抄録
【はじめに】某高校サッカーチームのメディカルサポートを通じて様々なスポーツ傷害を経験するが、中でも腰痛を訴える選手が多い。その腰痛発生の要因には、腰椎の器質的変化や体幹筋の機能障害などが考えられる。機能障害としては、体幹筋の瞬発力低下、体幹筋の持久力低下、腹・背筋群の持久力不均衡などが考えられる。今回、メディカルチェックを実施し、腰痛の発生と体幹筋の持久力(筋力低下、不均衡)との関連性について検討したので報告する。
【方法】本研究に同意を得た某高校男子サッカー部員19名(年齢16.4±0.5歳、体重57.6±5.3kg)を対象とし、アンケートにて腰痛経験の有無と腰痛発生時期を運動時、疲労時、安静時に分類して調査した。徒手検査として体幹の屈曲、伸展、側屈、回旋運動時の疼痛誘発の有無、腰部の圧痛テスト、坐骨神経の疼痛誘発テスト、SLRテストを実施した。体幹の筋力測定は、Kraus-Weberテスト大阪市大変法(以下、KW)を用い、重錘負荷を体重の10%とした。統計学的分析にはFisherの直接確立計算法を用い、危険率を5%未満とした。
【結果】アンケートでは腰痛経験者が16名であり、発生時期別には運動時が10名、疲労時11名、安静時10名であった。徒手検査では、体幹屈曲時に陽性が3名、伸展時7名、側屈時9名、回旋時4名であり、腰部の圧痛テスト陽性が5名、坐骨神経の疼痛誘発テスト陽性3名、SLRテスト陽性1名であった。KWでは体幹の筋持久力が低下している者(以下、持久力低下)が7名、腹筋群と背筋群の筋持久力に不均衡(以下、インバランス)が認められる者が9名であり、瞬発力の低下が認められる者はいなかった。発生時期別で疲労時に腰痛を有する群(以下、あり群)の内、持久力低下が6名、インバランスが5名であった。疲労時に腰痛を有さない群(以下、なし群)の内、持久力低下が1名、インバランスが4名であった。あり群において持久力低下が多い傾向があるが、両群間で有意な差は認められなかった(p=0.07)。
【考察】今回のメディカルチェックでは腰痛を有する者が多かったが、腰痛経験者と発生時期別に腰痛を有する者とは必ずしも一致しなかった。単に腰痛の有無を見るだけでなく、発生要因を探る上で発生時期を考慮した調査が必要であると考えられる。特に疲労時に腰痛を有する者には、体幹筋の持久力低下が多い傾向があり、スポーツ活動後の疲労時の腰痛発生には、体幹筋の持久力低下の関与が示唆された。またインバランスは疲労時の腰痛発生と明らかな関連が認められなかったが、今後このような筋力の不均衡が腰痛発生に及ぼす影響を調査する必要性がある。