抄録
【はじめに】近年のリハビリテーション(以下、リハ)において早期離床・早期歩行が勧められている。当院の回復期リハ病棟では患者様の“活動度”を、担当チームを中心に設定している。活動度を決定する要因として、身体機能、動作能力、転倒のリスクはないかなどが挙げられる。本症例は、“できるADL”と“しているADL”に差があり、度重なる転倒により活動度をあげるのに難渋した。
【症例】62歳、男性。平成19年5月13日、発語困難となり救急受診。翌日、意識レベル低下、神経症状増悪、右片麻痺出現。出血性脳梗塞(中大脳動脈領域梗塞、左被殻周囲に出血巣)を認めた。同年6月11日、当院回復期リハ病棟入院。基本動作は、寝返り~坐位保持は軽介助、移乗は全介助。ADL動作はトイレ動作2人介助。FIM51/126点。
【経過】入院時、病棟での活動度は移乗全介助であった。スタッフコールは押せず、車椅子操作・管理不十分であった。入院6週、リハ場面での移乗動作は見守りとなった。しかし、病棟では車椅子の管理不十分のため、依然として自立困難であった。入院9週、病棟での移乗動作自立となるまでに、自己移乗もしばしば発見され、病棟での転倒は7回であった。転倒の原因は、身体機能の低下、高次脳機能障害(注意障害、構成障害、遂行機能障害)が考えられた。転倒の度に担当チームで話し合い、環境設定、指導方法の統一、チェックシートの利用、本人への声かけなどを行った。これらの対策は、やりっぱなしにするのではなく、評価しながら環境設定による抑制がおこらないように注意した。入院14週より病棟スタッフによる歩行練習を開始した。開始当時は介助を要したが、徐々に身体機能・バランス能力の向上を認め、歩行見守りとなった。入院18週、家屋改修も一段落し、外泊を行った。この外泊で、自宅にて2回転倒。その後の外泊中の転倒はなかったが、残存する高次脳機能障害と今までの経緯から、入院22週の退院当日まで病棟での歩行自立に至らなかった。FIM105/126点。
【まとめ】本症例を通して、患者様に対する転倒防止の対策について改めて考えさせられた。理学療法士として身体機能の評価やアプローチだけでなく、チーム内での情報交換、病棟ADLへの介入と環境設定などの調整も必要であり、かつ患者様への説明も重要である。この時の注意する点は、転倒するからと抑制する対策のみでは回復期リハ病棟としての役割を失ってしまい、患者様の能力を引き出せないばかりか、いつまでも活動度の向上を図ることはできない。今回、活動度を決定していくうえで、担当チーム内で十分に話し合うことができたと思う。それでも転倒を繰り返してしまったことは、高次脳機能障害と患者様へ患者様が納得のいく説明を行えていなかったのかもしれない。今後も、“危ないから…”だけでなく、患者様とも一緒に対策を考えていけたらと思う。