抄録
【目的】
歩行の開始などにおいて身体を前方へ押し出す力を生じさせるために足圧中心(以下、COP)が遊脚側後方へ移動し、COPと重心の位置関係にずれが生じる。今回スポーツ競技で動き出しの姿勢となることが多い「構え」に着目し、下肢アラインメントの違いによる構えの姿勢から前方へのステップ動作開始時のCOP位置変化と筋活動との関係について検討した。
【方法】
対象は健常男性10名10肢(平均年齢 24.3±2.2歳、平均身長 172.6±7.1cm、平均体重 65.9±3.7kg)とした。
まず、ステップ動作中の右下肢アラインメントを川野によるknee-in & toe-out(KITO)、knee-out & toe-in(KOTI)、Neutralから群分けした。COPの計測は重心動揺計(ユニメック)のプレート上で構えの姿勢(足部は肩幅で平行,膝関節屈曲位)をとり、両膝関節は屈曲位のまま骨盤の挙上や下制が可及的に生じないように左下肢から振り出し、踵から接地するようにステップ動作を行い、構えの姿勢をとる試技により行った。COPの移動開始から最も後方に移動するまでの距離と前後・左右成分の距離、軌跡長、時間を計測した。筋活動は、Myosystem1400(Noraxon)を用い、支持側の大腿直筋、内側広筋、外側広筋、前脛骨筋(TA)、後脛骨筋(TP)、ヒラメ筋(SOL)、長腓骨筋(PL)から記録した。試技は6回行い、ビデオカメラで前額面と矢状面から3回ずつ撮影した。以上について次の2点より検討した。
(1)下肢アラインメントとCOP位置変化の関係
(2)COP位置変化と筋活動パターンの関係
【結果】
被験者はKITO群4名、Neutral群6名に分類でき、KOTI群は0名であった。(1)について、両群間でCOPの位置変化に有意な差はなかった。(2)については以下の所見が得られた。COPの移動距離が平均より大きい者では下肢アラインメントに関わらず、ステップ開始時に床反力が最大となる時期に限局したTP、SOL、PLの活動がみられた。また、TAはすべての被験者でステップ開始直後に活動し始めるが、COPの左右成分の距離が平均より小さい者では、TAの活動開始直後にPLの活動がみられた。
【考察】
今回の結果ではステップ動作の下肢アラインメントと動作開始時のCOP位置変化に関連は認められなかった。動作開始直後のCOPの後方移動は前方への推進力と支持側下肢への荷重を促す作用があるが、この作用は支持側下肢のアラインメントに影響されないことがわかった。また、COP移動距離が大きい場合の床反力が最大となる時期に限局した底屈筋群の活動は、移動が大きくなったCOPを進行方向に戻す作用に動員されているものと推察された。逆にCOP移動距離が少ない場合は足部の剛性を維持するために底屈筋群の早くからの活動を要したものと考えられた。左右成分の距離の大小でPLの活動のタイミングが変化したことから、PLはステップ動作開始時の側方への動的安定性に関与しているものと思われた。