抄録
【目的】
拘縮に関する病理組織学的報告は少なく、中でも関節包に関する記述はほとんどない.我々はこれまでにラット膝関節ギプス固定モデルを用い、不動による変化や、それにストレッチを加えた場合の後部関節包の変化を報告してきた(第43回日本理学療法学術大会).そこで今回、拘縮が自然治癒により改善するのかどうか明らかにするために実験を行った.
【対象と方法】
対象は9週齢のWistar系雄ラット8匹(体重233~275g)を用いた.全てのラットの右後肢にギプス固定を4週間実施し、その後特別な介入を加えることなく通常飼育を8週間実施する群(8週群 n=4)と16週間実施する群(16週群 n=4)に無作為にわけた.ギプス固定は右後肢を股関節最大伸展位、膝関節最大屈曲位、足関節最大底屈位で施行し、膝周囲は骨成長のため、足関節遠位は浮腫や傷の有無を確認するために露出させた.ギプスは2週間後に巻き替えを行い、この他にも緩みや外れ認めた場合は早急に巻き替えを行い、可能な限り適切な固定を維持した.左後肢は自由とし、ケージ内の移動や水・餌の摂取は十分に可能であった.ギプス固定前及び固定後1週毎に右膝関節の可動域を測定した.各飼育期間終了後、4 %パラフォルムアルデヒドによる灌流固定を行い、膝関節を一塊として採取した.EDTA溶液による脱灰後、膝関節を矢状面で2割し、パラフィン包埋した.その後ミクロトームで約3μmの厚さに薄切し、それらをスライドガラスに貼付け後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、光学顕微鏡下で後部関節包の病理組織学的観察を行った.
なお、今回の実験はすべて金沢大学動物実験規定に準拠し、同大学が定める倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】
膝関節可動域はギプス固定終了後の通常飼育期間の経過に伴って改善し、5週間後には固定前の角度と同様の値を示した.後部関節包の組織学的所見では、8週群と16週群の間に著明な差は認められなかった.両群とも拘縮直後に比べて、膠原線維束間の拡大を認め、比較的疎な組織へと戻っているようであったが、正常までは至らなかった.
【考察】
いったん拘縮を呈した関節が、再度完全な可動域を得た場合でも、それに伴って関節組織が改善しているわけではなかった.組織の修復は長期間経過後も十分ではなく、自然治癒の限界が示唆された.このことは臨床で遭遇する拘縮の可動域改善後にも残存する運動時の違和感や、最終域感(end feel)の違いの背景になっているかもしれない.今後種々の治療手技を加え検討を重ね、組織レベルでの改善がどのようにしたら得られるのか明らかにする必要がある.