抄録
【目的】他動的外乱刺激トレーニング (PBT)は,バランス器具を用い,治療者が加えた外乱刺激に対し姿勢を保持するトレーニングである.近年,前十字靱帯損傷や変形性膝関節症患などの膝疾患に対してPBTを導入した報告が散見されるが,その特異的な効果については未だ不明な点が多い.そこで本研究は,人工膝関節置換術(TKA)後者に対してPBTを施行し,従来の理学療法の効果と比較検討することを目的とした.
【方法】TKA施行後,本研究の趣旨に対して同意の得られた外来患者22例(男性1例,女性21例,75.5±4.7歳)をPBT群(PBT+通常理学療法,9例)と対照群(通常理学療法,13例)の2群に分類した.適応基準は,TKA施行後の入院期理学療法が終了し,退院時に自力歩行が可能な者とした.なお,膝関節以外の下肢の関節に障害を有する者や通常の理学療法においても膝に著しい疼痛が認められる者は対象から除外した. PBTは,Fitsgeraldらの方法を参考に,2種類のトレーニング法を実施した.1つ目は多軸のバランスボード上に被験者が両脚で立ち,他動的外乱刺激に対して姿勢を保持する課題とし, 2つ目は片脚をプラットホームに,対側をローラーボードにのせて,ローラーボードに与える他動的外乱刺激に対して,姿勢を保持する課題とした.なお,外乱刺激は時間的・空間的にランダムな外乱刺激を加えた.トレーニング開始時期は,退院後1週目からとし,週2~3回の頻度で12回とした.1回のPBTの時間は,2種類をそれぞれ3分間とした.評価指標は,Timed“Up & Go”Test(TUG),Functional Reach Test(FR),10m最大歩行速度(MWS) ,膝伸展筋力を用い,介入期間前後に測定した.統計解析はMann-WhitneyのU検定と分散分析を用い,有意水準を5%未満とした.
【結果】年齢,性別およびベースライン時の測定項目には両群間に有意な差を認めなかった.TUGについては, PBT群のみトレーニング前後で有意な改善を認め(8.4±1.0秒vs 7.1±1.0秒, P<0.05),PBT群のトレーニング終了時のTUGは対照群に比べて有意に速かった.FRはトレーニング前後で両群ともに有意な変化を示さなかった.MWSはトレーニング前後の比較で両群ともに有意な改善を認めたが(P<0.05),トレーニング終了時において両群間に有意な差を認めなかった.また膝伸展筋力は,対照群のみトレーニング前後で有意な改善を示したが(P<0.05),トレーニング終了時において両群間で有意な差を認めなかった.
【結論】PBTをTKA術後患者に導入した際の特異的な効果として,TUGのように支持基底面を変化させながら,より動的なバランスを必要とする移動動作を改善させることが示された.