理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 377
会議情報

内部障害系理学療法
胸部固定帯装具装着の有無による咳流速の変化について
健常者と開心術後患者との比較
風間 寛子高橋 哲也熊丸 めぐみ田屋 雅信設楽 達則西川 淳一多賀谷 晴恵安達 仁金子 達夫大島 茂谷口 興一
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抄録

【目的】手術後の呼吸器合併症の予防のためには、効果的な咳嗽・排痰の早期再獲得が求められるが、正中切開による開心術直後の患者は、咳嗽時に痛みを伴うこともあるために排痰が困難となりやすい。近年、咳嗽時や起居動作時の疼痛緩和、創部の保護を目的に、開心術後の患者に対して胸部固定帯装具Heart Hugger(HH)を使用する施設が散見されるようになり、その効果についても検討されるようになった。しかし、HH装着の有無が咳の流速に及ぼす変化について十分な検討はなされていない。そこで、本研究ではHHの装着の有無による咳流速の変化について、開心術術後患者と健常人とで比較を行い、HHの効果について検討した。

【方法】呼吸器疾患を有さない男性健常人10例(26.7±5.6歳)と、開心術後理学療法の処方を受けた男性患者11例(65±7.9歳、弁置換術5例、冠動脈バイパス術4例、その他2例)を対象に、チェスト社製電子スパイロメーター(Chestgraph HI-101)を用いて、HH非装着時と装着時の最大咳流速(Peak Cough Flow:PCF)の測定を行った。開心術後患者は、手術前にPCFの測定についてオリエンテーションを行い、研究実施の同意を得た。また全身状態が安定しICUを退室していることを測定の条件とし、すべての対象患者で手術後3日目に測定を行った。開心術後患者はPCFと共に、HH非装着時と装着時で、咳を行う自信(セルフエフィカシー:SEPA)と咳を行う際の痛みについて評価を行った。SEPAの評価にはSEPA尺度を用い、痛みの評価はVASを用いた。

【結果】健常者では、HH非装着時と装着時でPCFに有意な差は認めなかった(HH非装着時vs HH装着時:599.0±120.6 vs 630.4±104.3L/min)。関心術後患者では、HH非装着時・装着時ともに、PCFは健常人に比べて有意に低値を示したが、健常人同様、HH非装着時と装着時でPCFに有意な差は認めなかった(HH非装着時vs HH装着時:224.5±54.7 vs 236.9±55.3L/min)。SEPAも差を認めなかったものの(HH非装着時vs HH装着時:60[10-100] vs 70[10-100]、n.s.)、VASはHH装着時に有意な改善を認めた(HH非装着時vs HH装着時:5[1-8] vs 3[0-5]、p<0.01)。

【考察】健常人でも開心術後患者でもHHがPCFに影響を与えることはなかった。しかし、開心術後患者ではHHを装着せず同様の咳嗽が可能としても、咳嗽により創部の痛みが誘発されると、患者の咳嗽の意欲や手術後の重症感に影響することになる。したがって、HHはPCF改善の目的以上に、咳嗽や体動時の術創部の痛みの軽減や患者の心理的負担を軽減させるため必要と考えられた。

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© 2008 日本理学療法士協会
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