理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 青山 敏之, 金子 文成
    セッションID: O2-001
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】運動イメージ想起に伴う脊髄反射の変化に関しては多くの相反する結果が報告されており,未だ一定の見解が得られていない.本研究の目的は運動イメージ想起によるH反射と伸張反射の振幅の変化を比較することにより,運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に及ぼす影響を明らかにすることである.また,その効果がイメージ想起する運動の強度や方向に依存して変化するかを明らかにすることである.
    【方法】十分な説明の上同意の得られた健常者を対象とした.測定肢位は椅子座位とし,実験用に作成された伸張反射測定装置の上に左下肢を載せ安楽な姿勢を保った.測定開始前,被験者は足関節底屈・背屈の随意性最大収縮(MVC)と50%MVCを実施した.そして,それぞれの強度の運動イメージ想起を行えるよう練習した.筋電図は表面皿電極を使用し,前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋からH反射と伸張反射を記録した.H反射は脛骨神経の電気刺激により導出した.伸張反射は角速度を3段階に設定し,足関節の他動的な背屈運動に伴う伸張反射を記録した.実験課題1:安静保持,足関節背屈運動イメージ想起(背屈イメージ),足関節底屈運動イメージ想起(底屈イメージ)とした.想起する運動イメージの強度はMVC時のものとした.実験課題2:実験課題1の条件に加え,想起する運動イメージの強度を50%MVCとした底屈・背屈イメージを実施した.統計学的解析はH反射,伸張反射の振幅に関して条件を要因とした反復測定による一元配置分散分析を実施した.
    【結果】実験課題1:H反射では条件を要因とした主効果はなかったが,伸張反射では底屈イメージ時に安静時よりも有意に振幅が増大した.実験課題2:背屈イメージではH反射,伸張反射ともに想起する運動の強度の変化に伴う主効果はなかった.底屈イメージでは,H反射の振幅に変化がなかったが,伸張反射ではイメージ想起する運動の強度がMVCの時のみ安静時よりも有意に振幅が増大した.
    【考察】H反射と伸張反射ではそれぞれの反射回路に筋紡錘が含まれるかどうかに相違がある.つまり,反射回路に筋紡錘が含まれる伸張反射はそうでないH反射に比べγ運動ニューロンによる筋紡錘の感度変化の影響を受けやすいといえる(Jeannerod, 1995).よって,本研究において運動イメージ想起に伴い伸張反射の振幅が選択的に増大したことは,運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に寄与している可能性を示唆する.さらに,その効果はイメージ想起する運動の強度と方向に依存するといえる.
    【まとめ】 本研究ではH反射と伸張反射を用い運動イメージ想起が脊髄反射の利得調節に及ぼす影響について検討した.その結果,運動イメージ想起により選択的に伸張反射の振幅が増大した.これは運動イメージ想起がγ運動ニューロンを介した脊髄反射の利得調節に寄与していることを示唆する.
  • 森下 元賀, 網本 和
    セッションID: O2-002
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】脳卒中患者に対する治療法として、非麻痺側の運動を制限して麻痺側の運動を促すConstraint-Induced Movement Therapy(以下CI療法)が実施されはじめている.CI療法は従来上肢に対する治療として用いられているが、下肢に適用した報告はほとんどない.本研究の目的は脳卒中患者に対する治療の基礎研究として、健常若年者における短時間の片側下肢の使用制限がバランス能力、下肢機能に与える影響を検討することである.
    【方法】実験に対する趣旨を説明し、書面にて同意の得られた健常若年者30名(男性12名、女性18名、平均年齢24.1±4.9歳)を対象とし、介入群とコントロール群を半数ずつ抽出した.介入群に対しては蹴り足の膝関節を屈曲5度に固定した膝装具を装着し、10分間のトレッドミル歩行(速度2.7km/h)を行わせた.コントロール群に対しては下肢の固定は行わず、介入群と同様のトレッドミル歩行を行わせた.歩行課題の前後でハンドヘルドダイナモメーター(アニマ社製μTasMT-01)を用いての等尺性膝伸展筋力体重比(%)、および重心動揺計(アニマ社製Gravicorder GS-7)を用いての足長に対する立位重心安定域の前後、左右径(%)、姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability、以下IPS)を測定した.重心安定域は前後左右への最大重心移動時の重心動揺中心の距離から求めた.IPSは静的立位、最大の前後左右重心移動時の重心動揺の矩形面積と重心動揺中心の距離から求めるもので、数値が大きいほど安定しているとされている.今回は閉脚位でIPSおよび重心安定域を算出した.統計学的解析は各群の歩行の前後で対応のあるt検定を行ない、統計学的有意水準は5%未満とした.
    【結果】介入群、コントロール群の両下肢ともに歩行の前後で等尺性膝伸展筋力体重比は有意な変化はなかった.重心安定域の前後径は介入群、コントロール群ともに歩行の前後で有意な変化はなかったが、左右径は介入群のみ歩行後に有意に増加した.IPSはコントロール群で歩行前1.32±0.19、歩行後1.27±0.18で有意な変化はなかったが、介入群では1.33±0.24、歩行後1.40±0.21で歩行後に有意に増加した.
    【考察】立位保持能力は大腿四等筋などの下肢筋力と同様に足趾把持力や足底の二点識別覚の関連性が高いといわれている.今回介入群において、歩行の前後で筋力の変化は起こっていなかったが重心安定域の左右径およびIPSの増加が見られた.左右径の増加には足趾把持力は関連がないと考えられることから、片側下肢の運動量の増加による感覚入力の増加がバランス能力の向上に寄与したと考えられる.今回健常若年者に対しても片側下肢の運動制限によってバランス能力が向上したことから、脳卒中患者への応用の可能性が示唆された.
  • 西山 保弘, 工藤 義弘, 矢守 とも子, 中園 貴志
    セッションID: O2-003
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    本研究では温浴と冷浴との温度の落差が自律神経活動や体温に与える影響を検討したので報告する.
    【方法】
    文書同意を得た健常男性5名(平均年齢23.8±4.91歳)に温浴41°Cと冷浴15°Cならびにその両方を交互に行う交代浴の3つの部分浴を実施した.交代浴の方法は水関らの温浴4分,冷浴1分を4回繰り返し最後は温浴4分で終わる方法に準じた.温浴のみは計20分、冷浴のみは計10分浸漬した.安静馴化時から部分浴終了後120分間の自律神経機能、舌下温度、血圧、心拍数、動脈血酸素飽和度、手足の表面皮膚温を検出した.測定間隔は安静馴化後、施行直後、以下15分毎に120分までの計7回測定した.表面皮膚温度は、日本サーモロジー学会の測定基準に準じサーモグラフィTH3100(NEC三栄株式会社製)を使用した.自律神経機能検査は、心電計機能を有するActivetracer (GMS社製 AC301)を用いて被検者の心拍変動よりスペクトル解析(MemCalc法)を行いLF成分、HF成分を5分毎に平均値で計測した.統計処理は分散分析(one way ANOVA testと多重比較法)を用いた.
    【結果】
    副交感神経活動指標であるHF成分は、交代浴終了後60分以降より有意差をみとめた(P<0.05).温浴と冷浴は終了後60分で変化が一定化し有意差は認めなかった.交感神経活動指標とされる各部分浴のLF/HF比は、温浴と冷浴は変化が少なく交代浴は終了後60分から低下をみたが有意差は認めなかった.舌下温度は、交代浴と温浴(P<0.01)、交代浴と冷浴(P<0.01)、温浴と冷浴(N.S.)と交代浴に体温上昇を有意に認めた.表面皮膚温にこの同様の傾向をみた.最高血圧は、交代浴と温浴(P<0.01)、交代浴と冷浴(P<0.01)、温浴と冷浴(P<0.01)で相互に有意差を認め交代浴が高値を示した.
    【考察】
    交代浴と温浴および交代浴と冷浴の相異はイオンチャンネル(温度受容体)の相異である.温浴は43°C以下のTRPA4、冷浴は18°C以下のTRPA1と8°Cから28°CのTRPM8、交代浴はこのすべてに活動電位が起こる.もう一つは温度幅である.温水41°Cと冷水15°Cではその差は26°C、体温を36°Cとすれば温水温度とは5°C、冷水温度とは21°Cの温度差がある.この温度幅が交代浴の効果発現に寄与する.単温の温浴や冷浴より感覚神経の刺激性に優れる理由は,温浴の41°Cと冷浴の15°Cへの21°Cの急激な非侵害性の温度差が自律神経を刺激しHF成分変化を引き起こす.また交代浴の体温上昇からは、温度差は視床下部の内因性発熱物質(IL1)を有意に発現させたことなる.
    【まとめ】
    温度落差が自律神経活動に及ぼす影響は、単浴に比べ体温を上昇させること、副交感神経活動を一旦低下を惹起し、その後促通するという生理的作用に優れることがわかった.
  • 出田 良輔, 椎野 達, 坂井 宏旭, 植田 尊善
    セッションID: O2-004
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】現在、我々は全国標準脊髄損傷データベース(DB)構築に取り組んでいる.その基礎的資料作成を目的に、全国の医療機関と関連施設における外傷性脊髄損傷者(脊損者)の治療状況と使用評価法についてアンケート調査を行ったので報告する.
    【対象と方法】対象は、大学病院(133施設)、労災病院(31施設)、国立病院・施設(159施設)、公的医療機関(201施設)、一般病院(286施設)の計810施設である.アンケートには、医療機関名は原則非公開の旨を明記し、無記名・重複回答可形式で協力を依頼した.内容は、治療状況(6項目)、使用評価法(6項目)、DB(2項目)の計14項目とした.H20年2・9・10月の計3回、上記施設のリハ科宛に郵送した.
    【結果】493施設から回答が得られた(回答率60.8%).回答者は医師・理学(作業)療法士で85%を占めていた.調査時点で227施設に1095名の脊損者(呼吸器使用の高位頚損37名、頸髄損傷653名、胸腰髄損傷260名)が入院していた.入院数別では、10名以上が21施設(入院数542名、総数の49.4%)、2名以下が130施設(入院数180名、総数の16.4%)であった.脊損者が入院していない266施設のうち91施設は「受け入れが困難」としていた.使用頻度の高い評価法(以下、単位;施設数)として、麻痺(高位)分類(有効回答332):Frankel分類(152)、Zancolli分類(216)、ASIA Impairment Scale(165)、筋緊張評価(有効回答274):Ashworth Scale(249)、改良Ashworth Scale(90)、ADL評価(有効回答407):FIM(318)、BI(235)、SCIM(10)、褥瘡分類(有効回答291): DESIGN(148)、ブレーデンスケール(133)、Shea分類(46)、DBについて(有効回答324):「使用してみたい」(230)、データバンクについて(有効回答249):「必要である」(239)であった.
    【考察】日本における脊損者は特定の施設に集中し、脊損者を受け入れていた半数以上の施設は少数の脊損者を治療している傾向が伺えた.また、「受け入れが困難」の理由に「マンパワー不足」・「ハード面」・「診療報酬」の問題をあげる施設が多く、日本における脊損医療の問題点が浮き彫りとなった.各施設間での使用評価法は統一的ではなく、複数の評価法を併用している傾向が伺えた.そして、脊損治療における標準化(全国標準DB)と情報共有化(データバンク)の潜在的ニーズが高いことが伺えた.本調査は、脊損医療の現況を把握するための重要なデータとなることが考えられる.本研究は、日本損害保険協会ならびに日本理学療法士協会の2007年度研究助成により実施された.
  • ―身体機能と歩行能力について―
    中野 雄樹, 佐々木 和広, 石田 和宏, 増田 武志, 菅野 大己, 安部 聡弥, 三浦 眞優美, 大久保 晶
    セッションID: O2-005
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】
    当院では人工股関節全置換術(THA)後、退院に向けて運動療法や動作指導などのリハビリテーション(リハビリ)を行っている.しかし、本邦においてTHA後早期のリハビリ効果に対する報告は、無作為化比較試験(RCT)では皆無である.本研究の目的は、THA後のリハビリについてRCTにより調査を行い、身体機能・歩行能力に対するリハビリ効果を検討することである.

    【対象と方法】
    対象は平成19年6月から平成20年9月までに当院で片側変形性股関節症によりTHAを実施した39例(男性;7例、女性;32例、平均年齢59.9±6.9歳)とし、無作為にリハビリ介入群(19例)と非介入群(20例)に分けた.両群ともに当院のパンフレットに沿ったADL・歩行指導を看護師が行い、介入群はそれに加え、理学療法士・作業療法士による個別的な運動療法・ADL指導を実施した.尚、全ての対象者に研究の内容を説明し、同意を得た上で調査を行った.
    評価時期は、術前・退院時・退院後1ヶ月とした.検討項目は、ROM、Hand-Held-Dynamometerにて測定した股関節外転筋力(HHD外転筋力)、VAS、10m歩行、6分間歩行とし、統計学的検討は、Mann-Whitney U-testを用い、有意水準は5%未満とした.

    【結果】
    術前では、全ての検討項目において有意差は認められなかった.ROMは退院時の股関節外転のみで術側値で介入群が非介入群に対し有意に改善した(P<0.05).HHD外転筋力では退院時・退院後1ヶ月の術側値で介入群が有意に高値を示した(P<0.01).VASは退院後1ヶ月で介入群が有意に低値を示し、良好であった(P<0.01).歩行能力は、歩行速度では退院時・退院後1ヶ月で、6分間歩行では退院後1ヶ月で介入群が有意に高値を示した(P<0.05).

