抄録
【目的と背景】変形性膝関節症(以下、膝OA)は女性高齢者に多くみられる疾患であり、体重の増加がその重大な発生要因の一つとされている。また、胸椎後彎の増大も女性高齢者に多く見られる姿勢変化であり、膝関節の変形を助長する可能性が報告されている。ただし、胸椎後彎角を量的に測定し、膝OAとの関連について検討された報告は見当たらない。そこで本研究は、脊柱の彎曲角を量的に測定できるスパイナルマウスを用いて、膝OAと診断された女性高齢者(膝OA群)と膝OAが認められない女性高齢者(非膝OA群)の胸椎後彎角を測定し、膝OAとの関連について検討した。
【方法】被検者は当院通院加療中の女性高齢者で、膝OA群37名(年齢平均77.0±6.3歳)と非膝OA群26名(年齢平均74.2±6.9歳)である。被検者には、事前に本研究の主旨と内容について説明し、同意を得て研究を開始した。胸椎後彎角の測定は、インデックス社製のスパイナルマウスを用いて立位で計測した。また身長と体重を計測し、それから算出されるBMIと併せて比較検討した。統計処理は対応のないt検定を用いて、膝OA群と非膝OA群の測定値を比較した。なお、統計学的有意水準は5%とした。
【結果】膝OA群と非膝OA群の比較において、胸椎後彎角は膝OA群が43.2±1.3°、非膝OA群が34.2±11.5°であり、膝OA群の測定値が有意(p<0.05)に高い値を示した。身長(膝OA群:147.9±7.0cm、非膝OA群:150.0±6.3cm)、体重(膝OA群:52.4±6.9kg、非膝OA群:52.5±9.3kg)、BMI(膝OA群:23.9±2.7、非膝OA群23.2±3.1)には有意差は認められなかった。
【考察】本研究結果によると、女性高齢者において身長、体重、BMIには膝OA群と非膝OA群の値に有意差が認められなかったが、膝OA群の胸椎後彎角は非膝OA群の値より有意に高い値を示した。このことから、体重の増加よりむしろ、胸椎後彎角の増大が女性高齢者の膝OAを助長する要因である可能性が示唆された。