抄録
【目的】成人脳性麻痺者において自立座位の可否は、日常生活動作や介助量に影響を与えるだけでなく、脊柱の変形や呼吸機能障害の誘因となる可能性がある。座位の自立のためには体幹筋の機能が重要と考えられることから、我々はこれまで超音波画像診断装置を用いて成人脳性麻痺者の腹筋および背筋の筋厚を測定してきたが、腹筋の中でも外腹斜筋(以下EO)、内腹斜筋(以下IO)、腹横筋(以下TA)の筋厚を個別に測定した報告はない。本研究の目的は、成人脳性麻痺者のEO、IO、TAの筋厚を測定し、自立座位の可否との関係性を明らかにすることである。
【対象と方法】対象は、重症心身障害児・者施設に入所中の成人脳性麻痺者37名(男性22名、女性15名、平均年齢37.5±11.5歳)とした。筋厚の測定には超音波画像診断装置(GE横河メディカル社製Logiq Book XP)を用い、左右両側のEO、IO、TAの筋厚を腸骨稜の直上で測定した。また健常者の標準値を求めるため健常成人20名(男性13名、女性7名、平均年齢23.1±3.6歳)についても同様に測定した。脊柱側弯による影響を小さくするため、測定した左右の筋厚のうち3筋の合計筋厚の小さい側の筋厚を用い、健常者の平均値を100%としたときの値を算出し、それぞれ%EO、%IO、%TAとした。統計処理は%EO、%IO、%TAの比較をFriedman検定を用いて行った。また成人脳性麻痺者を座位自立群(26名)と非自立群(11名)に分け、各筋の両群間の比較をMann-Whitney検定を用いて行った。本研究は京都大学医学部医の倫理委員会の承認を受け、本人または保護者の文書による同意を得て行った。
【結果と考察】成人脳性麻痺者の平均筋厚は、EOが3.8±1.7mm、IOが4.7±2.7mm、TAが2.7±1.8mm、健常成人の平均筋厚は、EOが7.9±2.5mm、IOが12.4±3.8mm、TAが4.3±1.2mmであった。%EOは49.2±21.6%、%IOは37.2±19.3%、%TAは59.2±20.8%であり、3筋の間に有意な差が認められた(p<0.01)。%EO(p<0.05)、%IO(p<0.01)については座位自立群が非自立群と比べて有意に大きな値となったが、%TAについては両群間において有意な差は認められなかった。本研究の結果、成人脳性麻痺者の腹筋筋厚は、健常者と比較して各筋ともに低値を示したが、%TAが最も大きな値となった。また自立座位の可否とEO、IOの筋厚との関係は認められたが、TAの筋厚との関係は認められなかった。これらのことから座位の自立のためにはEO、IOの機能が重要であると考えられる。またTAの筋厚は粗大な運動機能や活動性による影響を受けにくい可能性があることが示唆された。