理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1543
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理学療法基礎系
骨格筋への磁気刺激が末梢神経に及ぼす影響
和田 真明藤本 太郎藤田 直人荒川 高光三木 明徳
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キーワード: 不活動, 末梢神経, 磁気刺激
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抄録

【目的】ベッドレストなどの非荷重は筋骨格系に重大な影響を及ぼす。藤本 (2007) は実験動物に対し非荷重の刺激として後肢懸垂を試みた結果、末梢神経の有髄軸索が萎縮することを明らかにしている。藤田 (2007) は骨格筋への磁気刺激が後肢懸垂による筋萎縮を軽減できることを述べた。しかし、非荷重にした筋に対する磁気刺激が有髄軸索の萎縮を軽減できるかどうかは未だ明らかになっていない。そこで今回、後肢懸垂の実験期間中の筋に対し磁気刺激を試みることで、磁気刺激が有髄軸索の萎縮にどのような影響を及ぼすのかを形態学的に検討した。

【方法】8週齢のWister系雄ラット9匹を、後肢懸垂のみを行った群(HS群)、後肢懸垂期間中に毎日磁気刺激を行った群(HS-M群)、同週齢の対照群(C群)の3群に分けた。磁気刺激には磁気刺激装置(Magstim200 、 ミユキ技研)を用いた。下腿後面筋の筋腹中央部を経皮的に100%出力(最大頂点磁場強度2.0T、 立ち上がり時間100µs、 パルス幅1msの単一位相波形)、刺激間隔20秒、1日20分間の条件で磁気刺激した。2週間の実験終了後、灌流固定を行い、大腿中央部の脛骨神経をエポキシ系樹脂に包埋した。約1µm厚の横断切片を作製し、トルイジンブルー染色後、光学顕微鏡にて観察を行った。各切片から300本以上の有髄軸索を無作為に抽出し、有髄軸索の横断面積を計測した。統計処理は1元配置分散分析後、Scheffeの多重比較検定を行った。全ての実験は、神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した。

【結果】脛骨神経の横断面像の観察により、C群の有髄軸索は互いに密接するが、HS群およびHS-M群においては線維間隙が拡大することが明らかとなった。HS群とHS-M群の軸索横断面積はC群に比べ有意に減少した。HS-M群の軸索横断面積はHS群よりも有意に縮小し、最小値を呈した。

【考察】藤本(2007)の先行研究と同様、後肢懸垂により有髄軸索は萎縮することがわかった。本研究により、今回の刺激条件の磁気刺激は後肢懸垂による有髄軸索の萎縮程度を増加させることが明らかとなったが、今のところその理由は不明である。有髄軸索の萎縮はインパルスの伝導速度低下を示唆するものである。よって、磁気刺激により筋の萎縮は軽減できる(藤田,2007)が、それを支配する末梢神経機能は維持されていない可能性があると考えられた。非荷重による筋萎縮に対する物理療法は筋の回復のみに着目するのでなく、末梢神経系への影響を考慮する必要がある。今後、磁気刺激の刺激様式や強度を変化させることにより、より適切な刺激条件を検索していきたい。

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© 2008 日本理学療法士協会
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