    【考察】
    宮本らは、THA後の股関節外転筋力と疼痛が歩行能力に影響を及ぼすと報告している.また、Wangらは、THA後にリハビリを行うことで歩行能力が効果的に回復したと述べている.今回の結果でも、THA後に積極的なリハビリを行うことで疼痛が軽減、股関節外転筋力が増強し、歩行能力が向上したと考えられる.以上の結果より、THA後のリハビリ介入は、後療法の質的向上の一因となり得ることが示唆された.
  • 土内 智史, 水野 拓, 坂口 唯, 小林 守, 小早川 さや子, 三宅 信一郎, 鳥越 誠之, 平上 二九三, 横山 茂樹
    セッションID: O2-006
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    姿勢や体幹可動性は,腰痛症等の疾患に関与する要因でもあり,その評価は重要である.しかし簡便で客観的な評価指標に乏しい.そこで本研究は,傾斜計を利用した前額面における姿勢と体幹可動性の測定方法に関する信頼性について検証することを目的とした.
    【方法】
    対象は,研究への同意が得られた健常若年者12名(男性8名,女性4名)とした.平均年齢22.9歳(20~25歳),身長161.9±6.6cm,体重57.1±8.4kgであった.
    測定項目は,前額面における姿勢として(1)肩峰を結ぶ傾斜度および(2)腸骨稜を結ぶ傾斜度を計測した.体幹可動性として,立位時における(1)最大前屈曲角度(体幹前屈),(2)最大後屈角度(体幹後屈),(3)左右最大側屈角度(体幹側屈)とした.
    測定方法に関して,(1)体幹前屈は,第7頸椎棘突起に傾斜計の上端をあて、体幹を最大前屈し,保持できる肢位を測定.(2)体幹後屈は,胸骨柄に傾斜計をあて、両上肢を屈曲90°位に伸ばした状態から体幹を最大後屈して保持できる肢位を測定.(3)体幹側屈は,肩峰を結ぶ線上に定規をあてて,これに傾斜計を載せ,体幹を最大側屈して保持できる肢位を測定.さらに左右の角度を合計して求めた.これに則って盲目化された3名の検者によって実施した.
    計測には,傾斜計マルチレベル(シンワ社製A-300)と60cmのアルミ製定規を用いた.測定回数は,被験者1名に対して各運動方向へ1回ずつ施行し,検査日を変更して計3回計測した.
    統計学的処理は,本評価法の信頼性(再現性)を検証するため,統計処理ソフトSPSS12.0を用いて,級内相関係数(ICC)を算出した.
    【結果及び考察】
    検者内信頼性では,3名の検者のICC(1,1)は,肩峰傾斜度(0.37以下),腸骨稜傾斜度(0.30以下),体幹前屈(0.75~0.88),体幹後屈(0.39~0.73),体幹側屈(0.64~0.97)であった.
    検者間信頼性について,ICC(2,1)は,肩峰傾斜度(0.05),腸骨稜傾斜度(0.15),体幹前屈(0.88),体幹後屈(0.58),体幹側屈(0.81)であった.ICC(2,3)は肩峰傾斜度(0.13),腸骨稜傾斜度(0.23),体幹前屈(0.96),体幹後屈(0.81),体幹側屈(0.93)であった.
    桑原はICCの値が0.6以上であれば信頼性があるデータとして使用可能としていることから,検者内および検者間において肩峰および腸骨稜傾斜度の信頼性が低かった.このことから,姿勢の計測には不適切であったと考えられる.体幹可動性では,体幹後屈のICC(1,1)およびICC(2,1)が低い傾向にあった.この要因として,膝屈曲等の代償動作が抑制し難かったと考えられる.
    今後は,変形を伴う高齢者に対しても,より精度の高い信頼性のある測定方法のマニュアル化が課題である.
  • 岩下 篤司, 吉川 卓志, 市橋 則明, 三浦 元
    セッションID: O2-007
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ペダリング動作を行う場合、一定仕事率でも負荷量・回転数の組み合わせに多様性があるため、関節トルクや筋活動、エネルギー消費なども変化する.一定仕事率でのペダリング動作においてエネルギー効率の高い回転数の報告は認められるが、理学療法で用いる仕事率での報告は少ない.また回転数が変化すれば一定時間内での反復数も変化することから、筋活動量へ影響することが考えられる.そこで本研究の目的は一定仕事率でのペダリング動作において回転数を変化させたときの下肢筋の平均筋活動量と最大筋活動量から、一定時間内の筋活動量の特性と一回転中の筋活動効率に与える影響を明確にすることとした.
    【対象と方法】対象は健常成人10名(年齢26.9±4.6歳、身長162.4±8.2cm、体重54.7±14.2kg)とし研究の同意を得た.また市立奈良病院倫理委員会の承認を得た.筋電図の測定筋は右側の大殿筋、大腿直筋、内側広筋、半腱様筋、腓腹筋内側頭の5筋とした.表面筋電図はTRIAS(DKH社製)を用いプリアンプ内臓電極を筋線維の走行に沿って貼付した.また電気角度計を膝関節に装着し筋電図と同期化した.自転車エルゴメーターは下死点にて膝関節屈曲30°に設定しトークリップを装着した.仕事率60Wと120Wにて40、60、80、100、120rpmの5種類の回転数でランダムに施行した.12秒以上の安定した筋電図を採取した後、電気角度計を基準に6秒間、つまり40rpmでは4回転分、60rpmでは6回転分、80rpmでは8回転分、100rpmでは10回転分、120rpmでは12回転分に分類し、安定した筋電図をデータとして用いた.平均筋活動量については6秒間の筋電図を整流平滑化し二乗平均平方根にてサンプリングデータの平均値を求め、3秒間の最大等尺性収縮を100%として振幅を正規化し%平均筋活動量(以下、平均値)を算出した.また、最大筋活動量は1周期の最大値を5周期分採取しその平均値を算出した後、%最大筋活動量(以下、最大値)を求めた.統計処理にはFriedman検定、Scheffeの多重比較を用いて、回転数の変化による影響を分析した.
    【結果及び考察】大殿筋では、60Wと120Wともに40~80rpmでは筋活動量に差はなく、100rpm以上の回転数で平均値・最大値ともに高くなった.大腿直筋では、60W・120Wの平均値において40~80rpmで差はなく100rpm以上の回転数で高くなり、最大値では60rpmで最も低い筋活動量を示した.内側広筋では、60Wの平均値・最大値ともに40~80rpmで差はなく100rpm以上で高くなった.120Wでは平均値・最大値ともに60rpmで最も筋活動量が低く、120rpmにて最も高くなった.半腱様筋では、60Wと120Wともに40~100rpmで差はなく、120rpmで平均値・最大値ともに高くなった.腓腹筋内側頭では、回転数の増加とともに平均値・最大値は増加した.各筋ともに高い回転数を用いることにより筋活動量を有意に増加させることができ、大腿四頭筋は60rpmで筋活動量が低くなると考えられた.
  • ―非移動側足底の接地面の増減による検討―
    井上 隆文, 中道 哲朗, 山口 剛司, 鈴木 俊明
    セッションID: O2-008
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】
    立位での一側下肢への側方体重移動練習は、様々な目的で用いられる.その中でも我々は、内腹斜筋と腰背筋の筋活動を調整する目的で実施することが多い.この時、非移動側足底の接地面の増減により腰背筋の筋活動が変化することを経験する.そこで今回は、立位での一側下肢への側方体重移動において、非移動側足底の接地面の増減が内腹斜筋と腰背筋の筋活動に及ぼす影響を、足底圧中心位置(以下COP)と筋電図評価にて検討した.
    【対象と方法】
    対象は、本研究に同意を得た健常男性7名とした.まず、被験者の両下肢を重心計のプレート上に置き立位姿勢をとらせた.運動課題は、開始肢位を立位姿勢とし、利き脚側(以下移動側)へ側方体重移動を行った後、立位姿勢に戻ることとした.運動課題は、移動側・非移動側足底が全て接地している課題(以下足底接地課題)と、非移動側の前足部のみ接地する課題(以下踵離地課題)の二通りとした.測定項目は、COPと両内腹斜筋、両腰背筋の筋電図波形を記録した.運動課題中の規定は体幹・骨盤の回旋は最小限にし両肩峰は水平に保持させた.側方移動距離は、規定内で各被験者が最大に移動できる距離とした.上記の運動課題を連続的に3回実施することを1施行とし、各課題につき3施行測定した.分析方法はCOP軌跡の時間的変化とそれに伴う導出筋の筋活動パターンを分析した.
    【結果】
    両運動課題において、COPは側方体重移動の開始に伴い移動側へ変位した.両内腹斜筋はCOPの移動側変位初期から活動し、移動側へ変位するに伴い筋活動は増加傾向を示した.足底接地課題時の両腰背筋は、COPの移動側変位時は一定の筋活動を示した.一方、踵離地課題時はCOPの移動側変位に伴い、移動側腰背筋の筋活動を認めず、非移動側腰背筋は増加傾向を示した.
    【考察】
    内腹斜筋は仙腸関節の剪断力に対する安定化作用があることをSnijdersらは報告している.本運動課題での両内腹斜筋は、移動側仙腸関節では荷重に伴う剪断力、非移動側では、側方体重移動の駆動として同側下肢で床を押すことで生じる床反力により剪断力が加わるため、仙腸関節の安定化のために活動したと考えられる.両腰背筋は各運動課題により異なる筋活動パターンを示した.具体的には足底接地課題時の両腰背筋は、骨盤の水平位保持のために同時活動したと考えられる.一方、踵離地課題時では非移動側骨盤を挙上する目的で非移動側腰背筋が活動したと考えられる.本研究では、両肩峰を水平位に保持しているため体幹の立ち直り運動が生じる.この時非移動側腰背筋は、体幹の非移動側の側屈作用を担うために活動し、移動側腰背筋は体幹の立ち直り運動を促す目的で筋活動を抑制すると考えられる.この結果からは、立位での一側下肢への側方体重移動練習を実施する際には、その目的に応じて非移動側足底の接地面を考慮する必要があると推測された.
  • 畠中 泰彦, 中俣 孝昭, 久保 秀一
    セッションID: O2-009
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    椅座位での重錘を用いた大腿四頭筋の筋力増強法は,臨床で多用されてきた.しかしその負荷トルクは運動の終末域で最大となることが知られており,屈曲約70°で最大となる筋の長さ張力関係に基づく筋のトルクパターンとは一致しない.我々の先行研究で,下腿が水平となる時点の膝関節屈曲角度が約70°となる身体の傾斜により,椅座位より大きな負荷トルクを加えることが可能となった.さらに6週間のトレーニングの結果,椅座位でのトレーニングと比較して最大トルクが有意に増大していた.一方,トレーニング効果の要素として筋肥大がある.近年のリハビリテーション期間の短縮にともない,医療機関でのリハビリテーションによって筋肥大が得られない時期に退院となる症例が増加している.従って継続的に集団トレーニング,在宅での自主トレーニングにおいて簡便で効果的な方法の必要性がさらに高まっている.今回我々は,6週間の本トレーニングによる筋肥大の状態を椅座位でのトレーニングと比較した.
    【方法】
    事前に実験の目的と安全性について説明し,同意の得られた健常成人24例(男女各12例,年齢21.4歳,身長1.63m,体重59.1kg(平均))を対象とした.
    筋肥大の指標として筋厚を用いた.筋厚は筋の横断面積と相関があり,計測が簡便なため採用した.超音波診断装置(MEDISON社:SONOACE PICO)を使用し,仰臥位,膝伸展位にて,前部大腿最大部位(遠位60%)を計測し,これを大腿四頭筋筋厚と定義した. 予め等速性運動機器(Biodex System 3)にて最大トルクを計測した.慣性力を最小とするため運動速度は30°に設定した.この最大トルクの80%を10RMと定義した. 我々の先行研究で,下腿が水平となる時点の膝関節屈曲角度が約70°となる設定は仰臥位で股関節70°屈曲位であった.今回,この肢位の大腿,下腿の傾斜が設定可能な架台を作成した.
    被験者を無作為に2群に分け,仰臥位(以下,臥位群),椅座位(以下,座位群)でトレーニングを行わせた.期間は6週間,頻度は3日/週,回数は10回を1セットとし,3セット/日,強度は10RMとした.
    なお,本研究は学内臨床試験倫理審査委員会の承認の下,実施した.
    【結果】
    臥位群の大腿四頭筋筋厚の増加率は14.6%であり,座位群の4.4%と比較して有意に高値を示した.
    【考察】
    一般に筋肥大の発現には,8~12週間のトレーニング期間が必要といわれている.しかし,本研究ではトレーニング開始6週後において,明らかな筋肥大を認めている.我々の先行研究で得られたトレーニングの短期効果,すなわちトルクの増大に加え,長期効果も証明されたと考える.今後,健常高齢者での検証,臨床応用のためシステムの改良を図る.
  • 栗原 智久, 川島 敏生, 栗山 節郎, 大見 頼一, 宮本 謙司, 尹 成祚, 長妻 香織, 小林 朋美, 齋藤 千津子, 加藤 宗規, ...
    セッションID: O2-010
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】膝前十字靱帯(ACL)損傷の要因として動的アライメント、特に膝外反との関連が指摘されている.しかし、動的アライメントと関節可動域(ROM)・筋力との関連については一定の見解は得られていない.

    【目的】今回、ACL損傷の受傷機転として多くみられる着地動作に着目し、着地時の動的アライメントと下肢のROMおよび筋力との関連について検討した.

    【対象】関東大学リーグ2部所属の大学女子バスケットボール選手12名で年齢18.2±0.58歳、身長160.5±4.21cm、体重56.71±6.37kg.下肢関節外傷や障害がなく練習に参加できているものとした.本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った.

    【方法】1.動的アライメント:動作課題として20cm台から利き足で線上への片脚着地を行った.デジタルビデオカメラ(100Hz)にて前方(前額面)より撮影し、Game Breakerを使用し二次元解析を行った.マーカーは両側の上前腸骨棘と膝蓋骨中央、足関節内外果中央とした.膝外反角度の定義は上前腸骨棘から膝蓋骨中央を結んだ線と膝蓋骨中心から足関節内外果中央を結んだ線の成す角度を測定し、180°からこの角度を引いた値とした.足尖接地時をInitial Contact膝外反角(IC膝外反角)、着地後、最大に外反した角度を最大膝外反角とした.2.ROM:伸展位での股関節内外旋角・足関節背屈のROMを測定した.股外旋角度から股内旋角度を引いて2で除したものを股中間位とした.3.筋力:1)等速性筋力:等速性(60°/sec)にて膝伸展・屈曲および両脚・片脚スクワットを測定した.2)等尺性筋力:徒手筋力計にて股外転、開排、内旋、外旋筋力を測定した.Pearsonの相関係数を用いて統計処理を行った.

    【結果】IC膝外反角・最大膝外反角と筋力はすべての項目で相関は認められなかった.IC膝外反角においては股外旋角および股中間位と負の相関が認められた.また、最大外反角と股外旋角および股中間位で負の相関が認められた.

    【考察】二次元上では股内旋により生じる見かけ上の外反の判別に限界があるが、先行研究では二次元解析での外反と三次元解析間での外反では中等度の相関があるとされている.今回の結果から、股外旋角が低下している選手、また股中間位が内旋方向にシフトしている選手に、着地時の膝外反角が増大する傾向が認められた.これらのことから、股伸展位での回旋角度を評価することが、着地時の動的アライメントを推察する上で重要であると考えられた.

    【まとめ】動的アライメントと下肢のROMと筋力の関連を検討した.膝外反角と筋力には相関が認められなかったが股外旋角に負の相関が認められた.股回旋角度が着地時の膝外反角に関連していることが示唆された.
  • ―市販体重計を用いた座位での下肢荷重力測定―
    村田 伸, 大田尾 浩, 村田 潤, 宮崎 正光, 甲斐 義浩
    セッションID: O2-020
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者や身体障害者の下肢・体幹機能を定量的に測定する方法は、等速性筋力測定機器やハンドヘルドダイナモメーターによる筋力測定、または立位における重心動揺の測定などが一般的である.しかしこれらの方法は、使用する測定機器が高価なものが多く、測定できる臨床現場は限られている.そこで演者らは、高齢者および脳卒中片麻痺患者の下肢・体幹機能を簡便かつ定量的に評価する方法として、市販体重計を用いた座位での下肢荷重力測定法を考案し、その測定値の有用性について検討したので紹介する.

    【方法】測定は座位姿勢で、足底に置いた体重計を垂直方向に最大努力下で左右別に3秒間押すのみである.測定は左右2回ずつ行い、左右の最大値を合計して下肢荷重力(kg)とし、体重比百分率(%)に換算して分析した.なお、下記に示す健常成人ならびに要介護高齢者には、研究の趣旨と内容および被験者にならなくとも不利益が生じないことを十分に説明し、同意を得て研究を開始した.

    【健常成人における検討】座位での下肢荷重力が、下肢や体幹の機能を反映しているのか否かを検討するため、健常成人31名(男性12名、女性19名、平均20.4±0.6歳)を対象に下肢荷重力、下肢筋力(大腿四頭筋筋力)、体幹機能(坐位保持能力)を測定し、それらの関連性を分析した.相関分析の結果、それぞれに有意な正相関(0.46~0.66)が認められ、下肢荷重力は下肢筋力および体幹機能と密接に関連していることが示唆された.

    【要介護高齢者における検討】座位での下肢荷重力測定法の再現性と妥当性を検討するため、介護老人保健施設に入所中の43名(84.8±6.5歳)の要介護高齢者を対象に、下肢荷重力、Barthel Index(BI)得点、歩行能力を測定し分析した.テスト-再テスト法による級内相関分析の結果、下肢荷重力はICC=0.823という良好な再現性が認められた.また、下肢荷重力とBI得点とは有意な正相関(0.75)が認められ、自力歩行が可能だった25名の下肢荷重力と歩行速度とも有意な正相関(0.53)が認められた.さらに判別分析の結果、歩行可能群(25名)と不可能群(18名)を最もよく判別する下肢荷重力体重比の判別点は42.9%であり、判別的中率は86.0%であった.なお、下肢荷重力体重比が50%以上であれば、対象とした全ての高齢者が歩行可能であった.

