3.9kg。重心動揺検査における総軌跡長の平均値は、両脚立位時55.0±13.4 cm、片脚立位時113.3±20cm。FRTの平均値は片側上肢挙上で43.9±5.4cm、両側上肢の挙上では40.5±4.9cmであった。いずれの測定値も足趾圧力との間に有意な相関は認められなかった。足把持力の最大値は、平均11.3±3.7kgであった。足把持力と重心動揺総軌跡長において、両脚立位が相関係数r=-0.55(p<0.05)、片脚立位が相関係数r=-0.46(p<0.05)であり、ともに有意な負の相関が認められた。FRTにおいては、片側上肢挙上では相関係数r=0.46(p<0.05)、両側上肢の挙上では相関係数r=0.62(p<0.01)であり、ともに有意な正の相関が認められた。
    【考察】足趾で床を押す力について、先行研究では手指ピンチ力計やハンドヘルドダイナモメータ、床反力計などを用いた測定が行われている。測定値の再現性は概ね良好であるが、その内容的妥当性については一定した見解を得ていない。今回、足把持力と重心動揺およびFRTとの間に関連性が認められたのに対し、足趾圧力は対象としたバランス能力との関連性は認められなかった。これらの結果から、足趾で床を押す力を測定する足趾圧力はバランス能力の指標には適さない可能性が示唆された。
  • 大友 祥, 中屋 賢, 橋本 浩樹, 森 雄介, 横沢 圭輔, 佐藤 洋一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 25
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脳卒中片麻痺患者において健側を支持側とした片脚立位獲得は難しい事が多い.その際には股関節内転筋群(以下,内転筋)の萎縮を伴っている事が多く,片脚立位獲得には内転筋が強く関わっているのではないかと考えた.星は高齢者群と青年群では片脚立位を取るパターンが異なり,高齢者群では支持側への体幹側屈を用いて重心移動を行っていると述べている.そこで本研究では,片足立位に移行するまでの体幹側屈と支持側内転筋活動の関連性を検討することを目的とした.
    【方法】対象は健常成人男性15名(平均年齢20.8±0.8歳,平均身長172.7±4.0cm,平均体重65.4±7.3kg)とした.研究内容は事前に説明を行い,承諾を得た。測定課題は、両脚立位から右片脚立位になることとした。開始肢位は床反力計の上で頭位を正しく保ち固視点を注視させ,両上肢を胸の前で組ませ,両側上前腸骨棘と膝蓋骨中央が床からの垂直線上を通るようにして股関節内外転中間位の立位姿勢とした.試行動作は,検者の口頭指示で,左脚の股関節を約45°屈曲し,下腿を下垂した右片脚立位となり,3秒間保持した後終了とした.この動作を3回試行した.赤外線反射マーカーを両側の肩峰,大転子,大腿骨外側上顆,腓骨外果,第5中足骨頭に貼付し,三次元動作解析システム(Vicon370)を用いて記録した.床反力計(KISTLER)の上で両脚立位を保持してもらい,動作中の足圧中心(Center of pressure: COP)を記録した.筋電図は筋電計(サイナアクト)を用いて,両中殿筋,両内転筋,右内側広筋を導出した.COP速度より、運動時間を左方加速期,左方減速期,右方加速期,右方減速期の4相に分けた。
    【結果と考察】被験者15名に対し,運動初期の体幹の右側屈の有無でA群とB群に分けた.B群では一度右側屈を行った後に左側屈を行い,片脚立位に至っていることが分かった.また,A群では右方加速期に支持側内転筋の活動変化がみられた。しかし、B群では右方加速期に支持側内転筋の活動変化は見られなかった.これは体幹側屈することでHATの質量中心点を移動させ,支持側へ重心を移動しているためと考えられる。しかし、体幹右側屈角度のピークと右方加速期が必ずしも一致しないことや,側屈角度が1°程度であることから体幹側屈で支持側へ重心移動を行っているとは考えづらい.そこで,今回の結果から支持側内転筋活動と体幹側屈は支持側への重心移動に関与しているのではなく,姿勢制御に関与していると考える.片脚立位に移行する際,挙上側下肢で床を蹴る。この時、床反力によって支持側股関節を回転軸としたモーメントが生じる.この床反力のモーメントに対して,A群では支持側内転筋の活動によって股関節の外転を制動することで姿勢制御を行うと考える.さらに体幹右側屈パターンをとるB群では,右から左への体幹側屈運動によって,床反力によるモーメントと反対方向の力を生んで姿勢制御を行うと考える.
  • 藤田 政美, 高山 真樹, 廣野 知子, 田島 徹朗
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 26
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】靴を履く動作では,前屈みとなり靴に直接手を伸ばし行うことが一般的である.しかし,高齢者の多くは,加齢とともに柔軟性が低下し,関節の可動性および立ち直り反応の低下が著明となることで,端坐位で片足を組み,バランスを保ちながら靴の着脱動作を行っている.そこで今回,我々は,靴着脱動作の制限因子となる各関節の可動性に着目し,その可動性と重心の偏位との関係について検討し,若干の知見が得られたので報告する.
    【対象】健常人男性12名,女性11名で平均25.8±3.9歳であった.なお,対象者は,足組み動作に影響をおよぼす中枢・整形疾患の既往の無い者とした.
    【方法】高さ40cmの台に重心動揺計(Zebris社製Foot Print)をのせ,その板上に被検者に端坐位をとってもらう.関節可動制限パターンとしては,1)制限なし,2)頚椎(Philadelphia collar),3)胸椎(アドフィットUDブレース),4)腰椎(軟性コルセット),5)股関節屈曲制限100°(ニューポート股関節装具),6)股関節屈曲制限120°(ニューポート股関節装具)の6パターンとした.運動課題は,安静坐位から右脚を左脚にのせる足組み動作とした.測定は,重心の総軌跡長(以下SPL),前後の動揺中心偏位(以下HOE),左右の動揺中心偏位(以下WOE),重心の移動面積(以下AOE)を測定した.なお,統計処理にはStatView5.0(p<0.05)を用いた.
    【結果】A群との比較において,B,E,F群のHOE,AOEに有意差を認めた.SPL,WOEでは,全てに有意差は認められなかった.また,B-F間,D-F間のHOE,B-F間のAOEに有意差が認められた.
    【考察】当初,足組み動作において腰椎の可動制限が最も重心の移動距離,面積に影響するのではないかと独自の仮説を立てて検討を行った.通常,坐位姿勢における重心の位置は,Th9にあると言われている為,足組み動作を行うには,前後左右への高度な姿勢制御が必要となってくる.しかし,実験結果においては,DパターンではなくC,E,FパターンにおいてHOE,AOEに有意な差が認められた.つまり,足組み動作における姿勢制御に最も関わる関節可動部位は胸椎,および股関節であり,左右方向よりも前後への変化に著明な影響があることが認められた.周知のごとく胸椎は体幹の回旋・側屈に腰椎は屈曲・伸展運動に深く関与するため,腰椎制限では他関節による代償が十分に働くことができたが,胸椎制限に関しては他関節による代償が十分に働かず,その結果,前後方向への過剰な動揺が出現したものと推察される.つまり、ADL能力の維持・向上には胸椎の可動性に対する治療が重要であることが結論づけられる.また,股関節が屈曲制限されたことで,HOEに有意差が生じたことは,可動制限の補償として骨盤の後方傾斜が起こり,その代償として前後への重心偏位が増加したものと推察される.
  • 膝関節屈曲角度の影響
    津川 理香, 佐藤 秀一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 27
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ブリッジ動作は理学療法でしばしば行われるが,下肢関節角度の設定は曖昧であり、通常任意の肢位で行われている.本研究では,膝関節屈曲角度を変えたブリッジ動作が下肢の筋群に与える影響について生体力学の観点から検討し,最適な膝関節角度を選択することに資するデータを取得することを目的とした.
    【方法】
    本研究に賛同する、下肢および腰部に既往歴のない健常青年16名(平均年齢21.8±0.8歳,平均身長164.3±5.7cm,平均体重56.4±5.9kg)を計測対象とした.動作中の身体の空間座標の計測には,標点位置計測装置VICON512(VICON MOTION SYSTEMS社製:赤外線カメラ7台)と歪みゲージ式床反力計(AMTI社製:2枚)を,サンプリング周波数120Hzで同期,同調させた三次元動作解析システムを用いた.臨床歩行分析研究会が推奨するマーカーの貼付方法を用いて,直径25mmの赤外線反射マーカーを被験者の左右両側の肩峰部,股関節部,膝関節部,足関節部,第五中足骨部の合計10箇所に貼付し,左右の足底を各々の床反力計上に置いた.評価指標には,股・膝・足関節角度,股・膝・足関節モーメントを用いた.計測する肢位は,動作開始時の膝関節屈曲角度が50°,60°,70°の3条件とした.被験者には,計測者の合図で殿部挙上を開始してもらい,殿部最高到達点に達したところで3秒間姿勢保持させた.ブリッジ動作時の股関節,膝関節,および足関節モーメントの比較には運動開始時の膝関節屈曲角度を一要因とした対応のない一元配置分散分析を用い,その後,多重比較検定によりそれぞれの群間比較を行った.
    【結果】
    肢位保持期の股関節伸展モーメントと足関節底屈モーメントは,3条件とも同様のパターンを示し,第1相から第3相にかけての平均値に有意差は認められなかった.さらに,姿勢保持期の膝関節屈曲モーメントは,条件1と条件2,条件2と条件3の2条件において有意差は認められなかったが,条件1は条件3に比べ有意に高かった(p<0.01).すなわち,ブリッジ動作において、開始時の膝屈曲角度が70゜は50゜に比べ,ブリッジ動作保持時における膝屈曲モーメントが有意に高かった。
    【考察】
    股関節に着目すると,ブリッジ動作保持において膝関節の屈曲角度による関節モーメントの値に違いはほとんどみられなかったことから,股関節の伸展モーメントは膝関節の角度の変化による影響は少ないと考えられた.したがって,膝に負担をかけないように股関節にアプローチするならば,条件1の肢位で行うことがよいと考えられた.足関節底屈モーメントにおいては,股関節と同様に膝関節屈曲角度による違いはほとんど認められなかった.このことは、足関節は膝関節より関節変化が少なく,肢位固定の役割を持つことから,膝関節の開始肢位によって足関節への負担は影響を受けないと考えられた.
  • 垂直線を外部基準に用いて
    徳田 有美, 斎川 大介, 伊藤 麻美
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 28
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】身体運動は複雑であるが、肩甲上腕リズムや骨盤大腿リズムに代表されるような特定の運動パターンがあることで運動の自由度が調節され、合理的な動きが可能になっているとされている。我々はまたぎ動作を観察していて、下肢の各関節の動きは一見個別のようだが一定の運動パターン(リズム)が存在するのではないかと考えた。またぎ動作の先行研究には母趾床間距離に着目した報告などはあっても関節運動の関係を述べたものはないため、本研究の第一報でその存在を明らかにしようと試みた。その結果、垂直線を外部基準とした場合、膝関節と足関節には一定の関係がある可能性が示唆された。そこで、本研究ではまたぎ動作における下肢関節運動の関係をより明確にすることを目的とした。

