理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1668
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生活環境支援系理学療法
北海道における地域生活支援
ある痙直型両麻痺児の自己決定を尊重したQOL向上についての取り組み
石倉 崇石倉 昇子中野 由子
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抄録
【はじめに】近年、特別支援教育や障がい者自立支援法の策定に伴い、児童一人ひとりのニーズに基づく生活支援が求められるようになった。しかし、北海道においては心身に障がいを持つ子どもたちに対する教育環境及び医療・福祉環境等が身近に整備されていない地域も少なくない。このような環境下における地域生活では環境面の整備だけでなく、依然として残存する障がいに対する偏見等の社会的な問題も課題であると言える。障がいの有無に関係なく、人として平等に、安心して生活できる環境の整備が望まれ、医療・福祉・教育・労働等の機関連携により地域生活を支援していくことが重要となる。今回、地域に在住する痙直型両麻痺児に対して、本人・家族のニーズ及び彼らの自己決定の意思を尊重した包括的な支援に取り組んだ。約5年間の経過を後方視的に検証するとともに生活支援についての知見を加えて報告する。
【ケース紹介】脳室周囲白質軟化症による中等度痙直型両麻痺の10歳男児でGMFCSはレベル2。現在、普通小学校特殊学級に在籍している。移動は主として車椅子だが、学校内では普通学級への授業参加も積極的であり、多くの友達に囲まれて生活している。
【生活支援の取り組みと経過】小学校入学に伴い、学校側と関係機関とで支援会議を実施し、関わり方や取り組むべき課題について確認・検討した。翌年には訪問リハビリテーションを開始し、在宅生活における環境整備も含め、本児に必要とされる目標や方針を共通化し、施設間で連携を図った。この間、身体的成長に伴って立位・歩行が困難となり、医師に整形外科的手術を勧められたが、本人・家族は学校生活を貴重な社会経験ができ、初めてできた友達と過ごす大切な時間ととらえ、この生活の継続を希望した。我々もこの自己決定を尊重したフォローを継続した結果、立位・歩行機能の向上とともに本児自身の行動に対する自信や活動の自己実現といった精神面の向上にも結びついた。
【まとめと考察】現在、本児はさらなる急激な身体面の成長により、立位・歩行は不能となり、GMFCSはレベル3からレベル2となったが、児にとって貴重な時期を本人・家族が望む環境下で生活できたことは本児のライフステージにおいて有意義であったと考える。リハビリテーションとは「全人間的復権」が保障されることであり、どんなに重度の障がいがあっても、差別・偏見なく、自己による選択・決定が尊重されるべきものである。ノーマライゼーションの理念の下、乳幼児から高齢者に至るまで、障がいの有無等に関係なく、自身でライフスタイルを自己決定でき、住み慣れた場所で豊かに幸せに地域生活を送ることができるよう、QOLを尊重した包括的・継続的・体系的な生活支援が重要になると考える。
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© 2008 日本理学療法士協会
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