抄録
【はじめに】後縦靭帯骨化症(OPLL)は「頚椎後縦靭帯骨化症診療ガイドライン」によれば、脊髄症を発症すると軽快する場合は殆どなく、軽症を除き一般的に外科的治療を選択するとしている。その為術前運動療法の効果を検討した報告は少ない。今回手術適応のOPLL患者に約6ヶ月間の術前運動療法を実施した結果、運動機能が著明に改善し、手術適応外となって自宅復帰した症例を経験したのでここに報告する。尚、今回の発表にあたり、患者本人に口頭および紙面で説明し同意を得た。
【症例紹介】70歳代前半、男性。診断名は頚・胸椎OPLL、頚・胸髄症、心筋梗塞後冠動脈バイパス術(CABG)であった。現病歴は平成12年に右上肢の脱力を感じ、A病院で頚椎OPLLと診断、C3-7椎弓形成術を施行した。平成18年8月に両下肢筋力低下と歩行困難が出現し再入院となった。頚・胸椎手術予定となりB病院へ転院したが、9月の術前検査で冠動脈狭窄が発見され、11月上旬にCABGを施行した。その後12月22日に頸・胸椎手術の体力獲得目的で当院に入院し、25日PT・OT開始となった。
【入院時現症(H18.12.25)】意識清明、コミュニケーション良好で、神経学的所見は、腱反射が両下肢亢進、病的反射が右上下肢陽性であった。MMTは左上肢1~2、右上肢3+~4、両下肢が3~3+レベル、基本動作は寝返りが自立、起き上がりと起立は軽~中等度介助、歩行は不可であった。Barthel indexは45/100点、JOAスコアは13/17点であった。
【経過】訓練開始時は運動に対する疲労感が強かったため、低負荷(THRをHRmaxの40%、ボルグスケールで11、楽である)に設定し、PTで関節可動域訓練、立位保持訓練、OTで上肢の運動機能向上訓練を開始した。16病日目に立位保持訓練から起立着座訓練に変更、19病日目に平行棒内歩行、25病日目に前腕支持型四輪歩行車歩行(約30m)を開始した。27病日目にリカンベント式エルゴメーター(10分、56病日目に20分可)を追加、74病日目に起立着座訓練から踏み台昇降訓練(10cm台、147病日目に25cm台可)に変更した。84病日目に他院の主治医が運動機能の著明な改善が認められていると判断し、手術は適応外となった。103病日目にSide cane歩行を開始、112病日目に約60mを遠位監視レベルで可能となり、181病日目に自宅退院となった。
【退院時現症(H19.6.18)】神経学的所見は変化なく、MMTでは左上肢2~3、右上肢・両下肢共4~5レベルに向上した。基本動作は全て自立し、Barthel indexが75/100点、JOAスコアも14/17点と改善した。
【考察】約6ヶ月間の術前運動療法により、運動機能が著明に改善し、手術適応外になり自宅復帰した。このことから術前運動療法が手術適応のOPLL患者の運動機能を実用レベルまで改善される可能性もあることが示唆された。