抄録
【背景と目的】高齢者はたとえ障害を有したとしても、慣れ親しんだ地域、住み慣れた住居での生活を望むことは当然であろう。我々理学療法士にとって、高齢者自身ができる限り自立した居宅生活を営めるよう支援することは重要な職務である。本研究は、要介護高齢者が自宅生活を継続するための効果的な支援法の構築を目指して行われた基礎調査である。
【対象と方法】対象は、平成14年8月に当通所リハビリテーション施設を利用し、要介護度が要支援または要介護1と認定された高齢者のうち、重度の認知症が認められないこと(Mini - Mental State Examination;MMSが20点以上)と独居世帯ではないことの条件を満たした39名(男性8名、女性31名、平均年齢82.6±6.5歳)である。評価項目は、性別・年齢などの個人プロフィールやMMSの他、握力、下肢筋力(足把持力)、歩行速度、Barthel Index(BI)、老研式活動能力指標、Visual Analogue Scaleによる主観的健康感、老人会や趣味活動などの社会参加の有無であり、これらの項目について平成14年8月にベースライン調査として評価した。分析は、平成19年8月、評価実施から5年経過した時点において、自宅での生活が継続できているか否かを前向きに調査し、自宅生活継続可能群と不可能群におけるベースラインの測定値を比較検討した。統計処理は、年齢の比較には対応のないt検定、性と社会参加の有無の検定にはFisherの直接確率計算法、それ以外の測定値は年齢を調整した共分散分析を用いて比較した。
【結果】自宅生活継続可能群16名と不可能群23名の2群間の比較において、主観的健康感(p<0.05)と社会参加の有無(p<0.01)に有意差が認められ、継続可能群の主観的健康感は不可能群のそれより有意に高く、社会参加をしている高齢者が継続可能群に有意に多かった。年齢、性別、MMS、握力、下肢筋力、歩行速度、BI、老研式活動能力指標には有意差は認められなかった。
【考察】本研究の結果から、軽度要介護高齢者が自宅生活を継続するためには、自身を健康だと思うことおよび社会との関わりを持つことの重要性が示唆された。ただし、本研究は対象例が少なく、また認知症のある高齢者や一人暮らし高齢者を対象から除外しているため、結果を一般化することはできない。今後症例を増やすとともに対象範囲を広げて結果を一般化することが課題である。