抄録
【目的】
脊髄損傷では、シナプス前抑制や上位中枢からの抑制が減少することによる下肢での過反射が起こり、筋緊張の亢進やそれに伴う不随意運動などを生じ、ADLの自立やQOLを妨げる大きな要因となる。またH反射の刺激周波数依存的な振幅低下は、過反射活動により抑制されることが知られているが、今回、脊髄損傷モデルラットを作成し、非侵襲的に電極を設置した状態でH反射を記録し、後肢の過反射を経時的に評価するとともに、自転車式他動運動による介入効果について検討した。
【方法】
実験動物および手術:雌SDラット(n=13)を用い、深麻酔下にて、椎弓切除後、脊髄を吸引しながら切断する方法で、第8胸髄レベルでの完全横断脊髄損傷のモデル動物を作成した。なお、下記の他動運動を実施する運動群(n=7)と非運動群(n=6)に分けた。H反射テスト:動物を固定装置に乗せ、アキレス腱をつまむような形で経皮的に電極を設置し脛骨神経を電気刺激した。また、足底部に双極性の表面電極を設置しH波を記録した。刺激周波数は0.2, 1, 5, 10 Hzとし、術前および7, 14, 21, 30, 45, 60, 75日目に測定した。運動介入:モーターによりペダルが自動的に回転運動する自転車式他動運動(Motorized Bicycle exerciser trainer: MBET)を用いた。脊髄損傷モデル作成後7日目から30日間、1回に60分間、週に5回の頻度で実施した。なお、動物実験に際して、アーカンソー大学医学部の動物実験指針を遵守して実施した。
【結果】
非運動群では、5 または10 Hzで刺激した場合のH波振幅が脊髄損傷モデル作成時から75日目まで、日数の経過とともに増加した(p<0.01)。また、7日目から30日間の自転車式他動運動を実施すると(運動群)、非運動群に比べ、5 または10 Hz刺激時のH波振幅増加が抑えられ、その効果は60日目まで継続した(p<0.05)。
【考察】
脊髄損傷モデルラットを用いて、非侵襲的な方法によりH反射の記録を経時的に75日目まで記録することができ、運動を実施せず自然経過を観察した非運動群では、各刺激周波数に対するH波振幅の増加がみられ、過反射の亢進を捉えることができた。また、脊髄損傷モデル作成後の急性期(7日目から30日間)に自転車式他動運動を実施すると、過反射が抑制されることがわかった。H反射の記録はヒトでも非侵襲的に実施可能であるので、脊髄損傷患者でも同様のデータを蓄積して、運動療法の効果を検証することができ、基礎研究と臨床研究を直接的に融合させた研究が可能であると考えられる。
【まとめ】
脊髄損傷モデルラットに対し、非侵襲的な方法でH反射を継続的に記録し、過反射活動が増悪することを示すとともに、急性期の他動運動介入が、過反射を抑制しうることを示した。