理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 227
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理学療法基礎系
不動に伴うラットヒラメ筋の筋線維萎縮の発生メカニズムと間歇的伸張運動の効果に関する検討
坂井 孝行折口 智樹坂本 淳哉片岡 英樹西川 正悟近藤 康隆横山 真吾中野 治郎沖田 実
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抄録

【目的】
不動で起こる筋線維萎縮には、様々な分子メカニズムの経路が関与しているが、我々は仮説として以下の経路の関与を予測している。すなわち、不動により骨格筋が低酸素状態に陥りマクロファージなどが活性化することでTNF-αなどの炎症性サイトカインが誘導され、これがMT1-MMPやMMP-2などのタンパク質分解酵素の活性化を招き、その結果として筋線維萎縮が発生するというものである。一方、我々はこれまで間歇的伸張運動は不動によって起こる筋線維萎縮の進行抑制に有効であると報告してきた。そして、このメカニズムの仮説として間歇的伸張運動によって骨格筋の低酸素状態が緩和さられること、ならびにIL-6などの抗炎症性サイトカインが誘導し、上記のタンパク質分解酵素の活性化が抑えられることが影響していると考えている。そこで、本研究では以上の仮説を検証することを目的とした。
【方法】
12週齢のWistar系雄性ラット15匹を対照群5匹(C群)と両側足関節を4週間最大底屈位でギプス固定する実験群10匹に振り分け、実験群はさらに不動のみの群(I群)と不動の過程で間歇的伸張運動を負荷する群(S群)に分けた。S群に対しては麻酔下でギプスを解除し、角速度10°/秒の足関節底背屈運動を30分間(週6日)行うことでヒラメ筋を間歇的に伸張した。実験終了後は両側ヒラメ筋を摘出し、左側試料の凍結横断切片にATPase染色(pH10.4)を施してタイプI・II線維の直径を計測した。また、右側試料は筋抽出液とし、組織の低酸素状態で誘導されるHIF-1αとMT1-MMP、MMP-2をWestern Blot法で、TNF-αとIL-6をELISA法で定量した。なお、今回の実験は長崎大学動物実験倫理委員会の規定に準じて行なった。
【結果】
タイプI・II線維の直径はC群に比べI群、S群は有意に低値で、S群はI群より有意に高値を示した。HIF-1α含有量はC群やS群に比べI群は有意に高値で、TNF-αやMT1-MMP、MMP-2の含有量も同様の結果であった。また、IL-6含有量はS群がC群やI群より有意に高値を示した。
【考察】
I群の結果から、HIF-1αの発現増加がうかがわれ、不動によってヒラメ筋は低酸素状態に陥っていると推測される。そして、TNF-αやMT1-MMP、MMP-2もその発現が増加しており、筋線維萎縮も発生していることから先の仮説は支持されると思われる。一方、S群はHIF-1αの発現が抑えられており、間歇的伸張運動は骨格筋の低酸素状態を緩和すると推察される。また、S群にはIL-6も発現しており、これらの相乗効果として筋線維萎縮の進行が抑制された可能性がある。ただ、不動による筋線維萎縮の発生や間歇的伸張運動による進行抑制効果には他の分子メカニズムの経路も関与していることから、今後さらに検討の必要がある。

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© 2008 日本理学療法士協会
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