    【方法】対象は健常成人10名(男性5名,女性5名,平均年齢26±3.3歳)。実験条件はあらかじめ設定した段差の約4m手前の位置から歩行を開始し、自然な歩行速度で歩きながら右下肢から段差をまたぐこととした。段差には4種類の角材(高さ:1.5cm・3.0cm・4.5cm・6.0cm、横幅:60cm、奥ゆき:1.0cm)を用い、提示順序はランダムとした。条件毎に数回の試行後、段差を越える際の右下肢の各関節角度を離床から着地までサンプリング周波数60Hzにて計測した。各関節の角度変化については、一般的なROMを基準としたものと、垂直線を基準とした角度変化(外的角度)の2種類を算出した。撮影にはSony製Handycam HDR-SR1を用い、画像をパーソナルコンピュータに取り込んだ後、米国国立衛生研究所(NIH)開発の画像処理プログラムImageJを用いて処理した。

    【結果】外的角度をみた場合、いずれの被検者の結果でも時系列において膝関節と足関節はほぼ平行な角度変化を示した。特に遊脚の中期では両関節ともに直線的な変化を示した。角材の高さ毎の散布図における回帰直線の傾きは平均1.09±0.06であった。一方、一般的なROMの結果からは膝・足関節の関係性を同じように見出すことはできなかった。なお、段差を6.0cmまであげても前回の結果と同様に膝・足関節では角材の高さの違いによる角度変化は少なく、股関節では高さに比例して屈曲角度が増える傾向が認められた。

    【考察】健常人のまたぎ動作では、膝関節と足関節の外的角度はおよそ1:1.1の割合で変化していると考えられる。特に遊脚中期の変化は直線性が強く、またぎ動作の膝・足関節の動きには一定のリズムが存在することが示唆された。このリズムは少なくとも6.0cmまでは段の高さに依存せず、またぎ動作の運動の自由度を減らしていると推測される。段の高さに対しては先行研究にも認められるように股関節の角度を変化させることで対応していると考えられる。
  • 免荷方法の違いによる筋電図学的分析
    田中 武一, 岡本 敦, 岩田 幸恵, 後藤 総介, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 29
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床において部分免荷を必要とする患者を担当する機会は多い。この時期の筋力トレーニングは非荷重位で実施することが多く、荷重位でトレーニングするためには部分免荷量を調節しながら実施する必要がある。荷重位でのトレーニングの一つにスクワット動作がある。スクワット動作の筋電図学的研究は多いが、部分免荷した状態でのスクワットに関する研究は少ない。本研究の目的は、スクワットにおける免荷方法の違いが下肢筋の筋活動にどのような影響を及ぼすかについて比較検討することである。
    【対象と方法】本研究に同意した下肢・体幹に整形外科的疾患の既往が無い健常成人男性9名(平均年齢28.9±4.3歳)を対象とした。筋電図の測定筋は、大殿筋、中殿筋、大腿直筋、内側広筋、外側広筋、半膜様筋、前脛骨筋、腓腹筋の8筋とした。表面筋電図を双極導出するため、2個の表面筋電極を各筋線維に平行に、電極中心約20mmで貼付した。免荷量は1/2・2/3とし、免荷方法はBiodex社製可動式免荷装置アンウェイシステム(UWS)と、酒井医療株式会社製電動tilt tableでの傾斜(TILT)、平行棒での両上肢支持(BAR)の3種類とし、それぞれ片脚支持にて膝屈曲30度、60度で保持させた。また1/2免荷の比較対照として両脚スクワット(BIL)も膝屈曲30度、60度にて測定した。なお、免荷量の調整は、UWSでは吊り上げ重量にて、TILTでは傾斜角度にて、BARでは上肢支持量にて行い体重計を用いて確認した。各筋電図測定値は最大随意収縮時の整流平滑化筋電図の測定値を100%として正規化し、それぞれ%RFEMGとして表した。なお、統計処理は反復測定分散分析およびTukeyの多重比較を用いた。
    【結果と考察】1/2免荷において、免荷方法の違いを各筋の%RFEMGで比較すると、膝関節30度では外側広筋にてTILT(10.5%)がBIL(24.9%)とBAR(21.2%)より有意に低い値を示し、半膜様筋ではTILT(12.5%)がBIL(2.8%)とBAR(3.6%)より有意に高い値を示した。その他の筋では有意な差を認めなかった。膝関節60度では、大殿筋にてTILT(3.1%)よりBAR(7.3%)の方が、外側広筋でTILT(30.6%)よりBIL(50.3%)の方が、前脛骨筋でBAR(6.0%)よりBIL(18.8%)の方がそれぞれ有意に高い値を示した。その他の筋では有意な差を認めなかった。また、TILTにおいて半膜様筋では膝関節60度(5.7%)より30度(12.5%)の方が有意に高い活動を示し、外側広筋では反対に30度(10.5%)より60度(30.6%)の方が有意に高い活動を示している。 一方、2/3免荷においては、膝関節30度、60度ともに各免荷方法による有意な筋活動の違いは、すべての筋で認められず、免荷量を2/3に増加すると免荷方法は筋活動量に影響しないことが示唆された。本研究結果より1/2免荷では、免荷方法や膝屈曲角度の違いにより有意に働く筋は異なるため、それぞれの働きを理解した上で免荷方法や膝屈曲角度を選択していく必要がある。
  • 本杉 直子, 北村 啓
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 30
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】一般的に、仙骨を床面に対し垂直位の端坐位姿勢が、動的な機能的肢位として推奨されている。一方で、腰椎椎間関節の形状を考慮すると、腰椎が垂直位をとることで、骨・靭帯系の作用で坐位が安定すると考えられる。そこで、今回は2つの端坐位姿勢(以下、仙骨垂直・腰椎垂直と略す)において、側方静的安定性ついて比較検討した。
    【対象】健常成人、性別:男性10名・女性12名、年齢:21~33歳、身長:164±7.1cm、体重:58.5±10.7kg。
    【方法】被験者は仙骨垂直・腰椎垂直の各姿勢をとり、験者は血圧計を用いて、マンシェットを介し左右各一回、被験者の側腹部を圧迫した。この時、圧迫した側の被験者の坐骨が離床した時点を測定終了とした。得られた水銀柱圧と離床するまでの時間を乗ずることで、圧力累積値(mmHg×秒)を算出し、この値を側方静的安定性の指標とした。
    【結果】1.左右方向別に圧力累積値を比較すると、仙骨垂直に対し腰椎垂直において、22名中12名は左右方向とも増加した。9名は左右方向いずれかの圧力累積値は増加し、反対側は減少した。1名は左右方向とも圧力積分値は減少した。 2. 左右を考慮せず、得られた合計44データに対し、腰椎垂直値と仙骨垂直値の差分を求め、仙骨垂直値で除することで変化率を算出した。 3.以上の44データのうち、増加した33データの変化率は0.02~5.87であり、減少した11データの変化率は0.15~0.57であった。 3. 4.得られた変化率をt-検定した結果、危険率1%で統計的有意差が認められた。 5.以上より、仙骨垂直に対し腰椎垂直で側方静的安定性が増加したと言える。
    【考察】得られた結果より、端坐位における側方静的安定性に着目すると、仙骨垂直よりも腰椎垂直の方が、優位であった。姿勢の安定性に関与する因子として、関節の構築学的安定性と筋緊張による安定性が考えられる。腰椎垂直では、椎間関節面の形状から、関節面が垂直位で骨・靭帯系で構築学的に安定し、筋緊張はあまり関与していないと考えられる。それに対し、仙骨垂直では、広背筋や脊柱起立筋などの筋緊張が主に関与し、関節の構築学的安定性はあまり関与しておらず、動的な準備状態であると言える。以上より、作業等、長時間の坐位保持が必要とされる生活場面においては腰椎垂直が適し、一方、頻繁に姿勢変換が求められるような生活場面においては仙骨垂直が準備姿勢として適していると考えられる。
    【まとめ】1.端坐位における側方静的安定性について仙骨垂直と腰椎垂直の2つの姿勢において比較検討した。 2.得られた結果から、側方静的安定性は腰椎垂直において統計的有意差を認めた。 3.以上より、仙骨垂直と腰椎垂直の2つの姿勢において、安定性のメカニズムの差異が示唆され、臨床場面において考慮する必要があると考えられた。
  • 長部 太勇, 徳田 一貫, 阿南 雅也, 木藤 伸宏
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 31
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日常生活において起立・着座動作は最も頻度の多い動作の一つである。また、臨床において起立および着座中に腰背部や膝関節に疼痛を訴える症例が少なくない。今回、特に日常生活で多用される立位から坐位への着座動作に着目し、運動学的特徴を把握することを本研究の目的とする。

