理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1401
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骨・関節系理学療法
アキレス腱炎に対する運動療法
体幹,股関節機能に着目して
知花 徹也土井 昭二鳥居 善也矢野 奉紀神谷 秀明
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抄録

【はじめに】現在、アキレス腱炎の治療についての報告は安静、固定(テーピング)、足底板、手術というものが主流を占めている。果たしてこれらの治療のみで根本的な症状の解決は得られるのであろうか。今回、安静、固定などを行わずに運動療法により良好な結果を得られた症例について報告する。

【方法】運動部に所属し運動中、運動後にアキレス腱に疼痛を認める10代女性に対し動作分析(片脚立位、45cm台昇降動作、hip up)、Active SLR testにより筋出力、各筋の協調性の左右差を比較した。患側では健側と比較し片脚立位、45cm台昇降動作にて体幹の患側への側屈、knee inを認めた。圧痛所見はアキレス腱内側に強く認める。それに対し安静指導は行わず、体幹筋、股関節周囲筋の運動療法を、筋出力、協調性の制限因子がTightnessによるものである場合stretchを指導した。

【結果】運動療法、stretch指導から2週間で体幹側屈、knee inは改善し、圧痛所見は認めるものの動作時痛はほぼ消失する。

【考察】運動時に体幹の患側への側屈やknee inにより、距骨下関節の回内が起こり、アキレス腱内側に伸張ストレスが加わる事により炎症所見を増悪させていると考える。体幹の患側への側屈、knee inの主な原因は、殿筋群の筋出力低下、体幹を安定させた状態で股関節を運動させるのに必要な腸腰筋や体幹深層筋の機能低下によるものであると考える。殿筋群の筋出力低下は、股関節外旋筋のTightnessにより中殿筋後部線維、大殿筋の筋長が短くなっており、その状態での収縮を行っていたために生じたと考える。それにより、股関節、骨盤帯を安定させることが出来ず骨盤の側方移動が大きくなりknee inが、それによる立ち直り反応や代償動作にて体幹の側屈が起こり、結果、体幹深層筋の機能低下が生じたと考える。本症例の場合、それらに対する運動療法により、体幹の側屈、knee inが改善されたことが症状の改善に繋がったと考えられる。

【まとめ】アキレス腱炎において局所の炎症所見の原因が体幹筋、股関節周囲筋の筋出力、協調性の低下によるところもあり、必ずしも安静は必要でなく、運動療法により症状をコントロール出来ることが示唆された。現状、アキレス腱炎のバックグラウンドには、練習量の増加によるover use、睡眠などの休息時間の減少、痛くても練習を休みたくないという患者本人の強い気持ちなどがあると思われる。理学療法士として、安静という決断は本当に正しいのであろうか。発表内容の検討は大いに必要であるが、安静やテーピングによる対症療法ではなく、運動療法などによる根治療法を目指していくべきであると考える。

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© 2008 日本理学療法士協会
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