    【考察】これらのことから、本測定法は大まかな基準ではあるが、高齢者の簡易下肢・体幹機能評価法として有用であることが示唆された.とくに、坐位で測定が可能なため、立位や歩行が困難、あるいは治療上立位動作が許可されていない高齢者の予後予測に使用できる可能性が示唆された.なお学会当日は、脳卒中片麻痺患者を対象とした研究結果や本測定法の限界についても報告する予定である.
  • ―老人医療費による検討―
    小松 泰喜, 岡田 真平, 田中 司朗, 東郷 史治, 武藤 芳照
    セッションID: O2-021
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】昨年の第43回日本理学療法学術大会において、理学・作業療法士充足率(以下、PT・OT充足率)の分布に大きな地域間格差が見られるとともに、介護保険認定率との関連性から、充足率と認定率とに正の相関があり、その分布は不均衡であることを報告した.健康の社会的決定要因には様々あるとされ、平均寿命とその国の健康には関連があるとされている.本研究は、PT・OT充足率の地域間格差と老人医療費との関連性から、PT・OTの地域間是正と健康格差のための基礎資料に資することを目的とした.【方法】都道府県別の人口データとの整合性からPT・OTの各協会事務局より平成17年度の都道府県別の会員数を入手し、使用データとした.また、厚生労働省統計表データベースシステムより平成17年度都道府県別一人当たり老人医療費他、医療費マップなどのデータを二次的に得た.これらから得られた変数により、新たな変数であるPT・OT充足率(PT・OT会員数/10万人当たり人口)、老人医療費(老人医療費/全国平均比)などを算出した.また、PT・OT充足率の分布や老人医療費との関連が理解しやすいようにそれぞれの全国比を1とし、老人医療費を目的変数に検討を行った.解析は、老人医療費と各因子との関連を単変量解析により行った.【結果】OT・PT充足率関連の因子と老人医療費に一定の関連が認められた.PT充足率と老人医療費との関係では、正の相関が認められた(r=93).OT充足率においても正の相関がみられた(r=0.93).また、真の因果関係を探るため、医療供給体制に関連した変数により調整し検討したが、平均寿命などと区別できず、同様にそれぞれの充足率が有意な結果となった.【考察】PT・OTの適正配置(地域間格差)が整然としなければ、医療費(老人医療)の支出に不均衡が生じるとの仮説のもと、検討を行った.一方、近年健康の社会的決定要因の研究からGDP、平均寿命、教育水準などが大きく関与していると報告されている.今回の結果からPT・OTの充足率と、老人医療費に高い相関がみられたことは、PT・OTの供給により老人医療費の支出に大きな影響のあることが示唆された.昨年本学会にて報告したようにそれぞれの地域差指数に大きな差があることを踏まえ、介護保険認定率および老人医療費の両面から、地域間格差の是正による適正な専門職の配置が望まれることが示唆された.【まとめ】PT・OT充足率と老人医療費には高い相関関係があり、健康の社会的決定要因に配慮した養成校の地域間格差の是正が必要である.しかしながら、医療供給体制(病院数、医師数、病床数等)が医療費を上げていることも事実であり、今後、これらに関連した変数を調整し、より詳細な検討を行うことが必要である.また、専門職の不適正な配置による地域間格差が生じることのないよう、教育システムの改革が必要であると考えられた.
  • 奥田 真規, 岡村 憲一, 池田 一, 正岡 悟
    セッションID: O2-022
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当機関では身体障害者更生相談所業務を行っており、このうちの補装具費支給判定について、医師、身体障害者福祉司等の専門職員及びCPOに加え、平成19年度より理学療法士が加わり連携を図っている.平成20年度より補装具費支給制度の改訂により、車いす処方の基準にティルト機構が導入されたが、これをうけて今回ティルト機構やリクライニング機構の適応を探るべく当センターにおける車いす判定内容について調査した.また当センターでは補装具費支給判定に際して、身体機能評価に加え日常生活動作(ADL)の評価を行ってきた経緯もあり、ティルト機構やリクライニング機構の適応とADL評価の関係についても検討を行った.
    【方法】
    平成19年度1年間の当機関における車いす処方の判定は74例.この74例についてティルト機構やリクライニング機構処方の有無とその適応理由を後方視的に調査し、ティルト機構やリクライニング機構が必要な理由、身体機能やADLを調べた.ADL評価には機能的自立度評価法(FIM)を用いた.ティルト機構やリクライニング機構の有無により分けた2群について、FIM運動評点を便宜的に連続変数とみなし両群の比較を行った.
    【結果】
    車いす判定での処方において、ティルト機構やリクライニング機構が適応となった場合のニーズや所見として明らかになったのは、座位保持が不可能(21%)、車いす座位時の前方へのずれ(14%)、座位姿勢を獲得することでのQOL向上(14%)、股関節拘縮(11%)、痙性(10%)、体幹・下肢の筋力低下(9%)、褥創管理や予防の為(6%)、介助面考慮の為(6%)、脊柱側弯(2%)、その他(7%)であった.またADLでは、ティルト機構やリクライニング機構の有無により分けた2群間でFIM運動評点を比較した結果、FIM運動評点のすべてについて、ティルト機構やリクライニング機構処方群の方が、有意に低値であった(Mann-Whitney's U-test, p<0.0001).
    【考察】
    これまでにティルト機能付き車いすの利点として、変形や緊張などの障害状況への適合、抱きかかえた自然な姿勢で移乗可能など介助者の負担軽減、また同姿勢から起きる局所的な圧力の分散が報告されている.これらのニーズは、本調査で得られたニーズとほぼ一致していた.また様々な身体所見の重複による、座位保持不可、前方へのずれ、介助量過多、QOLの低下などがFIM運動評点低値の一因になっていることが今回示唆された.
    【まとめ】
    当センターの車いす判定に際してティルト機構やリクライニング機構処方となったものは、股関節拘縮、痙性、筋力低下などによる座位保持不可、前方へのずれ、QOL向上が必要な者で、FIMの運動評点の低値な者が多いという結果となった.また車いす判定の際の処方においては、障害状況や目的、使用環境など当事者のニーズ聴取に加え、理学療法士による機能評価やADL評価が有効であることが明らかとなり、これに基づく車いすの指導が重要であると考えられた.
  • 小林 茂, 蔭山 勝弘, 金谷 規弘, 山本 敏博, 大久保 秀雄, 津野 光昭, 山口 真人, 上田 陽之, 前田 ひとみ
    セッションID: O2-023
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】理学療法士の卒前教育における臨床実習の意義は大きい.しかし、臨床実習施設及び実習指導者(以下SV)が相対的に不足しており、臨床現場の制度的変化や患者の権利を尊重する傾向が強く、学生が経験できる症例数は限られている.このような背景の中で有効な臨床経験をさせるために、我々は学生二人で症例を経験する二人型実習(以下ペア実習)を実施している.今回は過去の問題を改善しペア実習体制を継続した2回目の検証を目的に本研究を行った. 【対象】平成20年4月より10月まで同法人のS及びF病院にて最終学年8週間の総合臨床実習を行った22名(男16名、女6名)の学生を対象とした.そして14名(男8名、女6名)をペア実習とし、8名(全員男)は一人で症例を経験する従来型実習(以下対照群)とした. 【方法】実習体制はペア実習をSV対学生=2対2(主な症例経験)と1対1の混合で実施し、対照群はすべてをSV対学生=1対1で実施した.実習評価は終了時にSV・巡回教員・学生それぞれが行い、その項目の実習成果と変化量を点数化し効果判定とした.また、実習終了直後に学生より得たアンケート調査を分析し合わせて検討した.なお、対象学生には事前に実習評価とアンケートについて、実習体制の改善及び学会報告目的で使用することを文書及び口頭で説明し了解を得た. 【結果】1)実習成果、両群の評価得点の平均値はSV(ペア86.4±5.5点、対照77.6±10.8)と学生(ペア77.9±9.2点、対照70.1±10.6点)のその差は有意(P<0.05)であった.教員(ペア82.3±10.4点、対照73.8±12.4点)のその差は傾向(P<0.1)があった.また、三者間の相関関係はペア実習でSV対教員(r=0.66)、SV対学生(r=0.61)、教員対学生(r=0.80)の有意(P<0.05)な関係が認められた.しかし対照群では教員対学生(r=0.77)のみ有意(P<0.05)な関係であった.2)変化量、両群の変化量の平均値は教員(ペア27.9±6.3点、対照22.3±6.8点)のその差は有意(P<0.05)であったが、SV及び学生のその差は認められなかった.また、三者間の相関関係は両群共に全て認められなかった.3)アンケート結果、ペア実習では時間の使い方、評価過程、治療過程等が対照群に比較して良い感想を示していた.また、二人での協議に長時間を費やし、ストレスがあると64%が示していたが、事前の練習も二人ででき、対症例の前では過程が順調に進むと93%の学生が良い感想を示していた. 【考察】実習成果よりペア実習では三者共に効果を認め、三者の評価得点に相関も認め偏りのない目標設定・実習評価に近づいているものと思えた.アンケートからも実習体制についてペア実習では最終的にはペアの存在を良い因子に上げており、効果の影響として強いことを示していた.本方法は目標設定・実習評価に課題は残すが、効率的で効果的な方法であると考えられた.
  • 中村 幸生, 藤井 洋, 鬼木 泰博
    セッションID: O2-024
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】2006年4月の診療報酬改定により回復期リハビリテーション病棟における脳血管疾患の入院期間の上限日数が150日に、高次脳機能障害を伴った重症例では180日に設定された.
    熊本県で使用している脳卒中地域連携パスは、回復期リハビリテーションにおけるおおよその在院日数を、入院時のBarthel IndexやFIMの点数を目安として3つのコースに分けている.
    そこで今回、当院の回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期)を退院した脳卒中患者の入院時のBarthel Index(以下、BI)と在院日数との関係を調査し考察を加えた.

    【対象と方法】急性期病院で治療したのち当院の一般病棟に入院し、その後回復期に転棟した脳卒中患者で、2006年4月から2008年9月までに退院した193例を対象とし、脳卒中地域連携パスに従い入院時BIが100~85点をAグループ、80~55点をBグループ、50~0点をCグループに分け、「発症から当院入院までの日数」と「入院から回復期入棟までの日数」、「回復期での在院日数」について比較した.
    さらにCグループを、「入院時BI別の症例数」と「回復期での在院日数が150日を越えた症例のBIの変化」について調査した.

    【結果】平均日数について、全体では「発症から当院入院まで」が20.5±10.7日、「入院から回復期入棟まで」が30.6±11.5日、「回復期での在院日数」は86.9±42.5日であった.ABC各グループでは、Cグループの「入院から回復期入棟まで」が33.9±11.7日、「回復期での在院日数」においては102.2±38.5日で全体の平均値を上回っていた.
    Cグループの「入院時BI別症例数」では、BI0点の症例が非常に多く、「回復期在院日数が150日を越えた症例のBIの変化」では、退院時BIが大きく改善している症例が多く存在した.ここのグループだけで在宅復帰率は57%であり、さらに上限日数を越えた症例が4例、うち3例が自宅復帰であった.

    【考察】入院時BI0点の症例が多かったCグループの「入院から回復期入棟まで」が33.9日である事については、障害に加え全身状態が不安定な重症例の入院が多いということが示唆され、これが回復期入棟までの期間に影響したものと考えられ、Cグループの在院日数の延長にも影響していると思われた.
    また、Cグループの在院日数150日を越える症例の調査から、当院では「必要性があれば、上限日数を超えるようであっても継続して入院リハを行う」という方針であるため、これも在院日数に影響したと考えられる.
    昨今では、在院日数の短縮が求められており、努力義務でもあるが、実際には重症例も多く期間を要する症例も多い.そしてその中から大きく回復する症例があるのも事実である.
    また、国の政策に対し現状では受け皿となる地域の整備が不十分であるため、入院リハがどうしても必要なケースや長期入院となるケースも存在すると思われ、これらも在院日数の延長に大きく影響しているものと考えられる.
  • 山口 智史, 荒川 武士, 上原 信太郎, 田辺 茂雄, 村岡 慶裕, 正門 由久, 木村 彰男, 里宇 明元
    セッションID: O2-025
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    われわれは,脳卒中片麻痺患者において,歩行様他動運動(locomotion-like movement,以下LM)と電気刺激(electrical stimulation,以下ES)を同時適用する治療法(electrical stimulation combined with locomotion-like movement,以下ES/LM)を考案し,他動運動中に電気刺激を行った際の歩行能力に対する治療効果を検討している.本研究では慢性期脳卒中患者に対してES/LM,LMのみ,ESのみを実施し,それぞれの治療による歩行能力への即時的な効果を検討した.
    【方法】
    対象者は,本研究について説明し同意を得た,発症から2年以上経過した慢性期脳卒中片麻痺患者12名であった(全例T字杖歩行近位監視以上).ES/LMは他動運動装置(安川電機社製)と電気刺激装置を使用した.LMは背臥位での歩行様他動運動(股関節0-40度,膝関節0-60度)とし,1周期10秒で20分間連続して実施した.ES実施筋は大腿直筋,ハムストリングス,前脛骨筋,ヒラメ筋とし,ESは周波数30Hz,持続時間300μsとした.刺激強度およびパターンは,健常者の歩行時筋活動を参考にし,痛みがなく筋収縮が起こる刺激強度を最大として各関節の運動範囲で増減を行った.LMのみでは同様の他動運動のみを,ESのみでは同様の電気刺激のみを背臥位にて実施した.それぞれの試行は少なくとも1週間以上の間隔でランダムに介入した.
    評価は治療前後で行い,評価者にはマスク化を行った.歩行能力の評価として,10m歩行から最大歩行速度(以下,MWS)と歩幅を算出した.また,MWSと歩幅の改善率(治療後/治療前)を算出し,それぞれの治療効果を比較した.統計手法は,介入前後を即時効果として対応のあるt検定を,それぞれの治療効果の比較として1元配置分散分析後に多重比較検定を行った.有意水準はp<0.05とした.
    【結果】
    ES/LMでは,介入前後でMWSの平均値は0.58(±0.23)m/sから0.67(±0.25)m/s,歩幅の平均値は0.37(±0.11)mから0.41(±0.11)mと有意な改善を認めた(p<0.01). LMのみにおいては,介入前後でMWSの平均値は0.64(±0.23)m/sから0.63(±0.2)m/s,歩幅の平均値は0.37(±0.11)m から0.38(±0.1)mで有意差を認めなかった(p=0.83).ESのみでは,介入前後でMWSの平均値は0.58(±0.25)m/sから0.63(±0.29)m/s,歩幅の平均値は0.36(±0.1)mから0.38(±0.11)で有意な改善を認めた(p=0.01).
    それぞれの治療の改善率は,MWSにおいてES/LMがLMのみ(p<0.01),ESのみ(p<0.05)と比較して有意に高かった.また歩幅においては、ES/LMがLMのみと比較して改善率が有意に高かった(p<0.01).
    【考察】
    本研究では,健常者の歩行に類似した他動運動中に電気刺激を行うことが,個々の治療を行うよりも,脳卒中片麻痺患者の歩行能力を即時的に改善する効果があることが示唆された.今後,症例数を増やすとともに,長期的な効果の検討も行っていきたい.
  • 徳久 謙太郎, 河村 隆史, 三好 卓宏, 門田 拓, 畑 寿継, 林 拓児, 鶴田 佳世, 小嶌 康介, 兼松 大和, 藤村 純矢, 梛野 ...
    セッションID: O2-026
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】Evidence-Based Physical Therapyの構築の必要性が提唱される近年,その基盤をなす臨床適性に優れた,標準的な尺度による理学療法評価が重要視されつつある.理学療法士が評価・治療対象とする日常生活動作(ADL)の評価尺度はFunctional Independence Measureなど様々なものが存在するが,ADLの要素となる身体パフォーマンスを評価する尺度は少なく,標準的に使用されているものはないのが現状である.特に立位・歩行時の身体パフォーマンス(リーチ動作や方向転換など)の評価は,自立度判定や転倒防止に資する重要な情報である.そこで我々は脳卒中片麻痺患者のADL遂行に必要な立位・歩行時の身体パフォーマンスから構成される脳卒中動作能力尺度(Stroke Performance Scale:SPS)を開発し,その臨床適性について検討してきたが,簡便性に欠けるなどの幾つかの問題も残されていた.本研究の目的は,さらにSPSの臨床適性を高めるため,ラッシュ分析を用いてその尺度構造を明らかにし,段階的な能力の測定を可能にした修正版SPS(Rasch-Model-based SPS:RM-SPS)を開発することである.
    【対象・方法】対象は3施設に入院・外来通院中の軽介助にて立位保持が可能であり,本研究の趣旨について十分な説明を受け,参加に同意した脳卒中片麻痺患者102名(年齢69.5±9.9歳)である.対象者に,ADL場面の観察などから選出された25項目の仮尺度の測定を実施した.項目の評点段階は完全自立,修正自立,見守り,軽介助,中等度介助以上の5段階(0-4点)とした.この仮尺度の測定結果に対しラッシュ分析を実施した.まず全項目の評点段階観測数から段階設定の適正を検討した.次に本尺度に採用する項目選択を行った.選択・除外基準は以下の3つである.第一基準は「各項目別の評点段階観測数」であり,極端に観測数のばらつきがある項目は除外した.第二基準は「ラッシュモデルへの適合度」であり,適合度指標のinfit・outfit平方平均ともに,有害とされる基準(1.3)以上を示す項目は除外した.第三基準は「代理機能」であり,二つ以上の項目で項目難易度の差が小さく,同種の内容があれば除外した.
    【結果】全項目の評点段階観測数にて,見守りと軽介助が極端に少ないことから,評点段階は見守りを削除した4段階(0-3点)とした.項目選択では,仮尺度25項目の内,第一基準にて1項目,第二基準にて4項目,第三基準にて4項目が除外された.最終的にRM-SPSは立位9項目,移動7項目,計16項目48点の尺度として完成した.項目難易度は-2.98-4.25 logits,適合度指標の平方平均は0.62-1.28であり,対象者のRM-SPS得点は26.6±15.8点,受験者能力は-7.40-8.07 logitsであった.
    【考察】RM-SPSは難易度の異なる項目から構成される,段階数の多い尺度であることから,脳卒中片麻痺患者の身体パフォーマンスの変化を詳細かつ段階的に評価することが可能である.また得点を間隔尺度上の点数に変換可能である.今後は本尺度の測定特性や臨床的有用性を検討したい.
  • ―6ヵ月間の前向き研究による検討―
    吉川 義之, 福林 秀幸, 高尾 篤, 竹内 真, 松田 一浩, 安川 達哉, 梶田 博之, 杉元 雅晴
    セッションID: O2-027
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    感覚検査は臨床において重要な検査である.しかし,運動機能検査に比べ実施が少ない現状にある.また,感覚障害はバランス障害や歩行能力との関連性が報告されているが,運動機能検査に比べ転倒への影響が少ないとされている.これまで我々は,簡便に行える感覚検査として,音叉を用いた振動覚検査(以下,振動覚検査)に着目し,転倒との関連性を後ろ向き研究により報告してきた.本研究では,前向き研究から振動覚検査が,転倒スクリーニング検査として有用性を検討した.

    【方法】
    対象は,認知症ならびに中枢性疾患を有する者を除外した,歩行が可能な当院外来患者,併設の通所リハビリテーション利用者70名のうち,6ヵ月間追跡が可能であった62名(男性28名,女性34名,平均年齢77.4±5.3歳)とした.なお,対象者には研究の内容を説明し,同意を得た.方法は,振動覚検査とTimed “Up & Go” Test,10m自由歩行時間,Modified - Functional Reach Testの4項目を実施した.振動覚検査は,叩打する強さによって振動の強さにばらつきが出現するため音叉に改良を加え,振動を感じ続ける時間(以下,振動感知時間)を測定した.各々の検査は別々のセラピストが担当し,先入観に基づく測定バイアスを排除した.転倒については測定日より6ヶ月間追跡し,対象者の通院および利用日に転倒の有無を確認し,発生状況を記録した.
    測定後6ヶ月間の転倒の有無により,転倒群と非転倒群に分けMann-WhitneyのU検定において各検査結果の比較を行った.各検査の比較は,Receiver-Operating-Characteristic(以下,ROC)曲線の曲線下面積を求め比較した.振動感知時間においてはカットオフ値を求め正答率を算出した.