    【方法】被検者は中枢神経系に既往が無く、過去に下肢および脊椎に手術の既往がない、下肢または腰部に日常生活に影響を与える疼痛を有さない女性15名(61.1±7.5歳)とした。まず課題動作は立位から座面高が下腿長の高さの椅子への着座動作とした。運動学的データ計測は被検者の左右肩峰、腸骨稜上端、股関節(大転子中央と上前腸骨棘とを結ぶ線上で大転子から1/3の点)、膝関節(大腿骨遠位部最大左右径の高さで矢状面内の膝蓋骨を除いた幅の中央点)、外果、第5中足骨骨頭にマーカーを貼付し、3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)を用いて60 flame/sにて画像を記録した。その画像から臨床歩行分析研究会の推奨する推定式にて関節中心点座標と身体重心座標(COG)を算出した。データ解析は動作中のCOG軌跡と体幹(胸部、骨盤)および下肢関節(股関節、膝関節、足関節)の各角度変化量を求め、骨盤最大前傾角度と足関節最大背屈角度に着目した。

    【結果】動作開始よりCOGは下方移動し、それ以降にCOGが下方から後方へと移動した。この一連の動作の中で、足関節最大背屈後に骨盤最大前傾角度がくる群をA群(10人)とし、骨盤最大前傾角度が先にくる群をB群(5人)とした。A群はCOG下方移動において足関節最大背屈まで体幹が屈曲し、股関節と膝関節間の屈曲角度変化量が同程度であり、COG後方移動は足関節背屈から底屈へと切り換えて徐々に体幹を起こしていた。B群はCOG下方移動途中で骨盤が後傾し、股関節と膝関節間の屈曲角度変化量が増加して両者の屈曲角度変化量も同程度ではなかった。また、COG後方移動は骨盤後傾後に胸部伸展が早期に起こり、以後足関節底屈とともに体幹を起こしていた。

    【考察およびまとめ】 COG下方移動においてA群は胸部-骨盤の協調性を高め、股関節-膝関節をうまく制御して大腿骨を傾斜させていると考える。COG後方移動への切り換えは、体幹と大腿を安定させた状態での下腿後傾がトリガーとなっていると示唆された。一方、B群はCOG下方移動において胸部が前屈しているまま骨盤後傾が早期に起こり、股関節-膝関節の制御にもばらつきがあり、COG後方移動への切り換えは骨盤後傾をトリガーとし、以後体幹伸展と下腿後傾にて行っていると示唆された。以上のことから、胸部-骨盤の協調性が低下することより、動作方略が変化することが認められ、病態・症状出現につながるとのではないかと推察された。
  • 鳥井 勇輔, 笠原 敏史, 高橋 光彦, 宮本 顕二
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 32
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】近年の医療改革に伴い在宅医療が促進され、在宅で生活する障害者が増加している。依然として旧式構造を持つ住環境では、障害者や高齢者に階段や段差などの移動を行わせる場面がある。理学療法ではこれらに対し大腿四頭筋群を中心とした筋力訓練や住環境へのアプローチを行うが、適切な昇降動作に関する訓練や指導が行なわれるかどうかは疑問である。その理由として十分な昇降動作の運動学的情報の不足が挙げられている。本研究の目的は健常若年者を対象に運動学的及び筋電図学的に昇降動作を解析することである。
    【対象と方法】健常若年男性8名(平均年齢23±3[SD] 歳、身長169±3 cm、体重61±8 kg)。実験に先立ち、本研究の目的等を書面または口頭で説明した後、実験参加への同意を得た。運動課題は快適速度による歩行と17cmの高さの台の昇降を二足一段で行なわせた。課題遂行時の内側広筋と外側広筋の筋活動をDelsys社製EMGシステムを用いて測定した。同時にKistler社製床反力計1枚を用いて床反力を測定した。測定は利き足とし、ボールを蹴る側とした。EMGと床反力のデータはPowerLab(ADIInstrument社製)にてA/D変換し、解析ソフトにて記録、解析を行なった。データ解析は膝に最も負荷がかかる区間(Loading phase)とし、歩行時と階段を昇る課題では床反力の垂直成分から踵接地から第1peakまで、階段を降りる課題では運動の合図からつま先が離床するまでと定義した。筋活動は最大随意収縮(MVC)で標準化し、内側広筋/外側広筋の比(VM/VL比)を求めた。床反力計から得られた垂直成分(Fz)及び内外側成分(Fy)の値を各被検者の体重で除し、足圧中心(COP)の内外側の移動距離も計測し、得られた値を歩行時と昇降時で比較した。統計学的有意水準0.05以下とした。
    【結果】VM/VL比は、歩行時0.67±0.32、昇る課題1.30±0.51、降りる課題1.08±0.39であった。歩行時は昇降動作に比べ有意に低い値であった。最大Fz値は歩行時1.1±0.1、昇る課題0.9±0.03、降りる課題0.9±0.1であった。COPの内外側の移動距離に課題間の差はなかった。
    【考察】McFadyenらやSinnoによると階段を昇るときは外側広筋が主に働くと報告し、外側広筋の重要性を示唆しているが、彼らの筋電図の解析方法は活動中の振幅を用いて結論を導いている。一方、我々の結果はMVCを用いて標準化行なったSouzaらの結果と一致していた。筋活動のデータはMVCを用いて標準化されることが一般的である。従って、本研究より階段昇降時の内側及び外側広筋とも筋活動は歩行時に比べて増加し、外側に比べ内側広筋の働きが大きくなることが示唆される。
  • 西浜 かすり, 岩田 全広, 平澤 純, 服部 真里, 鈴木 重行
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 33
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】骨格筋を肥大させる刺激のひとつに電気刺激がある。しかし、電気刺激がどのようにして筋肥大を引き起こすか、その分子メカニズムは十分に解明されていない。一方、成長因子のひとつであるinsulin-like growth factor 1(IGF-1)刺激による筋肥大については、IGF-1により細胞内のタンパク質キナーゼであるmammalian target of rapamycin(mTOR)を介してタンパク質合成を増加させるp70 S6 kinase(p70S6k)がリン酸化されることが重要であると考えられている。既に我々は、電気刺激を与えると肥大する培養骨格筋細胞のモデルを用いて、その筋肥大がmTORを介して引き起こされることを確認した.さらに、筋肥大を促す電気刺激がp70S6kのリン酸化を亢進させることまでを明らかにしている。そこで、本研究では電気刺激による筋肥大とmTOR/p70S6kの関連について探るため、電気刺激による培養骨格筋細胞のp70S6kのリン酸化と、そのp70S6kのリン酸化へのmTORの関与についてmTORの抑制剤(rapamycin: RAP)を用いて検討した。
    【方法】実験材料にはマウス骨格筋由来の筋芽細胞株C2C12細胞を用い、I型コラーゲンをコートした培養皿に筋芽細胞を播種し、筋管細胞に分化させた。電気刺激は培養開始後7日目の筋管細胞に与えた.刺激条件はトレイン幅200 msecの正弦波を用い、刺激頻度1 Hz、電圧50 V、刺激時間60分とした。対照群は同じ期間に電気刺激を与えず、通常培養した細胞とした。p70S6kのリン酸化の指標は、刺激終了直後、5、10、15、30、60分後の細胞の全抽出物を電気泳動した後、western blot法にて全p70S6kとリン酸化p70S6kを検出し、全p70S6kの検出値に対するリン酸化p70S6kの検出値の割合を算出したものとした。さらに、刺激前にRAP(20 ng/ml)を培養液に投与して、同様の実験を実施した。
    【結果】p70S6kのリン酸化は、電気刺激終了直後で対照群の約1.8倍に亢進した。5分後には約2.5倍まで亢進し、15分後までその傾向は維持され、30分後には対照群のレベルまで減少した.一方、RAPを投与した後の電気刺激によるp70S6kのリン酸化は、観察した60分の間、対照群とほぼ同レベルに抑制された。
    【考察・まとめ】今回、電気刺激による培養骨格細胞のp70S6kのリン酸化はRAPにより抑制されることがわかった。よって、電気刺激による筋肥大はmTORを介してp70S6kがリン酸化される経路を介して引き起こされると推察された。以上のような筋肥大に関わる分子メカニズムを明らかにすることは、科学的根拠に基づく筋力増強や筋力低下を抑制する理学療法の開発につながると考える。
  • 真鍋 朋誉, 武田 正明, 佐々木 輝, 吉元 玲子, 松本 昌也, 井川 英明, 小川 和幸, 呉 樹亮, 河原 裕美, 弓削 類
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 34
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年,神経の再生医療への臨床研究が始まっている.神経幹細胞や骨髄中の間葉系幹細胞もその研究対象であり,これらを分化誘導して神経細胞を産生する方法が検討されている.骨髄細胞は,自家移植が可能であり,移植時の拒絶を抑制できる等の利点に加え,採取時の倫理的・技術的問題も少ない.幹細胞の培養には通常,動物性血清を含む培地が用いられる.しかし,このような培地を使用した培養細胞を生体移植すると,免疫拒絶反応が起こる可能性がある.そのため,将来的な細胞移植治療への応用を考えた場合,無血清培地での培養が有用と思われる.そこで本研究では,骨髄より採取した細胞を無血清培養にて増殖させ,神経細胞へと分化させる培養技術の確立を目的とした.

    【方法】
    4週齢マウスの両側大腿骨及び脛骨を採取し,骨髄細胞を洗い出した.採取された細胞は,ornithineとfibronectinでコーティングした培養皿を用い,無血清増殖培地で21日間培養した後,無血清分化誘導培地でさらに14日間培養して解析した.解析は,倒立型位相差顕微鏡による形態学的観察と細胞数の計測,神経細胞の未分化マーカーであるnestinと神経細胞の分化マーカーであるneurofilament,MAP2を用いた免疫抗体法,そしてneurofilamentを用いたRT-PCR法による分子細胞生物学的解析を行った.

