抄録
【目的】今日、地域在住高齢者のヘルスアップを目的とする運動介入が各地で盛んに行われている。多くの地域運動介入では、高齢者にとって無理のない低負荷な老人体操や有酸素運動から成る包括的な運動プログラムが取り入れられている。本研究では、高齢者に対する地域運動介入で汎用されているこのような包括的プログラムの長期的継続が高齢者の転倒因子としても重要な動的バランス制御に与える効果について検証することを目的に介入を行った。
【方法】地域在住高齢者77名(71.1 ± 0.8歳、男性22名、女性55名)を本研究の対象者とした。運動介入は、月に2回の運動指導と毎日の在宅運動プログラムから構成された。在宅運動プログラムでは、自重を用いた低負荷な筋力増強トレーニング、ストレッチング、バランストレーニング、更に30分以上のウォーキングを日課とした。バランス評価の指標として、Berg Balance Scaleより数値化が可能な1)片脚立ち時間、2)機能的リーチ、3)360°回転に要する時間、4)足台への交互4回ずつの足の上げ下ろし時間を採用し、更に、5)10m歩行時間、6)最大一歩幅、7)Timed up and go testを加えた計7項目の簡易計測を行った。これらのバランス指標の計測は運動介入開始から0、3、7、12、19、24、31ヶ月時点において行い、各バランス指標の経時的な変化について統計解析を行った。
【結果】計測指標のほとんどにおいて、介入初期の7ヶ月間において著しい改善が認められ、その後、そのレベルを維持するか、或いは、緩徐ではあるが有意な漸増的改善を認めた。しかし、介入の長期化とともに、10m歩行時間および片脚立ち時間において、一度改善された計測値のリバウンドが認められ、介入31ヶ月時における両指標の計測値は介入開始前の値と有意な違いを示さなかった。
【考察】本プログラム継続により介入後約半年間での著しい改善が認められ、その後もその改善が維持、あるいは更なる漸増的改善が認められたことから、現行の地域運動介入で普及している類似の包括的運動プログラムの有効性とそのバランスコントロールに与える長期的効果が示唆された。一方、本介入研究は31ヶ月に渡る長期追跡であったため、対象者全体の老化による影響が最終期のリバウンドとして一部の指標に反映したものと推察された。
【まとめ】31カ月に渡る長期の運動介入を実施し、高齢者のバランスコントロールに与える影響について継時的に追跡した。本研究の結果は、地域高齢者を対象とする転倒予防を意識した運動介入プログラム作成において、その期間設定や運動負荷量の経時的調整に対する参照データとして、大いに貢献できるものと考えられる。