    【結果と考察】
    測定後6ヶ月間に転倒した対象者は22名(転倒率:35.5%)であった.転倒群と非転倒群の比較では,すべての検査において非転倒群の成績が有意に優れていた.この結果から,振動覚検査は,今回実施した運動機能検査と同様に転倒を予測することが可能であると示唆された.ROC曲線の曲線下面積の比較では,振動覚検査が最大値を示し0.83であった.振動感知時間のカットオフ値は5.65秒であり,感度は86%,特異度は68%,正答率は74%と良好であった.これらの結果から,運動機能検査に加え振動覚検査を実施することで,より徹底した転倒リスク管理が可能になると考えられ,振動覚検査は転倒スクリーニング検査として有用であることが示唆された.また,振動覚検査は簡便であり,数値化できるため客観的な指標になり得た.従って,臨床場面において有用な検査方法であると考えられる.
  • 藤田 直人, 松原 貴子, 荒川 高光, 安藤 啓司, 三木 明徳
    セッションID: S2-021
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    非荷重に伴う筋萎縮が歩行能力に及ぼす影響を調べるため,後肢懸垂後の再荷重期間における歩行能力と下腿後面筋の機能を経時的に検討した.臨床的な筋萎縮の誘因には,主として非荷重によるものと,ギプス固定等の不動によるものがあげられる.しかしこの両者は,筋萎縮を生じさせる原因としては同様であるが,不動は関節可動域制限をも発生させるという点で大きく異なっている.よって今回の実験では,後肢懸垂によって筋萎縮を惹起させる群と共に,ギプス固定によって関節可動域制限を伴った筋萎縮を惹起させる群も設定して比較検討した.
    【材料と方法】
    11週齢のWistar系雄ラットを対照群(C群),後肢懸垂群(HS群),足関節を最大背屈位でギプス固定して後肢懸垂を行った群(HSD群),足関節を最大底屈位で固定して後肢懸垂を行った群(HSP群)に区分した.各群のラットは2週間の後肢懸垂終了後,ギプスを除去して再荷重期間を設定した.再荷重後0,3,7日目に,Beam Walking Testによる歩行能力を調べた後に足関節の関節可動域を測定し,更にヒラメ筋と足底筋の等尺性収縮張力および筋湿重量を測定した.全ての実験は神戸大学における動物実験に関する指針に従って実施した.
    【結果】
    Beam Walking Testによる歩行能力は,再荷重後0,3日目では,HS群,HSD群,HSP群はC群に比べて有意に低値を示したが,再荷重後7日目には4群間に有意差を認めなくなった.HSD群の底屈可動域およびHSP群の背屈可動域は,再荷重後0,3日目ではC群とHS群に対して有意に低下したが,再荷重後7日目には有意差を認めなくなった.HS群はどの時点においても関節可動域制限を認めなかった.ヒラメ筋の等尺性収縮張力と筋湿重量は,全ての時点においてC群,HSD群,HSP群,HS群の順で高値を示した.また足底筋の等尺性収縮張力と筋湿重量は,全ての時点においてHSP群が最も低値を示した.
    【考察】
    HSD群とHSP群における歩行能力と足関節の可動域制限は同様の回復経過を示したため,再荷重後7日目までのHSD群とHSP群の歩行能力の低下には,足関節の可動域制限が大きく関与していると思われる.しかしHS群では,どの時点でも足関節の可動域制限を認めないにもかかわらず,再荷重後7日目まで歩行能力が低下していたことから,足関節の可動域制限だけが歩行能力を左右する因子ではないと考えられる.このことから,HS群の等尺性収縮張力および筋湿重量に着目すると,HS群では全ての時点においてヒラメ筋の等尺性収縮張力と筋湿重量が低値を示したため,HS群における歩行能力の低下には主にヒラメ筋の筋力低下が関与していると思われる.またHS群では,ヒラメ筋に比べて足底筋は相対的に筋萎縮が軽減されていたため,歩行時に足底筋はヒラメ筋を代償していた可能性がある.
  • ―1日に与える刺激量や時間が同じなら、1回よりも2回に分けた方が効果的である―
    片岡 亮人, 縣 信秀, 宮津 真寿美, 河上 敬介
    セッションID: S2-022
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【背景】除神経により骨格筋は萎縮するが、周期的伸張刺激(15分/日、2週間)を加えると筋萎縮は軽減される.この分子メカニズムには筋タンパク質合成経路の1分子であるAktが関与している(Agata、in press).しかし、どのぐらいの刺激量(時間、トルク、頻度)が筋萎縮軽減に効果的なのか分かっていない.そこで本研究では、刺激の頻度に着目し、1日の刺激時間を30分に統一し、刺激回数が1日1回と2回のどちらが筋萎縮軽減に効果的かを、組織学的、生化学的手法を用いて調べた.
    【方法】本実験は本学動物実験委員会の承認を得て行なっている.-実験1- 8週齢のWistar系雄性ラット(n=23)の左側の坐骨神経を切除した.これを、15分の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回与える群(15×2刺激群、8例)、30分の伸張刺激を1日1回与える群(30×1刺激群、8例)に分けた.また、神経切除を行った後、伸張刺激を加えない群を非刺激群(7例)とした.伸張刺激は、5秒間の足関節背屈トルク6 mN・mでの背屈刺激と5秒間の刺激を加えない時間を繰り返す、周期的伸張刺激とし、除神経術の翌日より毎日、13日間、ラットの左ヒラメ筋に対して行った.坐骨神経を切除してから14日目にヒラメ筋を採取し、凍結切片を作製し、H-E染色を施して、筋線維横断面積を測定した.-実験2- 8週齢のWistar系雄性ラット(n=38)の左側の坐骨神経を切除した.その1週間後に、ヒラメ筋に周期的伸張刺激を加えた.15分の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回行ったときの2回目の伸張刺激後と、30分1回目の伸張刺激後のヒラメ筋を採取し、伸張刺激後0から60分後のリン酸化Aktの割合をウェスタン・ブロット法によって測定し、Akt活性化の指標とした.
    【結果】-実験1- すべての伸張刺激群の筋線維断面積は、非刺激群に比べ有意に大きかった(p<0.05).15×2刺激群の平均筋線維断面積は1023±32μm2で、30×1刺激群(890±34μm2)に比べ有意に大きかった(p<0.05).-実験2- 15分間の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回行ったときの2回目の伸張刺激直後には、刺激前の約2.5倍に Aktのリン酸化が亢進していた(p<0.05).30分間の伸張刺激直後のAktのリン酸化の割合は刺激前と変わらなかった.
    【考察】1日の刺激時間は同じでも、1日1回で行うよりも、2回に分けて行うほうが、筋萎縮軽減効果が大きいことが判明した.我々は、すでに伸張刺激を15分間行ったとき刺激終了時にAktのリン酸化が亢進すること、その後30分以降には伸張刺激前のリン酸化レベルまで戻ることを報告している.今回、30分間の伸張刺激を与えた直後、すなわち刺激開始から30分後には、一旦亢進したリン酸化が刺激前の状態に戻っていたと考える.1日内に6時間あけて伸張刺激を与えたことにより、1日中に2回のリン酸化上昇を起こし、刺激回数による筋線維断面積の違いにつながったと考える.
  • 大道 美香, 大道 裕介, 大石 仁, 櫻井 博紀, 森本 温子, 吉本 隆彦, 橋本 辰幸, 江口 国博, 山口 佳子, 中野 隆, 熊澤 ...
    セッションID: S2-023
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】
    末梢の組織傷害が完全に治癒しているのもかかわらず、慢性的な痛みを呈する病態がある.この病態のメカニズムを解明するために、我々は2週間の片側下肢不動化(ギプス固定)による慢性痛症モデル動物を開発してきた(大道ら、2005).その結果、ギプス固定除去後から処置部を越えて両側の足底や尾部にまで拡がる長期的な痛み行動の亢進を示すことを報告してきた.また痛み行動の慢性期に局所麻酔薬を用いて固定側からの感覚入力を一時的に遮断しても非固定側の足底の痛み行動は残存することから、脊髄の可塑的変容が本モデルの痛み行動に関与している可能性が示唆された.そこで本研究は中枢神経系の可塑的変容機序の一つと考えられるグリア細胞の関与に着目し、免疫組織学的な検討を行い、痛み行動との関連について検討を行った.
    【方法】
    本研究は国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し、愛知医科大学動物実験委員会の承認のもと行った.ラット(SD系雄性、9-11週齢)を用いて、体幹から一側下肢をギプス固定により2週間不動化するギプス固定慢性痛症モデルを作製した.本モデルのギプス除去後より痛み行動の測定を行うとともにギプス除去後1日目、6週目、13週目において第4腰髄および第1仙髄、尾髄に対してミクログリアのマーカー:OX42及びアストロサイトのマーカー:GFAPを用いて脊髄グリア細胞の変化を免疫組織学的に検討した.
    【結果】
    本実験モデルにおいて、ギプス固定部局所より離れた同側の足底部の痛み行動が出現するギプス除去後1日目に、第4腰髄において脊髄後角にミクログリアの活性化細胞数および細胞総数の増加を示す所見が固定側に確認された.さらに固定側の足底部の痛み行動が極大を示し、非固定側の足底および尾部にまで拡大を示すギプス除去後6週目においては、第4腰髄の脊髄後角においてアストロサイトの活性化を示す所見が両側性に認められ、さらに尾髄ではミクログリアの活性化を示す所見が確認された.すべての痛み行動が極大期より減弱を示すギプス除去後13週目においては、これまでに活性化を示していた第4腰髄の両グリア細胞の活性化の所見は減弱傾向を示したが、尾髄においては両側性にアストロサイトの活性化の所見が確認された.
    【考察】
    本実験モデルにおける痛み行動の時間的・空間的変化と脊髄グリア細胞の変化の関連性を認めた.このことから本実験モデルの慢性的痛み行動出現における脊髄グリア細胞の可塑的変容が関与する可能性が示唆された.
  • 松田 史代, 入江 愛, 榊間 春利, 生友 聖子, 米 和徳, 吉田 義弘
    セッションID: S2-024
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】これまで我々は実験的脳梗塞ラットモデルにおける早期運動療法介入の効果を検討してきた.脳梗塞作製直後より4週間トレッドミル運動を行うことで、脳梗塞巣体積の減少及び運動・神経学的機能回復がみられることを以前、本学会で発表した.今回は、脳梗塞縮小効果の細胞内におけるメカニズムを知る目的で、経時的に神経成長因子・新生血管・caspase3の発現動態を観察した.

    【方法】8週令のWistar系雄ラット48匹を用いた.運動群24匹、非運動群24匹に無作為に分類した.脳梗塞は小泉らの方法に準じて、塞栓を左内頚動脈に向けて挿入、結紮・固定し、90分後再開通し作成した.運動群および対照群は術後1日より毎日20分間のトレッドミル走行を最長4週間行った.運動強度は3m/min から開始して4週後には13m/minとした.運動開始後1、2、3、4週に運動機能および神経学的評価を行った.術後1・2・4週に脳を採取し、厚さ2mmの前額断にスライスしてTTC染色を行い梗塞巣の大きさを計測した後、一晩4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(pH: 7.4)で浸漬固定し,パラフィン包埋した.厚さ5μmの切片を作成し、H.E.染色、神経成長因子nerve growth factor(NGF)抗体、angiogenesisマーカーである抗platelet-endothelial cell adhesion molecule(PECAM-1)抗体、apoptosisマーカーである抗caspase-3抗体の免疫染色を行い、光学顕微鏡で観察した.統計は、経時的変化については一元配置分散分析を行い、運動群・非運動群間の検定には対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした.本研究は鹿児島大学倫理審査委員会の承認を得て実施した.

    【結果】運動機能や神経学的評価において4週後で運動群が非運動群に比べ有意な改善を示した.また、脳梗塞巣体積は、1・2週間後で運動群が小さい傾向にあったが、4週後のみで有意に小さかった.NGF発現量は、運動群の発現量が全体的に多く、4週間後で有意に増加がみとめられた.PECAM-1発現量は、1・2週後で有意に運動群の発現量が多かった.また、caspase-3発現量は、2週間後に運動群で有意に発現の減少がみられた.

    【考察】脳梗塞発症後、早期より運動を開始することで神経成長因子や新生血管の発現量が促進され、神経脱落を抑制している可能性が今回の結果より示唆された.運動開始、比較的早期の時期に新生血管が増し、その結果、神経成長因子などが梗塞巣周辺部へ供給され、その結果、神経細胞死を抑制していることが示唆された.しかし、未だ、脳梗塞発症後の神経修復には未解決なことが多く、更なる検討が必要である.
  • ―近赤外分光法(NIRS)による検討―
    石黒 幸治, 浦川 将, 高本 孝一, 堀 悦郎, 川合 宏, 小野 武年, 西条 寿夫
    セッションID: S2-025
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    リハビリテーション医学で用いられる巧緻性課題の反復は、脳血管障害後の脳機能回復促進と、その後の日常生活動作向上に重要である.従来の非侵襲的研究では単純な動作課題の反復に対する脳機能イメージングは報告されているが、リハビリテーション医学で用いられている上肢や手指の巧緻性や協調性が必要とされる運動学習中の脳機能イメージングに関する報告は少ない.本研究では、リハビリテーション動作課題における運動学習中の脳機能活動の変化を、近赤外分光法(Near infaraed spectroscopy ; NIRS)により検討した.
    【方法】
    本学倫理委員会の承認を得て、19歳から39歳までの健常人15名の被験者に研究内容を説明し、同意書に記名して頂いた.行動課題では、簡易式上肢機能検査(Simple Test for Evaluating hand Function ; STEF)を使用し、小さな金属製円筒(ペグ)を母指と示指にて掴み、素早く孔に差し込む課題を行わせた(ペグ課題).同ペグ課題20秒間とそれに続く安静60秒間を1サイクルとし、8サイクルを繰り返し行わせた.脳機能イメージングには、島津製作所製NIRStationおよび108chの全頭-側頭型NIRSキャップを用い、課題遂行中の脳表の血行動態(Oxy-Hb、 Deoxy-Hb、およびTotal-Hb)を測定した.解析は、脳領域を前頭極、補足運動野など11領域に分けて行った.課題遂行中の行動は、ビデオで撮影して解析した.
    【結果】
    ペグ課題を8サイクル繰り返す運動学習により、課題の達成度(ペグの移動本数)は有意に増大した.8サイクルを通してのOxy-Hb反応変化を各脳領域において解析した結果、最も早期に前頭極が反応し、その後、運動関連領野が順次反応した.また、前頭極、補足運動野、運動前野、第一次感覚野の4領域の活動は有意に相関していた.さらに、1サイクル当りのペグの移動本数の増加率と、これら4領域における血行動態(Oxy-Hb)の1サイクル当りの増加率が有意に相関していた.
    【考察】
    運動学習を目的としたリハビリテーション動作課題において、課題を反復遂行することにより運動技能が有意に向上した.本課題のような巧緻性運動の学習には、前頭極が重要な役割を果たし、他の前頭葉運動関連領野の活動を誘導している可能性が示唆された.
  • ―運動イメージ方法の相違による検討―
    鈴木 俊明, 谷埜 予士次, 米田 浩久, 高崎 恭輔, 谷 万喜子, 鬼形 周恵子, 塩見 紀子
    セッションID: S2-026
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ピンチメータのセンサーを把持しながら母指対立筋の等尺性収縮運動を学習させ、次に、センサーを軽く把持しながら運動イメージすると脊髄神経機能の興奮性が増加すると昨年度の本学会で報告した.今年度は、センサーを把持しないで運動イメージ課題を行った場合の脊髄神経機能の興奮性をF波にて検討し、昨年度の成績と比較した.

    【対象と方法】対象は健常者11名(男性8名、女性3名)、平均年齢34歳とした.被検者を背臥位とし、左側正中神経刺激によるF波を母指球筋より導出した(安静試行).F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数32回とした.次に、左側母指と示指によりピンチメータを用いて最大の50%のピンチ力で対立動作を練習させた.その後、ピンチメータのセンサーを軽く把持した状態(センサー把持試行)とセンサーを把持せずに手指をリラックスさせて50%収縮をイメージさせた状態(運動イメージ試行)で母指球筋よりF波を測定した.F波測定項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした.なお、研究実施に関しては被検者の了承を得た.

    【結果】出現頻度、振幅F/M比は、統計学的には有意差を認めなかったものの、安静試行と比較してセンサー把持試行、運動イメージ試行で増加傾向であった.また、センサー把持試行と運動イメージ試行は同様の結果であった.立ち上がり潜時は各試行での差異を認めなかった.

    【考察】昨年度の本学会では、左側母指と示指によりピンチメータを用いて最大の50%のピンチ力で対立動作を練習させ、母指と示指での対立運動の運動イメージをピンチメータのセンサーを把持しながら実施した.その結果、F波出現頻度、振幅F/M比は安静時と比較して有意に増加すると報告した.これは、センサーを把持しながら母指と示指の対立運動の運動イメージを実施することが母指球筋に対応する脊髄神経機能の興奮性を増加させることを示唆している.今年度は昨年度とは異なり、センサーを把持せずに手指をリラックスさせて運動イメージを実施した.本研究での運動イメージ(センサー把持なしでの運動イメージ)は、安静時と比較して脊髄神経機能の興奮性を増加させる傾向にあることが示唆されたが、その増加の程度は昨年度(センサー把持による運動イメージ)と比較して低下した.この相違には、運動イメージ方法の違いが関与すると考えられる.そこで、昨年度と今年度の研究結果から、運動イメージを運動療法に取り入れる場合には、目的とした正しい運動肢位を保持させて、次にその状態で目的とする運動をイメージさせることが重要であることが示唆された.
  • 内田 健作, 北出 一平, 細 正博, 松崎 太郎, 上條 明生, 荒木 督隆, 高橋 郁文
    セッションID: P1-001
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】脂肪体は、その柔軟性が関節運動に関与されるとされており、膝関節においても豊富な膝蓋下脂肪体を有している.ギプス固定などにおける関節不動モデルなどにおいては、先行研究により関節構成体の変化としてこの脂肪体の脂肪細胞の萎縮・線維増生を挙げているが、脊髄損傷後における不動での膝蓋下脂肪体の変化に関して病理組織学的検討を行った報告は見られない.今回、ラット脊髄損傷後の膝蓋下脂肪体が関節の不動化によってどのように変化するのかを量的に明らかにすることを目的とした.

    【方法】8週齢のWistar系雌性ラットを1週間馴化させた9週齢のラットを使用した.対象を、脊髄を完全切断する脊髄損傷群(n=9)と、対象群(n=9)に分けた.ラットの飼育中は行動に制限を加えず自由に移動、摂食、飲水を可能とした環境設定にした.また、脊髄損傷群に対しては、褥瘡などの確認と手圧排尿/排泄を毎日2回行った.尚、両側の後肢関節の可動域を変化させる行為および介入は加えない事とした.飼育期間は、損傷後1週(n=3)、2週(n=3)および4週(n=3)とした.飼育終了後、深麻酔下にて可及的に後肢を股関節にて離断して採取した.採取後は10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定後に脱灰を行い、膝関節を矢状断にて切り出して、中和・パラフィン包埋を行った.標本をミクロトーム(SM 2000R, Leica社)にて3μmにて薄切した後にHematoxylin-Eosin染色を行い、光学顕微鏡下で膝蓋下脂肪体を観察および撮影し、Image J 1.38を用いて画像から細胞の面積を算出した.また、後肢の運動機能をBasso Beattie Bresnahan Locomotor Rating (BBB) scaleにて経時的に評価した.なお、本実験は金沢大学動物実験委員会の承認を得て行われた.

    【結果】損傷1週では対象群と比べ脂肪細胞の面積に変化を認めなかった.損傷2週では脂肪細胞の萎縮および線維化を認めた.損傷2週および4週群では、脂肪細胞の面積の分散では対象群と比較して大きく、脂肪細胞の面積は減少していた.また、BBB scaleの平均値は損傷翌日(0)、損傷1週(1.2)、2週(4.1)そして4週(7.2)と増加傾向を認めた.