    【結果】
    増殖培養において,培養14日後に細胞数は約3倍に増加したが,その後の7日間ではやや減少傾向となった.分化誘導培養7日後には骨髄細胞が神経様に形態変化し,分子細胞生物学的解析においてneurofilamentの発現量が増加した.培養14日後の免疫抗体法ではnestinの陽性率は減少し,neurofilamentとMAP2の陽性率は増加した.

    【考察】
    これまでに骨髄細胞を無血清培地にて増殖させた報告は散見されるが,増殖培養後に神経細胞へと分化させたものはみられない.本研究で用いた培地に含まれる栄養因子や培養皿のコーティング等により,骨髄細胞は増殖及び神経細胞へと分化したと考える.しかし,骨髄細胞の増殖培養では,培養14日後以降の細胞数はやや減少しており,今後増殖培養条件に関して改善の余地があると思われる.

    【まとめ】
    倫理的問題や移植時の免疫拒絶反応という観点から,骨髄細胞の利用や無血清培養は非常に重要である.本研究では,無血清培地による骨髄細胞の培養を行い,増殖及び神経細胞へと分化させることができた.今後,この培養細胞を動物疾患モデルに移植し,そのモデルに対しての理学療法の介入効果について検討したい.
  • 小川 和幸, 佐々木 輝, 吉元 玲子, 真鍋 明誉, 松本 昌也, 井川 英明, 呉 樹亮, 河原 裕美, 弓削 類
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 35
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    関節軟骨の修復は難しく,その治療法として再生医療に注目が集まっている.骨髄中に含まれる間葉系幹細胞は,骨,軟骨,筋,脂肪に分化誘導することができるといわれている.骨髄は,局所麻酔により採取可能で,自家移植もできることから,骨髄細胞から軟骨細胞をつくる技術の確立が望まれている.OAやRAなどの軟骨損傷を罹患している患者は,中高齢者に多いが,加齢による骨髄細胞の増殖能力や軟骨細胞への分化能力の変化を報告した論文は少ない.そこで本研究では,骨髄細胞から軟骨細胞に分化誘導する際に加齢が与える影響を検討した.
    【方法】
    実験群を5週齢マウスと20週齢マウスの二群に分け,各群のマウスから大腿骨と脛骨を取り出し,骨髄細胞を採取した.採取した細胞を増殖用培地でconfluentになるまで培養し,軟骨分化誘導培地に切り替えて2週間培養を続けた.分化誘導前後に位相差顕微鏡を用いて形態学的観察を行い,分化誘導後7日,14日にトルイジンブルー染色を行った.また増殖培養1,7,14日後にDAPropidium iodideを用いて核染色を行い,蛍光顕微鏡にて無作為に撮影し、単位面積あたりの細胞数を算出した.分子生物学的解析としては,分化誘導後7日,14日に軟骨の分化マーカーであるaggrecanとtype II collagenのmRNA発現量を調べた.
    【結果】
    細胞数は,5週齢マウス群と20週齢マウス群で有意な差はみられなかった.形態学的には,5週齢マウス群では分化誘導後14日に細胞が密になり敷石状に配列していたが,20週齢マウス群では,5週齢マウスと比べ,軟骨様の変化は少なかった.トルイジンブルー染色によるメタクロマジーは,5週齢マウス群では発現が強かったが,20週齢マウス群では弱かった.軟骨の分化マーカーは,5週齢マウス群の方が20週齢マウス群よりも強く発現した.
    【考察】
    細胞数では有意な差はなかったが,トルイジンブルー染色やmRNAの結果から5週齢マウス群の骨髄細胞は20週齢マウス群よりも軟骨への分化能が高いことが示唆された.今回用いた骨髄細胞は,雑多な細胞集団であるため,今後は,間葉系幹細胞のみを分離精製し,検討する必要があると考える.
    【まとめ】
    本研究により,加齢により骨髄細胞の軟骨への分化能が低下することが示唆された.
  • 水野 陽太, 鈴木 麻友, 蜷川 菜々, 八木 保, 鈴木 重行, 鳥橋 茂子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 36
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】胚性幹細胞(以下ES細胞)は自己複製能を持ち、同時に外・中・内胚葉のいずれにも分化する多分化能を有している。一方、Duchenne型筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子を先天的に欠く疾患であり、ES細胞由来の筋芽細胞は筋ジストロフィーの治療において、donor cellsとして注目されているが、ES細胞を効率的に骨格筋細胞へと分化させる方法は確立していない。また、ES細胞は長期に渡り生体外での培養が可能であるが、継代(増殖した細胞を培養皿から剥がして再び撒き直すこと)の回数が増えるごとに、筋系統へ分化する割合が高まるように思われる。本研究では、ビトロにおいてES細胞を骨格筋細胞へ選択的に分化させる方法の確立のために、マウスES細胞の継代による分化効率の違いと、骨格筋分化を促進する可能性のあるスペルミン添加による分化誘導を検討した。
    【方法】マウスES細胞(G4-2)を用い、継代回数ごとに初期群(p-5、7)、中期群(p-12、14)、後期群(p-15、17)の3群に分類した。それぞれの群ごとに胚様体(1000個細胞/unit)を作り、24穴プレートに移して経過を観察し、筋芽細胞を有する胚様体の割合を1日おきに計測した。また免疫蛍光染色法により、ミオシン重鎖、MyoD1、M-cadherinを検出し、融合して筋管細胞に分化した細胞を観察した。さらにRT-PCR法によって、骨格筋特異的に発現する転写因子であるMyoD1、Myf5、myogenin、M-cadherinを解析した。スペルミンは、それぞれ1mM、2mM、4mMの濃度で24時間培地に添加し、上記と同様の評価を行った。
    【結果】中期群が他の継代群に比べて筋分化が早期に起こり、また筋分化の割合が高く、筋特異的な遺伝子であるMyoD1, Myf5, myogenin, M-cadherinが発現していた。また、ミオシン重鎖の免疫蛍光染色において、マウス筋芽細胞株C2C12の筋管細胞にはない収縮運動と筋節構造が多く観察され、MyoD1、M-cadherinについても陽性であった。一方、スペルミン1mM、2mMを添加することで、骨格筋への分化は若干早まる傾向があったが、染色結果に変化は見られず、筋特異的遺伝子の発現は見られなかった。
    【考察】以上のことから、ES細胞は中期群が骨格筋細胞へ効率的に分化する傾向が見られたが、今後さらに試行回数を増やして検討する必要がある。また、スペルミンによる効率的な筋分化は誘導されなかった。今後、これらES細胞の培養条件と骨格筋への分化を促進する成長因子を組み合わせることで、さらに効率的な分化誘導法を検討していく予定である。
  • 蜷川 菜々, 八木 保, 鈴木 麻友, 水野 陽太, 鈴木 重行, 鳥橋 茂子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 37
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】骨髄の中には間葉系幹細胞が存在し、様々な組織へ分化することが知られているがその数は非常に少ない。 しかし、これと類似した細胞が脂肪組織中に多量にみつかり、筋・骨・脂肪細胞などの間葉系細胞へと分化することがわかり脂肪組織由来の間葉系幹細胞(ADSCs)と呼ばれるようになった。 特に、このADSCsが移植免疫寛容性を示すことから再生医療への応用が期待されている。 しかし、脂肪組織には多くの細胞種が含まれ、ここからADSCsを分離するのはむずかしい。 一方、胚性幹(ES)細胞は多分化能を持つ。また、このES細胞を脂肪細胞へと分化誘導する系が知られている。 そこで本研究の目的は、ES細胞から脂肪細胞を分化させる系の途中で出現するであろうADSCsを同定することと、選択的に多量に分離、収集する新たな方法を開発することである。
    【方法】ADSCsは細胞特異表面抗原CD105を発現することが知られている。 そこで本研究ではまずES細胞から脂肪細胞への分化過程でCD105を指標としてADSCsが形成されるか否かについて検討した。ES細胞にレチノイン酸(RA)とインシュリン/T3を用いて脂肪細胞への分化誘導をかけた。 この誘導過程で免疫組織化学的にCD105陽性細胞を検索した。 さらに、生体染色したCD105陽性細胞を追跡し、脂肪細胞へ分化するか否かについて検討した。 CD105陽性細胞をマグネティックセルソーティング法(MACS)により分離し、脂肪・骨細胞へと分化誘導した。 脂肪・骨細胞の形成はそれぞれ、オイルレッドオー染色、アリザリンレッド染色、さらにRT-PCR法によりPPAR-γ,LPL, Runx2, OsterixのmRNAの発現を指標とした。
    【結果・考察】ES細胞を脂肪細胞へ分化誘導をかけたところES細胞の中にCD105を発現している二種類の細胞が認められた。 まず小型球形の陽性細胞が先に出現し、次いで細長い血管様の細胞が出現した。 生体染色によりこれらを追跡したところ、小型球形細胞が脂肪細胞へと分化していくことが確認できた。 さらに、MACS法によって収集した小型球形細胞が脂肪細胞や骨細胞に分化誘導できたので、これがADSCsである可能性が極めて高いと考えた。 現在はCD105陽性の間葉系幹細胞を効率よく骨・脂肪細胞へと分化誘導する方法の確立に努めている。
    【まとめ】脂肪組織由来の間葉系幹細胞を得るために、ES細胞を脂肪細胞へと分化誘導した。 この過程でCD105陽性の細胞が出現し、その細胞は脂肪・骨細胞といった間葉系細胞への分化能力を示した。今後、骨格筋・軟骨細胞への分化誘導も行い、最終的に生体への移植を目指す。この方法が確立できれば、ES細胞から分化したADSCsの再生医療への応用が期待できる。
  • 佐々木 輝, 呉 樹亮, 吉元 玲子, 真鍋 朋誉, 井川 英明, 小川 和幸, 松本 昌也, 武田 正明, 河原 裕美, 弓削 類
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 38
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】近年,骨髄中の未分化な細胞が神経細胞に分化することが報告され,中枢神経系疾患の再生医療への応用が期待されている.幹細胞を臨床応用するためには,未分化性を維持したまま培養する技術が重要である.重力分散型模擬微小重力発生装置(3D-clinostat)を用いた先行研究で,微小重力環境下では細胞の分化が抑制されることが報告されている.我々は,微小重力環境下でマウス骨髄由来細胞の神経分化が抑制されるかを分子生物学的手法を用いて解析し,微小重力環境下で培養した細胞をマウス脳挫傷モデルに移植し,効果の検討を行った.

