抄録
【目的】投球障害の分析において、肩関節後方組織の伸張制限・拘縮による内旋制限が多く報告されているが、多くは投球側と非投球側の比較検討であり、投球障害を肩・肘障害に分けて肩関節可動域との関係を検討したものは少ない。そこで今回は肩肘障害選手の特性を明確化し、投球障害の有無が肩関節可動域(ROM)に与える影響を検討することを目的とした。
【対象】平成18年度長野県理学療法士会による高校野球メディカルチェック事業(以下MC)に参加した選手150名を分析対象とした。
【方法】MCにおいて調査した項目は、学年・投球側・障害歴・運動時痛・非合理的投球フォームの有無・ROM・柔軟性・アライメント・理学所見であった。調査の結果、投球時に肩・肘関節のいずれにも運動時痛がないものを障害なし群(NP群)、肩痛を有すものを肩障害群(以下肩群)、肘痛を有すもの肘障害群(以下肘群)とした。検討項目は、1)各群内の投球側と非投球側の肩ROMの比較検討、2)NP群と各障害群の肩ROM比較検討とした。
【結果】NP群25名、肩群27名、肘群34名であった。腰痛を有する選手、肩と肘に重複して症状がある選手は除外した。1)各群内の投球側と非投球側の肩ROMの比較検討:NP群では水平内転、外転位(以下2nd)内旋、第3肢位(以下3rd)内旋が投球側で有意に低下していた(P<0.05)。肩群では2nd外旋、3rd外旋・内旋にて有意に投球側で低下しており(P<0.05)、2nd内旋で低下傾向を認めた(P=0.07)。肘群では2nd内旋(P<0.001)、total arc(外転位外旋・内旋和)(P<0.001)が投球側で有意に低く、3rd内旋で低下傾向を認めた(P=0.087)(paired t-test)。2)NP群と各障害群の肩ROM比較検討:投球側の屈曲、水平内転、2nd外旋・内旋、3rd外旋・内旋のすべての項目について、NP群と肩群、NP群と肘群間の比較検討において有意な差を認めなかった(Unpaired Student's t-test)。
【考察】各群内の検討において、NP群では先行研究同様、野球選手の特徴が伺えた。肩群ではtotal arcに差がなく、投球側外旋に有意差を認めたことから投球側肩ROMが外旋シフトしていると考えられる。肘群ではtotal arcと内旋に有意差を認めたことから内旋制限がより強度であることが示唆された。いずれの群も投球側の内旋制限を認めたが、各群の特性というよりは野球選手としての特性とも考えられる。加えて、NP群と各障害群間において肩ROMに有意差を認めなかったことから、障害の有無を検討する場合には、肩関節単独のROMを評価するだけでは不十分であり、運動連鎖を考慮した評価方法の必要性が示唆された。現在我々は、投球動作を各主要関節の回旋運動の連鎖であるとする概念をもとに検討を進めている。