    【まとめ】ラット脊髄損傷モデルを作製し、膝蓋下脂肪体の病理組織学的変化を観察および面積変化の検討を行った.損傷2週にて脂肪細胞の萎縮と線維化を生じ、損傷2週および4週では脂肪細胞の面積が減少していた.これは拘縮で指摘されている変化と類似しており、脊損と拘縮の病態において、脂肪体に対する何らかの共通機序が存在する可能性が示唆された.
  • 上條 明生, 細 正博, 山崎 俊明, 松崎 太郎, 渡邊 晶規, 小島 聖, 北出 一平, 木村 繁文, 荒木 督隆, 高橋 郁文, 庵 ...
    セッションID: P1-002
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】これまで、ラット膝関節に対してギプス固定等を用いた関節拘縮モデルの病理組織学的変化に関する研究が数多く報告されている.その多くは関節の不動化による組織の変化をみているが、臨床の場面においてギプス固定がなされる場合には、関節の不動化だけでなく非荷重の状態となっていることが多い.荷重の除去が長期に及ぶと膝半月板内の機械受容器数の減少が起きるため、長期臥床や免荷直後は関節損傷の危険性が高いとの報告もされている.これまで報告されてきた病理組織学的変化に着目した研究は、関節の不動化による影響に関するものが多く、非荷重時の組織の変化も考慮しているものは限られており、また非荷重時の影響を考慮している報告は筋に着目したものが多数である.そこで今回ラット膝関節をギプス固定するだけでなく、後肢懸垂法を用いて非荷重モデルと非荷重の後に荷重を加えたモデルを作成し、荷重の有無による影響を調査した.
    【方法】9週齢のWistar系雄性ラットを使用した.実験群はそれぞれ5匹ずつ1) 2週間片側の下肢をギプス固定し後肢懸垂を行った群(2週IS群) 2) 4週間片側の下肢をギプス固定し後肢懸垂を行った群(4週IS群) 3) 2週間片側の下肢をギプス固定し後肢懸垂を行い、その後2週間片側の下肢を固定したまま荷重を行った群(2週IS+IL群) 4) 2週間通常飼育の対照群(2週C群) 5) 4週間通常飼育の対照群(4週C群)とした.また、ラットはケージ内を自由に移動でき、水や餌は十分に摂取することができた.なお、本研究は金沢大学動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号AP-081140).固定の方法は松崎の方法で膝関節をギプス固定し、股関節や足関節には制限が及ばないようにした.また、山崎の方法で後肢懸垂モデルを作成し、後肢を非荷重の状態とした.2週IS+IL群は、2週間の後肢懸垂後にギプス固定を装着したままケージ内にて自由飼育とした.
    【結果】2週IS群では膝関節軟骨表面に膜状構造が出現し、線維増生が確認された.固定側と非固定側では固定側の方が軟骨表面の変性が重度に確認された.4週IS群では軟骨表面の線維増生が進行し、さらに固定側では関節軟骨と周囲組織の軽度の癒着が確認された.非固定側では癒着は確認されなかった.2週IS+IL群では、軟骨表面の膜状構造は残存しているものの、関節軟骨と周囲組織の癒着は確認されず、線維増生といった軟骨の変性は2週IS群よりも軽減していた.
    【考察・まとめ】後肢懸垂を行い非荷重としたラットの膝関節表面には、関節軟骨表層を膜状に覆う膜状組織の出現や線維増生といった軟骨表面の変性が確認され、懸垂期間の延長に伴い軟骨表面の変性は進行した.また、非固定肢よりも固定肢の変化がより重度であった.2週IS+IL群ではこれらの変化が軽減していることや、周囲組織との癒着が確認されなかったことなどから、荷重により回復傾向への変化をもたらしたことが推察される.
  • 高橋 郁文, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖, 渡邉 晶規, 荒木 督隆, 上條 明生, 北出 一平
    セッションID: P1-003
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    Microfractureは外傷性関節軟骨損傷や変形性関節症に対して軟骨再生を期待して行われる手法である.この方法は軟骨損傷部位に対して微細な骨穿孔を行い,骨髄からの出血を生じさせ,骨髄系幹細胞や成長因子などを誘導することで軟骨を修復する方法である.Microfracture後の修復軟骨は,機能的にも組織学的にも正常関節軟骨とは異なっているとされ,正常軟骨よりも耐久性が低いとされているが,先行研究の記述は線維性軟骨,硝子様軟骨,硝子軟骨と一致しておらず,統一された見解は得られていない.そこで,今回動物モデルを使用して, Microfracture後の術後の時間経過による修復軟骨の変化を病理組織学的に検討した.
    【方法】
    対象として9週齢のWistar系雄性ラット6匹を使用した.ネンブタール腹腔麻酔下にて左右膝関節を最大屈曲位とし,剃毛後,膝関節前面をイソジンにて消毒した.膝関節前面の皮切後,大腿骨内外顆に直径1.0mmのキルシュナー鋼線を用いて関節包の上から穿孔を行った.穿孔後,骨髄からの出血を確認し,切開した皮膚を縫合した.実験動物は2匹ずつ実験直後のA群,1週間後のB群,2週間後のC群の3群に無作為に分類した.実験後,膝関節の固定と免荷は実施せず,ケージ内を自由に移動でき,水,餌を自由に摂取可能とした.飼育期間後,エーテル深麻酔にて安楽死させ,股関節離断した両下肢をホルマリン固定した.軟部組織の除去後,大腿骨を採取した.脱灰後,大腿骨を矢状面で切断し,大腿骨遠位部断面標本を作製した.その後,中和,パラフィン包埋を行い,ミクロトームにて3μmで薄切した.染色はヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で大腿骨遠位部を病理組織学的に観察した.なお,この実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行った.
    【結果】
    A群では穿孔部位に多数の赤血球を含む血腫が観察された.B群・C群では穿孔部位は線維軟骨によって修復されていた.B・C群の両方において,穿孔部位に隣接する関節軟骨表面が線維性組織に覆われており,その組織中には血管の走行が観察された.しかし,C群では線維性組織に覆われている範囲はB群と比較して,小さくなっていた.
    【考察】
    Microfractureにより,軟骨欠損部位は線維軟骨によって修復された.これは多くの先行研究によって述べられており,本研究結果もこれら先行研究を支持した.一方,修復に硝子軟骨成分は観察されず,一部の先行研究とは異なっていた.また,周囲の関節軟骨表面が線維性組織に被覆される変化や血管が侵入する変化はこれまで報告されていない.これらの変化は出血に起因する可能性があるが,詳細は不明であり,少なくとも本動物実験モデルにおいてはMicrofractureには軟骨損傷を拡大するリスクが存在することが示唆された.
  • 木村 繁文, 山崎 俊明, 西川 正志, 足立 和美, 宮田 卓也
    セッションID: P1-004
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】廃用性筋萎縮に対する伸張刺激の効果に関する研究は実験動物を用いて多くなされているが、負荷量を定量的に設定した研究は少ない.そこで我々は、先行研究において、理学療法の臨床場面における体重を用いた伸張負荷を想定して、体重を基に負荷量を規定し、伸張刺激負荷量の相違と筋損傷発生頻度、萎縮抑制効果の関係を検討し報告した.本研究では更に筋線維タイプ分類を行い、伸張刺激負荷量の相違による萎縮進行抑制効果をタイプ別に検討することを目的とした.

    【方法】対象は8週齡のWistar系雄ラット37匹の左ヒラメ筋とした.これらを1)通常飼育の対照群、2)2週間の後肢懸垂にて廃用性筋萎縮を作成する群(HS群)、3)2週間の後肢懸垂期間中にラットの体重相当の伸張刺激(体重量負荷)を加える群(STA群)、4)2週間の後肢懸垂期間中ラットの体重の1/3相当の伸張刺激(1/3量負荷)を加える群(STB群)の4群に分けた.なお、本研究は本学動物実験委員会の承認を得て行った.伸張運動はラットの股関節、膝関節を90°に固定し、足関節のみを背屈する装置を作成し実施した.運動は間歇的伸張(10秒間足関節背屈位保持後、10秒間底屈位)とし、1日1回20分間で、計10日間実施した.実験期間終了後、麻酔下でヒラメ筋を摘出し筋湿重量を測定した.その後凍結切片を作成し、ATPase染色を実施し筋線維タイプを分類した.各筋あたり100本以上の筋線維を対象に、タイプ別筋横断面積を測定した.各群の比較には一元配置分散分析を行い、有意差を認めた場合にはTukeyの方法を用いて検定を行った.

    【結果】筋横断面積はタイプ1線維においては全群間に有意差を認め、対照群と比較し他群は有意に小さかった.またSTA群、STB群はHS群と比較し有意に大きく、STA群はSTB群と比較し有意に大きかった.タイプ2線維においても、対照群と比較し他群は有意に小さかった.STA群はHS群、STB群と比較し有意に大きかったが、HS群とSTB群間に有意差は認められなかった.

    【考察】体重量負荷を加えた場合、タイプ別筋横断面積はタイプ1、2線維ともに萎縮抑制効果が認められた.我々は、先行研究において体重量負荷を加えた群に筋損傷が多く生じたことを報告した.また、筋損傷による筋衛星細胞の活性化や成長因子の発現促進が報告されており、本研究結果もこれらの影響が関係していると考えられる.1/3量負荷を加えた場合、タイプ1線維に萎縮抑制効果を認めたが、タイプ2線維には認められなかった.またタイプ1線維においても、体重量負荷と比較しその効果は小さかった.以上より、萎縮抑制効果は伸張刺激負荷量に依存すること、さらに筋線維タイプによる反応の相違が推察された.
  • 中野 治郎, 沖田 実, 濱上 陽平, 小田 太史, 今川 弘顕, 折口 智樹, 吉村 俊朗
    セッションID: P1-005
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】傷害部位の安静を目的にギプス固定等で関節が不動化されると、傷害が治癒していても痛みが発生する場合があり、先行研究によれば、この痛みの原因は不動そのものにあると考えられている.しかし、これまでの報告では不動期間中の痛みの推移が捉えられておらず、加えて痛み発生の要因となる変化がどの時期に生じるのか、またどの組織の変化に由来するのかは不明である.そこで本研究では、ラット足関節不動モデルの痛みの推移を不動期間中から不動解除後まで経時的に調査し、骨格筋、皮膚、腰髄の組織学的変化から痛み発生の関連要因を検討した.
    【対象と方法】8週齢のWistar系雄ラット11匹を無処置群(C群,n=5)と実験群(I群,n=6)に振り分け、I群はギプスで右足関節のみ(不動側)を最大底屈位の状態で4週間不動化した後、不動を解除してさらに3週間通常飼育した.実験期間中は、機械的刺激に対する痛みの指標として足底部にvon Frey filament刺激(4、8、15g ;各10回)を加えた際の逃避反応(paw withdrawal response;PWR)をカウントし、熱刺激に対する痛みの指標として足背部の熱痛覚閾値温度を測定した.すべての測定とも週1回の頻度で経時的に行い、不動期間中の測定は覚醒下でギプスを除去して行った.そして、不動解除直後(C群,n=3;I群,n=3)と不動解除3週後(C群,n=2;I群,n=3)に両側のヒラメ筋、足部・足背部の皮膚、腰髄を摘出し、それぞれの凍結切片にHE染色を施して検鏡した.また、腰髄に関しては免疫組織化学的手法を用いて後角におけるc-fos陽性細胞と活性型ミクログリアの分布状況を検索した.なお、本実験は長崎大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った.
    【結果】I群では、不動を開始して2週目から不動側のPWR回数が増加し、3週目から足背部の熱痛覚閾値温度の低下が認められた.不動を解除すると、1週後には不動側の足背部の熱痛覚閾値温度は対側、C群とほぼ同値となったが、PWR回数はさらに増加を認めた.2週後になるとPWR回数も減少し始め、3週後には不動前や対側、C群と近似値となった.次に、不動解除直後のI群の不動側ヒラメ筋においては廃用性筋萎縮が認められ、不動解除3週後では筋線維損傷の痕跡が見られた.また、不動解除直後の足底部の皮膚においては表層の乱れが認められたが、不動解除3週後には回復していた.不動による腰髄後角におけるc-fos陽性細胞の増加や活性型ミクログリアの出現は認められなかった.
    【考察】今回の結果、不動期間中から機械的刺激と熱刺激に対する痛覚過敏が認められた.ただ、腰髄には変化を認めなかったことから、不動期間中に生じた皮膚の変化がその原因の一部と予測している.一方、I群における不動解除後の機械的刺激に対する痛覚過敏の亢進については、筋線維損傷に由来した急性炎症の関与が推測され、今後、行動学的分析と組織学的分析の検索時期を合致させるなどして、明らかにしていきたい.
  • ―ラットによる実験的研究―
    服部 暁穂, 沖 貞明, 古川 博章
    セッションID: P1-006
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    不動化による廃用性筋萎縮の防止方法の一つに筋の伸張位保持がある.先行研究ではその有効性は報告されているが,拮抗筋に関しては萎縮が生じやすい短縮位に保持されてしまうという欠点がある.そこで,本研究ではラットの一側後肢において1週間,12時間ごとに伸張位保持と短縮位保持を交互に実施し,筋萎縮の防止効果を検討した.

    【方法】
    実験動物には10週齢の雌Wistar系ラット18匹を用いた.対象を6匹ずつ3群に分けて実験を行った.3群の内訳は,一側後肢足関節を12時間おきに最大底屈位と最大背屈位で交互に固定する群(以下,底背屈固定群),一側後肢足関節を最大底屈位で固定する群(以下,底屈固定群),通常飼育する群(以下,対照群)であった.固定後にラットは,両前肢と一側後肢を使用し飼育ゲージ内を移動でき,水と餌は自由に摂取可能であった.なお,本実験は県立広島大学の倫理委員会の承認を得られている.固定方法はネンブタール麻酔下で、一側後肢をテーピングで固定し,その上からシリンダーを被せた.固定期間は1週間とした.実験開始日と最終日に体重測定を行い,実験最終日の体重測定後,各ラットの固定側ヒラメ筋を採取して,筋湿重量を測定した.そして,筋湿重量と相対重量比(筋湿重量を体重で除した値)を各群で比較した.筋試料は凍結させ,中央部の10ミクロン厚横断切片を作成し,HE染色を施した.染色後,顕微鏡にて筋組織を観察した.

    【結果】
    筋湿重量,相対重量比ともに底背屈固定群と対照群の間に有意差は認められなかったが,その他の各群間には有意差を認め,底屈固定群の値が他群に比して有意に低かった.底背屈固定群の筋組織を観察すると,対照群と明らかな違いはなく,異常所見は認められなかった.底屈固定群は対照群に比べ筋線維径が細くなり萎縮が認められたが,その他には異常所見は認められなかった.

    【考察】
    本研究では,筋湿重量や相対重量比において,底背屈固定群と対照群との間に有意差は認められず,また,組織学的検索からも異常所見はないことから,伸張位に固定する時間を12時間に減少させても,廃用性筋萎縮の防止が可能であったと言える.今後の検討事項として,筋萎縮が防止できた筋において機能低下を防止することが可能であったかどうか,ラットのヒラメ筋はtypeI線維が95%以上を占めるため,他の筋線維を多く含む筋でも同様の効果があるか,ヒラメ筋の拮抗筋である前脛骨筋の筋萎縮を防止できるかを確認する必要があると考えられる.
  • 榊間 春利, 松田 史代, 生友 聖子, 入江 愛, 嶋田 博文, 吉田 義弘, 米 和徳, 井尻 幸成
    セッションID: P1-007
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】変形性関節症(OA)は加齢とともに進行し、荷重部の軟骨基質が失われる一方、関節辺縁部では骨棘の増殖など多彩な変化を示す.我々は軟骨細胞の部位による表現型の違いに関与する分子としてストレス反応性分子GADD(Growth Arrest and DNA damage inducible)45 betaに着目した.GADD45betaは、軟骨細胞のType II collagenや変形性膝関節症(OA)の関節軟骨変性に関与する基質分解酵素であるMMP13などの遺伝子発現を調節する.また、OAの初期ではクラスターを形成する軟骨細胞に発現が亢進する.これらのことより、GADD45betaは軟骨変性の初期に関与すると考えられる.今回、GADD45betaの発現を指標にして、加齢関節軟骨への運動負荷が軟骨細胞に与える影響を免疫組織学的に検討したので報告する.

    【方法】50週齢の老化促進マウス(Senescence-Accelerated Mouse: SAMP1)12匹、対照として同週齢のICRマウス10匹を用いた.それぞれ、8週間の普通飼育群(SAMP1:4匹、ICR:5匹;非運動群)、8週間のトレッドミル運動群(SAMP1:8匹、ICR:5匹;運動群)に分けた.トレッドミル運動は13m/min の速度で1日2回、20分間行った.実験終了後に一側後肢より膝関節を採取し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(pH7.4)で一晩固定した.脱灰後パラフィン包埋して、切片を作成し、ヘマトキシリンエオジン染色、GADD45beta抗体を用いた免疫組織化学染色を行った.関節荷重部と辺縁部におけるGADD45beta陽性細胞数や動物の自発運動量を定量的に評価した.統計学的検定には一元配置分散分析を用い、有意水準を5%未満とした.なお、本研究は鹿児島大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った.

    【結果】非運動群において、SAMP1の関節荷重部では比較的表層部に規則的にGADD45beta陽性細胞がみられた.辺縁部、特に骨棘形成部では強い発現が観察された.ICRマウスの発現はSAMP1と比較して有意に減少していた(p<0.05).非運動群と運動群の比較において、SAMP1のGADD45beta陽性細胞は運動群が有意に減少していた(p<0.05).ICRマウスは運動による陽性細胞数に違いは認められなかった.SAMP1の自発運動量は非運動群において減少していた.

    【考察】今回の結果より、軟骨細胞の肥大化やApoptosisに関与するGADD45betaの発現が、運動負荷により減少したことは運動量減少に伴った老化による軟骨変性に対して、運動負荷が軟骨細胞の恒常性を維持するための刺激になる可能性が示唆された.
  • 松崎 太郎, 細 正博, 小島 聖, 渡辺 晶規, 北出 一平, 荒木 督隆, 上條 明生, 高橋 郁文
    セッションID: P1-008
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    関節拘縮は,臥床や骨折の治療後等の関節固定によって生じ,成因として初期には筋の短縮,その後に関節構成体の変化が生じるとされる.関節拘縮モデルを作成し,拘縮を生じた関節構成体の変化を検索する事が行われているが,固定肢位による関節構成体の変化の差違について比較したものは演者らが検索した限りではない.今回,ラット膝関節を屈曲位,伸展位で不動化して拘縮モデルを作成し,その関節構成体の変化を病理組織学的に検討したので報告する.