    【方法】骨髄細胞は,8週齢C57BL/6マウスの大腿骨と脛骨から採取した.増殖用培地は,基礎培地に10 % FBS,抗生剤を添加して使用した.神経分化誘導は,神経成長因子等の液性因子を用いて行った.実験群は,分化誘導を1G環境下で行う群(1G群),3D-clinostatを用いた微小重力環境下で行う群(CL群),微小重力環境下で分化誘導を行い1G環境に戻して分化誘導を継続する群(CL/1G群)とした.この3群に対し,未分化マーカー(Oct-4)や分化マーカー(Neurofilament,MAP2)の発現を蛍光免疫染色,RT-PCR法にて解析した.さらに,3群の細胞の移植効果を検討するため,液体窒素で冷却した金属をマウス脳の運動野領域に接触させ,マウス脳挫傷モデルを作製した.GFPでラベルした3群の細胞をマウス脳挫傷モデルに静注し,運動機能検査,組織化学的解析により修復効果を検討した.

    【結果】CL群では,細胞形態の変化が観察されず,未分化マーカーが強く発現し,分化マーカーの発現はなかった.CL/1G群では,1G群と同様に細胞突起の伸長が観察され,分化マーカーが強く発現した.細胞移植から3週間後,静注した細胞は脳の損傷領域で同定され,CL群の細胞を移植したマウスの運動機能は他と比較して有意に回復した.

    【考察】これまで微小重力環境下での神経分化について検討した研究はみられず,報告されている他の細胞への分化と同様,神経分化の抑制が示されたことは意義深いと考える.また,移植効果がみられたことは,微小重力環境下で培養した細胞が,生体内においても幹細胞としての能力を発揮したことを示唆している.3D-clinostatは,サイトカインなどの生化学的な刺激を用いず,細胞の未分化性を維持でき,移植効果を期待できることから,将来の再生医療に重要な役割を果たすと考えられる.今後は再生医療におけるリハビリテーションの確立のため,移植後の理学療法の介入効果についても検討したい.

    【まとめ】本研究により,微小重力環境では骨髄由来細胞の未分化性維持ができ,細胞治療へ応用され得ることが示唆された.
  • 組織形態学的観察およびG-6-PDH活性測定による検討
    倉田 和範, 中嶋 正明, 野中 紘士, 都能 槙二, 迎山 昇平, 秋山 純一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 39
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
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    【目的】
    近年,スポーツ分野では低酸素環境での効果を目的とし,高地トレーニングが取り入れられる傾向にある。また,常圧・低酸素室や,常圧・高酸素室が試作され,酸素濃度とトレーニング効果の検討がされている。本研究では通常酸素から低酸素及び高酸素チャンバー内に暴露され,運動療法またはトレーニングを実施した場合,酸素濃度によって筋損傷の発生にどのような変化が生じるかを,形態的観察および酵素化学的測定により検討した。
    【方法】
    13週齡の雄ラット18匹を用い, 10%酸素濃度群,20%酸素濃度群,50%酸素濃度群の3群に分けた。運動方法としてマウス・ラット用トレッドミルを使用し,運動様式は骨格筋の損傷を引き起こしやすい下り坂走行とした。運動24,48,72時間後にヒラメ筋,大腿直筋,上腕三頭筋を採取し,凍結切片を作成した。さらに,生化学的検討としてG-6PDH活性による検討も行った。
    【結果】
    大腿四頭筋,上腕三頭筋において20%,50%群では48時時間後から72時間後にかけてMyoD発現が増加傾向を示した。10%群の24時間後から72時間後にかけて経時的に観察すると,いずれの時間においても有意差が認められなかった。ヒラメ筋では10%,20%,50%の全群にて,48時間から72時間にかけてMyoD発現が下降する傾向が有意に見られた。酸素濃度ごとに観察すると,大腿直筋,上腕三頭筋の10%酸素濃度群は,20%酸素濃度群に比較して有意に低値を示した。G-6PDH活性の測定では,酸素濃度20%群の大腿直筋,上腕三頭筋において,24時間後から72時間後にかけてG-6PDH活性は増加傾向を示した。しかし,これらに比較して10%,50%酸素濃度群の両群における大腿直筋,上腕三頭筋では,48時間後では有意差が認められなかったが,72時間後には下降傾向を示し,有意差を示した。ヒラメ筋においては,20%,50%酸素濃度群では48時間後から72時間後にかけて有意に下降傾向が見られた。10%酸素濃度群では48時間後から72時間後にかけて有意に減少していた。
    【考察】
    20%酸素濃度での運動と比較して,20%酸素濃度から10%,50%酸素濃度下に暴露された直後の運動では,特に10%酸素濃度下の運動において筋損傷の誘発が抑制される可能性を期待できると考えられる。また,10%,50%酸素濃度下で運動した際に,筋損傷が誘発されても20%酸素濃度下での運動と比較すると,修復がより早期に完成される可能性が考えられる。よって,通常酸素環境下から,特に低酸素環境下中で運動療法を実施した場合,筋損傷を抑制できる可能性があると考えられる。
    【まとめ】
    今後,低酸素及び高酸素環境下での運動療法が臨床において導入されると考えると,本研究では非常に興味深い結果が得られたと思われる。酸素濃度による筋損傷の発生機序とその効果的な適用条件を検討していきたい。
  • 武本 秀徳, 森山 英樹, 坂 ゆかり, 大谷 拓哉, 前島 洋, 小野 武也, 前岡 美帆, 遠藤 竜治, 沖 貞明, 梶原 博毅, 飛松 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 40
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】成熟ラットの脊髄に打撃や圧迫といった鈍的外傷を加えると,一旦運動機能が失われた後,徐々に機能が回復する.一方,神経機能が完成する以前のラットに脊髄打撃を与えると,成熟ラットよりも早く機能が回復するとされる.しかし,神経学的に完成した後も,発達段階が脊髄の鈍的外傷後における機能変化の経過と予後に影響を与えるのか現時点では明らかでない.そこで今回,神経学的に完成した直後のラットと成熟ラットの脊髄に同じ鈍的外傷を与え,その後の後肢機能回復について比較した.
    【対象と方法】歩行が完成直後の4週齢の雄ラット(n=9)を対象とし,12週齢の雄ラットを成獣対照(n=9)とした.各週齢のラットに対しT8胸髄を動脈瘤クリップで圧迫(25g×60秒)した圧迫群,麻酔のみ施した非圧迫群を作成した.後肢機能として,Basso-Beattie-Bresnahan (BBB) scoreに基づく後肢の歩行能力(21点満点),および傾斜板上での姿勢保持能力を術後6週まで調べた.実験終了時に全てのラットを灌流固定し,T8胸髄を摘出,凍結,20μm厚に横断薄切した.切片に対してluxol fast blue染色を行い,脊髄圧迫部の横断面積を比較した.
    【結果】BBB scoreに基づく後肢の歩行能力は,非圧迫群では全期間を通じ満点の21点だった.4週齢圧迫群では2週後まで,12週齢圧迫群では4週後まで回復が見られ,前者の経過の方が早かった.6週後での得点は,4週齢圧迫群が13.5点,12週齢圧迫群が11.5点で両者に差はなかった.傾斜板上での姿勢保持は,非圧迫群では全期間を通じ傾斜角78.28°まで姿勢が保持できた.4週齢圧迫群では6週後まで,12週齢圧迫群では4週後まで回復が認められ,前者の経過の方が長かった.6週後で姿勢が保持できた角度は,4週齢圧迫群63°,12週齢圧迫群53.5°で,前者の方が有意に高かった.6週後において,非圧迫群のT8胸髄の横断面積に差はなかった.脊髄圧迫部の横断面積は,4週齢圧迫群の方が12週齢圧迫群より有意に少なかった.
    【考察】歩行能力の回復は,4週齢圧迫群の方がより早い経過を示したが,週齢の違いは回復程度に差をもたらさなかった.傾斜板上での姿勢保持能力は,4週齢圧迫群の方がより長い経過を要したが,より高い程度まで回復した.歩行は高度の技能を要さないと考えられ,そのため経過に差はあっても最終到達点は週齢で変わらなかったのだろう.他方,より高い技能を要したと思われる傾斜板上での姿勢保持能力については,12週齢圧迫群は早く回復の限界に達したため,早い経過と低い回復程度を示したと考えられる.6週後における脊髄圧迫部の横断面積は4週齢圧迫群の方が少なかったが,圧迫の脊髄への障害性が週齢によって異なるか,圧迫時の障害性は同じでも若い脊髄ではその後の成長が妨げられた結果だろう.
  • 排泄時の仙腸関節の動きと姿勢との関係
    槌野 正裕, 荒川 広宣, 山下 佳代, 中島 みどり, 前崎 孝之, 坊田 友子, 甲斐 由美, 高野 正太, 高野 正博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 41
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】排泄は日常生活を遂行する上で欠かすことのできない行為である.排泄に対してリハビリテーション領域では,排泄を行なうための一連の動作としてのアプローチがほとんどであり,排泄そのものに目を向けたアプローチの研究は皆無に等しい.今回,我々は排泄困難例に対して排便時の姿勢評価と指導を行い,知見を得たので報告する.
    【対象】2007年8月より10月までに,排便訓練を施行している排便困難例において,便意は感じるが排便時間がかかる等の直腸性便秘で,外肛門括約筋の奇異収縮例は除外した10例とした.直腸肛門機能検査において,直腸と肛門の排便時怒責圧を測定し,理学療法士が便座に着座した際の排便姿勢の評価と指導を行なった.なお今回の症例は10例とも自宅では洋式トイレを使用されていた.
    【結果】排泄訓練におけるバルーン排出困難例では,腹圧を上昇できないために直腸圧が高まっておらず,姿勢評価を行なったところ,体幹は伸展方向に上を向き開口し,骨盤を前傾させた姿勢であった.1例では排便姿勢指導により直腸圧は162.5から206.3へ高まり,肛門圧は368.8から143.8(cmH2O)へ低下し,バルーンの排出も不可能から20(ml)へ改善した.他の例においても同様に直腸圧が高まり,肛門圧は低下した.
    【考察】排便困難例にとっては,排泄しようとすればするほど無意識に体幹伸展位となりやすく,腹圧上昇を妨げていたと考えられる.排便時のダイナミックCT画像より,restからsqueezeへ移行する際には腰椎は前彎増強し,骨盤は前傾位となる.この時,仙骨や尾骨の運動は認めない.次にrestからstrainにかけては腰椎の動きはほとんど認めず,骨盤が後傾位となり仙骨は起き上がる.仙骨の起き上がりに伴い尾骨は受動的に伸展する.以上より,squeezeでは骨盤を前傾位とすることで腹圧上昇と肛門圧上昇し,strainにて骨盤を後傾位とすることで,仙骨の起き上がり運動と尾骨の伸展運動が受動的に起こっていることで,骨盤底筋群の筋緊張が低下し肛門内圧が下がり排便が行われていると考えられる.よって今回の排便困難例においては,strainの際に通常と反対の姿勢パターンとなっていることが考えられる.
    【まとめ】排便画像より排便時に骨盤帯と仙骨の関節運動が行われていることを確認し,排便困難例に対して理学療法士としてのアプローチが出来ると考えた.今回,排便困難例に対して姿勢評価と指導により,直腸圧や肛門圧に変化をもたらした.排便困難例では通常とは反対の姿勢パターンとなっていることが示された.このように我々理学療法士はトイレ動作としての一連の動作のみではなく,排便姿勢評価により排便障害に対してのアプローチも出来ることが示された.今後,更に骨盤周囲の機能に関しての研究を行っていきたい.
  • 内山 恵典, 森上 亜城洋, 西田 裕介
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 42
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】理学療法の対象となる高齢者の栄養問題の1つに蛋白質・エネルギー低栄養状態(PEM)が挙げられる。PEMは創傷治癒の遅延を招くだけでなく、入院期間の延長や死亡率にまで関係するとされている。これまでの研究で、日常生活動作(ADL)と血清データやBody Mass Index(BMI)との間に関係性は確認されている。一方、高齢者は脊柱の変形などの身体特性から身長を正確に測定することが困難であることが多い。また、ADL状況による栄養状態の変化は、対象者の生活の質にも大きく関わってくると考えられる。そこで本研究では、身長の予測式を用いてBMIと血清アルブミン値との関係性について、ADLの指標であるBarthel Index (BI)を用いて重症群と軽症群に分類し、比較検討した。

