抄録
【目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)後の獲得関節可動域を左右する因子は術前因子として、年齢、肥満、関節変形の程度、術前関節可動域など多く散見される。しかし、術後因子である腫脹、炎症が関節可動域獲得の障害になっていると思われる症例を臨床上多く経験する。今回、炎症反応の鋭敏なマーカーであるC反応蛋白質(以下、CRP)に着目し、獲得関節可動域との関連について経時的に追って検討をした。
【方法】対象は変形性膝関節症に対しTKAを行った25名30肢。内訳は男性1名、女性24名。平均年齢75.1歳。術前よりCRP高値を示した症例は除いた。術後21日目で他動膝屈曲可動域120°以上(以下、良好群12肢)、120°未満(以下、不良群18肢)の2群に分けた。2群間の膝屈曲可動域(術前、術後3日目、術後7日目、術後14日目、術後21日目)、CRP値(術後1日目、術後7日目、術後14日目、術後21日目)をそれぞれt検定を用いて統計処理。危険率は5%とした。
【当院TKAクリニカルパス】全例に術前評価、術直後よりA-Vインパルス、弾性ストッキング着用。術後3日目よりCPMを開始。荷重訓練は術後4日目より開始し、訓練後のアイシングを指導。術後3週目にて他動120°膝屈曲可動域獲得、退院を目標に行っている。
【結果】平均膝屈曲可動域は術前(良好群126.3°、不良群113.6°)、術後3日目(良好群72.1°、不良群58.9°)、術後7日目(良好群102.5°、不良群81.4°)、術後14日目(良好群118.3°、不良群95.3°)術後21日目(良好群、124.6°、不良群103.9°)と、各週で2群間に有意差が認められた。一方、平均CRP値は術後1日目(良好群4.12mg/dl、不良群5.93mg/dl)、術後7日目(良好群2.31mg/dl 不良群2.99mg/dl)術後14日目(良好群0.53mg/dl 不良群0.86mg/dl)術後21日目(良好群0.23mg/dl 不良群0.70mg/dl)と、各週、不良群が高値を示したが統計学的な有意差は認められなかった。術後4週で退院となった不良群11名の術後28日目の平均膝屈曲可動域は109.6°であり、炎症反応は2名を除き正常化していた。
【考察】良好群と不良群にてCRP値に有意差が認められず、術後炎症と獲得関節可動域への関連性の確証はつかめなかった。術後早期からの関節可動域訓練やアイシング指導により炎症を軽減することで、軟部組織の癒着、過度な腫脹が予防可能であったと考察する。しかし、傾向として各週、不良群でCRP値は高い傾向にあり、1週遅れてCRP値が正常化していた。関節可動域においては術後4週目に至っても、術前平均可動域にも及ばなかった。CRP値は炎症反応を反映したマーカーであるが、実際の「腫れ」や「疼痛」には個人差がある。また、術中因子である術式(PCL温存の有無)、機種、侵襲等を考慮し今後術後CRP値と獲得関節可動域を検討する必要があると考える。