抄録
【目的】現在、我々は全国標準脊髄損傷データベース(DB)構築に取り組んでいる.その基礎的資料作成を目的に、全国の医療機関と関連施設における外傷性脊髄損傷者(脊損者)の治療状況と使用評価法についてアンケート調査を行ったので報告する.
【対象と方法】対象は、大学病院(133施設)、労災病院(31施設)、国立病院・施設(159施設)、公的医療機関(201施設)、一般病院(286施設)の計810施設である.アンケートには、医療機関名は原則非公開の旨を明記し、無記名・重複回答可形式で協力を依頼した.内容は、治療状況(6項目)、使用評価法(6項目)、DB(2項目)の計14項目とした.H20年2・9・10月の計3回、上記施設のリハ科宛に郵送した.
【結果】493施設から回答が得られた(回答率60.8%).回答者は医師・理学(作業)療法士で85%を占めていた.調査時点で227施設に1095名の脊損者(呼吸器使用の高位頚損37名、頸髄損傷653名、胸腰髄損傷260名)が入院していた.入院数別では、10名以上が21施設(入院数542名、総数の49.4%)、2名以下が130施設(入院数180名、総数の16.4%)であった.脊損者が入院していない266施設のうち91施設は「受け入れが困難」としていた.使用頻度の高い評価法(以下、単位;施設数)として、麻痺(高位)分類(有効回答332):Frankel分類(152)、Zancolli分類(216)、ASIA Impairment Scale(165)、筋緊張評価(有効回答274):Ashworth Scale(249)、改良Ashworth Scale(90)、ADL評価(有効回答407):FIM(318)、BI(235)、SCIM(10)、褥瘡分類(有効回答291): DESIGN(148)、ブレーデンスケール(133)、Shea分類(46)、DBについて(有効回答324):「使用してみたい」(230)、データバンクについて(有効回答249):「必要である」(239)であった.
【考察】日本における脊損者は特定の施設に集中し、脊損者を受け入れていた半数以上の施設は少数の脊損者を治療している傾向が伺えた.また、「受け入れが困難」の理由に「マンパワー不足」・「ハード面」・「診療報酬」の問題をあげる施設が多く、日本における脊損医療の問題点が浮き彫りとなった.各施設間での使用評価法は統一的ではなく、複数の評価法を併用している傾向が伺えた.そして、脊損治療における標準化(全国標準DB)と情報共有化(データバンク)の潜在的ニーズが高いことが伺えた.本調査は、脊損医療の現況を把握するための重要なデータとなることが考えられる.本研究は、日本損害保険協会ならびに日本理学療法士協会の2007年度研究助成により実施された.