    【対象と方法】
    8週齢のWistar 系雄性ラット18匹を使用した.ラットは8週で購入し1週間当施設にて飼育し環境に慣れさせた後に実験を開始した.ラットを無作為に屈曲群(n=6),伸展群(n=6),対照群(n=6)の3群に分け,屈曲群と伸展群は右膝関節をキルシュナー鋼線と長ねじを使用した創外固定を用いて不動化した.関節不動化肢位は,屈曲群は膝関節屈曲120度,伸展群は膝関節伸展位とし,不動化期間は2週間とした.この時,股関節,足関節には制限がないことを確認し,ラットはケージ内を移動する事が可能であった.水と餌は自由に摂取する事が可能であった.実験期間終了後,ラットを安楽死させた後に可及的速やかに後肢を股関節にて離断し,10%中性緩衝ホルマリン溶液にて組織固定,ついで脱灰を行った後に膝関節を矢状断にて切り出し,中和・パラフィン包埋を行った.ミクロトームで3μmにて薄切した後にHE染色を行い,病理組織学的に検討を行った.
    本実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行われた.

    【結果】
    屈曲群,伸展群ともに関節軟骨表層に紡錘型細胞からなる膜様の組織が観察され,肉芽様組織(あるいは滑膜)の関節腔内の侵入,上記膜様組織との癒着が観察された.屈曲群、伸展群ともに癒着は大腿骨と脛骨が接触すると考えられる部位に形成された.

    【考察】
    屈曲位,伸展位のどちらにおいても類似した滑膜および軟骨の変化を生じたが,関節軟骨の変化は接触面に強く出現し、結果的に固定姿位の違いによる癒着部位の違いが見られた.これらの事から,滑膜等の軟部組織は関節運動の存在が正常を保つ重要な因子であるのに対し,関節軟骨は運動の有無の他に,加圧/接触が重要な因子である可能性が示唆された.
  • 金丸 健太, 藤田 直人, 荒川 高光, 三木 明徳
    セッションID: P1-009
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ADLでは主に遅筋線維が関与する抗重力活動が多く用いられ,筋萎縮や速筋化はその重大な障壁となる.よって筋萎縮と速筋化の予防は理学療法において重要である.骨格筋に対するストレッチ療法は筋萎縮の抑制に有効である(Goldspink,1977)が,骨格筋の萎縮抑制に最適なストレッチ療法の持続時間については明確でない.また,筋萎縮には遅筋の速筋化が伴うとされるが(Robert,1966),ストレッチ療法が速筋化に与える影響を調べた報告は乏しい.そこでストレッチ療法を施行する持続時間の違いが萎縮筋へ与える影響を,遅筋であるヒラメ筋と,速筋である足底筋を用いて検証した.
    【方法】8週齢のWistar系雄ラットを,対照群(C群),後肢懸垂群(HS群),後肢懸垂中に毎日10分間ストレッチングを施した群(10分群),同様に毎日20分間施した群(20分群)の4群に分けた.ストレッチングは麻酔下で,非伸縮性テープを用いて足関節を最大背屈位として下腿屈筋群に対して行った.2週間の実験終了後ヒラメ筋と足底筋を摘出し,筋湿重量を量り,筋相対重量比を算出した.そして摘出した筋を未固定のままクリオスタットで薄切し,H-E染色およびATPase染色を施し,光学顕微鏡で観察して,筋線維横断面積と筋線維タイプの構成比率を算出した.全ての実験は神戸大学の動物実験指針に準じて行った.
    【結果】ヒラメ筋,足底筋ともに筋湿重量と筋相対重量比はC群と比較してHS群,10分群,20分群で低値を示し,特にヒラメ筋の値が低かった.またヒラメ筋と足底筋の筋湿重量,筋横断面積はともに10分群とHS群に有意差を認めなかった.一方,20分群では両筋ともに筋横断面積が,HS群や10分群より有意に高値であった.さらに,足底筋では筋線維横断面積が,10分群,20分群と段階的に増加していた.一方,ヒラメ筋では10分群とHS群の差が微少であったが,20分群ではHS群や10分群よりも有意に増加していた.筋線維タイプの構成比率は,C群よりもHS群,10分群,20分群のヒラメ筋でタイプ1線維が減少し,タイプ 2線維は増加していたが,足底筋では4群間でほぼ同じであった.
    【考察】筋線維横断面積は,10分群では両筋ともにHS群と有意差を認めなかったが,20分群では両筋ともにHS群と10分群よりも高値を示した.よって1日10分間のストレッチングでは筋萎縮予防に不十分であるが,1日20分間のストレッチングでは筋萎縮予防に有効であると考えられる.また足底筋では10分群,20分群と段階的に筋萎縮が軽減されたが,ヒラメ筋では20分群から筋萎縮予防効果が認められたことから,ヒラメ筋ではストレッチング持続時間が短いと効果が乏しい可能性がある.また,筋線維タイプの構成比率の結果から,ストレッチングは速筋化の抑制には有効でないと思われる.今後,速筋化予防にも有効なストレッチング方法を検証していきたい.
  • 小島 聖, 細 正博, 松崎 太郎, 渡邊 晶規
    セッションID: P1-010
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】ギプス固定により惹起された拘縮が,治療介入することなく改善し得るのかどうかはこれまで検討されておらず不明である.そこで今回,ラット膝関節に4週間のギプス固定を行った後,治療介入なしに8週間,16週間の通常飼育をすることにより,拘縮発生後の自然経過を明らかにすることを目的に実験を行った.
    【方法】対象は9週齢のWistar系雄ラット8匹(体重233gから275g)を用いた.固定方法は,自家製ジャケットを用いて右後肢をギプス固定(固定肢)し,左後肢は制約を加えず自由にした(非固定肢).膝関節周囲と足関節より遠位は骨の成長を考慮して露出させ,浮腫の確認および大腿骨,脛骨の成長を妨げることがないようにした.ラットは,プラスチック製のケージ内にて個別に飼育し,ギプス固定後も両前肢と左後肢で飼育ケージ内を移動できる状態であった.実験期間中,水と餌は自由に摂取可能な状態で飼育した.2週間にて巻き直しを行い4週間の固定を維持した.固定期間中にギプスが外れたものや浮腫を認めた際には,直ちに巻き直し固定を維持した.4週間の固定期間終了後,ギプスを解除してラットを無作為に8週間の自由飼育を行う群(8週群,n=4),16週間の自由飼育を行う群(16週群,n=4)に分け,ケージ内にて通常飼育を行った.実験期間終了後,4%パラホルムアルデヒドにて還流固定し,両後肢ともに股関節より離断して浸透固定した.EDTAにて脱灰し,膝関節を矢状面で2割にする切り出し,中和を経てパラフィン包埋した.滑走式ミクロトームにて薄切し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下にて膝関節の関節軟骨を検鏡した.なお,本研究は金沢大学動物実験規定に準拠し,同大学が定める倫理委員会の承認を得て飼育,実験を行った.
    【結果】
    1.膝伸展制限角度の変化
    固定解除後1週より各群ともに改善傾向を示し,固定解除5週後には可動域は完全に回復した.
    2.膝関節組織像
    8週群の関節軟骨では軟骨表層の線維増生が部分的にみられ,増生した線維組織と前方滑膜との癒着が確認された.16週群の関節軟骨では8週群と同様に軟骨表層の線維増生が部分的にみられ,増生した線維組織と前方滑膜との癒着が確認されたが,その程度は8週群よりも軽微であった.また,16週群の関節軟骨でみられた線維組織と前方滑膜との癒着部の組織は,線維間の間隙が拘縮直後のものに比して拡大し,より緩い線維組織となっていた.
    【考察】今回の結果から,ギプス固定後の自由運動にて関節軟骨に見られた変化は,改善傾向を示したと考えられる.しかしながら,関節可動域は回復するものの,関節軟骨の組織像は完全には正常化しなかった.本研究はラットを用いた動物実験であり同様のことがヒトでも起こり得ることを示唆するものではないが,関節軟骨の器質的な回復には関節可動域の改善よりも長い期間を要すると考えられる.
  • 中尾 和夫, 上西 啓裕, 池田 吉邦, 有馬 聡, 浦 正行, 安井 常正, 冨田 昌夫, 青木 恵美
    セッションID: P1-011
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】マイクロスリップは行為中に観察される円滑でない無自覚な手の動きを指し、行為に柔軟性を与えると考えられている.また環境に物が多いと出現頻度が多く、物の配置換えや同環境での繰り返し行為で減少すると言われている.出現頻度が少ないと、健常者では行為選択が限定された行為の円滑な遂行を意味する.今回、行為選択の限定要因として、基本条件に加え作業手順の強制的な意図、環境の視覚的特徴変化、環境物品の被験者任せの配置の3条件でマイクロスリップの出現頻度を測定し検討したので報告する
    【対象】本研究の趣旨を説明し了承を得た健常成人男性15名女性13名(平均年齢25.2±5.9)を無作為に4グループ、各グループ7名に振り分けた.
    【方法】テーブル上に、インスタントコーヒーを作る材料(コーヒーとクリームの粉、砂糖)・道具(紙コップ、スプーン等)と5種の菓子(クッキー、アメ等)、課題内容と無関係な4物品(紅茶、小麦粉等)を定位置に配置した.材料や菓子は別々に同じ紙の椀に入れ容器の区別を困難にした.この環境でクリームと砂糖を入れたコーヒーを作り、好きな三種の菓子を選び取るといった課題を以下の4条件に設定し行ってもらった.課題1:操作を加えない基本的な環境条件. 課題2:遂行前に行為の流れを強制的にイメージ、手順を筆記.課題3:環境の全物品に文字でラベリング.課題4:遂行前に被験者任せの物品配置換え.被験者は該当した課題を一回施行、右側および左側上方からビデオ撮影後、遂行過程を繰り返し観察し解析した.解析方法の詳細は、Schwartzら(1991)が提唱した行為コード化システムに基づいて行い、並行して行為中のマイクロスリップをカウントし、三人の検者が一致した見解を示したもののみ採用した.得られたデータは課題毎に平均値と標準偏差を算出した.※行為コード化システム:基本ユニットは、物の状態変化を1つ含む運動で「コップを取る」等である.基本ユニットが集まり、課題のサブゴールが成立する.「コップに水を汲む」等である.これらサブゴールが集まり、「歯を磨く」といった課題につながる.
    【結果】課題1:平均14.6±7.2/回、課題2:平均13.4±6.2/回、課題3:平均9.9±5.3/回、課題4:平均8.7±5.2/回と課題3と4でマイクロスリップが少ない出現傾向となった.
    【考察】被験者課題別比較で、課題1と2より課題3と4でマイクロスリップ数が減少した.今回の結果からは、行為手順を意図したり言語化して意識するより、環境に配慮した方がマイクロスリップの出現に大きな影響を及ぼす傾向となった.だが、各課題被験者間内にばらつきがみられた.この理由は、課題と同類行為を繰り返している等の生活習慣関与の可能性が考えられた.この点に配慮し、今後も検討を重ね臨床につなげていきたい.
  • 河村 隆史, 徳久 謙太郎, 林 拓児, 中元 久美, 東山 雅美, 藤原 香奈, 三好 卓宏, 門田 拓, 畑 寿継, 鶴田 佳世, 小嶌 ...
    セッションID: P1-012
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】修正脳卒中動作能力尺度(Rasch-model-based Stroke Performance Scale:RM-SPS)は,脳卒中片麻痺患者による日常生活動作の遂行に必要な立位・歩行時の身体パフォーマンスを測定する,立位9項目,移動7項目の全16項目の尺度である.各項目の評点段階は,自立から中等度介助以上までの4段階(0-3点)であり,総合得点は48点である.RM-SPSはラッシュモデルへの適合基準を満たした項目から構成されており,段階的に対象者の能力を測定できる特徴を持つ.本研究の目的は,RM-SPSの測定特性を確認し,臨床的有用性を高めるため,信頼性関連指標について検討することである.
    【対象・方法】対象は,3施設に入院・外来通院中の軽介助にて立位保持が可能であり,本研究の趣旨について十分な説明を受け,参加に同意した脳卒中片麻痺患者102名(年齢69.5±9.9歳)である.対象者の内63名については,異なる検者により経日的に再度測定が実施された.全ての検者は事前にRM-SPSの測定マニュアルに基づき,正確な測定ができるよう練習を実施した.また検者には互いの測定結果を研究終了時まで教えず,先入観に基づく測定バイアスを排除した. 解析は,検者間の各項目内一致度の検討にはκ係数を算出した.尺度全体の信頼性の検討は,検者の測定結果間の差を対応のあるt検定にて確認にし,その級内相関係数(ICC(2,1)),測定の標準誤差(SEM),変動係数(CV),最小検知変化(MDC)を算出した.有意水準は5%とした.
    【結果】RM-SPSの測定結果は平均26.6±15.8点であった.各項目のκ係数は0.66-0.85であった.検者2名のSPS測定結果間には有意な差はなく(p>0.05),ICCは総合得点にて0.99,立位項目にて0.98,移動項目にて0.99であり,全てで有意なかなり高い相関がみられた(p<0.05).またSEM,CV,MDCはそれぞれ,総合得点にて2.0点,8.3%,5.6点,立位項目にて1.4点,10.3%,3.9点,移動項目にて1.0点,9.2%,2.8点であった.
    【考察】RM-SPSの検者間項目内一致度は十分な,またはほぼ完全な一致を示した.また検者間信頼性は総合得点,立位項目得点,移動項目得点の全てにおいて良好であった.その測定誤差は平均得点の約10%程度であった.RM-SPSには詳細な測定マニュアルがあり,検者はそれに添って事前に練習を実施したことにより,検者間誤差を減少できたと考える.また各項目の評点段階判断には3回連続での成功を必要としていることにより,偶然ではない真の能力を把握することができ,被検者内誤差を減少できたと考える. MDCは経時的な2つの測定値間に95%確実に変化があることを示す最小値であり,RM-SPS総合得点では 6点以上の改善(悪化)が必要であることが示唆された.今後はさらにRM-SPSの測定特性について検討していきたい.
  • 冨田 健一, 木村 篤史, 松本 和久
    セッションID: P1-013
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    脳卒中片麻痺患者における触圧覚検査は、麻痺の程度やその回復状況の把握、また麻痺側上下肢の怪我予防及び認知運動療法をはじめとする様々な治療を行うための評価として行なわれる検査である.
    従来行なわれてきた触圧覚検査は、Semmes-Weinstein Monofilamentsによる触圧覚閾値や二点識別覚閾値など、感覚の有無やその感度を調査するものであるが、その感知している部位について調査した報告はない.
    今回我々は脳卒中片麻痺患者の触圧覚検査において、感知する部位を調査したので報告する.
    【方法】
    対象は事前に研究趣旨を説明し、同意の得られた脳卒中片麻痺患者12名である(男性6名、女性6名、平均年齢57.5±19.4歳).発症からの平均期間は58.9±66.5ヶ月であり、失語症、認知症を伴う症例は除外した.
    触圧覚刺激の感知部位の測定は、足底を対象部位として、足底を1.踵部、2.足根骨内側部、3.足根骨外側部、4.第一中足骨部、5.第二中足骨部、6.第三中足骨部、7.第四中足骨部、8.第五中足骨部、9.第一指、10.第二指、11.第三指、12.第四指、13.第五指の計13箇所に分割し、各部位に数字を割り振られた図を作成し、被検者に提示した.
    検者は各症例が知覚しうる最小限の強度の触圧覚刺激を足底の各部位に10回行った.被検者は刺激されたと感知した部位を、図を見ながら数字で回答した.
    【結果】
    正答率が80%以上は4名、50%以上80%未満は5名、50%未満3名であった.
    誤答は、母趾を刺激した際に第一中足骨を刺激されたと感じると回答するなど、隣接する領域を回答する傾向を示す症例が8名であり、他の4名は刺激部位が母趾であるにもかかわらず、踵部を刺激されたと回答するなど、隣接する領域以外を回答する傾向を示した.なお後者は正答率50%以上80%未満の1名、50%未満3名と正答率の低い症例であった.
    【考察】
    今回調査した脳卒中片麻痺患者において、12人中4人に、触圧覚刺激部位と感知する部位に明らかな差がある症例を認めた.これらの症例においては、立位、歩行時に足底に入力される情報が、実際の部位と異なって感知し、例えば踵にかかった体重を爪先と感知してバランスをとるなど、転倒の要因となる可能性が考えられた.
    従来行われてきた触圧覚検査の方法では、蝕圧覚の有無やその感度は確認できるが、刺激された部位が何処かを特定できない症例を選別出来ていなかった可能性がある.したがって脳卒中片麻痺患者を対象とした触圧覚検査では、検者は刺激した部位を被検者がどのように感知しているかを評価する必要があるのではないかと考える.
  • 井上 大輔, 平井 達也, 原田 隆之, 渡邊 紀子, 星野 雅代, 上野 愛彦, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    セッションID: P1-014
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    ヒトは運動を実際に行うのみでなく,予め内的に運動をシミュレートするとされているため,臨床では運動イメージ自体を捉えることも重要であると考える.運動イメージを測定する手段の一つに,Mental chronometry(以下MC)があり,諸家の報告が散見されるが,信頼性についての報告は少ない.今回,実際の歩行後にMCを測定し,測定者要因,測定順序を考慮した信頼性を検討したので報告する.
    【方法】
    対象は下肢に障害のない健常成人12名(平均23.3歳)とし,本研究の趣旨を説明し同意を得た.方法は,まず実際の歩行時間を測定し,直後にその歩行のイメージ時間を測定した.歩行速度は対象者の主観で,「普通・速い・遅い」の3段階とし,測定の順序は普通の速さで2回歩行し,顕著なバラツキがないことを確認後,a(普通‐速い‐遅い‐普通‐遅い‐速い),b(普通‐遅い‐速い‐普通‐速い‐遅い)の2パターンをランダムに適用した.また,学習の影響を可及的に排除するため,施行ごとに歩行の開始位置を変えた.実際の歩行の測定(Actual Walking Time以下AWT(秒))は,10m歩行路にて対象者の任意のタイミングで歩行開始し,歩行時間を対象者自身にストップウォッチで測定させた(対象者AWT).その際,検者も同時に歩行時間を測定した(検者AWT(秒)).尚,時間のフィードバックは与えなかった.MC(秒)は,10m歩行路の開始位置に開眼で立たせ,そこから動かないよう指示し,直前の歩行のイメージ時間を対象者自身に測定させた.解析は,MCの再現性をICC(1,1)にて確認後,検者A(3年目のPT)と検者B(対象者本人)の検者間信頼性を,各速度における2回のAWTの速い方を採用し,AWTとMCの時間比(MC/検者AWT,MC/対象者AWT)を算出,ICC(2,1)にて確認した.
    【結果】
    MCの再現性はICC(1,1)で,普通0.91,速い0.82,遅い0.83であった.AWTとMCの時間比の平均(SD)は,MC/検者AWT:普通1.02(0.02),速い0.93(0.24),遅い1.07(0.2).MC/対象者AWT:普通1.03(0.03),速い0.93(0.24),遅い1.07(0.22)であった.検者間信頼性は,ICC(2,1)にて全ての速度で0.98以上であった.
    【考察】
    MCは実際の運動の前に実施されることが多いが,本研究では順序を逆にして測定した.逆にすることで,MCとAWTの差異を考える際に,実際の歩行における運動制御のバラツキの問題を排除でき,より厳密にイメージのエラーを捉えることができると考えた.結果,諸家の報告とほぼ同様かそれ以上にMCと両AWTの値は近かった.また,再現性,検者間ICCとも高く,測定者・速度に関係なく測定の信頼性は高いことが示された.今後,速度要因を考慮し年齢の影響などMCについての調査を行なっていきたい.
  • 平井 達也, 田中 知美, 原田 隆之, 増田 初美, 木村 友一, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    セッションID: P1-015
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    知覚検査は一般に受動的な条件で行われるが,日常における知覚はアクティブ・タッチ(Gibson,1962)であることが多い.アクティブ・タッチによる環境内の物理的違いから認知的な違いへの情報変換は運動や記憶保持において重要な役割を果たすと考えられる.本研究の目的は,健常若年成人を対象に,物品の探索活動による体性感覚情報から言語情報への変換における基礎的な知見を得ることである.
    【方法】
    対象は,知覚障害のない健常成人14名(平均年齢26.3±3.2歳)とし,全員に本研究の概要を説明し同意を得た.方法は,静かな個室で安楽座位にて閉眼し,利き手で机上においた2つの物体を別々に触り,2つの差について出来る限り多く言語化するように指示した.2つの物体を1組とし4組を独自に作成し,明らかな物理的違い(内容:大きさ,材質,重さ,形,硬度)の数と内容をA群 2個(大きさ,材質),B群3個(材質,重さ,形),C群 4個(大きさ,材質,重さ,硬度),D群5個(大きさ,材質,重さ,形,硬度)に配分した.対象者には4組をランダムに提示した.評価は,ビデオ画像を用い,表出数,探索から言語化終了までの時間(探索時間),2つの物体を持ち替えた回数(探索回数)について検者内(検者1がランダムに2回評価),検者間(検者1と2の1回の評価を使用)の信頼性を完全一致率もしくはICCで確認した後,1)物理的違い(数)と言語化された違い(数)の差(見落とし数)の群間比較,2)見落とし数の物理的違い間における比較,3)探索時間の群間比較,4)探索回数の群間比較とした.統計学的解析は一元配置分散分析を行い,主効果が有意であった場合,多重比較をおこなった(p<0.05).
    【結果】
    評価の信頼性は,検者内の表出数100%一致,探索時間ICC(1,1):0.98~0.99,持替回数100%一致.検者間の表出数ICC(2,1):0.84~1,探索時間ICC(2,1):0.98~0.99,持替回数ICC(2,1):0.96~0.99であった.1)見落とし数の群間比較には有意な主効果が認められた(F=4.82,p=0.005).多重比較の結果,AとC,AとDに有意差(p<0.05)が認められた.2)見落とし数の物理的違い間における比較にも有意な主効果が認められた(F=8.13,p<0.001).多重比較の結果,重さと大きさ,形,硬度に有意差(p<0.01)が認められた.3)探索時間(F=1.91,p=0.14)と4)探索回数(F=1.16,p=0.33)には有意な主効果は認められなかった.
    【考察】
    結果1),2)より,物理的な違いの数が増えるほど見落とし数が増し,物理的違いの特に重さに見落とし数が多くなることが示唆された.これは,注意の転換に一定の限界があることや,視覚イメージへの変換の容易さや差の大きさの違いが影響した可能性が考えられた.結果3),4)から,物理的違い数が増えても探索方略は変化しないことが示唆された.
  • 庭田 幸治, 岩月 宏泰
    セッションID: P1-016
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    近年,運動時の表面筋電図を解析し,その筋電波形から最大随意収縮に対する割合によって筋活動量分析や周波数解析による筋疲労評価が広く用いられるようになってきている.しかし,動作筋電図の測定は健常者に対して行われることが多く,脳血管疾患後片麻痺者に対して行われることが少なく,その手法の検討も十分とはいえない.
    よって,本研究の目的は最大随意運動時における脳血管疾患片麻痺者の体幹,下肢筋の筋電波形を解析し,本疾患にみられる筋電図の特徴を検討することとした.
    【方法】
    事前に研究への参加の同意が得られた,いずれも一人で立ち上がることができ,老人保健施設通所サービスを利用している脳血管疾患後片麻痺者12名(年齢69.4±7.7歳),中枢神経疾患の既往のない要介護者10名(年齢80.0±10.6歳)を対象とした.対象者の障害老人日常生活自立度(厚生労働省介護認定資料)はA-1,A-2が75%と最も多かった.片麻痺者の身体的特性は発症後経過月数平均42.8ヶ月(7-143),Brunnstrom Recovery Stage(下肢)はIII,IVでそれぞれ4名,3名で全体の約6割を占めた.
    最大随意運動は椅子座位にて体幹伸展,膝関節伸展・屈曲を徒手抵抗に対する等尺性運動で3秒間行った.各運動の筋力を徒手筋力計により測定し,関節中心からのアーム長から関節トルクを算出した.運動中の筋電図は脊柱起立筋,左右の大腿直筋,内側広筋,大腿二頭筋の7筋から導出し,周波数帯域5~400Hz,サンプリング周波数1kHzで記録した.記録された筋電図から,中間の1秒間の積分値(mVs),高速フーリエ変換(FFT)による中央パワー周波数(MPF;Hz)を算出した.これらの値を片麻痺者の麻痺側肢と非麻痺側肢,さらに高齢者の両側肢平均値と片麻痺者の非麻痺側肢においてt検定を用いて差の検定を行った.
    【結果・考察】
    片麻痺者群の麻痺側と非麻痺側との比較では,膝伸展,膝屈曲の関節トルクにおいてそれぞれ危険率5%,1%で麻痺側が有意に低かったが,iEMG,MPFでは有意な差が見られなかった.また,片麻痺者の非麻非側と高齢者の両側平均値との比較では,大腿直筋のMPFで片麻痺者群が有意に高い周波数であったが,他筋のMPF,関節トルク,iEMGでは差が見られなかった.片麻痺者では筋活動放電に対する関節トルクの発揮効率が異なるためではないかと考えられる.
    動作筋電図の周波数解析ではI型筋線維比率が高くなるほど低周波成分が増加し,中央値はより低値となるため,活動度が低くII型線維が萎縮しやすい片麻痺者群ではMPF低値が予想されたが,最大随意等尺性運動時の動作筋電図における比較では有意な差は見られなかった.麻痺側下肢筋の線維タイプの変化や筋量の減少を動作筋電図によって捉えるためには,運動時間の延長や運動の反復によって疲労が生じている状態での検討が必要であると思われた.
  • ―眼球運動と頭部運動の2条件間による比較―
    信迫 悟志, 三鬼 健太, 玉置 裕久, 清水 重和, 森岡 周
    セッションID: P1-017
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】対面での視線方向認知は,眼球運動などの視覚情報を基に上側頭溝領域が担うことが判明している(Perrett 1985).しかしながら,ヒトは後方からの観察においても,相手の頭部運動から視線方向認知が行える可能性がある.これには自己の頭部運動をシミュレートしている(Naito 2002)可能性が高い.以前我々は,後方観察による視線方向認知に関与する脳領域を機能的近赤外線スペクトロスコピー(fNIRS)を用いて調査するとともに視線方向認知課題が身体運動のパラメータにどのような影響を与えるか調査した内容を,第10回アジア理学療法学会において報告した(Nobusako 2008).結果,自己の頭部運動による視線移動と後方観察による視線方向認知の両課題で前運動皮質領域の賦活が認められたことから,後方観察における視線方向認知には前運動皮質による運動シミュレーションの働きが関与することが示唆された.さらに視線方向認知課題が頸部運動器疾患患者の関節可動域制限および痛みに効果的に作用することが明らかとなった.しかしながら,前運動皮質近傍には前頭眼野や補足眼野などの眼球運動に関与する領域が存在することから,視線移動課題における前運動皮質の賦活が,眼球運動によるものなのか頭部運動によるものなのか疑問が残った.そこで本研究では,眼球運動と頭部運動の2条件での視線移動課題時の脳活動をfNIRSにより測定した.
    【方法】対象は本研究に同意を得た右利きの健常成人8名とし,以下の2条件における脳血流酸素動態をfNIRS(FOIRE3000 島津製作所)にて測定した.条件1:眼球運動による視線移動課題(頭部固定).条件2:頭部運動による視線移動課題.タイミングプロトコールは安静5秒-課題30秒-安静5秒とした.サンプリングレートは1秒間に8Hzとした.抽出パラメータは,課題時の酸素化ヘモグロビン値(oxy Hb)とし,paired t-testにて比較した.なお本研究は本学研究倫理委員会にて承認されている.
    【結果】条件1と比較して,条件2の両側前運動皮質に相当するチャンネルのoxy Hbの有意な増加が認められた(p<0.05).
    【考察】条件2において両側前運動皮質の有意な賦活が得られたことから,この賦活が頭部運動を反映したものであることが明確となった.このことにより先行研究での後方観察による視線方向認知における前運動皮質の賦活は,自己の頭部運動のシミュレーションを利用して,他者の視線方向を認知する働きを表していることが強く示唆された.先行研究と本研究により,後方観察における視線方向認知時の前運動皮質の賦活は,自己の頭部運動のシミュレーションの働きを表しており,この心的作業が頸部運動器疾患患者の慢性疼痛や関節可動域制限に有効に作用することが明らかとなった.
  • 西上 智彦, 池本 竜則, 山崎 香織, 榎 勇人, 中尾 聡志, 渡邉 晃久, 石田 健司, 谷 俊一, 牛田 享宏
    セッションID: P1-018
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】前頭前野は記憶の形成などに大きく関与しており,慢性疼痛患者においても神経活動にModulationが引き起こされていることが明らかになっている.同部位の機能低下は注意力の低下,社会的認知能力の低下,意欲の低下を惹起している可能性があり,慢性疼痛患者においても治療をより難渋する要因となる.しかし,痛み刺激に対する前頭前野の脳血流量がどのようなタイミングで応答しているかについては未だ明らかでない部分も多い.また,前頭前野における脳血流の変化と痛みとの関係も明らかでない.本研究の目的は痛み刺激に対する前頭前野における即時的な脳血流変化を脳イメージング装置を用いて検討することである.
    【方法】対象は事前に研究目的と方法を十分に説明し,同意が得られた健常成人15名(男性9名,女性6名,平均年齢27.3±3.0歳)とした.痛み刺激は温・冷型痛覚計(ユニークメディカル社製,UDH-300)を用いて,49°Cの熱刺激をプローブにて右前腕に30秒間行った.痛み刺激終了後に痛みの程度をvisual analog scale(VAS)にて評価した.脳血流酸素動態は近赤外光イメージング装置(fNIRS,島津製作所製,OMM-3000)にて測定した.測定部位は前頭前野とし,国際10-20法を参考にファイバフォルダを装着した.測定開始前は安静とし,酸素動態が安定した後に測定を開始した.解析対象は測定開始からの10秒間(ベースライン),刺激開始からの10秒間(初期),刺激開始10秒後からの10秒間(中期),刺激開始20秒後からの10秒間(後期)の酸素化ヘモグロビン(oxyHb)のそれぞれの平均値とした.統計処理は多重比較検定を行い,ベースライン,初期,中期,後期のoxyHbの有意差を求めた.また,初期,中期,後期のoxyHbとVASの相関関係をそれぞれ求めた.加えて,痛みが少ない下位5名(VAS:25.8±8.3)と痛みが強い上位5名(VAS:72.2±5.6)の2群間の初期,中期,後期におけるoxyHbを比較した.なお,有意水準は5%未満とした.
    【結果】VASは平均51.6±20.6(14-83)であった.多重比較検定にて左側のBrodman area10(BA10)のoxyHbがベースライン,初期より後期において減少していた.初期,中期,後期のoxyHbとVASの相関関係は認めなかった.また,痛みが強い群は痛みが少ない群より初期における左右のBA10,中期における左側のBA 10のoxyHbが減少していた.
    【考察】痛み刺激によって前頭前野BA 10の脳血流量は即時的に減少した.また,痛みの感じ方が強い場合,BA10の脳血流量は有意に減少していた.基礎研究では関節炎モデルラットにおける電気生理学的解析にて,扁桃体が内側前頭前野の活動を抑制することが報告されている.以上のことからヒトにおいても,強い痛み刺激は,即時的に前頭前野の神経活動を抑制させる可能性が示唆された.
  • 山﨑 香織, 西上 智彦, 島岡 秀奉
    セッションID: P1-019
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【はじめに】これまでの研究では,動作イメージを行ったときに補足運動野,帯状回前部,前頭前野背側部,運動前野などが活性化したことが報告されている(上條ら,2004).リハビリテーションの場面においても,運動イメージによって成績が改善することが報告され,運動イメージが有用であることが知られている.しかし,これまでの研究は運動を伴わないイメージについてのものが多く,運動を行いながらイメージする場合についての報告はない.そこで今回,対象物をイメージした動作での脳活動について近赤外光イメージング装置を用いて検証した.

