理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 235
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理学療法基礎系
培養骨格筋細胞の糖の取込み促進における IGF-1 刺激と伸張刺激の併用効果
岩田 全広早川 公英村上 太郎鈴木 重行
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抄録
【目的】筋における糖の取込みを促進する刺激のひとつに伸張刺激がある。これまでに我々は、培養骨格筋細胞に周期的一方向伸張刺激を加えることができる実験システムを用いて、伸張刺激により糖の取込みが促進することを確認した。しかし、伸張刺激がどのようにして糖の取込み促進を引き起こすか、その詳細な分子メカニズムの解明には至っていない。一方、筋に成長因子の一種である insulin-like growth factor 1(IGF-1)刺激を加えると、糖の取込みが促進することが報告されている。また、筋に伸張刺激を加えると、IGF-1 が筋細胞自身から分泌(自己分泌)されることが明らかにされている。従って、伸張刺激による糖の取込み促進機構は、伸張刺激によって自己分泌された IGF-1 を介して起こる可能性がある。そこで今回は、伸張刺激による糖の取込み促進と IGF-1 の関連について探る手始めとして、IGF-1 刺激と伸張刺激の併用効果について検討した。

【方法】実験材料にはマウス骨格筋由来の筋芽細胞株 C2C12 細胞を用い、I 型コラーゲンをコートした薄いシリコン膜上に筋芽細胞を播種し、筋管細胞に分化させた。伸張刺激は、培養開始後 7 日目の筋管細胞に、シリコン膜を一方向に伸張することによって加えた(伸張群)。刺激条件は、我々(2007)が糖の取込みに対して最大効果を得た条件(頻度1 Hz、伸張率 110% で 30 分間の周期的伸張刺激)とした。IGF-1 刺激は、IGF-1(1, 5, 10, 20 nM の 4 種類)を培養液に添加し、30 分間安静を保持した(IGF-1 群)。また、IGF-1(10 nM)を培養液に添加し、同時に伸張刺激を加えた(IGF-1+伸張群)。対照群は、同じ期間に刺激を加えず、通常培養した細胞とした。各刺激終了直後に tritium で標識された 2-deoxy-D-glucose を細胞に 15 分間負荷した後、細胞内の tritium 量を測定することにより細胞内への糖の取込み量を算出した。

【結果】伸張群の糖の取込み量は、対照群の 1.3 倍に増加した。IGF-1 群では、1-5 nM で対照群の 1.3 倍に増加した。10 nM で対照群の 1.6 倍に増加してプラトーに達し、20 nM で処理しても反応の増強は認められなかった。また、IGF-1+伸張群の糖の取込み量は、対照群の 2.0 倍まで増加した。

【考察】今回、IGF-1 刺激による糖の取込みを最大限に促進させた状態で伸張刺激を加えると、さらなる増強(IGF-1 刺激と伸張刺激の加算効果)が認められた。この結果から、IGF-1 刺激と伸張刺激は異なった機構を介して糖の取込みを促進する可能性が窺えた。以上のような糖輸送に関わる分子メカニズムが明らかにされることは、科学的根拠に基づく効果的で効率的な糖尿病運動療法の開発につながると考える。
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© 2008 日本理学療法士協会
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