    【対象と方法】対象は、65歳以上の磐田市立総合病院および公立森町病院における入院患者24名(男性10名・女性14名、平均年齢80.7±6.6歳)とした。対象者(家族含む)には本研究の同意を文書及び口頭で得た。また、本研究は、それぞれの病院に設けられた倫理委員会により承認を得て実施した。主な測定項目は、栄養状態の把握に血清アルブミン値(Alb)をカルテより調査した。また、栄養状態を反映する身体組成の評価として予測身長を用いたBMIを算出した。予測身長は、久保らによる回帰式「身長=2.1×(前腕長+下腿長)+37.0」を用いた。前腕長は、肘90度屈曲位で肘頭部近位部から尺骨茎状突起遠位部を計測し、下腿長は、腓骨頭近位部から外果遠位部までを測定した。データの比較には、対象者をADLの状態からBIが60点未満の者を重症群、60点以上の者を軽症群の2群に分類し、それぞれの群においてAlb、BMIの関係性をピアソンの積率相関を用いて分析した。また、各測定項目の群間の比較には、対応のないt検定を用いて比較した。有意水準はともに5%未満とした。

    【結果とまとめ】BIの平均は、全体で60.6±33.4点、重症群で27.0±19.0点、軽症群で84.6±15.4点であった。Alb値の平均値と標準偏差は、全体で3.3±0.53g/dl、重症群で3.09±0.50g/dl、軽症群で3.57±0.47g/dlであった。BMIの平均値と標準偏差は、全体で20.8±3.4、重症群で20.1±3.0、軽症群で21.2±3.6であった。群間の比較では、BIが重症群で有意に低くなった以外は、全ての項目で有意差は認められなかった。一方、AlbとBMIとの関係性ついては、軽症群で、r=0.47と有意な関係性が認められ(p<0.05)、全体と重症群での関係性は、それぞれr=0.2、r=0.36と有意性は認められなかった。以上のことから、栄養状態を評価する際、予測身長を用いたBMIは軽症例に対して応用することが可能であると考えられる。
  • 釜崎 敏彦, 金ヶ江 光生, 水上 諭, 渡邊 博, 大園 道雄, 中倉 裕文, 富田 義人, 平良 雄司, 喜多 崇致, 酒井 小百合, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 43
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    身体機能である筋力や活動性とADLの関連についての研究は多々あるが、視覚機能とADLに関する研究は散見される程度である。これまでに我々は、視覚機能と転倒経験との関連や転倒経験者における視覚機能の加齢影響について報告してきた。視覚機能は、聴力、筋力、バランス能力、歩行機能と同様に加齢に伴いADLを低下させる一要因と考えられる。そこで身体活動の起点となる視覚機能に着目し、日常生活で外部環境の立体的把握を集約する静止視力、周辺視野の視覚機能とADLとの関連について検討することである。
    【方法】
    自立歩行可能な精神・知的障害を有しない外来通院患者で、研究調査の承諾が得られた男女57名(男性21名、女性36名、平均年齢76.7±5.8歳)を対象とした。調査項目は、質問紙にて性別、年齢、既往歴、現病歴、老研式活動能力指標(以下、ADLスコア)を質問した。視覚機能としては、静止視力、周辺視野を測定した。静止視力はランドルト環を用いた。また周辺視野は、石垣らが考案した視覚機能測定ソフトを使用し、周辺視野は認識率で算出した。日常状態での静止視力の中央値である0.4をcut off値とし、低視力者群(0.4以下)33名と高視力者群(0.5以上)24名の2群に分類し比較検討した。また2群間比較についてはMann-WhitneyのU検定を用い、また静止視力への影響を明らかにするために年齢、周辺視野、ADLスコアを説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。静止視力を対象としたcut off値の検討には、ROC曲線を用いた。SPSS ver11.5を用い、5%未満を有意水準とした。
    【結果】
    1)ADLスコアを低視力者群と高視力者群の2群で比較した結果、低視力者群では有意に低かった(p<0.05)。2)周辺視野を低視力者群と高視力者群の2群で比較した結果、低視力者群では有意に狭かった(p<0.05)。3)日常状態での静止視力を結果変数とするロジスティック回帰分析から、ADLスコアと周辺視野は、有意に関連していた(p<0.05)。
    【考察】
    本研究結果から、静止視力はADLスコア及び周辺視野に及ぼす影響が明らかとなった。視覚機能は、身体と同様に加齢に伴って低下し、またADLも加齢の影響を受けると報告されている。従って、周囲の立体的把握を集約する静止視力や周辺視野に関しては、日常生活において重要な要素であるため、ADLスコアとの関連性が認められたと考える。今回の結果から、静止視力を基本とした視覚機能が歩行を含めたADLにおいて重要な機能であることが再認識された。今後、ADLの維持・増大を目的としたプログラムを検討していく上で、視覚機能の維持・改善は重要な要素であると考える。
    【まとめ】
    静止視力はADL能力及び周辺視野に及ぼす重要な要因であることが示唆された。
  • 小林 由香, 坂口 祥子, 徳田 良英
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 44
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】スロープの勾配基準は,1/12から1/15が一般的であり,バリアフリー新法の基準では5%(1/20)以下と規定している.これらの数値基準に対する学術的検証には自走車いすの上りに関する身体負担度の観点からのものがあり,両手駆動のもの(村木・他2006),片手片足駆動のもの(湊屋・徳田2007)などが挙げられる。しかし,車いすの下りに関しての検証はこれまでほとんどなかった。本稿は勾配の違う数種類のスロープの下り走行(片手片足駆動・両手駆動)での動作筋電図等の解析からスロープ勾配の検証をすることを目的とする.
    【方法】官能検査:対象は成人男女19 名.段差:約75cm,勾配1/24,1/21,1/18,1/15,1/12,1/9,1/7 のスロープを実験施設とした.被検者は標準型車いすを用い,片手片足駆動,両手駆動で平地走行,スロープ下り走行を行い,6 段階の主観的負担感評価を行った.動作筋電図解析:対象は成人男女4 名,同スロープで標準型車いすの車いすを用い,同走行を行った.表面筋電図(追坂電子機器社製personal-EMG )を用いて右上下肢の腓腹筋,前脛骨筋,大腿二頭筋,大腿四頭筋,手根屈筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋,三角筋に電極を装着し,周波数1000Hzで記録を行った.両手駆動は平地で上腕三頭筋,下りで上腕二頭筋,片手片足駆動は平地で大腿二頭筋,下りで大腿四頭筋を駆動基準として3 周期分を抽出し,積算値を筋活動量として算出し,平地における筋活動量を基準として各勾配でそれぞれの筋活動量を比較した.また,走行速度をストップウォッチで測定した.
    【結果】走行速度:平地と比較し,1/18 を境として1/15 以上の勾配で減速傾向を示し1/7 では平地の60%の速度となった.主観的負担感:片手片足駆動は1/18 以下で91.7%が楽項目を選択し,1/15で25%,1/12 で83.3%がややきつい,1/9 で33.3%,1/7 で75.0%がかなりきつい,非常にきついと答えた.両手駆動では1/21 以下で全員が楽項目を選択したが,1/18 で42.9%がややきつい,1/9 で28.6%,1/7 で57.2%がかなりきつい,非常にきついと答えた.筋活動量:勾配の上昇に伴って増大した筋は片手片足駆動で大腿四頭筋,両手駆動で上腕二頭筋,手関節屈筋群であり,1/12 までは緩やかな増大を示した.1/9 以上では片手片足駆動の大腿四頭筋に女性が5~8 倍の筋活動量を示し,両手駆動では上腕二頭筋に3~6 倍の筋活動量を示した被験者がいた.また,蛇行や足部を車いす下に巻き込む場面が認められた.
    【考察・まとめ】勾配1/18 以上では速度が平地より減速しており,この速度を制動する作用として,主に片手片足駆動では大腿四頭筋,両手駆動では上腕二頭筋が遠心性収縮し,勾配の上昇に伴って筋活動量と負担感が増大すると考えられる.しかし1/12~1/21 勾配では筋活動量の増加傾向は緩やかであり,下り走行に於て勾配の有効性に差は認められないと考えられる.1/9勾配以上では明らかな筋活動の増加を認め負担感も大きく,リスク面からも勾配は低い方が有効性は高いと考えられる.