    【方法】対象は健常成人6名(男性3名,女性3名,年齢26.2±1.0歳)とした.全ての対象者に実験についての説明を行い,同意を得た.課題として,閉眼・椅子座位にて右手でスポンジを握る動作を行った.右肘より遠位をテーブルにのせ,尺側をテーブルに付け母指と他の4指を間に挟んだスポンジに接触しないように開いた状態を開始肢位とし,検者の合図でスポンジを約5秒間握り,開始肢位に戻す動作を5回行うようにした.コントロール課題では何も考えずに動作を行うように,イメージ課題では柔らかいもの(まんじゅう)を握っているところをイメージしながら動作を行うように指示した.脳血流酸素動態は近赤外光イメージング装置(fNIRS,島津製作所製,OMM-3000)にて測定した.プローブフォルダを左側の頭頂葉・側頭葉・前頭葉を覆うように装着し,プローブは国際10-20法を用いて設置した.脳活動量の指標として酸素化ヘモグロビン(OxyHb)を用いた.課題時の平均OxyHb量(mM・mm)から課題前の安静時の平均OxyHb量を差し引き,課題時のOxyHb量変化を数値化し,コントロール課題とイメージ課題とで比較した.統計処理には対応のあるt検定を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.

    【結果】コントロール課題よりイメージ課題では,左前頭前野領域でOxyHbが有意に少ない値を示した.

    【考察】前頭前野は感覚系,運動系などと神経線維連絡を持ち,運動との関係で重要な部位である.Kawashimaらは,前頭前野は手指の運動時に活動すると報告している.右手指の運動時の左大脳皮質の脳活動を測定した今回の実験でも,コントロール課題では左前頭前野の活動が認められ,Kawashimaらの報告を支持する結果となった.しかし,対象物をイメージしながら握るというイメージ課題では左前頭前野の活動が有意に小さくなった.前頭前野は運動イメージの際に活性化すると報告されている.本実験のイメージ課題は,実際に動作を行いながら握る対象物をイメージしてもらうという課題であり,運動の有無という相違点があった.運動を伴うイメージと運動を伴わないイメージでは,異なる脳活動を呈する可能性が示唆された.
  • ―若年ラット膝関節拘縮モデルとの比較―
    長谷川 美欧, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖, 渡辺 晶規, 東 美由紀, 庵 裕慈, 内田 健作, 梶野 有香, 成瀬 廣亮
    セッションID: P1-021
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    加齢は身体組織の変化を生じさせる事はよく知られており,我々が臨床的に対処する事の多い運動器に関しても様々な研究が行われている.加齢により関節可動域が減少することが知られているが,関節可動域に対する神経の滑走性の寄与についての報告は演者が検索した限りではこれまでなされていない.そこで,本研究では加齢ラットの神経周囲にどのような変化が見られるかを光学顕微鏡下で病理組織学的に観察し,先行研究により明らかにされて来た若年ラット膝関節拘縮モデルの神経周囲の変化と比較する事を目的とした.

    【方法】
    対象としてFischer 344ラット14匹を用いた.加齢群ラット(n=7)は14ヶ月齢で入手し,1匹ずつケージに入れて4週間飼育した.対照として,膝関節を2週間不動化し関節拘縮を作製した群(以下拘縮群,n=6),制約を加えずに飼育したラット(対照群,n=6)を使用した.拘縮群と対照群は8週齢にて入手し,1週間の馴化期間を経た後に実験を開始した.ラットはケージ内を自由に移動でき、水、餌は自由に摂取可能であった.飼育期間後、エーテル深麻酔にて安楽死させ、可及的速やかに両下肢を股関節より離断し標本として採取した.採取した標本を中性緩衝4%ホルマリン液にて組織固定を行った後に脱灰し、膝関節の切り出しを行ったあとに中和、パラフィン包埋を行った.ミクロトームにて3μmで薄切した標本にヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で後部関節包を病理組織学的に観察した.なお,この実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行われた.

