抄録
【目的】これまでの研究では,二重課題(Dual-Task)は転倒リスクなどの評価指標として検討されているが,練習課題として検討されたものは散見される程度である.そこで,本研究では高齢者の歩行におけるDual-Taskの練習課題としての有効性を検討することを目的とした.
【方法】対象は研究に同意の得られた歩行が自立または監視下で可能な高齢者25名(男性9名,女性16名,年齢78.5±7.1歳,MMSE26.0±3.5,疾患内訳:脊椎・脊髄疾患術後11名,脳血管障害9名,大腿骨頚部骨折3名,廃用症候群2名)とし,無作為に介入群12名,対照群13名に分けた.介入群は通常の理学療法に加えて計算課題を行いながらの歩行(Dual-Task歩行)練習を1回5~10分,週4回以上,3週間実施した.計算課題はあらかじめ対象者に記憶してもらったある2桁の数字(15以外)から歩行中に検者が言う数字を減算する方法で行った.また,対照群に対しても通常の理学療法に加えて介入課題と同等の量の通常歩行練習を行った.評価指標は10mの直線路での通常歩行,Dual-Task歩行を測定しそれぞれ歩行速度,重複歩距離,ケイデンスを算出した.測定時の計算課題は記憶してもらう数字を「15」として行い,回答数,正答数,誤答数を記録した.またTrail Making Test-B(TMT-B),Timed Up & Go Test(TUG),機能障害検査(下肢筋力,下肢筋緊張,下肢感覚,下肢関節可動域,疼痛,Optical Righting Reaction),FIMの「移動」を検査・測定した.また,介入前から介入後の変化率を(介入後-介入前)/介入前×100として算出した.統計処理にはt検定及び対応のあるt検定を用い有意水準を5%未満とした.
【結果】介入前は通常歩行速度が介入群0.65±0.36m/s,対照群0.98±0.40m/s,Dual-Task歩行速度が介入群0.51±0.28m/s,対照群0.79±0.31m/sと対照群が介入群に対して有意に高値であった(p<0.05).介入後においては全ての項目で群間に有意な差を認めなかった.介入後の群内比較では,両群ともに通常歩行速度,Dual-Task歩行速度,通常歩行ケイデンス,Dual-Taskケイデンス,TMT-B,TUGにて有意な改善を認めた.また,対照群のみにDual-Task歩行重複歩距離,1秒あたりの回答数,1秒あたりの正答数,機能障害検査にて有意な改善を認めた.通常歩行速度の変化率は介入群27.85±18.63%,対照群11.78±19.08%と有意な差を認めた(p<0.05).通常歩行ケイデンスの変化率は介入群17.82±13.08%,対照群7.14±11.00%と有意な差を認めた(p<0.05).通常重複歩距離の変化率は介入群8.92±14.24%,対照群3.89±10.58%と有意な差を認めなかった.
【まとめ】介入前に両群間で歩行能力に差があったものの,介入群にて歩行能力の改善率が有意に高いことからDual-Taskの練習課題としての有効性が示唆された.今後は,徒手課題でのDual-Taskなど課題の特性による影響も検討していきたい.