  • 脳卒中動作能力尺度 Stroke Performance Scaleの開発
    徳久 謙太郎, 兼松 大和, 北裏 真己, 鶴田 佳世, 小嶌 康介, 三好 卓宏, 藤村 純矢, 池岡 舞, 手塚 康貴, 高取 克彦, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 45
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】臨床において理学療法士は日常生活動作能力を評価することが多い。日常生活動作は歩行や方向転換,リーチ動作といった多くのパフォーマンスの集合体であり,特に立位・歩行時のパフォーマンス評価は,自立度判定や転倒防止に資する重要な情報である。これまでにも数種の評価尺度が発表されているが,日常生活に必要な,立位・歩行時のパフォーマンスを経時的に評価できるものは少ない。また,脳卒中患者の非対称性といった特性を考慮した限定的評価尺度は少ない。本研究の目的は,脳卒中患者を対象に,日常生活動作の遂行に必要な立位・歩行時のパフォーマンスを評価する「脳卒中動作能力尺度 Stroke Performance Scale(SPS)」を開発することである。
    【対象・方法】尺度の項目は,動作能力の異なる脳卒中患者3名の日常生活動作場面(食事,更衣,整容,排泄,入浴,敷居またぎ,開き戸の開閉,階段昇降)をビデオ撮影し,12名の理学療法士が観察することより抽出され,頻度毎に点数化された。この情報を基に項目の追加・修正を行い,仮尺度を作成した。項目の選択肢は自立から中等度介助以上の5段階(0‐4点)とした。この仮尺度を2施設に入院・外来通院中の軽介助にて立位保持が可能な脳卒中患者48名(年齢68.9±9.3歳)に実施した。評価は2名の検者により経日的に行なわれた。分析は尺度の一次元性確保のため主因子法による因子分析を行なった。各項目の一致度の指標としてκ係数,一致率,平均誤差を,尺度全体の内的整合性の指標としてクーロンバックαを算出した。また評価結果を自立・見守りを基準に2値反応データに変換し,項目反応理論を用いて各項目の困難度や識別力を算出した。この情報を基に項目を再検討し,SPSを完成した。
    【結果】ビデオ観察により抽出されたのは,14立位項目(立位保持,リーチ,ステップなど),6移動項目(歩行,方向回旋,またぎなど)であり,各項目点数は平均127.1(6‐350)点であった。これに起立・着座,つま先上げなど5項目を加えた25項目(100点)を仮尺度とした。仮尺度による評価結果は平均59.3±31.0(1‐98)点であった。因子分析の結果,2因子が抽出され,第1因子の因子負荷量は0.60‐0.92,因子寄与は17.7,因子寄与率は70.8%であった。κ係数は0.50‐0.76,一致率は0.60‐0.89,平均誤差は1.0‐2.3点であり,中等度の一致を示した。クーロンバックαは0.98であり内的整合性は高かった。各項目の困難度は-1.72‐1.22,識別力は1.53‐32.63であった。項目の再検討により5項目が削除され,一次元性が確認された20項目(80点)によりSPSが完成した。
    【考察】SPSは項目の一致度,困難度,識別力などを基準に項目を選別したことにより,脳卒中患者のパフォーマンスの改善を段階的に評価できると考える。しかし項目内一致度が中等度であり,評価の判定基準をさらに明確にする必要がある点や,難易度の高い項目が少ない点などの改善点が挙げられる。今後はSPSの臨床適性を検討したい。
  • 藤井 亮嗣, 井舟 正秀, 田中 秀明, 川北 慎一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 46
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)において入棟時より在棟期間や転帰を予測することにより、早期にさまざまな介入が行いやすい。当院回復期リハ病棟における入棟時のADL能力と在棟期間及び転帰の関係を調査し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象と方法】
    2006年4月1日から2006年12月28日まで当院回復期リハ病棟に入棟した140名を対象とした。ADL評価は当院で用いているKeiju Independence Scale(以下KIS)にて、食事・排尿・排便・整容・更衣・入浴・起居・移乗・移動・コミュニケーションを評価した。各項目の採点は、完全自立5、修正自立4、軽介助または監視3、中等度介助2、全介助1とし、その合計を2倍してKIS合計として用いた。入棟時KIS合計から、100-60をA群(78名)、59-20をB群(62名)とし、各群間で退院時KIS各項目、退院時KIS合計、在棟期間、転帰を比較した。退院時KIS各項目、退院時KIS合計、在棟期間はMann -Whitney検定を用いた。有意水準は0.05%とした。
    【結果】
    A群退院時KIS各項目平均食事4.8±0.6・排尿4.7±0.7・排便4.6±0.9・更衣4.5±0.8・整容4.7±0.7・起居4.4±0.6移乗4.7±0.6・移動4.3±0.73・コミュニケーション4.5±0.9・入浴3.8±1.1・合計平均89.8±11.5 。B群退院時KIS各項目平均食事3.8±1.0・排尿3.0±1.4・排便2.9±1.5・更衣2.6±1.3・整容3.0±1.3・起居3.3±1.3・移乗3.4±1.3・移動2.8±01.5・コミュニケーション3.3±1.2・入浴2.4±1.2・合計平均60.8±22.3。在棟期間A群50±24日B群79±42日。転帰はA群自宅退院94%施設入所3%転院3%死亡1%、B群自宅退院42%施設入所32%転院21%その他5%であった。退院時KIS各項目及び退院時KIS総合に有意なB群の低下を認めた。しかし、在棟期間には有意な差が認められなかった。
    【まとめ】
    今回の調査結果より、入棟時ADL能力が低い患者は退院時もADL能力が低くADLに介助を必要としていることがわかった。入棟時よりADL能力が高い患者は自宅退院する傾向が多く、入棟時よりADL能力が低い患者の約半数が他施設へ入所及び転院する傾向があった。今回の調査では在棟期間に有意な差は認められなかったが、入棟時ADL能力が高い患者は早期に退院する傾向が見られた。上記結果を踏まえ自宅退院に向けて早期に介護保険の申請、家屋環境の調整が必要であろうと考えられた。また、入棟時ADL能力が低い患者に関しても半数が他施設へ入所することから介護保険等の準備を早期からアプローチしなければならないものと考えられた。
  • 国武 ひかり, 荒木 靖三, 野明 俊裕
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 47
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】リハビリテーション医療の中で排便に関する問題は患者だけでなく家族や介護者にとっても重要である.今回、当院外来患者の障害像の把握と共に、排便障害に対する理学療法を経験した.以下に当院で行われている検査や治療を交えて、排便障害を伴う症例を紹介し理学療法の介入と経過について報告する.

    【方法】当院初診外来患者で理学療法対象者58名(男性26名女性32名、年齢47.8±14.6)の症状や診断名を聴取した.その中で排便障害者29名(男性19名女性10名、年齢65.1±15.1)を症状別に区分した.対象者には事前に十分な説明を行い同意を得た.

    【結果】対象者の初診時症状は便排出障害35%、肛門痛31%や便失禁26%が多く、診断名は肛門括約筋不全28%、直腸性便秘28%や肛門痛(陰部神経痛含む)22%が多い.排便障害の区分は、便排出困難45%(男性9名女性2名、年齢61.3±15.5)、便失禁24%(男性2名女性5名、年齢67.1±61.1)、排便困難と便失禁の混在31%(男性8名女性3名、年齢67.7±14.8)であった.
    (症例1)外来にてBFと理学療法を実施し便排出困難に改善をみた26歳女性.初診時,
    外痔核による排便時の肛門痛があり排便時に上手く力めない.外痔核の改善とともに肛門痛の軽快後も力み方が分からず便排出困難が続く.便失禁なし.Transit Time Study異常なし.直腸肛門機能検査やDefecographyから奇異収縮がみられる.バイオフィードバック療法(以下BF)を実施するが,力み動作において全身に力が入り、肛門は締まったまま緩まず便排出が行えないため理学療法を依頼.2度の理学療法併用にて便排出が容易になった.
    (症例2)便失禁を愁訴として骨盤形成術を施行した85歳女性.肛門括約筋機能障害、直腸機能障害と骨盤底筋群の協調性障害.水様便.便失禁があり常時パッドを使用(Wexner’s Incontinence Score 20点).便排出困難なし.合併症として頸髄症に伴う四肢の神経症状と著名な腰椎後彎がある.術前からBFと理学療法実施する.術前術後評価から、便失禁の改善と姿勢アライメントの改善がみられた.術後経過も良好であり退院となるが治療終了後3ヶ月で再度症状が出現した.