    【結果】
    対照群では神経束と神経周膜の間には空隙(神経周囲腔)が観察されたが,拘縮群と老年群ではほぼ空隙が消失しており,神経束と神経周膜の接着が疑われる像が観察された.また,神経周膜の組織は対照と比較して粗硬となっていた.

    【考察】
    我々は先行研究で拘縮モデルでの神経周膜の変化を報告したが,今回加齢ラットにおいても類似の変化を観察した.従って,加齢と不動がそれぞれ神経周囲組織に及ぼす影響には、何らかの共通した機序が存在している可能性が示唆された.
  • 庵 裕滋, 細 正博, 山崎 俊明, 松崎 太郎, 小島 聖, 渡邊 晶規, 北出 一平, 上條 明生, 荒木 督隆, 木村 繁文, 高橋 ...
    セッションID: P1-022
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    これまで、ラットの膝関節の病理組織学的変化に関する研究が数多く報告されている.その多くは後肢懸垂による非荷重の影響の報告や、ラットの関節に対してギプス固定等を行い、関節の不動化に伴う変化に関しての報告である.だが、非荷重の状態における関節内の膝蓋下脂肪体に関する報告は筆者が検索した限りない.また臨床の場面において非荷重とされる整形外科的な疾患においては何らかの固定がなされる場合が多い.そこで今回、後肢懸垂法を用いて非荷重の状態にするだけでなく、片側のラット膝関節をギプス固定し、非荷重の状態における関節固定の有無がそれぞれの膝関節の膝蓋下脂肪体に与える影響について、病理組織学的に観察した.
    【方法】
    9週齢のWistar系雄性ラットを使用した.実験群はそれぞれ5匹ずつ1) 2週間片側の下肢をギプス固定し後肢懸垂を行った群(固定側2週IS群、非固定側2週S群) 2) 4週間片側の下肢をギプス固定し後肢懸垂を行った群(固定側4週IS群、非固定側4週S群) 3) 2週間通常飼育した対照群 (2週C群) 4) 4週間通常飼育した対照群(4週C群)とした.ラットはケージ内を自由に移動でき、水や餌は十分に摂取することができた.なお、本研究は金沢大学動物実験委員会の承認を得て行ったものである(承認番号AP-081140).ギプス固定、後肢懸垂の方法は松崎の方法で膝関節をギプス固定し、股関節や足関節には制限が及ばないようにした.また、山崎の方法で後肢懸垂モデルを作成し、後肢を非荷重の状態とした.
    【結果】
    C群に比べ実験群の総てで、脂肪体中の脂肪細胞の大小不同化(萎縮)や、脂肪体内の線維増生が確認された.2週4週共にS群に比べIS群では脂肪細胞の大小不同化(萎縮)、線維増生が著明であった.2週IS群と4週IS群、2週S群と4週S群それぞれの間には差違はなかった.
    【考察・まとめ】
    後肢懸垂を行い非荷重としたラットの膝関節には、固定側、非固定側ともに膝蓋下脂肪体中の脂肪細胞の大小不同化(萎縮)や線維組織の増生が確認された.また、非固定側よりも固定側の方がより重度の変化を示した.2週間と4週間で懸垂期間による差違はなかった.これより、後肢懸垂による非荷重により膝関節の膝蓋下脂肪体の萎縮を生じさせること、加えて関節固定を行うことでより著明な萎縮を生じさせることが示唆された.また、懸垂期間よりも関節固定の有無が膝蓋下脂肪体に与える影響が大きいことが示唆された.
  • 呉 和英, 藤田 唯, 峯松 亮, 西井 康恵
    セッションID: P1-023
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】長期の臥床やギプス・装具固定などによる関節の不動化は、筋・骨の萎縮や関節拘縮を引き起こす.本研究では、走行運動が不動化により生じた筋萎縮および骨萎縮に与える影響を調査することを目的とした.
    【方法】10週齢、雄性Wistar系ラット12匹をコントロール群(C群)と走行群(R群)とに無作為に分け、すべてのラットの左後肢を膝関節および足関節を完全伸展位でギプス固定した.5週間の固定後、全てのラットのギプスを除去し、膝関節および足関節の可動域を測定した後、R群は4週間のトレッドミル走行(走行速度10 m/分、走行時間30分間/回、頻度5日/週、傾斜0°)を行った.実験終了後、すべてのラットの膝関節および足関節の可動域を測定し、左右のヒラメ筋および脛骨を採取した.ヒラメ筋は筋重量を測定し、ヒラメ筋重量比を算出した.また,筋組織標本(H-E染色)を作成した後、ヒラメ筋断面積を計測し、ヒラメ筋断面積比を算出した.脛骨は脱灰骨組織標本(H-E染色)を作成し、光学顕微鏡にて観察を行った.統計分析は、各群における膝関節および足関節の改善角度、ヒラメ筋重量,ヒラメ筋断面積の右後肢(自由肢)と左後肢(固定肢)の差を対応のあるt-検定を用いて調べた.また、各群のヒラメ筋重量、ヒラメ筋重量比、ヒラメ筋断面積、ヒラメ筋断面積比における固定肢間の差を調べるために対応のないt-検定、またはMann-WhitneyのU検定を用いた.p<0.05で有意差ありとした.なお、本研究は、畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、管理規定に従って行った.
    【結果】両群とも固定肢のヒラメ筋重量およびヒラメ筋断面積は自由肢のそれらよりも有意に低値を示した.膝関節および足関節の改善角度には群間の差は認められなかった.固定肢のヒラメ筋重量比,ヒラメ筋断面積では、R群はC群よりも有意に高値を示し、ヒラメ筋断面積比では、R群はC群よりも有意に低値を示した.脛骨近位端の光学顕微鏡像では、C群の固定肢は、自由肢に比べ成長板付近と一次海綿骨領域で骨梁が石灰化しておらず、疎になっていた.一方、R群の固定肢では、C群に比べ骨梁の幅は保たれており、間隙は少なく連結性は保たれていた.
    【考察】足関節可動域はC群に比べR群が改善傾向にあった.走行時には膝の動きよりも足関節の動きが大きく、体重も負荷されるため可動域が改善されたと考えられる.また、R群では筋重量、筋断面積はC群に比べ有意に増加しており、ヒラメ筋の萎縮に対して外部負荷を与えることが効果的であったといえる.脛骨の観察においては、R群の骨梁幅はC群に比して維持されており、その連結性は保たれていた.これは、トレッドミル走行により骨への衝撃や荷重を繰り返し受けた結果であり、R群では一次海綿骨領域での石灰化が維持できたと考えられる.
    【まとめ】走行運動における筋や骨への負荷は、筋および骨の萎縮を改善する可能性があることが認められた.
  • ―ギプス固定後8週間後と16週間後での比較―
    渡邊 晶規, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖
    セッションID: P1-024
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】
    拘縮に関する病理組織学的報告は少なく、中でも関節包に関する記述はほとんどない.我々はこれまでにラット膝関節ギプス固定モデルを用い、不動による変化や、それにストレッチを加えた場合の後部関節包の変化を報告してきた(第43回日本理学療法学術大会).そこで今回、拘縮が自然治癒により改善するのかどうか明らかにするために実験を行った.
    【対象と方法】
    対象は9週齢のWistar系雄ラット8匹(体重233~275g)を用いた.全てのラットの右後肢にギプス固定を4週間実施し、その後特別な介入を加えることなく通常飼育を8週間実施する群(8週群 n=4)と16週間実施する群(16週群 n=4)に無作為にわけた.ギプス固定は右後肢を股関節最大伸展位、膝関節最大屈曲位、足関節最大底屈位で施行し、膝周囲は骨成長のため、足関節遠位は浮腫や傷の有無を確認するために露出させた.ギプスは2週間後に巻き替えを行い、この他にも緩みや外れ認めた場合は早急に巻き替えを行い、可能な限り適切な固定を維持した.左後肢は自由とし、ケージ内の移動や水・餌の摂取は十分に可能であった.ギプス固定前及び固定後1週毎に右膝関節の可動域を測定した.各飼育期間終了後、4 %パラフォルムアルデヒドによる灌流固定を行い、膝関節を一塊として採取した.EDTA溶液による脱灰後、膝関節を矢状面で2割し、パラフィン包埋した.その後ミクロトームで約3μmの厚さに薄切し、それらをスライドガラスに貼付け後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、光学顕微鏡下で後部関節包の病理組織学的観察を行った.
    なお、今回の実験はすべて金沢大学動物実験規定に準拠し、同大学が定める倫理委員会の承認を得て行った.
    【結果】
    膝関節可動域はギプス固定終了後の通常飼育期間の経過に伴って改善し、5週間後には固定前の角度と同様の値を示した.後部関節包の組織学的所見では、8週群と16週群の間に著明な差は認められなかった.両群とも拘縮直後に比べて、膠原線維束間の拡大を認め、比較的疎な組織へと戻っているようであったが、正常までは至らなかった.
    【考察】
    いったん拘縮を呈した関節が、再度完全な可動域を得た場合でも、それに伴って関節組織が改善しているわけではなかった.組織の修復は長期間経過後も十分ではなく、自然治癒の限界が示唆された.このことは臨床で遭遇する拘縮の可動域改善後にも残存する運動時の違和感や、最終域感(end feel)の違いの背景になっているかもしれない.今後種々の治療手技を加え検討を重ね、組織レベルでの改善がどのようにしたら得られるのか明らかにする必要がある.
  • 荒木 督隆, 細 正博, 松崎 太郎, 小島 聖, 渡邊 昌規, 北出 一平, 上條 明生, 高橋 郁文
    セッションID: P1-025
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】関節拘縮に対する神経モビライゼーションについては、その意義、作用機序、治療効果を含め、不明な点が多い.前回、我々は2週間のラット膝関節拘縮モデルを用い、坐骨神経周囲スペースの消失と神経周膜の肥厚を観察し、これが神経の滑走性あるいは神経周囲の柔軟性低下を来す可能性を示唆した.今回、拘縮実験期間を延長するとともに、その後の神経周囲組織の自然史およびストレッチ治療の効果を観察した.
    【方法】関節拘縮に対する神経モビライゼーションについては、その意義、作用機序、治療効果を含め、不明な点が多い.前回、我々は2週間のラット膝関節拘縮モデルを用い、坐骨神経周囲スペースの消失と神経周膜の肥厚を観察し、これが神経の滑走性あるいは神経周囲の柔軟性低下を来す可能性を示唆した.今回、拘縮実験期間を延長するとともに、その後の神経周囲組織の自然史およびストレッチ治療の効果を観察した.
    【対象と方法】対象として9週齢のWistar系雄ラット16匹(体重240~270g)を用いた.対象を麻酔後、アルミ製金網で自作した固定器具を用いて左後肢を膝関節最大屈曲位にて固定し、股関節と足関節は影響が及ばないように留意した.対象を2週固定群と4週固定群に分け、固定のみ、固定後2週放置、固定後体重の15%の牽引力で2週間ストレッチの計6群に分類した.
    固定期間中、右後肢は自由としケージ内を自由に移動でき水、餌は自由に摂取可能であった.固定期間中は創と浮腫の予防に留意し、固定が外れた場合は速やかに再固定を行った.実験期間終了後にエーテルで安楽死後、股関節より離断し標本として採取した.採取した標本に対し固定、脱灰を行った後に大腿骨中間部にて垂直に切断し筋標本を採取した.その後中和、パラフィン包埋を行いヘマトキシリン・エオジン染色を行い光学顕微鏡下で坐骨神経周囲組織を病理組織学的に観察した.
    【結果】ラット膝関節拘縮モデルにおいて固定を行った全例で神経周膜と神経束の密着(神経周囲スペースの消失)と神経周膜の肥厚を観察し、2周固定、4周固定の間で量的および質的差異は見られなかった.固定期間後放置群、固定期間後ストレッチ群のいずれも明らかな改善傾向は見られなかった.
    【まとめ】固定期間を4週まで延長したが、神経周囲組織の変化には2週固定との差が見られず、神経周囲スペースの消失と神経周膜の肥厚という状態で定常化した可能性が考えられた.また、2週間の自然放置およびストレッチでは治療効果が期待できない可能性が示唆された.
  • 小野 武也, 梅井 凡子, 沖 貞明, 十河 正典, 大塚 彰, 島谷 康司, 長谷川 正哉, 長門 亜由美, 武本 秀徳, 白岩 加代子
    セッションID: P1-026
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
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    【目的】関節固定は整形外科的保存療法としてしばしば用いられる.関節固定によって引き起こされる関節可動域制限が固定除去後に回復前の状況に戻る期間を把握しておくことは,治療者や患者にとって有用な情報である.そこで,本研究では比較的短い1週間の関節固定を想定し,関節固定後の関節可動域制限が固定前の可動域に回復する期間を検討した.また,1週間の関節固定によって生じた関節可動域制限に対するトレッドミル走行の影響も同時に検討を加えた.

    【方法】実験動物には10週齢、メスWistar系ラット12匹を用いた.足関節の固定は,麻酔下に全てのラットの右足関節を最大底屈位にギプスを用いて大腿部より足部まで1週間固定した.
    その後,無作為に6匹ずつ2グループに分け,トレッドミル走行を行う「トレッドミル群」、トレッドミル走行を行わず自由飼育する「自由群」とした.トレッドミル(Columbus社製ラット・マウス用トレッドミル)走行は20分/日,傾斜角度10°、速度は20m/minとした.足関節背屈可動域は,麻酔下に実験開始前,固定除去直後・1週間後・2週間後・3週間後に測定した.実験期間中、全てのラットは飼育ゲージ内を自由に移動でき、水と餌は自由に摂取可能とした.なお、本実験は県立広島大学保健福祉学部の倫理委員会の承認を得て行った.


    【結果】実験開始前の関節可動域は,両群の間に有意差は見られなかった.自由群は固定除去後1週間で固定前の可動域に回復した.一方、トレッドミル群は固定除去後2週間で固定前の可動域に回復した.

    【考察】2週間の関節固定後に関節可動域制限の自然回復を検討した報告によると,固定除去後6週間でも完全に自然回復しなかったと述べている.本研究では,1週間の関節固定で発生した関節可動域制限は,固定除去後1週間で自然回復することが分かった.このことから,1週間と2週間の関節固定後の関節可動域制限は,その回復期間が大きく異なることが明らかとなった.
    固定除去後の関節可動域制限の回復について,負荷量を漸増的に増やすトレッドミル走行と自由飼育を比較した報告によると,トレッドミル走行群は自由飼育より回復は早いと報告されている.本研究では,トレッドミル群は自由群より回復に時間を要した.これは,本研究で実施したトレッドミル走行の方法が,何らかの障害を引き起こしたためと推測される.臨床でも不適切な可動域訓練はかえって可動域改善の阻害因子となることが示唆される.
  • ―脳出血後早期の病態に着目した検討―
    高松 泰行, 石田 章真, 濱川 みちる, 嶋田 悠, 中島 宏樹, 平井 梨奈, 石田 和人
    セッションID: P1-027
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/04/25
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中発症後のリハビリテーションは可及的早期の開始が推奨されている.我々は,第40回本学術大会で、脳出血モデルラット作成後早期(4~14日目)にトレッドミル走を実施すると運動機能の回復が早まり、大脳皮質(補足運動野、運動前野)の萎縮を抑制することを報告した.しかし、その作用機序については未だ不明な点が多い.そこで本研究ではトレッドミル走開始前後の脳の病態を組織学的に比較検討した.

    【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(8週齢)を用いた.深麻酔下にて頭蓋骨に小穴をあけ、左線条体にカニューレを挿入し、マイクロインジェクションポンプにつないでコラゲナーゼ(Type IV)を1.2 μl(0.2 μl/分を6分間)注入し、脳出血モデルを作成した.脳出血後、無作為に運動群(n=4)、非運動群(n=3)に分け、運動群にはトレッドミル運動(9 m/分、30分/日)を脳出血後4~14日目まで実施した.非運動群は1日30分間トレッドミル装置内に暴露するも走行はさせなかった.また、コラゲナーゼの代わりに生理食塩水を注入したsham群(n=3)を設け、運動群と同様の運動を実施した.Bigioらによる、Motor Deficit Score(MDS)テストを用い、出血14日目までの運動機能回復を評価した.術後3日目と15日目に深麻酔下で灌流固定を行い40 μm厚の凍結切片を作成の上、H-E染色を施し、脳組織の観察を行うとともに線条体残存体積、大脳皮質の厚さを計測した.また術後1~7日目の脳浮腫(脳内水分含有量)および神経細胞変性(Argyrophil III染色)について調査した.なお本実験は、本学動物実験委員会の承認を得て行った.

    【結果】MDSテストの総合点では、運動群が非運動群に比べて早く回復する傾向にあったが、両群の間に統計学的な有意差は認めなかった.線条体残存率、大脳皮質の厚さは運動前後(3日目 vs 15日目)で差は無く、15日目での運動群と非運動群の間にも差は無かった.脳内水分含有量は術後1~2日目ではベースラインに対して有意に増加したが、3~7日目ではベースラインのレベルに戻った.Argyrophil III陽性細胞は術後24時間で大脳皮質第V~VI層に、3日目で大脳皮質第III層に検出されるも、7日目では検出されなかった.

    【考察】脳出血後のトレッドミル走は運動機能の改善を促進する可能性が示された.しかし、組織学的には運動の有無や運動前後で変化は認められず、出血後2週間までに生じる運動機能回復には線条体の神経保護作用や大脳皮質の萎縮抑制とは別の因子が関与していると考えられる.また脳出血後の脳浮腫や神経細胞障害(Argyrophil III陽性細胞)が術後7日目で認められなくなることから、これらを指標とした検証は出血後1週までの検討に用いるべきと考えられる.今後、他の因子の解析も進め、更なる機能回復の機序を明らかにするべきである.
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