理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1072
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理学療法基礎系
半側空間無視例の車いす操作に対するプリズム順応の影響
渡辺 学網本 和大沢 涼子目黒 智康佐藤 涼子小林 美奈子新井 智之桒原 慶太
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抄録

【はじめに】半側空間無視(以下USN)の治療法の一つであるプリズム順応法(以下PA)は、効果の持続性と課題以外への般化が得られリハビリテーション手段として有効とされている。日常生活動作への般化としては車いす操作時間が短縮されたとの症例報告があるがその内容は詳述されていない。そこで我々は第41回本学会において車いす操作に対するPAの影響をUSN2例について報告した。今回の研究では対象を追加してUSN10例とし検討した結果、新たな知見を得たので報告する。
【対象】対象は当院に入院し理学療法を実施した脳血管障害患者のうち、左USNを合併し車いす駆動が可能な10例(年齢平均74.8歳、平均罹病期間20.6日)を実験群、USNを示さない左片麻痺10例を対照群とした。研究内容については事前に説明の上同意を得た。【方法】両群ともPAの直前直後に車いすによる目標到達課題を行い、到達時間と到達位置誤差を比較するcohort研究とした。PAは、右に7度偏光するプリズム眼鏡を装着して右手でリーチ動作を50回反復した。車いす操作課題は、対象者の7m前方正面に5m幅両端およびその内側1.5mに4つの目印を置いた。このうち色の異なる1つを目標として車いすで到達する課題(WS課題)と、前方正面5m幅両端に目印を2つ置きその中点を主観的な目標とし車いすで到達する課題(WB課題)とした。いずれの課題も目標の手前1.5mを車いすが通過するまでの所要時間および通過位置を測定した。通過位置は目標まで直線的に到達した場合との左右距離誤差を計算した。これを目標の配置を左右4カ所ランダムに変更して繰り返し実施した。
【結果】WS課題において群間比較ではPA前の到達位置誤差に差を認めなかったが、操作時間は対照群が12.8秒に対し実験群が15.6秒と有意に遅かった。群内比較では、実験群の到達時間は左端の目標に対してPA前20.9秒がPA後12.0秒と有意に短縮したが、その他の配置と到達位置誤差では有意な差はみられず、対照群はいずれも有意差を認めなかった。WB課題における群間比較では到達位置誤差と到達時間のいずれも有意差を認めなかった。群内比較では、実験群の到達位置誤差がPA前右27.7cmからPA後左16.9cmと有意に左へ偏倚した。
【考察】決められた目標への車いす操作に関して本研究のUSN例では、空間の左側に目標が位置する場合に最終的な到達位置は著しい偏倚を示さなかったが到達までの時間は延長していた。PA後到達時間は即時的に改善された。これはPA前には左側にある目標を注意が向く視野空間に捕捉するため体幹(車いす)を左に向け身体右空間で目標を捉えようとしていたのが、PAにより注意が向く空間が左に拡大したことで正中位に目標を捉えるようになったためと考えられる。このことからPAは注意を左に偏倚させることによりUSN例の車いす操作にも般化することが示され、ADLを改善させる可能性があることが示唆された。

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© 2008 日本理学療法士協会
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