    【考察】今回、当院患者の症状や障害像の把握と共に、当院で行われている検査や治療を交えて排便障害に対する理学療法を紹介した.経験として便排出困難な若年女性も多い.排便障害の分類や排便動作の観察から理学療法アプローチとして関与できる分野は多い.排便の障害はリハビリテーションを推進する上で大きな問題であるにも関わらず、患者の羞恥心や治療側の認識不足がさらにこの障害の理解を困難にさせているように思える.また定義や治療法が十分確立されていないため今後更に発展すべき分野であると考える.
  • 斉藤 恵子, 阪井 三知恵, 岡部 知昭, 大内 伸浩, 北沢 蘭
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 48
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    重度障害者において、座位をとることは拘縮予防や痰の喀出、呼吸など身体機能において有効であると多く報告されている。以前から当院では「座る」取り組みを積極的に行ってきたが、重度障害者においては車椅子座位がほとんどであった。そこで重度障害者にも、より快適な時間を提供したいと考え、車椅子から椅子に座る(以下、椅子座位)取り組みを行った。今回、姿勢と筋緊張の変化を元に車椅子と椅子での座位を比較し、そこから得られるリラクゼーション効果を検討した。
    【対象】
    障害老人の日常生活自立度ランクC2で椅子に座る取り組みを行った脳血管障害のある方12名(男性4名、女性8名、平均年齢76±11.9歳、四肢麻痺10名、左片麻痺2名)。
    【方法】
    椅子はクッション性のあるソファーまたはリクライニングソファーを使用。その際、頭・頚部が正中位となり視界が広がること、シートとの接触面が多くなることに配慮してポジショニングを行った。(1)前額面・矢状面より姿勢の写真撮影を行い、姿勢を観察。(2)Modified Tardieu Scaleを使用し、車椅子座位、椅子座位での麻痺側肘関節伸筋の筋緊張を評価。他動的に伸張するにあたり、(A)できるだけゆっくりした速度で伸張した角度、(B)できるだけ速く伸張し最初にひっかかりが感じられる角度を測定し、(A)と(B)の差を比較した。その差が大きいものを筋緊張亢進の状態にあると判断した。(竹内らの研究を参考*1)
    【結果】
    (1)対象となる12名すべての方が姿勢を保ち、椅子に座ることができた。(2)(A)と(B)の差の平均値は、車椅子座位44.2°、椅子座位30.5°であり、車椅子座位のほうが大きい傾向にあった。(3)(A)と(B)の差を比較して、車椅子座位のほうが良い結果を示す方はいなかった。
    【考察】
    今回対象となった方全員が姿勢を保って椅子に座ることができ、また車椅子と椅子の座位を比較すると椅子座位は筋緊張が低い状態にあることからリラクゼーション効果が得られやすいことがわかった。椅子座位が快適になることで、重度障害者にとって臥床傾向にある日常生活を活性化する一つの手段となり、活動機会の増加や新たな反応を引き出すことにつながると考える。快適な座位をとるために、セラピストが適切な評価やシーティング、活動を行なって座る環境を整え、活動の幅を広げていくことが必要であると考える。
    *1:竹内伸行 他:Modified Tardieu Scaleの臨床的有用性の検討―脳血管障害片麻痺における足関節底屈筋の評価―.理学療法学33:2006
  • 望月 寿幸, 松尾 善美, 上田 愛, 福田 豊史, 田端 作好, 山本 則之, 矢嶋 息吹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 49
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】血液透析(透析)患者には筋力低下、心機能低下、貧血などによる身体機能や運動耐容能の低下が生じ易く、それらは日常生活活動(ADL)を妨げQuality of Life(QOL)を著しく損なうことにつながる。しかし、透析患者に運動療法を実施している施設は少ない。これは明確なガイドラインがないことが一因とされている。運動療法のエビデンスとなりうるこれまでの研究成果を文献的に調査、検討し、透析患者の身体機能向上、QOL改善のための普及の一助とすることは有用であると考え、本研究を実施した。
    【方法】英語文献をMedlineにて、hemodialysis, exercise, physical therapy, physiotherapy, training, gait, ADL, QOLの語を用いて1966年以降の論文を、日本語文献については医学中央雑誌にて血液透析、運動、理学療法、ADL、QOLの語を用いて1983年以降の論文を検索、その中から透析患者に対する運動療法に関する原著論文を抽出した。さらに研究デザイン、対象、介入方法、アウトカムなどをレビューした上で検討し考察を加えた。本研究は2007年度大阪透析研究会コメディカルスタッフ研究助成を受け実施した。
    【結果】英文111編、和文28編の文献を調査した。対象は何れの文献でも重篤な合併症がなく歩行自立の透析患者で、文献別の年齢幅は36±3から64.4±11.3歳であった。運動療法群のサンプルサイズは不明であった1編を除き6~69人であった。運動療法の内容は有酸素運動や筋力増強運動であった。
    身体機能に関して、1)非比較対照試験6編、2)非無作為比較対照試験2編、3)無作為化比較試験(RCT)2編を調査した。筋力トレーニングによる有意な筋力増強が1)5編、2)1編、3)1編で、動作能力、最大歩行速度の改善が1)、2)各1編で報告された。運動耐容能に関して1)6編、2)5編、3)10編を調査した。代表的な指標である最高酸素摂取量はそれぞれ4編、4編、8編で改善あり、2)、3)各1編で改善なしと報告された。うつや健康関連QOLのスコアも1)1編、2)3編、3)5編で改善あり、2)、3)各1編で改善なしと報告された。その他、透析効率や筋蛋白代謝の改善が報告されていた。
    【考察】調査したほとんどの文献において身体機能、運動耐容能、QOLスコアの改善などの効果が報告されていた。Painter、Cheemaも運動療法の有効性に関して多くの報告があると述べているが、RCTの不足を指摘している。今後の課題として、大規模なRCT、著明に身体機能が低下した透析患者に対する効果の研究、患者の高齢化に向けた取り組みなど、科学的根拠に基づいた運動指針作成のために、近未来にさらなる調査・研究が不可欠であると考えられた。

  • 肩甲骨からの制御に着目して(第1報)
    深堀 栄一, 清水 志帆子, 古賀 昭臣, 坂井 伸朗, 林 克樹, 村上 輝夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 50
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/13
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】世界的にリハビリロボットの開発が進んでいる。我々は上肢機能回復で必要な肩甲骨と体幹の制御が可能な治療用ロボットの開発を行っている。その一環として、肩甲骨から効率的にロボットで運動を制御する為に必要な幾何学的構成を、実験用の肩装具と体幹装着具を自作し三次元位置センサーを用い解析し、知見を得たので報告する。

    【方法】本研究参加に同意した健常成人男性1名(年齢22歳)を対象とし、左上肢を用いた。三次元位置センサー(Polhemus社製 Liberty240/8 磁気型6自由度センサー)を取り付けた肩装具と体幹装着具を被験者に取り付け、座位での外転・屈曲運動を解析した。運動範囲はロボット化での実使用を想定し外転・屈曲ともに約120°とした。肩装具は肩周辺の皮膚の揺動による偏位が最小と報告されている肩峰周囲を押さえ、腋下支持や肩甲棘支持部を備える。センサーを取り付けた体幹装着具に対する肩装具の相対位置をPC画面上に表示し、任意の4点のうち2点ずつ結ぶと、上肢の運動によって結んだ線の軌跡が描かれる。その軌跡は運動開始から1秒毎に表示され、合計で50パターンの線が表示される。それらの軌跡から得られたデーターを解析した。

    【結果】PC画面上で軌跡を3次元CGにより視覚化し、肩装具運動をロボット機構として実現するための幾何学的モデルの構築を試みた。各軌跡はそれぞれ球面上の運動を行っていることが推測されたが、ロボット機構への適用を想定し、同一中心を持つ多重球へ逐次最小二乗法により近似した。4点の各近似球面との半径誤差の標準偏差は、外転は1.6mm、屈曲は1.2mmであり、軌跡は同一中心を持つ多重球上にフィット可能であることが分かった。また、4点の軌跡は平面上の運動も行っていることが推定された為、同一の法線ベクトルを持つ平行平面へのフィットを試みた。4点の各近似平面との誤差の標準偏差は、外転は1.9mm、屈曲は2.3mmであった。4点の軌跡は球面と平面両方にフィットしていることから、空間上の円にフィットしていると言える。外転と屈曲を合せた軌跡においても多重球フィットと平行平面フィットの誤差の標準偏差がそれぞれ2.2mm、7.7mmであり、肩装具は4平面に垂直で多重球の中心を通る軸を中心とした回転運動で駆動できる可能性が示唆された。

    【考察】上肢の外転・屈曲運動時の肩装具は解析によって求められた運動軸を中心に運動していることが分かった。よって適切に位置と方向が決定された1軸のみで外転・屈曲運動時の装具運動を表現できることが示唆された。このことから、運動軸に駆動装置を設置することで体幹装着具から効率的に肩甲骨の運動を制御することが可能であることが分かった。今後も肩甲骨から効率的に制御する為のデーター取得を継続し、実験装置を改良していくことで安全で円滑に制御できるリハビリロボットの開発につなげていきたい。
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