理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 519
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骨・関節系理学療法
半腱様筋・薄筋腱を用いた膝前十字靭帯再建術後の膝筋力の回復経過
競技復帰時期の検討
大島 基紀市川 毅北川 和彦笹沼 和利金子 雅明筒井 稔久三谷 玄弥
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抄録

【目的】
膝前十字靭帯(ACL)再建術後の筋力の研究は数多くあり、競技復帰の時期は術後6ヶ月から段階的に許可する文献が多く見られる。また、復帰に際し、一般的な筋力指標として[膝伸展筋患健比:ハムストリングス/大腿四頭筋比(以下H/Q比)]が用いられているが下腿内旋・外旋筋力について言及しているものは少ない。本研究では、膝関節伸展・屈曲筋力に加え、下腿内旋・外旋筋力を術前および術後12ヵ月まで3ヶ月ごとに測定を行い、競技復帰時期の妥当性を筋力の経時的変化から検討したので報告する。
【方法】
対象は2004年11月から2006年10月の間に当院にて半腱様筋(ST)・薄筋(G)を用いたACL再建術を行った症例35名(男18名、女17名)で平均年齢26±10歳、平均体重63±11kgであった。症例には測定の主旨を説明し同意を得た。測定機器にはLUMEX社製CYBEX770を用い180deg/secの等速運動で膝関節伸展・屈曲、下腿内旋・外旋筋力を健側と患側にて測定した。測定は術前および術後3・6・9・12ヶ月で行った。得られた最大トルク値から体重比トルク値を算出し伸展・屈曲・内旋・外旋筋力を各測定時期で比較した。統計処理には分散分析と多重比較を用い、有意確率5%未満とした。
【結果】
患側屈曲筋力は、術前に比べ有意に低下を示すことはなく術後6ヶ月で有意に術前を上回った。患側伸展筋力は術後3ヶ月で一度有意に低下を示し、術後6ヶ月で有意に術前を上回った。患側外旋筋力は術後6ヶ月で有意に術前を上回ったのに対し、患側内旋筋力が有意に術前を上回ったのは術後9ヶ月であった。患健比(伸展・屈曲)は、術前で伸展90.7%・屈曲97.4%、同様に術後6ヶ月で80.7%・81.9%12ヶ月で92.5%、85%を示した。H/Q比は術前58.3%、3ヶ月70.7%、6ヶ月61.2%、9ヶ月63.3%、12ヶ月58.4%を示した。患健比(内旋・外旋)は、内旋は術前で96.9%、外旋は90.8%、同様に術後6ヶ月で91.7%、97.6%、12ヶ月時で85.5%、98.2%を示した。
【考察】
今回の結果より、一般的に言われている筋力指標(膝伸筋患健比80%・H/Q比60%)から考えると術後6ヶ月の競技復帰は妥当であるといえる。しかし、外旋筋・伸展筋・屈曲筋は術後6ヶ月で術前を上回るのに対し、内旋筋が術前を上回ったのは術後9ヶ月という結果であった。内旋筋の回復遅延は我々の先行研究で得られた結果と同様であり、その主動作筋腱を採取するST-G法の影響が残存している可能性があると考える。術後6ヶ月では屈曲・伸展での筋バランスはとれているが、内旋筋の回復遅延の影響により回旋安定性が低下している可能性が示唆された。今後競技復帰に際し、屈曲・伸展の評価に加え、下腿回旋筋の評価も有用であると考える。また、術後療法で下腿回旋筋を考慮する必要性が考えられた。

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© 2008 日本理学療法士協会
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