抄録
【目的】姿勢制御には体性感覚系、視覚系、前庭系が関与している。また姿勢や運動においてボディイメージが影響しているとされている。今回、静止立位のボディイメージと重心との関係を重心動揺計を用い調査したので報告する。
【対象】健常成人29名(男性16名、女性13名、平均年齢25.8±3.4歳)を対象とした。尚、被験者には研究に際し主旨を説明し同意を得た。
【方法】重心動揺計上に両上肢を体側に接した自然直立した姿勢となり足位は閉脚とした。重心動揺計の直立位置は被験者の両外果を結ぶ線の中心が検査台上の基準点と一致するように起立させた。計測時間は60秒、サンプリング周波数は20Hzとした。口頭指示は「真直ぐお立ち下さい」(以下、条件1)、「両側の外くるぶしを結ぶ線の中央に体重がのるようにお立ちください」(以下、条件2)の2条件とした。両条件下それぞれについてX方向動揺中心変位、Y方向動揺中心変位の平均値を出し重心位置をもとめた。また開眼・閉眼の両条件で実験を行い、計測から得られた総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、X方向動揺中心変位、Y方向動揺中心変位を用い条件1と条件2の間で比較を行った。統計学的検定にはt検定を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】1)総軌跡長:開眼は条件1で60.4±17.9cm、条件2で66.9±19.6cmであり、閉眼は条件1で84.4±32.9cm、条件2で92.2±34.6cmであった。2)単位軌跡長:開眼は条件1で1.0±0.3cm、条件2で1.1±0.3cmであり、閉眼は条件1で1.5±0.5cm、条件2で1.6±0.5cmであった。3)外周面積:開眼は条件1で2.4±1.0cm2、条件2で2.7±1.0cm2であり、閉眼は条件1で3.6±1.8cm2、条件2で3.9±2.0cm2であった。4)X方向動揺中心変位:開眼は条件1で-0.1±0.6cm、条件2で-0.1±0.6cmであり、閉眼は条件1で-0.1±0.7cm 、条件2で-0.1±0.7cm であった。5)Y方向動揺中心変位:開眼は条件1で4.9±1.8cm、条件2で3.6±1.5cmであり、閉眼は条件1で5.0±1.7cm 、条件2で3.8±1.7cm であった。総軌跡長、単位軌跡長、外周面積、X方向動揺中心変位において有意な差は認められなかった。Y方向動揺中心変位において有意な差が認められた。
【考察】条件1において重心位置はZacharkowによる外果の前方5~6cmを通るとした報告と、中村らによる研究の外果から5.6±1.3cm前方を通るという報告に近い値を示していた。条件2において重心位置は条件1より後方に位置したが、すべての対象において外果の前方を通っていた。このことから意識下(ボディイメージ)における重心の位置の認識においても無意識下の姿勢制御機構が優位に働いている可能性があると考えられた。